2-12.カタコンベの迷宮(3)
お昼ご飯を食べ終えて、武具類をカバンに全部入れて、帰りはみんなで一緒に走って帰った。
カタコンベの最深部でボスを倒して、ご飯を食べてから往復して大体4時間ぐらいかな?
カタコンベの入り口を管理している人に、「地図も持たずに入るから、迷子にならないかと心配だったよ。無事で帰ってきてくれて何よりだ。今度入るときは、専属の護衛を雇えば、もっと深くまで楽しめるかもしれないね」と、丁寧に挨拶をしてくれたので、こちらも余計なことを言わずに、ニッコリとほほ笑んで、楽しませて貰ったお礼を言って、カタコンベを後にした。
その足で、クレオさんの案内で、馬車とかを貸出してくれるお店までやってきた。馬車は受注生産のものと、乗合馬車のような国営のものがあるから、予備の馬車を持っていたり、臨時で貸し出しできるような馬車があるんだって。
クレオさんが、荷馬車1台と、大量の麻袋を持って来てくれた。
「ヒカリさん、こちらの用意で足りるでしょうか?」
「多分足りると思う。
馬2頭で引けるか判らないけど、ここから万事屋のような各種情報を取り扱う場所とか、道具や武具を売れる場所って、そんなに遠くないのでしょ?」
「はい。王都内で全て賄えます。
ただ、カタコンベで拾い集めた武具類は汚れているので、何処か川のような所へ運んで、一度洗浄してからの方が良いです。
指名依頼が掛かっているかとか、銘が入っているかとかの判別が行いやすく、引き取り価格も手間賃を載せて貰えます」
「そっか、じゃぁ、馬車に積み込む前に、一度全部を出して、そこに水を噴射して掛けて、ピュアした後で乾かせば良いかな?」
「ヒカリさんの言うことが判りませんが、人目に付かない、少し広めの庭を借りてきます。
あと、洗うためのブラシとか、小物を濯ぐ為の桶や笊も借りてきます」
「よろしく~」
こう、なんていうか、観光迷宮の種類にも依るんだろうけど、拾って来たものをそのまま高価買取っていうのは難しいんだろうね。
こういう地味な作業が冒険者達にとっても、休息する時間を奪っているのかもしれない。迷宮の傍にこういった、洗浄スペースを設けたら、ひょっとして儲かるのかも?
日本でいうところの洗車場みたいな感じで。
小物はシオンが水を出して、リサとシオンで洗って貰う。
簡単に言うけど、腰に下げられる革袋で7杯分は、それなりの量だよ。まして、幼児二人にさせる仕事量じゃないんだけど、リサもシオンも一生懸命だから、任せるしかない。
武具類は全部で200点ぐらいあった。
剣が多めで、鎧や兜、篭手、ブーツ、杖や盾なんかもあった。色々な職の人達がパーティーを組んで入るのだから、色々な物が落ちてて当然だよね。
ただ、剣の類が多いのは、どうもドロップ品だとか、命を落としたパーティーの物っていうよりも、『劣化して使わなくなったので、予備の武器に切り替えた』そんな様子の伺える、質も程度も大して良くない物が多いように見受けられた。価値の有る物が混ざっていれば、持って帰ってきた甲斐あるんだけどね。
こっちは、ユッカちゃんが水のスプラッシュを出しつつ、クレオさんがブラシで洗っていく。その後を私がピュアで残りの付着物をとって、自然乾燥。数も多いし、形状もそれぞれが複雑だから中々綺麗にならない。時間も掛かるね。
洗い終わった小物は、リサとシオンが種類別にまとめておいてくれた。
武具類は、鑑定依頼や確認依頼を出す価値がありそうなものと、壊れたガラクタに近い物をクレオさんが分類して、リサには悪いけど、ガラクタは万事屋に寄付して、残りを指定依頼が無いか確認してもらうことになった。
武具200点を、ある程度分別して麻袋に入れて、荷馬車に積み込む。小物類の革袋7袋分は、綺麗に洗って、ピュアまでかけた状態の物をまとめて1つの麻袋に詰め込む。
よし、これで処分するための準備は完了。
クレオはB級冒険者の登録証をもっているからと、万事屋でも話がスムーズに進む。大量持ち込みのための手数料先払いをしてくれて、鑑定額もだしてくれるみたい。ガラクタ類の武具類は、修理して万事屋で貸し出すか、部品や素材レベルまで分解して、武具屋に払い下げておくって。
数が多いから鑑定と、報酬額の算出に一週間くらい掛かるだろうって。今回は1年近く滞在するんだから、多少の遅くなっても気にしない。クレオさんもそのことを分かってるみたいで、特急料金とか支払わないで手続きを済ませた。
万事屋に武具類を預けたので、今度は道具屋。
万事屋が人を管理することを主としているのに対して、こっちは質屋みたいなガラクタのような、普通の人には価値が良くわからない物が所狭しと並んでいる。店の奥にはきっと、金庫だとか、高価な物とかが置いてあるんだろうね。
私たち4人がクレオさんに付いてお店に入っていくと、クレオさんがカウンターに居る店主に話しかけた。
「ご主人、今日は小物が多いんだ。ただ、ちゃんと洗ったし、『浄化』の魔法で処理してあるから、このまま数さえ数えて貰えれば、直ぐに素材として価格が判ると思う。
ちょっと観てみらえるかな?」
道具屋のご主人はクレオさんのことを知っているみたいで、ここでも話がスムーズ。やっぱりB級冒険者ってのは、顔も広くて、こういった伝手も無いと、中々冒険者として活躍しにくいんだろうね。
単に武力だけが有れば良いってものじゃないって判るのは、子供達にとって良い社会見学だと思う。
クレオさんが麻袋から一つの革袋を取り出して、更に革袋の中から一握りの牙の様な物を掴んでカウンターのお盆の上に広げて見せる。
「クレオさん、確かに、程度は良いです。
もし、お急ぎであれば、重さで価格を見積もらせて戴きます。お時間を戴けるのであれば、一通り依頼を受けて、数量を正確に確認してから引き取り価格を算出しますが、どうしましょうか?」
「ご主人、鑑定に手間賃が掛からないのであれば、正確に算定して欲しい。カタコンベの地下5階まで潜ったので、稀にレア品が混ざっているかもしれないので、その辺りもお願いしたい」
「クレオさん、判りました。
弟子の勉強も兼ねて、全品の計量とレア品の確認をします。
買取金額の算出結果が出るまでに、できましたら7日程度頂ければと思うのですが宜しいでしょうか」
「それでお願いしたい」
私たち4人は何も口を挟まない。
クレオさんに全部委任しているのだから、時間から買い取り金額から全ての交渉はお任せだ。
みんなで店を出ると、クレオさんから確認の発言が有った。
「ヒカリ様、
マリア様から仰せつかりました『全ての事から守りなさい』という指令の意味が理解できました。
正直、皆様が自由に観光をするには危険が多すぎます。私の言う危険とは、一般的な人達から狙われる危険についてです。
まず、此処をご理解いただけますでしょうか。さもなければ、私としても任務を達成する自信がございません」
「うん。クレオさんの言うことを聞くよ。どうすれば良い?」
「これまで通り、皆様の楽しみたいことをお申し付けください。
全ての段取りや交渉は私が行います。そして、それに従って戴きたいのです」
「何か、クレオさんの意向に背いていた?」
「いいえ、私の認識不足です。マリア様に雇われることが決まった時点で、それ相応の覚悟をきめておりましたが、正直、私が想像していた以上です。
私の器の小ささを思い知りました。本当に申し訳ございません」
「クレオさん、謝る必要は無いよ。今日だっていっぱい助けて貰ってるし。ちゃんと、クレオさんの指示に従うよ。
どうすれば良かった?」
「ヒカリ様、皆様の全てのスキルを開示戴く必要は有りません。
ですが、上級迷宮をこのパーティーで攻略するとなると、私もパーティーリーダーとして全員の能力を把握して、準備を進める必要があります。皆様を知るためのお時間を戴きたいのです」
「う~ん。そしたら、今日はこの馬車を返して、マリア様への報告がてら、一度屋敷に戻りませんか?」
「承知しました。
尚、未攻略階層を含む上級迷宮の地図は、少々高価な上、王都に有る物は最新の情報にアップデートされていないのです。最新情報は現地でお金を払って入手した方が良いでしょう」
「わかった。じゃ、準備はクレオさんに任せるから、馬車を返しつつ、屋敷に戻ろう」
クレオさんは黙って頷くと、馬車で皆を載せたまま、色々な店を巡った。薬品が売ってる店、魔道具が売ってる店、武具が売ってる店、冒険者用の道具が売ってる店なんかも。
それぞれで、クレオさんは金貨を何枚か支払っていることから、準備だけで金貨数十枚が必要ってことだね。
流石にクレオさんの給金だけでは賄えないだろうから、後で精算させてもらおうっと。
よしよし、先ずは問題無く観光1日目が終了だね!
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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