2-10.カタコンベの迷宮(1)
「クレオさん、他のフルーツは今度にして、子供達は果物じゃない物も食べたいみたい。
それと、もし、南の大陸にも『観光迷宮』があったら、そこへ行って遊んでみたいです」
「承知しました。ジャガイモやバナナの蒸した物、野菜ジュースのお店へご案内させて戴きます。
観光迷宮はありますよ。朝ご飯を食べながらお話させて戴きますね」
何軒かの露店を周って、朝食っぽい何かが集まった。
蒸したジャガイモ、蒸したトウモロコシ、蒸したバナナ。塩とか胡椒みたいな香辛料をかけて食べるのね。
野菜ジュースは青臭くて苦い。ジューサーとか無いからしぼり汁なんだけどもね。
あのね?
ジャガイモやコーンにバターとかないの。
バナナも、炭水化物を摂取するような果物系じゃない種類のバナナをマッシュポテトみたいな感じに練っただけで、ねとねとした状態のものを皿に盛って食べるの。
うん。
ユッカちゃんも子供達も不機嫌。
私が食べたいって言ったんじゃないからね?
自分達が「健康に悪い」とか言い出したんだからその責任は取って貰おう。
ただ、4人分の朝食で銅貨5枚とか、滅茶苦茶安いのは事実。
お昼ご飯は散歩しながら買った甘いバナナとパイナップルに、ヨーグルトとかが良いんじゃないかと思うよ?
と、そんな微妙な朝食をとりながら、クレオさんから観光迷宮の説明があった。
「ヒカリさん、観光迷宮はあります。
他所から来た人や貴族が冒険を体験するための初心者用もあれば、迷宮内で入手できる魔石や収集品を売りさばくことを目的とした本格的な迷宮もあります。
初心者用も半日で遊んで帰ってくるガイド付きのコースや、一泊二日の迷宮内で宿泊して帰ってくるプランもあります。どちらもガイドを付けることが出来ますが、入場料とガイド料を支払うと、初心者迷宮では入手出来る物に対して、利益より出費が上回ります。
一方、中級や上級になりますと、中に入るための資格証明書が必要になりますし、自己責任で入ることに署名をする必要が出てきます。
魔獣の種類や罠の難易度、迷宮の深さによって入手できる魔石の大きさや魔獣が落とす収集品の価値も変わりますので、本格的な冒険者達が利益目的で入宮することになります。
初心者用でしたら、このあと直ぐに案内出来ますし、私もガイド兼護衛として同行することが可能です。
中級や上級になりますと、一度屋敷に戻って、小さなお子様を預けて、装備を整えてからの方が良いです。資格証は私が一筆いれることで、入宮の許可は出ると思います。
どうされたいですか?」
「ユッカちゃん、どうする?」
「クレオさんの資格で入れる、一番難しいところ」
即答だった。
まぁ、そうだよね。シオンは私が守るから良いよ。
「クレオさん、クレオさんに案内頂ける一番難しい迷宮は、ここから遠いのですか?」
「ヒカリさん、私の説明不足で申し訳ないです。
私はBランク冒険者の資格を持っていますので、ここら辺一帯の観光迷宮は全て入宮可能です。
ですが、上級観光迷宮には、未だに最深部まで調査が終わっていない迷宮もあります。
もし、そちらへ皆様をご案内することになりますと、今の装備とパーティーでは護衛の役目を果たしきれませんことをご理解いただけますでしょうか」
「そっか……。
クレオさんの心配も尤もだよ。
でも、私とシオンの事は私が守るから大丈夫だよ。
ユッカちゃんとリサは武力だけなら私より強いから、そんな心配いらないんだけど……。クレオさんの立場上、無理させるわけには行かないよね。
試しに、一番近くの中級迷宮をクリアして、クレオさんを安心させてあげれば良いかな?」
「ヒカリさん、王都には『カタコンベ』と呼ばれるアンデッド系を中心とした中級の迷宮があります。
ドロップ品は価値の少ない物が多いので人気がありません。また、ゾンビや死霊系なので、普通の武器では攻撃が通りにくいです。
そこでしたら、直ぐに案内できます。万が一敵に囲まれることが有っても、ゾンビ類は足が遅いので、私が皆様を抱えて緊急離脱することも出来るので、丁度良いと思います。
そちらで、皆様の力試しをさせて戴いても宜しいですか?」
「うん。良いよ。
クレオさんなら、そこの最深部までどれくらいで行って帰って来れるの?」
「最深部に行くまでで1日、ボス部屋前で休息をとって、ボス部屋で半日勝負。そこから魔物の減少した迷宮内を帰還するので半日。
MAPを覚えていて、最短経路を辿っても2日間掛かると思います」
「ええと、地図がもうあるのね?それと階層は何階層ぐらい?」
「迷宮が変化してなければ、半年前の地図はあります。階層は地下5階が最深部で、そこの奥にボスの部屋があります。
ただし、途中で引き返すとなると、行きと同じ魔物と戦い続けるので、出来ればボスを倒してから帰ることが望ましいですね」
「そう。クレオさん1人でそれが出来るの?」
「100%の安全を想定するなら3人パーティー。私一人でも行って来れますが、成功率は85%ぐらいまで下がります」
「分かった。ユッカちゃん、リサ、ゾンビ系でちょっと気持ち悪いけど地下5階までだって。ちゃちゃっと行って来れるよね?私も手伝うから」
「うん」
「……。」
「ユッカちゃん、よろしくね。後で地図を確認したら、この前みたいに私の妖精さんに案内して貰うから。
リサはユッカちゃんの動きを邪魔しなければ良いよ。戦い方を良く見ておいてね。私とシオンはドロップ品を拾いながら二人を追いかけるよ」
「はい!」
「……はい……。」
クレオさん、リサ、シオンの3人の意見を聞かずに、ユッカちゃんと二人で決めた。
多分、大丈夫。
割と安全マージンをとってると思う。
あとはカタコンベの地図を入手して出発だね!
ーーー
クレオさんには最大限譲歩して貰って、カタコンベの入り口に案内してもらう。地図は売っている物もあったけど、5枚の羊皮紙は嵩張るので、目で見て覚えて、ナビ経由でアップロードしておいた。
入場料は一人銀貨1枚。大人分だけなのでクレオさんと私で銀貨2枚ね。これくらいなら簡単に元が取れるんじゃないかな?
<<ナビ、さっき確認した『カタコンベ』の地図を立体階層で再構築、最短経路を表示して>>
<<承知>>
<<光の妖精の子、ちょっと音声で会話は止めておくね。私と同調して、ユッカちゃんに最短経路を導いてあげて。戦闘には参加する必要ないからね>>
<<お母さん、わかりました>>
「ユッカちゃん、私の妖精の子に道案内させる。暗いところではユッカちゃんの灯りでサポートして。私は自分の髪の毛を光らせて、収集品を集めながら歩くよ。
リサ、これはドワーフさんに作って貰った、リサ専用のショートソードね。念のため持っていくと良いよ。ミスリル銀だから、ある程度はアンデッドに有効だよ。頑張ってユッカちゃんについて行くんだよ~。ちゃんと身体強化しないと、ダメだよ~。
シオンはお母さんと一緒ね。
クレオさんも私と一緒に収集品集めを手伝ってくれると嬉しいかな?
じゃ、みんあ良いかな?」
「「「「はい!」」」」
ユッカちゃんが妖精の子を追いかけて走っていく。その後をリサが走って追いかけて行く。ユッカちゃんは遊び感覚で緊張の欠片も見えないけど、リサははぐれちゃいけないから、全力ではないけど、必死な様子が伺えた。
二人ともあっという間に見えなくなった。
リサはいい勉強していると思うな~。
「ヒカリさん、お二人で本当に大丈夫なのでしょうか?」
「うん。クレオはあの二人が心配なんでしょう?大丈夫だよ。
急がないと、追いつけなくなるから、私たちも走りたいんだけど良いかな?」
「は、はい」
迷宮内は狭いし、かといってシオンは、まだ大人のペースでは走れないから、抱っこ紐を使って前に抱きかかえる。
ステラが作ってくれた不思議なカバンは背負っているけど、小さな収集品を入れるために腰にポシェットサイズの革袋をぶら下げて走る。
地図は右目に投影されている、灯りは髪の毛を光らせてる。魔石は索敵で引っ掛かったものは拾うけど、小さな収集品は無視しても良いよね?
「ヒカリさん、蝙蝠の牙や羽などのドロップ品は拾わないのですか?」
「う~ん。それ、売れそう?」
「そんなに高価な物ではありませんが、50個も集まれば、銀貨1枚になります」
「う~ん。この迷宮では、全部それくらいの価値しかないのかな?」
「地下5階まで行けば、1つで銀貨1枚のものもありますし、浅い層でもレア品が出れば、それなりの値段になります」
「銀貨1枚以下は無視して良いよ。走るスピードを落とすと、ボス部屋の前で二人を待たせることになっちゃう」
「わ、わかりました」
魔物はユッカちゃん達が片付けてくれてるから遭遇率0。
マップはナビの右目投影型のナビゲーションで迷子率0。
収集品は浅い層だから、ほとんど拾わない。
身体強化を使った上で、走って追いかけているんだけど追いつかない。
地下2階へ繋がる階段の入り口で、100以上も収集品が固められて落ちてる。
あれ?ユッカちゃん達のスピードに魔物は追いつけないはずだから、こんなところで、モンハウなんか形成されてないと思うんだよね。なんでこんなことになってるんだろう?
ユッカちゃんに念話で聞いてみよう。
<<ユッカちゃん、地下2階の入り口に、収集品がどっさりあるんだけど?>>
<<それは、私が倒したのをリサちゃんが拾ってくれてます。ただ、ポケットやカバンにはいりきらなくて、そこに集めておいておいたそうです。>>
<<ユッカちゃん、了解。此処の分は集めてから追いかけるね。あんまり貴重そうなものが無ければ、無視して進んで良いって、リサにも言ってね?>>
<<わかった~>>
「ヒカリさん、それは拾うのですか?」
「多分、リサが持ちきれなくて置いて行ったみたい。折角だから此処のは拾っておこうかな」
「わ、私も手伝いますね」
「クレオさんに雑用まで手伝わせてごめんね」
シオンを抱っこ紐ごと降ろして、クレオさんと二人でせっせと腰の革袋にドロップ品を集める。1階層分で革袋が一杯になっちゃったよ。
しょうがないから、2階層に以降に備えて、パンパンの革袋を背負ってた不思議なカバンに仕舞って、新しい空の革袋を腰に付ける。
よし、二人の追跡再開できるね。
「ヒカリさん、あの……」
「クレオさん、身体強化しつつ、走りながらでも喋れる?歩きながら話してると二人に追いつけない」
「あ、はい。ヒカリさんさえ宜しければ、走りながらの会話でも結構です」
「うん、じゃ、走りながらにしよう。何かな?」
「2つ疑問があります。
本当にユッカちゃんとリサちゃんは先行しているのですか?ヒカリさんが身体強化を掛けて、かなりの速度で走っています。何せヒカリさんにとっては、ここは初めての迷宮です。
もし、彼女たちと私たちとで別の道を走っているとなると、護衛を任せられている身として、大変なことになります」
「うん。大丈夫だよ。
さっき、地下二階の入り口で収集品が集めてあったでしょ?ちゃんと私たちより先行しているよ。
それに、今からクレオさんが単独で追いかけても追いつけなくなって、お互いを捜索することになる方が面倒だよ」
「わかりました……」
「あれ?二つ目の疑問は?」
「ええと、私の勘違いかもしれませんので、無事にこのカタコンベをクリアしてからで良いです」
「うん。じゃ、後でね」
さ、本気で走らないと、そろそろ不味い?
何が不味いって、彼女たちが先にボス部屋に到着して、お腹を空かせて待たせてしまうことが不味いんだよね。
ユッカちゃんがカバンに色々詰め込んでいてくれれば助かるのだけども。
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暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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