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2-09.朝食

 綺麗に整備された石畳を暫く歩く。

 石畳の脇に、排水用の溝みたいのが設けられている。

 これって、ひょっとして、雨水を受けるだけでなく下水も通してるのかな?

 だとしたら、このエリアが臭わないのが頷ける。


 うちの領地では公衆衛生と、肥料の確保と、悪臭の観点から、ちゃんと公衆トイレと下水道を完備しているけど、エスティアの王都でもストレイア帝国の帝都でも下水が完備されているところは見てない。

 当然、貴族街とかは水を撒いたり、花を植えたりして、し尿による汚点を見せないような工夫はしていたけどね。


 まぁ、いいや。

 街が綺麗なのは理由は何であれ良いことだよ。


 ちょっと高級な住宅街を抜けて、商店街に入る。その商店街も気になるんだけど、クレオさんは朝食を目指して、食品を主に売る露店が並んでいる通りに案内してくれた。


「皆さん、何が食べたいですか?」

「お姉ちゃんと同じ」

「「お母様と同じ」」


 クレオさんの質問に3人が一斉に答える。

 私は別に何でも楽しめると思ってるから、特に返事をせずに子供たちの食べたい物で良いかなって思ってたんだけどね。

 皆が私に権利を譲ってくれたよ。


「ヒカリさんは、何が食べたいですか?」


 南の大陸で亜熱帯といえば、やっぱりフルーツでしょう!

 北の大陸では一部でリンゴ、オレンジ、ブドウなんかは有ったけど、糖度の高い南国のフルーツは手に入らなかった。

 だから、砂糖を添加した甘味が非常に受けた訳なんだけども……。


 地球と異世界では感覚が違うかもしれないけど、フルーツから試してみたいな!


「ええと、果物とかフルーツはありますか?」

「果物ですか?」


「果物は無いのでしょうか?」

「有りますが、宜しいのでしょうか?」


 うう。

 会話が進まないよ。

 時間は経過するけども……。

 食べたい物が何か聞かれたから答えただけなのに。


「すみません。南の大陸の文化が良くわかりません。おかしなことを言っているようでしたら、教えて頂けますか?」

「はい。


 先ず、果物は食後であったり、間食のイメージが強く、それを先に食べる文化が無いため、少々驚きました。


 次に、北の大陸の事は分かりませんが、こちらの地域では木の実や果実の種類がとても多いため、ヒカリさんがどのようなものをご所望か判りませんでした。


 例えば、果物に分類されて、朝食の素材になるような物もありますが、果たして、ヒカリさんが甘いデザートを求めているのか、朝食の素材を求めているのか、正直判りませんでした」


「それでしたら、食事は後回しで良いので、小さな子供達でも食べられるような、甘かったり、香りが良かったり、口当たりが良い様なフルーツを紹介してくれますか?」

「分かりました!早速案内します!」


 うん。本当に単純に文化の違いだったみたい。

 あるいは、私の「食べ歩きしたい成分」が強く出てただけかも?

 ま、いいや。

 クレオさんに任せてみよう!


ーーーー


「ヒカリさん、先ず、こちらのマンゴーは如何でしょうか?」


 最初はマンゴー。

 食べやすいし、香りも良いし、日本人にも人気があるね。

 クレオさんが露店の主人に頼んでくれて、皮を剥いて、一口サイズに切り分けた上で、爪楊枝みたいなピックを5本さしたものをお皿に盛って出してくれる。


 うん。

 日本で食べるのと変わらない美味しさだよ。


「ヒカリさん、次はチェリモヤです」


 日本に居た頃、父から話に聞いたことはあった。

 日本の百貨店とか、一部の通販サイトでは食べられるらしいけど、私は日本に居るうちは食べられなかった。

 確か、「バニラアイスの様な味」って、表現されるんだけど、実際はどうだろ?


 あっ……。

 これ、美味しい。

 甘味が強くなくて、スッキリ感。

 バニラアイスっていうより、バニラのシャーベットみたいな。

 コクよりもスッキリ感があるね。

 香りもくどくなくて、マンゴスチンとかライチみたいな感じ。

 舌触りがなめらからで、バニラアイスって表現するのも分かる気がする。

 うん、とっても美味しかった。


 「ヒカリさん達は、本当に貴族の子女のようですね。上品でお腹に溜らない物でも嬉しそうに食べます。食事とは程遠いものですが、喜んで頂けて幸いです」


「クレオさん、どちらも美味しいです。気に入りました。まだまだ食べられそうです」


 クレオさんは遠慮してるけど、4人掛かりで食べる訳だから、一人当たりの量が多いって訳じゃない。

 現地のフルーツが美味しいってのは、完熟したものを食べられるからだって、誰かが言ってた。バナナやパイナップルも日本に輸入されたものでは無くて、産地で食べると味が全然違うっていうよね。


「お姉ちゃん、これ高いの?皆にお土産に持って帰ろう?」


 と、気遣いの良くできるユッカちゃんから提案がある。


 普通なら完熟したフルーツは日持ちがしないし、海外からなら検疫所で没収されちゃうんだけど、ステラが作ってくれた不思議なカバンが有って、密輸って概念が無いなら自家消費するぐらいなら良いよね?


 本当には、色々な虫や寄生虫が外来生物として日本で繁殖しちゃうから、勝手なことはしちゃいけないんだけどね!


 分かってる!判ってるけど、カバンから出して直ぐ食べる前提なら、ちょっとぐらいは、いいじゃない……。


「ユッカちゃん、一先ずは、色々試してみて、美味しい物をまとめて買って帰ろうね。

 多少のお金は私もあるから心配しなくて良いよ」

「うん!」


 よし、父から聞いてた風変わりな物があるかきいてみよう。

 たしか『チクー』って言ってたかな?柿みたいな味がするって……。


「クレオさん、『チクー』はありませんか?柿みたいな味なんですけど……」

「チクーですか……。カキっていうと、海で採れる貝の一種ですよね?

 ちょっと、心当たりがありませんね……」


 あれ?

 私の勘違い?

 う~ん……。


 あ、ナビに聞いて日本語で調べて貰おう!


<<ナビ、久しぶり!『チクー』っていう、果物について知りたいの。父が南アジアの国へ行ったときに食べたととか、何とか。柿みたいな味があるんだって。カキっていっても、木に実る果物の方ね>>


<<少々お待ちだ下さい>>


 あ、今更だけど、『チクー』っていうのは、英語じゃなくて、何処かの国の言語の発音なのかな?木の実の柿も通じなかったし。

 言葉が通じるものと、通じない物があるのは、私がしゃべってる基本言語の日本語じゃない物を喋っていて、それが変換できないのかもしれない。言語翻訳機能よりも、類推できる単語が誤通訳してるかな?

 なんにしろ、インターネットも無い異世界じゃ、ナビに頼るしかないね。


<<ヒカリ、確認できました。

 インドのヒンズー語で発音される食物に、『チクー』というものが有る様です。英語ではサポジラと発音するようです。

 ただ、これは日本では樹液を利用したチューインガムの樹としての存在の方が有名なようです。

 味も柿のような甘さと記載があります。

 以上>>


<<ナビ、いつもありがとう。サポジラで聞いてみる>>



「クレオさん、『サポジラ』っていう、植物か果物はあります?樹液がネバネバした食感のものが採れるんだけど」


「サポジラに近い発音の樹木はあった様な気がします。

 ただ、その果実がどのようなものかわかりません。あまり市場には出回らない物の可能性がありますね。

 こちらの露店で聞いてみますので、少々お待ちください」


 店員さんとクレオさんが話をしている間に、リサとシオンの様子を確認する。

 リサもシオンも文句は言わない。

 でも、感激しているようにも見えない。

 なんか、気になることでもあるのかな?


「リサ、シオン、味はどう?」

「お母様、美味しいです。

 ですが、子供の体に甘い物ばかりは良くないと聞きます。

 あと、バナナやパイナップル、スイカに比べてとても高価な果物です」


「リサ、判った。シオンは?」

「美味しいです。甘い物ばかりでは背が伸びないと聞いてます」


「そっか。そしたら、もう少し味見をしたら、お肉とかお芋とかが食べられるお店に行こうね。

 リサ、お金の心配は良いよ。冒険して魔石でも集めれば良いし」


 ユッカちゃんも喜んでくれてるんだし、ちょっとぐらいはいいと思うんだけどね。

アジャニアにいったときみたいに、こっちでも観光迷宮とかあれば、魔石やドロップ品を回収して、換金することが出来るんだけどね。

 この後、クレオさんに聞いてみようっと。


「ヒカリさん、サポジラについて分かりました。

 まず、見た目がジャガイモの様で果物としての見栄えが悪いそうです。また、切割った中身の色も、茶色っぽく、腐った果実のような印象を与える為、貴族の方達に受けが悪いので、あまり市場には出回らないそうです。

 ですが、管理せずに自然に生えている樹木から実を回収して、近所の人たちが自家消費しているようです。


 もし、気になる様でしたら、露店の主人に頼んで買い上げられるようにしますが、どうしますか?」


「そう……。

 じゃぁ、明日また来よう。今、金貨しかないけど、このお店で金貨は使えるかな?お釣りは要らなから、金貨一枚分をいろいろ詰め合わせて準備してもらえる?」


「ヒカリさん、その……、ですね。


 彼らにとって、金貨1枚と言いますと、一ヶ月分の売り上げでも届きません。今回のような貴族との大口の取引があれば別ですが……。


 そのような場合でも、露店同士で協力して、お互いの中で一番良いものを持ち寄って、最上のものを選りすぐって、貴族の方達に提供する形になります。


 ある意味で、野菜や果物の露店の共同組合のようなものでしょうか。そこに依頼を掛けるのであれば、予算と期日を決めて依頼を出せば屋敷の方へ届けてらうことが出来ます」


 つまりは、海外からの観光客向けの露店っていう仕組みが無いんだね!

 値段も品質も基本は皆が生活できる金額の範囲ってこと。

 特別な物で、特別な金額を払うことが出来れば、VIP待遇を受けられると……。

 

「クレオさん、さっきのマンゴー、チェリモヤ、そこに並んでる甘い匂いをしているバナナ、パイナップルを箱でまとめて買うと幾らぐらい?」

「確認しますので、少々おまちください」


「箱ごとに値段は変わりますが、箱代、お届け代金を込みで銀貨5枚です。買われるのであれば、値切り交渉をしますが、宜しいですか?」


 箱買いすると、下の方に潰れてぐちゃぐちゃのが出てくるんだよね。

 そういうのを選んで、けてからカバンに詰めれば良いかな?


「うん。箱も届けるのもしなくていいよ。この場で詰めて行くから価格交渉をしてくれる?当然、箱の下で潰れている様なのは代金から引いといてね?」


 クレオが交渉してくれたから、お店の人が箱を並べてくれる。


 先ずはマンゴー20個ぐらい、チェリモヤ30個ぐらい。

 これをユッカちゃんのカバンに入れる。マンゴーは大人の男性の手のひらサイズ。チェリモヤは握りこぶしぐらいの大きさなので、「何かオカシイな?」という印象は与えつつも、すんなり全部入ってしまった。


 次に、パイナップルを10本。ただし、葉っぱ不要で切り落としちゃって、「直ぐに食べるから」って、完熟してオレンジ色になっているのだけを選んだ。

 バナナも黄色くて、一部シュガースポットが出始めているのを選ぶ。ただね?バナナに関しては、一房20本ぐらい付いてて、シュガースポットが出始めているのは、品物としても日持ちしないのが判ってるから、値段を安くしてくれるって。これを6房。

 流石に全部を私のカバンに入れるのは不味いから、パイナップル10本とバナナ二房だけをカバンにいれて、残り4房はユッカちゃん、とクレオが1房ずつ。私が二房をぶら下げておしまい。


「ヒカリさん、このような苦労をせずとも、屋敷に運ばせた方が良かったのでは?これだけ大量であれば、彼らもそのぐらいはサービスしますよ」

「ううん。この後でカバンに入れちゃうから、大丈夫。

 金貨しかないから、クレオが立て替えておいてくれる?」

「承知しました!」


 結局、いくら支払ったか判らない。けど、銀貨で5枚以下。

 露店を離れたら、手に持っていた4房分のバナナも私のカバンに入れて完了。私のカバンは巾着みたいになっていて、人の胴体ぐらいなら入れるぐらいにまで広がる。だから、バナナも房ごとで全然問題ない。


 クレオが「バナナがつぶれてしまいます……」と、残念そうに呟いていた。

 ま、いいや。

 そのうちわかるよ。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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