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1-41.母(2)

「お母さん、私を助けてください」


 私は何も言わずにリサを頭から抱える様に体全体で包み込んだ。

 

 でね?私は思ったのよ。

 『魂を揺さぶる料理の勝利』ってさ。

 『これで、リサが私に心を開いてくれる』って。

 感動して、私をお母さんと信じてくれるかな~って。


 ファンタジーな世界で、これまでハッピーな生活を送れてきた。

 いろいろな困難はあったけれど、皆が前向きに生きていた。

 仲良く、皆で信頼関係を築けてきた。

 だから、今回も上手く行くって、勝手に思い込んでいた……。


 違った……。

 リサは、甘えて泣いているんじゃなかった。

 手や足がガタガタと震えている。

 咽び泣いて、しゃくりあげるような震えじゃないの。

 もう、何かに対して恐怖を抱いて、逃げ出すに逃げ出せない状態。

 もう、腰を抜かしているような感じ。

 ただ、ただ、只管ひたすら何かに恐怖している……。


 このまま抱えていても仕方が無いから、リサの両肩を手で持って顔を起こしてから語り掛けた。


「リサ、どうしたの?」

「(ヒック、ヒック)ご、ごべん、 ごべんだざぃ。ゆ、ゆどぅじで、ぐだざぃ」


「リサ、リサ?」

「も、もぶじまぜん。だんでもじまず。ゆるじでぐだざぃ……」


「リサは何も悪くないよ。大丈夫だよ」


 何かを怖がって謝るリサに、安心させようと声を掛けて見たけど……。


「お、おでがいでず。 わ、わだ、わだじを、う、うらないで、くだざい」


 リサが一生懸命謝る。そして、『私を売らないで』と。


 これって、ステラが言っていた「ヒカリさんを奴隷商人と思い込んでる」ってい、あの話なのね?

 私が奴隷商人で、売られる恐怖が最高潮に達しているってこと?

 とりあえず、このままではダメだね。


「リサ、お母さんはリサを売らなよ。いつまでも一緒だよ」


 優しく語り掛けて、微笑みながらリサの反応を待つ。

 リサは、私を見ようと、少し顔上げてこちらを見た。

 そして、微笑みかけている私をみて、こう言った。


「シオンを売るなら、私で良い……」


 もう、全てを絶望して、恐怖ではなく悟りの境地だね。

 リサは完全に泣き止んで、冷静だ。


 なんで私が子供達を売る前提なのさ!


 でも、ここで怒ったらダメだ。

 我慢、我慢、じっくりと前に進もう……。


「リサ、お母さんもお父さんも、リサとシオンを売らないよ。一緒に暮らせるよ」

「嘘は良いです。もう、諦めました」


「お母さんは、奴隷商人じゃないよ」

「それなら、尚更、子供を売る必要があります」


「お母さんは、冒険してた頃のお金があるよ?」


 ここは嘘だけど、ある意味では嘘じゃない。

 冒険して手に入れたものを全て換金できればそれなりな金額になる。

 けども、売れないし、権利譲渡したりしてるから、実際にはお金なんか無い。 この領地経営だって、納税されたものは貯蓄せずにどんどん先行投資してるから私の所にはお金なんか入って来ない。ちょっとした買い物とかは出来るけども……。

 実際には、魔石を生成して必要なお金を作れるけど、そこは当面は言えないよね。


「お母さんはバカだから、お金の使い方を知らない。だから子供を売ることになる」


 そうきたか……。


 確かに、お金に無頓着で節約とかしてない。お金を貯めてる素振りも無いし、暮らしてる地下室には金目の物が無いんだよね。シンプルな寝室、空調とお風呂、鏡ぐらいしかない。


 服も2-3着ならあるけど、それはメイド服と狩人の冒険者用の服だから、裕福な暮らしには全く見えない。パーティードレスとか結婚の儀で使った衣装はこの前建てたお城の展示コーナーに飾られているっていうね……。

 ちなみにステラから貰った毛皮もそこの展示コーナーに大事に飾られてるよ。


 食事はここの調理場で食べているから、毎回メイドの賄い飯みたいなもんで、部屋には食料の備蓄とかしてる様子が無い。全く生活感無いんだよね……。


 うん、今更だけどメイドとしての生活が偽装出来てない。

 というか、領主の館に住む込みで働いているんだから仕方ないんじゃないの?

 

 あ?

 そういう切り返しで説得してみよう。


「リサ、でも、私たちは領主の館で住んでるから、お金が無くても暮らせるよ」

「成長したら、服も必要。狩りに出かけるなら、狩りの道具も必要。お金が必要になる。双子なら2倍必要」

「じゃ、じゃぁ、2倍働く」


「メイドのお給料では、子供の服は潤沢に買えない。年が違えば仕立て直して使いまわせる。けれど、双子では二人分の材料が必要。

 お母さんは何もわかって無い!」


「あ、だから、冒険者してたときの宝物とか魔石を使えば良いよ」

 

「私は装備を貰えて嬉しい。

 だけど、シオンの分が無い。材料も無い。

 シオンは昆布という料理の材料しか買って貰えてない」

「え?」


「シオンの分の服が無い」

「リサ、そっちじゃなくて、その前……」


「私の装備?」

「うん」


「おかあさん、ありがとう……」

「リサが喜んでくれてるなら、お母さんは嬉しいよ」


「……。お母さんは、変です!」

「リサも変だよね。一歳児じゃないよ」


「私の知る限り、お母さんが一番変です」

「私の知る限り、リサも変です」


「お母さん?」

「リサ、何?」


「お母さんは何者ですか?輪廻転生の神様とお知り合いですか?」

「お母さんは人族でメイドをしています。輪廻転生の神様のことはよくわかりません。リサは何者ですか?」


「わたしは……」

「うん、教えて?」


「聖女シルビア様の付き人になるために転生しました!」

「え?」


「南の大陸では、有名な人なのです。北の大陸の皇帝に嫁ぎました。今は辺境の国で墓守をしているそうです」

「ええ?」


「輪廻転生の神様に教えてもらいました」

「付き人って、何する人なの……?」


「メイドの様にお世話をする人です。常に聖女様の傍に仕えることができます」

「ユッカちゃんの付き人の方が面白いと思うよ?」


「ユッカお姉ちゃんは私の師匠なのです!ステラ・アルシウス様の弟子入りが見込めないので、私の師匠になって貰っています」

「え?ステラはリサの面倒見てくれないって?」


「お母さんの知り合いのステラ様では無いです。伝説のエルフ族のステラ・アルシウス様です。最年少でエルフ族の族長になられた方です」

「あ、もう、族長じゃないけどね」


「だから、お母さんのお知り合いのステラ様では無いと言ってます」

「いや、あのステラはステラ・アルシウス様だよ。旦那さんのスチュワート・アルシウス様が来てたでしょ?」


「え?」

「『え』じゃなくて。リサは今日、夕飯を一緒に食べていたんでしょ?泣いてたけど」


「な、なんで、ステラ・アルシウス様がここに居るんですか?」

「なんでって言われても……。お願いして、居て貰ってる感じ?」


「全然わかりません」

「お母さんも、リサが何をしたいのか判りません」


「私は生きる必要があるのです!」


 リサが強く言い切ったよ。

 生きることが目的っていうのは相当な覚悟だよ……。


ーーーー


「私は生きる必要があるのです!だから、奴隷として売られてはダメなのです」


 確かに奴隷にされちゃうと、生死与奪権が無くなるからね。

 奴隷になった時点で生きてる目的が無くなっちゃうよ。


「じゃ、生きよう!ユッカちゃんとステラに師匠になって貰う様に頼んでみるよ。」


「お母さんは何を言っているのですか?人の話を聞いてください」

「シルビア様の付き人とか、ステラの弟子になりたいんでしょ?」


「はい」

「うん、じゃ、頼んでみるよ」


「ステラ様が本物であるなら、頼んでいただけると有難いです。

 ですが、シルビア様とユッカお姉ちゃんは関係無いでしょう?

 シルビア様はご子息の墓守をしていると聞きました」

「ユッカちゃんは、シルビア様のお孫さんだね。みんなには内緒だけど」


「おかあさん?」

「なに?」


「なんで、シルビア様をご存じで、ユッカおねえちゃんがここに居るのですか?」

「シルビア様は会いに行って、ここに来て貰ったら、ここに住むことになった。

 ユッカちゃんは私の妹扱いで、10年間一緒に暮らす許可を貰ってる」


「全然わかりません」

「お母さんのことは、もう良いから、リサのことを聞かせてよ」


「ステラ様の弟子になって、ユッカお姉ちゃんの付き人になります」

「うん、それは、いつでもできるから、もういいね。リサの人生おしまい」


「お母さんは奴隷商人ですか?」

「え?」


「そうやって、人の人生を奪うのですか?」

「奪って無いし。リサの願いを助けようとしてるだけだよね」


「一生を掛けて、手に入れる願いですよ?」

「叶って良かったね。お母さんとしても嬉しいよ」


「叶わない夢があって、そこに向かっていきていくのでしょう?」

「そっか。夢は叶ったけど、人生の目的が無くなったね」


「お母さんは、やっぱり、奴隷商人です」

「じゃぁ、リサが今度はお母さんを助けてよ」


「はい?」

「リサは強いし、色々なことを良く知ってるから、お母さんを助けて」


「メイドの仕事の手伝いですか?」

「ううん。メイドの仕事は他の人に任せれば良いよ」


「領主の護衛はお父さんのお仕事ですよ」

「え?あ、ああ……。お父さんの仕事は、ここの領主を護衛することかもねぇ……」


「それなら、お父さんに任せれば良いです。あの人は強いです」

「そうだね」


「なら、何を手伝うのですか?」

「冒険かな?」


「冒険?」

「調査?探検?何ていうの?それを一緒に手伝って欲しい」


「何を調べるのですか?」

「先ずは、ユグドラシル行って、ドリアード様に会いたい。

 次は、魔族に奪われたドワーフ族の神器を取り戻す」


「お母さん。無理です」

「何が?」


「冷静に話している自分がおかしいと思いますけど、それ以上にお母さんがおかしいので冷静でいられます」

「リサが何を言いたいのか判んないよ」


「ユグドラシルも魔族も両方無理です」

「何で?」


「無理だからです」

「だったら、リサが手伝ってよ」


「スチュワート様に話を聞けば判ります」

「話を聞いたら、リサが手伝ってね?」


「人の話を聞いてください」

「さっきから聞いてるよね」


「私の言いたい意図を汲み取って、会話をしてください」

「出来てないかな?」


「出来てません。だから奴隷商人なのです。人の心が読めないのです」

「人の心を読んだら、失礼じゃない?」


「私にも隠しておきたいことはあります」

「うん。人の心を読んだら失礼だよね。だから、ちゃんとリサの話を聞いてるよ」


「お母さんは、バカです」

「うん、しょうがないよ。だから、リサが助けて」


「人を訪ねて、話をきくだけです」

「呼んでくれば良いよね」


「心構えがおかしいです」

「あ、えっと、『お茶しながら、話をしません』って、声掛けるのは失礼かな?」


「族長級の人物や上皇后陛下が、メイドのお茶会に参加しません」

「多分、大丈夫だよ」


「ここの領主様に王族の伝手つてを紹介頂いて、王様より紹介状を発行して頂いて、訪問するためのお土産を持参して、用件を伝えるのです。それでも面会して貰えるかは分かりません」

「リサは凄いねぇ……」


「当たり前のことです。お母さんはメイドだから仕方ないです」

「うんうん。でも、時間が掛かるからユッカちゃんとステラに頼むよ」


「お母さん、人の話をきいてください」

「だから、ユッカちゃんとステラを通して、シルビア様とスチュワート様に面会すればいいんだよね?」


「そんなの、ずるいです」

「でも、リサも会いたいし、紹介して貰いたいんでしょ?」


「お母さんは、全部ずるいです!」

「でも、リサの言われている通りにしようとしたんだけど?」


「もう、良いです!お母さんのせいで、全て台無しです!」

「リサ、ごめんね。お母さん馬鹿でごめんね」


「もう、良いです!寝ます!」

「ご飯はどうする?取っておく?お腹空かない?」


「空きました……」

「お母さんと一緒にご飯を食べよっか」


「良いよ……」


 リサは何かを見つけられた。


 そして、南の大陸の料理を噛み締めながら食べる。歯は殆んど生えてないけど。ハーブや食材の味は分かるはずだからね。後でお腹壊したら面倒は見るよ。


 私はシオンが残したご飯と、干物と納豆で和食を食べた。

 さぁ、明日からまた忙しい1日が始まりそうだね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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