2-01.出発の準備(1)
第三戦の片づけが終わった後、3日ほど経って、リチャードが約一週間の視察から帰ってきた。
モリスとスチュワートさんで入念な打ち合わせは終わっているらしいから、スチュワートさんが滞在していることと、リチャードへの対応の仕方は大丈夫と信じたい。
破壊された街道に関しても木々の植樹は終わったし、土を固めて作ってあった街道は石畳の舗装に作り替わった。中途半端だったから、ここからメルマまで敷いちゃったけどさ。
一応、これで問題はなかったはず。
「ヒカリ、リサ、シオン、ただいま。お客さんを連れてきたよ」
「「お父様、お帰りなさい」」
「リチャード、お帰りなさい。視察お疲れ様でした。お客様とは珍しいですね。どなたがいらっしゃったのですか?」
「メディチ卿夫妻と、ペルシア女王夫妻だ」
「……」
分かんない。だれ?
『分からない』とは簡単に答えられないので、まじめな顔をして、次の推理できる言葉を探り出す。
うん。沈黙は金なり。余計なことは言わない。
「ヒカリ、いつもファーストネームを呼び捨てにしてるから、姓を覚えていないとか無いよな?」
「ぺ、ペルシアは分かる。ほら、レイさん!獣人族のレイさん!」
うんうん。バッチリだ!
レイさんが獣人族で尚且つペルシアってので、『ペルシャ猫で覚えよう』って、決めていたんだもんね。
あれ、でも、王様じゃなかったような?
「ヒカリ、レイ様はご結婚されているよな?」
「うん。トレモロさんと結婚したよね」
「何かおかしくないか?」
「……」
やっちゃった系ね。
レイさんはトレモロさんと結婚して、トレモロ・メディチ侯爵家に嫁いだのだから、姓も変わってる……。
あ!メディチ卿って、トレモロさんじゃん!
ってことは、レミさんの話だ!
「ああ~、うんうん。レイさんじゃなくて、レミさん。ちょっとした勘違い」
「……分かった。それで正解だ。
そういうのは大変失礼なことだから、子供達の悪い見本にならないよにして欲しい」
「はい」
「それで、留守の間に何か変わったことは無いか?」
「お父様、お母様にから剣と靴を買っていただきました」と、リサ。
「お母様とお姉ちゃんと一緒に、昆布を買ってきました」と、シオン。
「ヒカリ?」
「はい!」
「メディチ卿とペルシア女王が外でお待ちだ。案内して差し上げなさい」
「は、はい……」
「リサちゃんと、シオンは、お父さんが居なかった間の冒険を教えてくれるかな~」
「「ハイ!」」
うう~。
久しぶりにレイさんやレミさんに会えるのは良い。
けど、子供たちがリチャードに何を言うのかが、ちょっと怖い……。
ーーーー
「レイさん、レミさん、お久しぶり~」
と、館の玄関の待合室みたいなところで待ってる4名の大人とモリスに声を掛ける。レイさんもレミさんも偉い立場の人なんだから、ちゃんとした敬語を使わないと本当は不味いかもしれない。
でも、ま、いっか。
「「ヒカリ様、お久しぶりです」」
と、二人から返事が返ってくる。
あ、私もやっぱり敬語で接しなくちゃいけなかったかな?
みんなの前だったし、失礼だよね……。
「トレモロ・メディチ卿、レイ・メディチ卿、このような狭い館をご訪問頂き恐縮です。ご不便をおかけいたしますが、お気軽に過ごして頂ければと思います。
レミ・ペルシア様……」
「ヒカリ様、私に敬語は不要です。私がヒカリ様をお慕い申し上げているからこその言葉ですので、普段通りのお言葉遣いで接して頂ければと思います」
って、レミさんから、ちゃんとした挨拶をする前に止められちゃったよ。
それに、実はレミさんの旦那さんがどんな人か私は知らなかったりするんだよね……。
「レミさん、あの……」
「ヒカリ様、失礼しました。こちらは私の夫であるザック・ペルシアになります。また、ザックが抱えているのは、息子のジル・ペルシアでございます」
「ザック様、人族のヒカリ・ハミルトンと申します。レミ様には日頃よりお世話になっております。今後とも交流いただければと思います」
「ヒカリ様、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
と、玄関での挨拶をほどほどにして、モリスが私たち全員をいつもの応接間に案内してくれる。
この応接間は大活躍だね!
これだけお客様達が重なると派手にならない範囲で増改築がやっぱり必要かな……。でも、大規模なパーティーは結婚の儀の為に作ったお城を利用するし……。なんとも、微妙な感じだ。
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「それで、今回はどういった要件でご訪問戴いたのですか?」
「リチャード殿下から、招待戴いたのですが……?」と、レイさん。
「私たち夫婦も、リチャード殿下から招待戴きました……」と、レミさん。
なんだろ?
獣人族の村を本格的に興すのかな?
余計なことを言うと、リチャードに怒られるから、リチャードに直接話をして貰った方が良いよね。
と、子供達とのスキンシップが終わったらしいリチャードがノックしてから応接間に入ってきた。
「皆様、大変お待たしました。今回、両家にお願いしたいことがありまして、こちらへ招待させて戴きました。
トレモロ・メディチ卿に於かれまして、本来こちらから訪問させて戴いた上で用件を伝えさせて戴きますところ、視察の際に立ち寄らせて戴き、共にこちらの領地まで訪問頂くことを了解戴きました。
レミ・ペルシア女王陛下に於かれましては、領地内の視察の際に、こちらの領地に来た上で直接お相談に乗って頂けるとのことで、お招きしたしだいであります。
遠路はるばる訪問戴き、お礼を申し上げます」
「こちらこそ、各種支援を戴いており、今後とも両家にとって良好な関係を構築できることを願っているしだいであります。ご招待戴き、夫婦共に喜んで参りました」と、トレモロさん。
「リチャード殿下、ヒカリ・ハミルトン卿には大変ご恩を感じている次第であります。何なりとお申し付けください」
と、ザックさんが挨拶をする。
私はザックさんのことは良くわからない。けど、まいっか。
「お集り戴きありがとうございます。
この度、妻であるヒカリと私リチャードはハネムーンの旅に出たいと考えています。そして、妻には内緒でしたが、兼ねてからの妻の願いでもある南の大陸へのハネムーンを考えています。
そのためには、南の大陸との安全な航路、そして密林が多い環境での生活基盤の構築が必要と考え、航路に関してはトレモロ・メディチ卿の支援を賜りたく、また、密林での生活術に関してはペルシア夫妻の伝手をお借りしたいと考えている次第です。
ご賛同いただけますでしょうか」
へ~。
モリスの言った通りだ。
そして、ハネムーンの行先を私の希望に合わせてくれるってことね?
二人で打ち合わせをして決めた訳では無いけど、ユグドラシルに行きたいようなことは言ってた。
どうやって行くかも判らない、何があるかも判らない所へハネムーンに行こうって言えるなんて、とっても素晴らしいと思う。
普通は無理だよ。普通はね。
絶対に反対されると思っていたし、コソコソと裏で行動すると思ってた。
私は改めて、素敵な旦那さんに嫁いだんだなって思う。
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