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2-02.出発の準備(2)

「ここでは、リチャード様とお呼びしても失礼に当たらないでしょうか。差し支えがある様であれば、お申し付けください。


 先ず、南の大陸までの定期便は週1回のペースで航行中です。

人数、荷物を指定頂ければ、対応可能となります。帰りの便につきましても、1週間お待ちいただければ、専用便を手配させて戴くことが可能です。


 それ以外での支援が必要なことがあれば、何なりとご相談ください」


 と、トレモロさん。


 うん。

 結婚の儀の前から、今まで大型帆船を追加で2隻ほど作ってるからね。武装はともかく、船速をだせる帆船、海図、方位磁針、舵輪といった基本的な艤装性能が格段に上がってるから、大型船での定期便が一ヶ月に1回でてる。そこにこれまでの旧型船を挟んで交易しているらしいから、大体毎週1回は南の大陸まで定期便が出てるって感じなのかな?


 もう、南の大陸との交易が身近な物になりつつあるね。

 ただ、まぁ、取引するものの種類とか量はそれほど増えてないけどね。何せ、1回の積載量が少なくて、船を動かすための投資の方が、まだまだ高価だし、乗組員たちの育成も潤沢には行えていないだろうし。


「メディチ卿、一週間に1回ですか?」

「はい。ハネムーンでご旅行に行かれるのでしたら、多分、どの便でもご利用いただけます。

 ですが、もし、シャワー完備の高速大型船をご希望されるのでしたら、一ヶ月ごとになりますので、それまでお待ちいただく必要があります」


「うむ……」


 リチャードは何を悩んでるんだろう?

 南の大陸行くと、汗かいて臭いが気になる?

 確かにシャワー完備が良いんだけど、そんなこと気にしてたら冒険とか出来ないよ。それに私はシャワーじゃなくて、ピュアで済ませるから問題無いし。


 あ、私じゃなくて、リチャードが気にするってこと?


「リチャード様、何か気になる点がございますか?」

「いや、その……。

 南の大陸に一週間に一度の定期便が出ていることを知りませんでした。まして、船にシャワーが付いているという話は聞いたことがありません。

 余りにも知らない情報が多すぎまして、少々面食らっているところです」


 リチャードが2年前の知識を元に、ハネムーンを計画してくれているなら、それは仕方ないよ。今は色々と変わっちゃってるから。

 それに、婚約の儀から今日までリチャードは色々と北の大陸で活躍していた訳でしょ?

 ロメリア併合、贋金の駆逐、ロメリアからの空気搬送システムによる貨物網の構築、ロメリアの水害対策、結婚の儀の会場である築城の指揮、各種族との交易の締結、この領地の発展に際しての各種ギルド長との締結。

 そこに、結婚の儀と私の出産があって、自分の時間なんてほとんど取れなかっただろうし。


「リチャード様、私から海路かいろでの詳細を案内差し上げることは構わないのですが、本当に海路で南の大陸まで向かわれますか?」

「え?あ?メディチ卿、それはどのような意味でしょうか?まさか、飛竜で飛ぶことを想定されていますか?」


 リチャードの問いかけに答えずに、トレモロさんとレイさんが、チラチラとこっちを見て、目で合図を送ってくる。


 うん。

 空飛ぶ円盤の件ね。


 ちゃんと、完成してる。ただし、動力は魔石だけど。

 ニーニャが魔石を動力に変換する部分をシルフと一緒に作ったらしい。ニーニャは印を描くのは苦手ってことで、魔石から風の力を取り出す部分はシルフに描いて貰ったみたい。その風をパイプを通して羽に当てて本体の向きを変えて、推進力や方向転換させる部分をニーニャ率いるドワーフ族で構築したらしい。

 浮力は重力遮断の比率を変える印を利用しているから、重力0の状態から風を出せば、何処へでも進むことが出来るね。

 

 と、何も答えずに私へ視線を送り続けるトレモロさんの素振りに気が付いたリチャードが私に顔を向けて、にっこりとほほ笑む。


「ヒカリ、お客様がお前の答えを待っている様だ。私も聞きたい」

「空飛ぶ円盤での移動を想定されていると思います」


「ヒカリ、それは何だ?私が理解できるものか?」

「簡単に申しますと、空飛ぶ馬車を想像して頂ければ良いかと。

 動かす力は馬では無くて、魔石と風の属性石の力になります。

 馬車のようなほろでは無くて、壁とガラスに囲まれた卵型の形になります。

 大きさは乗合馬車の荷台を4台並べたぐらいの大きさでしょうか。

 交易には不向きですが、操作を誤らなければ、大陸間でも移動可能となります」


「ヒカリ、質問を変えよう。

 何故ヒカリはそれを知っていて、それを持っている?

 そして、メディチ卿夫妻もそのことを知っていた?」


「その……。そのですね。

 マリア様から神器を戴いた際に、『お礼に空飛ぶ馬車を作って』と、頼まれましたので、開発に着手した次第です。

 マリア様は半年前に南の大陸に行く際に、メディチ卿のお世話になっていますし、空飛ぶ円盤の話も『あれがあれば便利なのに』と、話題にのぼったと推測します」


「ヒカリ、その空飛ぶ円盤だか、空飛ぶ卵だかは、誰でも作れるのか?」

「先ほど話題に出た、シャワー付きの大型船より、遥かに難しいと考えます」


「ヒカリ、それは固有技術として登録してあるのか?」

「公にして良い技術ではありません。戦争になりますので一部の者しか存在を知りません」


「分かった。モリス、情報の秘匿と技術者の管理を頼む。

 ヒカリ、その空飛ぶ卵は何人乗れるんだい?」


 空飛ぶ馬車がいつの間にか空飛ぶ卵になったよ。

 いや、呼び方は何でも良いんだけどね。


 ニーニャと形を決めているときに、進行方向を決めて操作系を構築すると、操縦者の感覚と動作が一致して運航し易いって話になった。

 そうすると、円盤型じゃなくて空気抵抗を考えるなら卵型にしようって話になった。なので、円盤じゃなくて卵型になってる。


 ちなみに、卵型の外殻がいかくはミスリルで作って、そこの表面を革で偽装して、さらにステラのコーティングで保護してあるから、見た目は卵型の変な馬車ぐらいにしか見えない。車輪もく馬もいないけど、まさか超高度な技術の塊で空を飛べると想像できないはず。

 時速は100kmぐらいで、飛行術を使える人の中でも、身体強化と併用できる人じゃないと風圧やなんやで、体側が耐えられない速度になる。この速度を継続して出し続けられる。

 ニーニャには速度よりも、浮いて操作が出来ることに注力してもらった。風の吹き出し口は前方の周囲に18孔、後方に20孔ある。これらのバランスで好きな方向へ進めるらしいよ。


 試運転は、一ヶ月ぐらい前から始めて、ほぼ問題無く操作が出来るところまで追い込まれているらしいから、今度のハネムーンにも使えると思う。


 リチャードには、混乱させないように少しずつ情報を提供していこう。


「リチャード、荷物スペースを考慮しなければ、20人ぐらいは同時に運べると思います。

 食料庫、武器庫、シャワールーム、寝室までを考えると、どんどんスペースは小さくなります」


「ヒカリ、食料庫と寝室は必要だろう。

 武器は何に対する備え何だ?ヒカリは戦争が嫌いだったはずだが」


「リチャード、すみません。

 長距離を移動するには、寝室や食料庫が必要になりますが、短距離でしたら問題有りません。

 また、未交流の飛竜族の縄張りに誤って侵入する可能性がある場合には、ある程度の武装も必要になると考えます」


「ヒカリ、南の大陸には船で一ヶ月掛かる。十分遠いだろう?」

「トレモロさん、じゃなくて、トレモロ・メディチ卿、陸上の距離に換算すると、どのぐらいの距離になりますか?海図の作成技術も発展している様なので、おおよその距離が分かっているとありがたいのですが……」


「南の大陸の人族の玄関口である、サンマール王国の貿易港まで約2000kmとなります。参考までですが、ここからストレイア帝国の帝都までが直線距離で約500kmになります」


「ヒカリ、ここから帝都までの4倍だ。十分遠いだろう?」

「空飛ぶ卵を用いて、寝ずに飛べば、丸1日ぐらい掛かるでしょうか。確かに飛竜族の方達の支援だけで超えられる距離では有りませんね」


 飛竜族の方達にお願いして、時速300kmぐらいで飛行してもらうことは出来るかもしれない。だけど、今度は荷物の量が問題になる。もし、ぶら下げて飛んでもらうとすると、今度はぶら下げている荷物のワイヤーの強度が問題になってくる。

 だって、まだ、鋼線とかワイヤーとか、開発してないもん。ステラのコーティングは表面への衝撃からの保護であって、素材そのものの耐久性を向上させるもじゃないから、革でロープを作っても、そのロープが振動や屈曲で脆性破壊ぜいせいはかいを起こしたら、内部から断裂して、籠にぶら下がっている物は地面に真っ逆さまだよ。

 危な過ぎて、飛竜さんにはお願いが出来ないよ。



「ヒカリ、ちょっと待て」

「はい」


「ここから、南の大陸まで2日間ぐらいで到着できると聞こえたが、計算は合っているか?それとも、私の聞き間違いなのか?」


「ここから、帝都までは飛竜族の方達の力を借りれば半日で到達します。ここでいう半日とは、あくまで日中の半日ですので、夜を含めて1日と考えますと、四半日で500kmを移動できる計算です。


 次に、熟練した者の飛行術と飛竜族の一般的な飛行速度、そして今回開発した空飛ぶ卵の飛行速度は大体同じです。


 なので、500kmを四半日で移動可能とするならば、南の大陸は丸一日という到着可能という計算になります」


「ヒカリ、ちょっと会話がオカシイ。

 お前はさっき、『長距離であれば寝室や食料庫が必要』と言った。空飛ぶ卵があれば、どこでも2日間で飛んで行けることになる。

 そんな、まわりくどいことを言う必要があったのか?」


「南の大陸に到着するまででしたら、問題ありません。

 ですが、そのまま南の大陸を空から観光したり、ユグドラシルも空飛ぶ円盤で観光することを想定すると、移動距離も滞在期間も長くなると考えました」


「ヒカリ、俺が悪かった。

 メディチ卿にお願いしたかったのは南の大陸の港までの手配だった。ヒカリも同じ範囲で空飛ぶ卵の活用方法を元に答えてくれれば良い。

 そうであれば、海路を行く必要は無いな?」


「はい」


 本当は旅行の全行程を考えて、それぞれの移動手段と移動時間を見積もる必要が在るんだけどね。さらに、現地に着いてからの移動手段と、空飛ぶ卵の保管場所なんかも考えるんだけどね。

 でも、時間が曖昧で、交通手段も馬車ぐらいしかない世界だったら、その辺りを細かく考えても仕方ないかな~。


 うん?

 とすると、リチャードは今回のハネムーンを何ヶ月ぐらい掛かると考えてたんだろう?往復で2ヶ月を確保してくれてる様子だったから、半年ぐらいの旅行を考えてくれてた?それとも南の大陸って1週間ぐらいで周って帰ってくるつもりだったのかな?


 ま、リチャードの意見を良く聞いて、後から問題が出てきたら、そのとき考えればいっか。


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いつもお読みいただきありがとうございます。


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