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2-04.出発の準備(4)

「私は、エルフ族の族長代行をしている、スチュワート・アルシウスと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 モリス殿にお茶会にお呼ばれしました。何か楽し気な会話に加われるとかで……。」


 と、スチュワートさんが立ったまま、入り口で挨拶をすると、皆が慌てたように、速やかに椅子から立ち上がって、自己紹介を返す。


 一通りの自己紹介とか、握手による挨拶が終わってから、皆が席に着いてお茶会が再開した。

 お茶会と言っても、実は、南の大陸を訪問するための戦略会議兼、私のハネムーン兼、ユッカちゃんとの冒険なんだけども……。


「ヒカリ、どういうことだ?」

「スチュワート様、よろしくお願いいたします」


 と、モリスの次は、スチュワートさんに会話をなすり付ける。


「エルフ族の婚約者の行方が判らないということでして、手紙の出元を元に、こちらの領地を訪問させて戴き、ヒカリ・ハミルトン卿と顔を合わせる機会を頂きました。

 妻であるステラを含めて、同族がこちらで大変お世話になっております。どうぞよろしくお願いいたします」


「そうでしたか。

 ヒカリの我儘でご迷惑をお掛けしたり、何等かの仕掛けにより、人族の有利になるような交易の締結条件を押し付けたりしていなければ良かったです」


「リチャード殿下、ヒカリ様は名実ともに素晴らしい方です。リチャード殿下が羨ましい限りです」


「いやいや、そのような。

 ヒカリはメイドをしていただけでして、私が惚れて妻の座に無理やり着かせただけです。

 それに比べてステラ・アルシウス様の優秀さは北の大陸でも数々の伝説を残されており、種族を跨いで尊敬されている存在でいらっしゃいます。大変すばらしいではありませんか」


 うん。

 なんか、くすぐったいね。

 ステラが居たら、こういうのどうやってあしらうのかな?

 見本を見せてくれれば良いのに……。


 良くわかんないから、俯いて黙っておくよ。


「いえいえ、ステラも賢いのは認めるのですが、もう少し下の者の気持ちに配慮できれば、良いのですがね……。

 それは、さておき、私が加われる楽しいお話とは何でしょうか?」


 上手い!

 スチュワートさんナイス!

 こう、切り返しっていうか、話術の巧みな誘導っていうの?

 もう、私はそういうのがチンプンカンプンだよ。


「はい。

 スチュワート様がこちらを訪問されているそうで、『南の大陸へハネムーンに行くのであれば、話を伺った方が良い』と、先ほどヒカリから提案がありまして、お時間があればアドバイスを戴きたいと考えていたところです」


「南の大陸では、どの辺りを訪問される予定ですか?」

「はい。エスティア王国の特使としての各国の訪問と、ユグドラシルへのアプローチが可能であれば、調査したいと考えております」


「そうですか……。

 南の大陸ですと、各町や集落の族長でしたら、何名か紹介状を書かせて戴きますので、そちらをご活用いただければと思います。後程、一通りの紹介状をモリス殿へお渡しいたします。


 ですが、ユグドラシルへのアプローチとなりますと、種々困難を伴います故、詳細について打ち合わせをさせて戴ければと思います」


「ええと……、山を登れば、そこにユグドラシルと呼ばれる巨大樹が生えている訳では無いのですか?」


「ええと、ひょっとすると北の大陸の方達はユグドラシルの存在に対する情報が、少々偏っている可能性があるのかもしれません。

 私は一向に構わないのですが、このお茶会の場を私の話で時間を費やしてしまって良い物なのか、皆様にお伺いしたい次第です」


 うん?

 シルビア様は確か15~18歳くらいの頃にドリアード様に加護の印を貰ったんじゃなかったっけ?実はああ見えて、大魔法使いだったりするのかな……。 だって、あの体格では、高山をクライミングして、加護の印貰って、往復一週間とか無理だよ……。


 あ、あれかな?

 南の大陸にいる飛竜族に支援して貰ったとか……。

 でも、『私、飛竜に乗るのは初めてなの!』とか、帝都から此処の領地まで連れてくるときに言ってたし……。


 スチュワートさんの言う難易度と、人族が登山する道では難易度が違うとか無いかな?


 ま、良くわかんないから、スチュワートさんの話を聞いてみることにしよう!ついでに、ゴードンに頼んでお茶菓子じゃなくて、軽食も出してもらおう。


ーーーー


 サンドイッチやジュースを食べながらのユグドラシルの雑談会が始まった。

 スチュワートさんの話ではこんな感じ。


 各種族で、1-2本の登山ルートを準備している。

 その登山ルートは標高2000mの絶壁の高台にあるため、高台までの登頂ルートが大変厳しい。場所によっては崖が崩れやすいので登山ルートを修正したり、整備し直す必要がある。


 そして厄介なのが、登山ルートの途中に遭遇する飛竜による襲撃とのこと。

 これは、リサの加護の印を見たスチュワートさんが話していたことに繋がるね。南の大陸では飛竜族が頻繁に確認され、人間たちと会話ができる存在とは認識していないみたい。

 群れからはぐれて、孤立した飛竜を捕らえて、調教したりして人間たちが使役しえき出来る状況に飼いならしている場合が稀にあるらしい。


 ちゃんと、整備されていない切り立った崖で飛竜族に襲われるとか、まぁ、そんな調査隊に加わりたいとは思わないよね。リサみたいに加護の印があるなら、飛竜族からの襲撃がまぬかれることが出来て、登山の道中が有利に進むのだろうね。


 そこの高台に登頂してから、中央にそびえ立つユグドラシルと呼ばれるご神木まで数+km灌木の中を移動して、根元に辿りつくと、そこからが本番らしい。

 誰が測ったか判らないけど、樹高が3000mもあるんだって!


 ちょっと待ってね?

 標高2000mの崖を登るんだよね?飛竜を避けながらだと、夜間に登るんだろうけどさ?そこから数十kmを徒歩で移動するんだよね?これだけで片道2日間ぐらい掛かるじゃん!

 一週間のうち、往復の移動だけで4日間も使ったら、樹高3000mを残り3日間で調査するとか、ほとんど何も進まないよ!


 まぁ、もう、明らかに北の大陸から飛竜族の支援を期待して付いてきて貰うか、空飛ぶ卵を使って、いきなりユグドラシルへアプローチするのが良いんだろうね。


 それでも1週間しか無いなら、何も進まないと思う……。


「と、その様な訳で、2000mの高台の上で他種族に見つかると協定違反となるため、前日の日が暮れて飛竜族の活動が収まってから、高台への登頂を開始します。


 前々日から崖への登頂を開始しても良いのですが、日中は高台に上がることができず、崖の隙間で飛竜族との遭遇を考えると、どうしても日が暮れてからの行動になり、日が昇り、飛竜が活動し始める前に、一気に崖を登りきる必要があります。


 帰路も、高台から降りることが出来れば、他種族との協定には違反しないため、7日目の昼頃まで全力で調査を行い、夕方に崖まで辿り着くことができれば良いので、あとは崖からの転落に気を付けながら、ゆっくりと下山することができます。


 尚、高台へ続く崖だけでなく、高台に登った後でも飛行術での飛行を行うと、飛竜族に追い回されるそうなので、飛行術によるショートカットは、飛竜族と空中戦で勝つ自信が無ければ諦めた方が良いと言われています。


 私自身も一度だけ族長代行として調査隊に参加させて戴く機会がありましたが、色々と特殊な訓練をしてからでないと、調査隊の皆さんの足を引っ張る結果となり、それ以降は参加していません」


 うん?

 南の大陸の飛竜族と勝負するの?

 光学迷彩とか見破ってくるだろうから、空飛ぶ卵で飛んでても襲撃されるよね……。

 あとは、飛行術と飛竜の加護の組み合わせで、どこまで南の飛竜族の襲撃を抑えられるかどうかだけど……。


 いや、これは大変だ……。


 う~ん。

 シルビア様がどうやってドリアード様に出会えたかっていう話と、ユッカちゃんと一緒に冒険しようっていう話があるからねぇ。

 ここでいきなり中止にはしたくないなぁ。

 保留にしとく?



「スチュワート様、貴重な情報ありがとうございます。


 ヒカリ、私は構わないのだが、やはりユグドラシルへ登り、ドリアード様への接触を試みたいのか?

 何もドリアード様の力をお借りしなくても、交易が順調に進めば、アジャニアでもどこでも自由に物資を入手できるようになるのでは無いかな?」


「リチャード、シルビア様にお会いして、どのような奇跡でドリアード様から加護の印を貰うことができたのかお話を伺ってみたいと思います。

 また、ユグドラシルを目指す冒険はユッカちゃんとの約束の1つでもあるので、この場は一旦保留とさせて戴いて、現地の情報と合わせてから考えることでも良いでしょうか?」


「うむ。ヒカリにしては珍しく賢明な判断だな。南の大陸まで行って、諸国を見て周るだけでも色々と面白いと思う。余裕があったら、挑戦するという意見に賛成だ。」


 うん。

 まだ諦めた訳じゃないし!

 未知なる挑戦こそが冒険だよ!


ーーーー

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