1-43.後片付け
「ヒカリ、終わったのかしら?」
「ハイ、ラナちゃん、お待たせしました」
「そう。ヒカリは私に何を願うのかしら?」
「昨日の街道の修復と、今日のご参集ありがとうございました」
「スチュワートの前だからって、気取ってるのかしら?」
「いいえ。本当に助かりました。私の不手際でご迷惑をおかけしましたこと、お詫びさせて戴きたかったのです」
「ヒカリにしては、久しぶりに弱ってたわね」
「すみません。本当に助かりました。私一人では、とても手に負え無い、大変な状態でした」
「それだけ、ステラもステラの旦那さんも優秀ってことなのよ」
「はい。自分の小ささを改めて理解しました」
「それで、何をお願いするのかしら?」
「そろそろ準備が整ったので、南の大陸に一緒に来ていただけませんか?」
「あら?やっとかしら?」
「はい。とうとう準備が整いました」
「誰が行くのかしら?」
「エルフ族の方は、ステラだけになるかと思います」
「そう。ニーニャは?」
「連れて行かない訳には行かないと思います」
「いつものメンバーかしら?」
「出来れば、うちの家族も連れて行きたいのです」
「留守の準備は出来てるのかしら?」
「いいえ。先ほど決着がつきましたので、詳細はこれから詰める必要があります」
「楽しみね」
「はい、楽しみです。ご都合の付く方達にはご一緒頂ければと思います」
「わかったわ。今日はこれで良いわね」
「はい、ありがとうございました」
スチュワートさんは理屈で切り崩せる部分が多々あるけれど、ラナちゃんは望んでいる答えを即座に返さなければいけないっていう、極度のプレッシャーを感じるね。マリア様もこれに近いけども……。
ラナちゃんの口ぶりからすると、ステラやニーニャも本当はそういう厳しい世界でいきているんだろうな~。
私は甘やかされて育ってるんだよ。きっと。
ーーーー
ラナちゃんを先頭にして、妖精の長達とエストが部屋から出ると、また3人が部屋に残された。
モリスは妖精の長達の見送りをしてから、メイドにお茶の指示を出す。そして、先ほどの宣誓書に記入を終える。
「ヒカリ様、お茶の指示は出しましたが、如何致しましょうか?」
「うん?何が?」
「奴隷契約をどのようにするかと、リチャード様がお戻りに成られてからの段取りです」
「スチュワート様が口外無用を守って頂けるのであれば、奴隷契約は必要無いと考えます。多分、守って頂けると思うのですが?」
「ヒカリ様、貴方は何者ですか?女神様でいらっしゃる?」
「メイドの小娘だよ。ついでに領主の役職もあるけどね。
それで、口外無用の約束は守って貰えるよね?」
「はい。仰せのままに」
「モリス、その奴隷契約ができる宣誓書は一応保管しておいて。スチュワート様との信頼関係が構築できたか判らないからね。あとは、リチャードとの準備だよね?」
「はい」
「じゃあ、エスト達の婚約者がうちの領地を訪問したことにしよう。それなら、船の修理とかも支援して良いでしょ?」
「宜しいかと」
「エルフ族との交易はリチャードに任せても良いかな?」
「宜しいかと」
「南の大陸へ新婚旅行に出かける準備は?」
「リチャード様がお戻りに成られてから、ご意向を伺った方が宜しいかと」
「南の大陸は、アジャニアのメンバーと私の家族で行きたい。モリスに留守番は頼める?」
「私は構わないのですが、アリアは本人と家族の意向がございますので、その辺りは、ご配慮頂ければと思います」
「わかった。そしたら、スチュワートさんと私たちは別行動だよね?」
「それで宜しいかと」
「じゃ、いろいろ不便だからスチュワートさんに念話を習得してもらって。
南の大陸に別々に行った後で、お互いが連絡をとって合流するのに何ヶ月もかかってたら、ユグドラシル攻略とかドリアード様に会うとか何年かかるか判らないよ」
「そうですね」
「後は何かあるかな?」
「リサ様とシオン様のお加減は宜しいでしょうか?」
「ああ、うん。何か、昨日の一件以来、とっても素直。
そういえば、『シルビア様とスチュワート様に相談にのって貰え』って、リサに言われたよ」
「左様でございますか。是非とも、そうされた方が宜しいかと」
「モリス、他に何かあるかな?」
「ステラ様への連絡は終わっておりますので、スチュワート様からのご質問が無ければ、ヒカリ様はリサ様とシオン様の所へお戻り戴いて結構です」
「そう。スチュワート様、何か質問はございますか?」
「あの、今更ですが、私はヒカリ様を何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
「あ、決めてなかったね。
『ヒカリさん』で、お願いします。敬語も不要です。遠慮も不要です。その代わり、私もスチュワートさんと呼ばせてもらい、敬語も省略させて戴きます。
今日の事情を知らない人が居る場では、私もスチュワート様と呼ばせて戴きます」
「ヒカリ様のご命令とあらば、一向に構いません。全ては仰せのままに」
「スチュワートさん、いろいろ違うから。でも、まぁ、そのうちに慣れてくださいね。他に、スチュワートさんからの質問はあるかな?」
「あの、もう一つだけお伺いしても宜しいでしょうか?」
「うん、その言葉遣いを止めてくれたら良いよ」
「ヒカリさん、あと一つ質問があります」
「いいよ」
「ステラは何処まで知ってるのでしょうか」
「大体全部。
私なりに考えていることと、ステラなりに考えていることがあるから、そういった心の中までは判らないよ。
けど、この2-3日間で起きたことは全部知ってると思ってて良いよ」
「そ、そ、それでは、ヒカリ様はいつから私のことをご存じだったのですか?」
「言葉遣いがちがうけど、まぁいいや。シオンが難破船を見つけたときからだよ」
「え?それでは……」
「うん、色々疲れたよ」
「いや、でも、ステラが族長の座から降りるのは、彼女自身が言い出したことです」
「うん。ステラが言い出したよ。確認したし、他の方法も考えたけど、大事にしない方法が見つからなかったから。
もう、結局は大事になっちゃったけどね。私がステラに怒られるけど、そこはスチュワートさんが気にしなくて良いよ」
「ステラは全てを知っていた……?」
「うん。私と同じだけの加護の印があるよ。ステラが人族のアクセサリーを身に着けているって珍しいでしょ?」
「では、では、では、ひょっとして第二戦の石の運搬は……?」
「見せながら運ぶと、いろいろ面倒だから隠したけど、本当に私の勝ちだよ。ただ、勝負の決着の付け方に不備が在ったのは確かだよ」
「ま、まさかですが、第一戦は……?」
「そこは、モリスに聞かないと判らないよ」
「私は何をしにきて、何をしているのでしょうか……」
「エルフ族の宿命と困りごとを解決しにきて、無事にその役目を終えたって感じじゃない?船が直ったらエルフ族の村へ帰れば良いよ。
もう、良いかな?」
「は、はい。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした!」
「スチュワートさん、いろいろ違うから。
モリス、子供たちの所へ行くから、あと宜しくね」
「承知しました」
いや~、疲れたよ?
本当に疲れたよ?
私、疲れてても良いよね?
ステラやモリスは私以上に疲れてそうだけども……。
リチャードが帰ってくるまで、全部仕事サボって、子供達とウダウダしてよ~~っと。
リチャードが帰ってきたら、ちゃんと南の大陸に行くからね!
いつもお読みいただきありがとうございます。
ここまでで第一章完結です。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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