2-05.出発の準備(5)
メディチ卿、ペルシア女王、スチュワートさんとの懇親会と南の大陸へのハネムーンに向けての協力要請は一通り終わったし、皆も最善の協力を尽くしてくれるって約束してくれた。
なんか、とってもいい感じに進んでいるね。
皆さんとの夕飯が終わって、領主の館の自室で久しぶりに家族4人が顔を合わせた。
そこで、突然リチャードが話を切り出す。
「リサ、シオン、お父さんとお母さんは南の大陸までハネムーンに行くことになった。二人は留守番できるか?」
「え?」
「はい」
「え?」
えええ?
まず、『はい』って、答えたのはリサね。
これは、これで凄いと思う。理由を後で聞きたいよ。
私とシオンは子供達2人が留守番であることに驚いた。
首が座ってきて、散歩も自由にできるし、歯は生えそろってないけど、離乳食を食べられるようになってるんだから、別に連れて行っても大丈夫だけどねぇ?
まして、体力も知力も並外れた成長を見せてるから、小学生の中学年ぐらいの力があると思ってもらって良いよ。
だったら、置いていく必要は無いと思うんだよね。家族旅行って、私は好きだったし……。
そもそも、リチャードが2人で行くって言いだしたのは何でだろ?
「そうか、リサは賛成してくれるか。シオンは、どうして嫌なんだい?」
「僕も一緒に行きたいです」
「シオンはまだ小さい。南の大陸はエスティア王国と違い、お父さんがシオンを庇いきれない場合が出てくるかもしれない。ここの領地に居た方が安心だよ?」
「家族で旅行に行くのは夢です。ダメですか?」
リチャードが私の方を見る。
私はリサもシオンも連れて行くつもりだったし。
だって、1年近く視察に同行して、帰って来られないなら流石に親として不味いと思うんだよね。
逆に、リチャードは物心つくまで乳母に育てられたとすれば、そんな小さなころの記憶が無いんだろうから、あんまり気にしてないのかもしれない。
これって、価値観とかじゃなくて、育った家庭と周囲の環境、そして社会的な文化に基づく判断だから、何が正しいとは言えないなぁ~。
「みんなで良く話し合った方が良いと思う。
もし、リチャードが外交とかで忙しくて、その間の子供たちのことが心配なら、私がリサとシオンの面倒は見るよ。
向こうに着けばマリア様やクワトロが居るし、冒険をするなら、ユッカちゃんやステラ様も多少の事は面倒を見てくれると思う」
「ラナちゃんと、シルフくんも一緒に行くって」
と、シオンが突然話に加わってくる。
ああ~。
スチュワートさんとの第三戦が決着したときにラナちゃんにはお願してるから、当然南の大陸に付いてきて貰えるとは思ってた。
けども、シオンがリチャードから話を聞く前に南の大陸へ行くことを知っているってのは、誰かがシオンに話をしているってことで……。
ちょっと、フォローしとこうかな?
「ヒカリ、どういうことだ?」
「多分ですが、アジャニアの大航海の後で、『次もみんなで冒険したいね』と、私が言ったことを覚えていたのだと思います。
先日、スチュワート様も来られて、南の大陸のことが話題に上ったのでしょう。『南の大陸へ冒険に行くなら、私たちもついて行く』といった、子供たちの会話が有ったのではないかと推測します」
「シオン、そうか。
そうだとすると、ラナちゃんやシルフくんだけでなく、ご両親のクロ先生やルシャナさんも一緒に行動して貰うことになるな。それに、例の口のきけないルナという子も、一人残しては寂しがることになるね。
ヒカリ、空飛ぶ卵の定員は大丈夫なのか?」
「うちの家族が4人、ラナちゃんの家族とルナちゃんで5人。
あとは、ドワーフ族のニーニャ様と付き人が2人で合わせて3人、
そして、ステラ様とユッカちゃんを加えて合計14人ですね。
ただ、リチャードの補佐としてフウマに同行をお願いするとなると、ご結婚されたばかりのシズクさんも一緒に行きたがるかもしれません。シズクさんは他国の言語の習得がとても速いので、外交の場で通訳として活躍されるかもしれません。
それでも、定員の20名には、少し空がありそうですね」
「そうか。
それなら皆で行くのも良いかもしれない。フウマとシズクさんの都合はこの後で私から聞いておく。
ヒカリは、クロ先生のご家族に同行戴けるのか、必ず確認しておいてほしい。子供たちの口約束が先走っていて、ご両親にとって青天の霹靂とならぬように、配慮が有って然るべきだ」
と、行くメンバーが決まって、『みんなで旅に向けて出発準備を整えるぞ~~』って、気分が高まってきたときに……。
「お父様、お母様、私は残ります。
モリス様や他のメイドの方達の言うことをきちんと聞いて、留守番をします。
私のことは気にせずに、皆で行ってきてください」
と、リサから提案が有った。
最初からリサは留守番することに賛成だったもんね。
でも、今はお父さんも積極的に皆で旅行する雰囲気になってたよ?
余程、何か不味いことがあるのかな……。
「リサ、南の大陸へ行ける機会なんて、そうそうないとお父さんは思うし、家族みんなで旅行をするのも楽しいと思うんだ。
試しに行ってみるのはどうだろう?」
「嫌な物は嫌です。皆で楽しんで来てください」
うん……。
お父さんの優しい問いかけに対しても、真っ向から否定だね。
嫌々期とか、そういう問題じゃなさそう……。
そういえば、リサの前世は南の大陸の修道女だった訳だよね?
何か、そこで嫌な思い出があったとか?
でも、シルビア様とかユグドラシルのことには興味があったみたいだし……。
奴隷とか、孤児とかそっち系の話?
でも、スチュワートさんが来たときの夕食で、その辺りの問題は解消したと思ってるんだよね。だって、あの後、二人とも私の言うことをとっても素直に聞くようになったし。
「リサ、何か怖い話でも聞いているのかい?そういうことなら、お父さんがリサを守ってあげる。お母さんも結構つよいんだぞ~~?」
「お父様が強いことは知っています。ステラ様の伝説も知っています。
ですが、南の大陸は常に異種族間での争いが絶えないのです。人族の中で多少腕が立つからと言って、争いに巻き込まれたら阿鼻叫喚の地獄に落とされることになります」
リサは凄い難しい言葉を知ってるねぇ~。
言葉だけでなく、本当に戦場とか、種族間の争いを目で見て体験して来たのかもしれない。
修道女という立場からしても、救いを求めてくる村人の保護や、場合によっては傷ついた戦士の世話をしたり、酷いときには埋葬のお手伝いをしてきたいのかもしれないし……。
ただ、まぁ、観光できるような場所が常に戦場なのかと言われれば、そうでも無いんじゃないのかな?スチュワートさんは異種族との交流に際しての紹介状を書いてくれるって言ってたし。
南の大陸と交易とか出来ているんだから、国境とかはともかく、そんな酷いことになってるとはおもえないんだけど……。
「リサ、お母さんと一緒に行ける場所に行くならどう?お父さんも守ってくれるし」
「……。」
黙っちゃった。
お母さんを馬鹿だと思った?
でも、バカにしちゃいけないから口を噤むってこと?
「リサ?お母さんは、リサが南の大陸へ行くのが嫌な理由を聞きたいだけだよ?」
「お母様、ちょっと別室でお話があります」
「は、はい……」
娘に呼び出された!
せ、説教?
でも、でも、相手してくれるだけ、まだマシかな?
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