2-07.南の大陸!
南の大陸での本編の始まり~
リサとゴードンと3人での会話した後からは、出発の準備は順調だった。
妖精の長達からの参加の返事はOK。
ステラ様もユッカちゃんも参加OK。
フウマとシズクさん一家もOK。
アリアの家族は、ガラス工芸品の注文が多くて、こっそりラナちゃんが作ってくれた2台目のガラス溶融炉を使って、フル操業らしい。
まぁ、アリアの家族はアジャニアを再訪問するときには必ず里帰りすることになるから、それまでには弟子の育成とか工房の拡張を整えておいて、いざってときに、自由に行動できるように準備しようねってことになった。
次に、金銭の準備。
トレモロさんの伝手で、サンマール王国の金貨を1000枚ほど。スチュワートさんから、サンマール王国の金貨を5000枚ほど貰った。
っていうか、『無料でくれる』って、どうなのよ?
トレモロさんは、『妻が妊娠していたため、お二人の結婚の儀に参加できずに申し訳ない』とか言って、金貨を包んでくれた訳だけど……。
まぁ、実際には私が拾った大型船とか1隻あずけてたり、他にも南の大陸との交易用に2隻の大型船をここ1年で作って提供している訳だから、金貨1000枚でも安いと言えば安い。私は料金を受け取る気はなかったけど、こういうときに返されるのだったら、その気持ちを大事に受け取っておこうかな。
スチュワートさんは『船の修理代と、人族との技術交流のための前払いとして』って、例のサンマール王国からエルフ族に渡される金貨の1年分を私に返してきたよ。
いや、私が受け取ったものじゃないから、返されても困るし。
ステラに相談したのだけど、『今回のスチュワートの件で、エルフ族を恨まないでください。お詫びの気持ちとして、今回はどうにか貰ってください』って、普段は使わない約束だったはずの丁寧語で頼まれちゃったよ。
まぁね?
1年間も南の大陸で20人近い人が過ごすのだから、拠点を整備したり、そこを整備したり、管理するための料理長や、メイドさん達も現地で雇う必要があるよね。
外交官とか、エライ人と接触をするには、それなりに袖の下を通す必要があるだろうから、最初は何かとお金が必要。
そのための初期の資金をその国の金貨で準備しておけば、色々スムーズに活動できると思う。
だから、トレモロさんとスチュワートさんには、有難く感謝の意を伝えておいたよ。
そして、最後が食料の準備だけど、これは割とスムーズだった。
だって、『不思議なカバン』をステラが量産してくれたから。
ステラ曰く、
「だって、『ヒカリさんが念話を使える人に配るつもり』とか、言うから、私の知る限りの人数分を作ったもの。それにリサちゃんやシオンくんも直ぐに念話を使えるようになるのだから、必要になるでしょう?」
だってさ。
ありがたい限りだよ。
今回の旅で、マリア様にも渡すから、リチャードにもネタを明かす必要が出てくる。念話も習得した後で、手渡す準備もしておいたよ。
ただ、空飛ぶ卵に乗る段階では、色々と説明が面倒だし、「俺も念話を覚える」とか、言われそうだから、出発の時はコッソリと準備した。
「荷物は現地で調達ね」とか、なんとか、言い繕っておいたよ。
並行して、マリア様に念話を通して、周囲に人気の無い森を選んで貰って、空飛ぶ卵の着陸地点を確保して貰いつつ、目印として私の領地マーカーを孤立する形で1つだけおいて貰った。
ニーニャには、「領地マーカーを目指すこと」「大地は球体なので直線でマーカを目指すと、海中に突っ込むから、海面をなぞるよう操縦すること」「あまり高く飛び過ぎると、南の大陸に住む別の飛竜族と交戦になる恐れがあるから低く飛ぶこと」を予め伝えておいた。
そんなこんなで、準備は万端に整ったので、リチャードが帰って来てから3日も経たずに皆で出発することが出来た。
リチャードは、「本当にこんなことで良いのか?」とか、ブツブツ言っていただけど、出来ちゃったものは仕方ない。我慢して貰おう……。
ーーーー
空の旅は快調。
といっても、あまり高く飛ばないようにしてるから、そんなに景色が良い訳では無いけどね。
子供たちが窓に嵌めた3重構造の窓ガラスから景色を見ると、「凄い~」とか、「お母様はインチキです」とか、まぁ、色々な感想が出てきた。色々な体験をして貰えて、親としては大満足だよ。
ちなみに、多くの人は自力で空を飛べるか、飛竜族の背中に乗ったことがあるので、「ふ~ん。またヒカリか」みたいな感想だった。
いや、あのさ?
ニーニャが凄いんだけど、これって、魔石と製造技術と、操作方法を知っていて、後は仕上げに誰かが【重力遮断】さえすれば、誰でも空を飛ぶことが出来るんだよ?飛竜族と戦うことは出来ないけれど、制空権を確保したら戦争は変わるんだからね?
あんまり、力説しても仕方ないから、マリア様に見せて褒めて貰おうっと。
空飛ぶ卵の運転はニーニャとか、私とかドワーフ族の人が交代で行ったよ。飛行船を飛行させる技術と操作する技術はとっても近い関係にあるから、両方の技術を知らないと上手く飛ばせない。
リチャードやフウマも興味深々だったけど、まぁ、そのうちね?
ーーーー
そんなこんなで、一晩掛けて大海原を飛び越えて、特に問題もなく南の大陸の人族の領土まで到着し、マリア様が確保してくれた森の中に垂直着陸した。
窓からはマリア様とクワトロの二人だけの姿が確認できた。
静かに着陸しつつ、卵が転がらないように、足を出して固定して、ハッチを開いて、梯子を掛けて、皆で順番に降り立った。
当然、荷物は各自の不思議なカバンに入ってる。リチャードとかシズクさんは形が似ている別のカバンだけども……。
「ヒカリさん、遅かったじゃない。私が頼んでから2年近くも掛かったのね?」
マリア様の開口一番の挨拶がこれだった。
『私が先に南の大陸に来てから半年も』とか、『空飛ぶ卵の着陸地点を確保してから3日間も』とか、そういうのじゃなかった。
それだけ、マリア様は本当に期待していたし、嬉しかったんだと思う。
「マリア様、お久しぶりです。皆さんの協力のお陰で遂に完成しました。試験飛行自体はもう少し前に行っていたのですが、操縦方法や耐久性などを考えて各種改良を加えて、今回初めての長距離飛行に成功しました!」
「ヒカリさん、此処で二人で長話もなんだから、皆で早速、借りてる住まいに向かいましょう。案内するわ」
と、皆をツアコンのお姉さまの様に率いて行く。
皆は、ツアー客の様に、キョロキョロしながらついて行く……。
森の中を1時間。
森と言っても亜熱帯と広葉樹林帯の間ぐらいな植生。森の中は、それなりに木陰になっているから直射日光を浴びることは無かったけれど、北の大陸から来たばかりの私たちにとっては、体が順応していないからとっても暑い。汗がダラダラ出るよ。
日本でいえば、北海道から沖縄ぐらい緯度を超えてきたことになるから仕方ないよね。
森の中の道は獣道を少し拡張したくらいの道幅だけど、大人なら十分に歩けた。子供たちはリサまでは飛び跳ねながらユッカちゃんやラナちゃん達と駆け回ってた。フウマとシズクさんの子供はフウマが抱っこ紐をつかって胸側に吊り下げてた。シオンはリチャードと私が交代で肩車をして歩いたよ。
森の中を抜けると、待機させてあった馬車3台に分乗。
街道を3時間ほど揺られたところで、途中の村で一旦休憩を取って、そこから更に馬車で4時間。
当然、南の大陸で手配した馬車だから、乗り心地は悪いよ。クッションとか引いてくれてたし、王都に向けての道だから、割と整備はされていたんだけど、それでも地面からの衝撃が直接伝わって痛いし、結構疲れる。
疲れて眠ると、たまに引っ掛かる大きな石見たいのぶつかった衝撃で起こされるみたいな。
そんなこんなで、空飛ぶ卵を隠してある場所から、1日かけて漸く、サンマール王国の城下町に辿り着いた。門番さんの所は客人用の身分証明書を見せることで通過できた。
これは、居住権や住人であることを証明するものではなくて、現代でいうところの一時入国用のビザみたいなもんなんだって。その割に一人金貨1枚ってどういうことよ?
まぁ、身元保証人が金貨出せるレベルの人なら、悪いこともしないだろうって判断何だろうね。ある意味で、身分をお金で買ってるような物か……。
城門を抜けて、マリア様が借りてる屋敷に向かうことになった。貴族街と小金持ちの商人たちが住む境界のエリアにある空き物件を借りたんだって。
借りてる建物が想像以上に大きくてびっくりした。
私たちの領主の館(改築前)ぐらいに立派だったよ。
これなら、私たち20人くらいが部屋ごとに分かれて家族で住める感じ。
それに、現地で雇ったコックやメイドさんも居た。実は3台の馬車の運転手も、ここで雇っている執事さん達だったんだって。馬車2台は借り物らしいけども。
「さ、みんなお疲れ様ね。
部屋割は執事かメイドに家族ごとに案内して貰って。北の大陸の言葉をある程度使える人を雇ってあるから大丈夫よ。
シャワーは地下を改造して2室分作ってあるから、家族ごとに順番に使って頂戴。
冷蔵庫の石板も無事に届いたので、庭の倉庫の地下部分を改造して冷蔵庫が出来ているわ。保存が効かない物を買ったり、食べたりするときは、そこを利用してね。
夕飯は、シャワー室の都合があるから、家族ごとに出してもらいましょう。部屋を案内して貰った執事かメイドに頼むと良いわ」
と、マリア様が宿屋の女将の如く、テキパキと私たちとメイドさん達に指示を出して、解散を告げる。
みんな、呆然としてる。
疲れが溜っててだらけてるよりも、あの長旅の後のマリア様の指揮の仕方、この屋敷の改築の手腕、そして統率がとれたメイドさん達の雇用に驚いている。
いや~、なんていうか……。
うん、やっぱりマリア様は凄いの一言に尽きるね!
ーーーー
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
ブックマーク登録をして頂いたり、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励み になります。