2-13.クレオの報告
馬車は明日以降も使うってことで、マリア様が借りてる屋敷まで戻った。
マリア様とかリチャードはフウマ家族と一緒に終日打ち合わせというか、作戦会議中だったらしい。
ニーニャ達は、1週間ぐらいは帰るのに時間が掛かりそうだと、念話で連絡が入ったらしい。
ステラとラナちゃん達一行は、『ヒカリ、上級迷宮ならクリアしても良いけど、私を置いて封印級を踏破したら、どうなるかよく考えて行動するのよ』との念話が直接届いた。彼女たちは2-3週間は帰って来れないらしい。
まぁ、ステラはスチュワートさんが帰ってきて、降任の書類が受理されるまではエルフ族の族長なのだから、久しぶりの南の大陸でやることも多いのだろうね。
クレオさんは、屋敷に戻って馬車を停めると、私たちを部屋に案内してくれた。夕飯の指示を出しつつ、私たちにシャワーを浴びる様に促してから、マリア様の報告に向かったみたいだよ。
ーーー
ヒカリさん達を部屋に送り届けてから、マリア様の執務室へ伺って、報告をする時間をとって頂けるか確認をする。
「(ノック、ノック)クレオです。もし、お時間が良ければ本日の報告をさせて戴きたく、参りました」
『大丈夫よ。お入りなさい』
許可を得てから執務室に入ると、机で仕事をしていたマリア様はペンを置いて立ち上がり、手前にある応接セットの椅子に掛けるように示し、そして、マリア様自身も私の向かいに座った。
「問題があって、長くなりそうならお茶を出させるわ。どう?」
「問題はありません。あるとすれば、私の方です」
「そう。面白くないわね」
「私に不手際があればご指摘戴き、反省する機会を戴けないでしょうか?」
「違うわよ。クレオのヒカリさん達に対する反応が面白くないのよ」
「ええと、その、何か失礼なことを申し上げましたでしょうか?」
「端的に言えば、何か貴方を驚かせることは無かったのかしら?『普通じゃない』みたいに感じたことよ?」
「そ、その、そのですね。多分、私の方が『普通じゃない』と、思われていたと思います」
「ヒカリさん達が貴方にその様なことを言ったり、態度で示したりしたの?」
「いいえ、滅相もございません。どなたからも非常に丁寧に接して戴けています」
「そう、余計な迷惑を掛けて無いなら良かったわ。義理の娘や孫だからといって、甘やかしすぎるのは良くないと思うの。
それで、何がクレオにとって普通じゃなかったのかしら?」
「先ず、お孫さん二人の聡明さに驚きました。
体型から推測するにリサ様が4歳ぐらい、シオン様が2歳ぐらいでしょうか?ただ、歯も生えそろっておらず、実年齢が判りかねます。
出てくる言葉が貴族の礼儀を身に着けたかのような配慮の行き届いた言葉遣いと内容でした」
私がお孫さんを褒めるとマリア様はニヤリと嬉しそうに微笑んで、何もコメントせずに、続きを促した。
「次に、シオン様を除く3名の身体能力に驚きました。誰が一番上なのか分かりかねますが、私が一番低い事だけは実感しました」
「そう。シオンはどうだったのかしら?」
「シオン様は普通に皆様と散歩したり、走り回ったりすることは出来ると思います。ですが、大人が身体強化を駆使して全速力で走る場合には追い付けないようでして、ヒカリ様が抱えて移動していました」
「他には?」
「シオン様は、水の魔術が得意の様でして、皆に潤沢な水を供給して頂けました。魔力や魔術のセンスは相当高いと思われます」
「そう。お世辞と判っていても、孫を褒められるのは悪い気がしないわね。
それで、今の話からすると、『大人が身体強化を掛けて、全力で疾走するシーンがあった』と、見受けられるのだけど、詳しく話してくださる?」
「マリア様は『観光迷宮』というものはご存じでしょうか?」
「詳しくは知らないわ。クワトロにお茶とお茶菓子を持ってこさせるので、詳しく聞きたいのだけど良いかしら?」
「はい。ヒカリ様達の夕飯を一緒にさせて戴く予定ですので、それまでに戻れば大丈夫です」
「ヒカリさんにも話を通しておくわ。この先暫くは一緒に暮らすのだから、1日くらい大丈夫よね」
「マリア様のご意向であれば、それに従います」
と、ドアがノックされて、返事を待たずにクワトロ様が3人分のお茶とお茶菓子を持って部屋に入ってきた。
いや、ちょっと待って欲しい。
マリア様はこの部屋から出てない。クワトロ様もこの部屋に入って来なかった。けれど、クワトロ様はマリア様の考えを読んでいるかのように、準備をして、ノックだけをして、マリア様の返事を得ずに部屋に入ってきた。
何故?
「クレオさん、そんなに驚かなくても良いわ。いずれ機会が来たら、クワトロからクレオさんに説明して貰うわ。
それより、今日の行動と『観光迷宮』について、教えて頂戴」
私が訝し気な顔をしたのが表情に出てしまったのか、マリア様からフォローが入りました。お茶を給仕して向いに座るクワトロ様からも、ポーカーフェイスなのかほほ笑んだ様子が伺えるだけで何も判りません。
それより、マリア様への報告を続けなくては!
ユッカちゃんが、一番難しい観光迷宮に挑戦したいと言ったこと。ヒカリさんが腕試しの為に一番近い観光迷宮に挑戦して、私に実力を見せたいと言ったこと。道中は全力疾走して、ドロップ品の回収のみだったにも関わらず、ユッカちゃんとリサちゃんに追いつけなかったことを、かいつまんで説明した。
「そう、初日から大変だったわねぇ~」と、同情を寄せてくれるマリア様。
「食事やトイレはどうされましたか?」と、興味深々なクワトロ様。
お二人とも、娘さんやお孫さんと一緒に行動すると、そうなることは想定内だったのですね?皆様の身体能力と比較して、自分の無能さにガックリとしていた自分は何だったのでしょう……。
「マリア様、
大変と申しますか、混乱しましたのが、ヒカリさんのお持ちのカバンの収納量です。収集品を並べたところ、馬車の荷台に満タンになるほどの容量がありました。
よく、吟遊詩人の話にでてくる『不思議なカバン』の欠点を無くしたか、あるいはヒカリ様が剛力の持ち主だったのかもしれません。
ユッカ様のカバンもそれに近いのかもしれませんが、入れたものが果物だけであれば、ギリギリ入りきらなくも無く……。
クワトロ様、
こちらの屋敷のトイレの概念を皆様が熟知しておりまして、ゾンビ達と一緒に焼き払っていました。『上級迷宮に行くときはスライムを持っていこうね!』と、私の理解には追い付かない発言がありました。トイレと関係があるのか無いのか……」
「クレオさん、
カバンもそのうち判るわ。『吟遊詩人のサーガだなぁ』ぐらいに眺めておけば良いわ。
それより、果物って何かしら。私は何も聞いてないわよ?」
「すみません。朝食での出来事は些細なことと思い、報告差し上げておりませんでした。
ヒカリ様が『朝食で果物を食べたい』とのご意向がございましたので、何種類かの果物を試食したり、買い付けたりしました」
「クワトロ、聞いてるかしら?」
「いいえ、私も聞いておりません」
いや、だって、ヒカリさん達は、今シャワーを浴びに言ってるのだから、話をする暇は無かったはずです。私の報告が不味かったのです。
何で、ヒカリさんが責められてるのでしょうか?
「クレオさん、楽しいお話をありがとう。
私たちも一緒に食事をしたいわ。良いかしら?」
「は、はい!直ぐに調理場へ指示を出します!」
「果物を盛るためのお皿も忘れないでね?」
「ハイ!」
私は何かとんでもないことをしてますか?
果物の話をした辺りから、雰囲気が変わりました!
誰か、私のミスを教えてください!
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