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1-40.母(1)

 ステラに惨状の復旧を託して、私は二人の子供達を救出するために、飛行術を駆使して応接間に戻る。廊下にいたメイドさんに声を掛けてから、ノックをして皆が会食している場所に入る。


 なんか、部屋が静まり返って、末席にいるリサがむせび泣いていて、その背中をシオンがさすってる。

 これは、想像以上に酷い状態。誰が悪いかはともかく、この場にこの子らを置いておいても解決しないね。ともかく、母親としてこの場をなんとかしよう。


「モリス様、うちの子達がご迷惑をお掛けしてるとステラ様から伺いました。別室で食事をとりたいので、引き取らせて戴いても宜しいでしょうか?」


 応接間に居る皆の反応も、まして子供たちの反応も見ずに、二人を小脇にそれぞれをかかえて、ゴードンの居る食堂まで連れていく。


ーーーー


「ゴードン、ちょっと台所を借りるよ」


 私が突然二人を抱えて台所へ乱入して、テーブルに座らせているにも関わらず、ゴードンは、チラッとこちらを見ると、軽くうなずくだけで、どういった事情かを詮索しない。粛々とお客様向けの料理の準備を続けてるね。


「ゴードン、応接間の子供二人分の食事はキャンセル。ステラは後で戻ってきて食べるかもしれないから、材料は確保しておいて。ユッカちゃんも来るかもしれないから、そこも備えておいて」


「承知しました」


 と、全てを見透かしているかのような対応がとれるゴードン。


「リサ、シオン、二人が今一番食べたいものを言って。私が作るから」


 二人は泣き止んで、呆然と私を見ている。


 うん。

 こんなお母さん見たことないもんね。

 そっちが転生者なら、こっちもそれなりな態度で接してもいいよね。


「シオンは和食かな?」


 シオンはリサの方をチラッと見て、泣き止んでいるのを見ると、これまでと様子の変わった私を驚きと警戒の表情で見る。


 やっぱり、シオンは完全な転生者じゃないのかもしれない。

 前世の部分的な記憶が残っていて、私ぐらいの女性には怯まないのかもしれない。でも、今は世話してくれるお母さんとして記憶が混ざっていて、ちゃんと反応できていないのかも。


「白いご飯、納豆、味噌汁、卵焼き、焼き魚。どう?」


 リサには話が通らないはずだけど、出汁のことをあれだけ知っているシオンなら、こういった純日本風の食事が魂の何処かに残っているはず。

 上手く反応して!


「お母さん、ここに白米は無いよ。魚も焼き魚にできるような魚は昨日の市場で見かけなかった。まして、納豆なんてある訳が無いよ」


 よし!反応した!

 この子の魂には日本食がある!

 だって、アジャニアには白米が無かったもんね。

 まぁ、私も白米まで精米したお米は此処では見たことないけど。


「シオン分かった。ご飯と納豆と焼き魚ね。準備するよ」


 1歳の子供に納豆や魚をたべさせるなって?


 いいの、いいの。ここはファンタジーな世界!

 だって、1歳でこんなに喋れる方がおかしいもん。

 体形は幼児体形だけど、消化能力も強化されてると勝手に期待しちゃうもんね。お腹壊したら、まぁ、いつもの離乳食に戻すだけさぁ~。


「ゴードン、アジャニアから持ってきた種もみを元に、この前初めて収穫したお米を出来るだけ精米して欲しいの。誰かに指示を出してくれる?」


 ゴードンは私の話を聞いて、テキパキ指示をだしてくれた。

 私はお米が精米されるまで、納豆をステラから貰った不思議なカバンから出して準備するのと、焼き魚用の魚を冷凍庫から取ってくればいいね。


 次は、手強いリサの番だよ。

 さぁ、何が出てくるかな~。


「リサ、リサは何を食べる?記憶に残る物ならなんでもいいよ」


「★★〇▲、■■〇▲×。それと、〇〇ーーxx**が食べたい」


 そうきたか……。

 この子の言語が判らない。

 すくなくとも、北の大陸とか、アジャニアでは無い。

 魔族とか南の大陸の言語……。


 うん。そっちがそう来るなら、こっちも全力出して戦うよ。


<<ナビ、今のリサの言語を解析。録音されてなかったら、もう一回言わせるから>>

<<ヒカリ、今のは南の大陸サンマール王国の言語として登録されています。パン粥と修道女の野菜のマリネです>>


<<ナビ、流石!リサは南の大陸の修道女だったんだ……。

 それで、パン粥と野菜のマリネのレシピは出せる?>>


<<少々お待ちください>>


「リサ、ちょっと待ってね。材料があるか確認するから。

 シオンの材料も取ってくるから待っててね」


 と、ゴードンに食糧庫と冷凍庫に行くことを告げて、一旦調理場から出る。

 焼き魚用に冷凍されてる魚を取りに行く。もし、リサの食べ物の材料が此処にあると面倒だから、ナビから連絡待ち~っと。


<<ヒカリ、少々難しいかもしれませんが、伝えるだけ伝えます。


 南の大陸のパン粥とは、

 ライ麦で作ったパンがカチカチになり、それをオリーブオイルやハーブ、そしてチーズで煮込んだ物になります。

 ライ麦は個人家庭で栽培されていますが、こちらの領主への納税物は小麦しか受領していません。

 ハーブは長老やエスト達が卸してくれていますので、ゴードンに頼めばどういったハーブが良いか教えてくれるでしょう。ローズマリーの様な癖の強いハーブで、ライ麦独特の臭みを消しつつ、チーズで酸味を中和しつつ、たんぱくを摂取しているようです。

 要は、ライ麦パンの入手が鍵となります。


 次に、野菜のマリネですが、

 野菜と豆、玉ねぎ類を、お酢とハーブ、塩で味付けしたものとしてお考え下さい。豆はひよこ豆やレンズ豆を茹でることにになりますが、季節や地方で異なるため、そこまでの追跡は出来ませんでした。

 あとは、トマト、玉ねぎ、にんじん、ハーブ、オリーブオイルを混ぜて完成になります。味付けはお酢と塩のみです。

 こちらは材料が簡単に手に入るので難易度は低いと考えられます


以上です>>


<<ナビありがと。大活躍だよ。ライ麦パンは誰かに言って分けて貰うよ>>


 少しの野菜類は調理場でゴードンから分けて貰えばいいから、後は豆類とハーブを何種類か持っていけばいいね。


 よし、一旦調理場へ戻ろう。


ーーーー


「ゴードン、ただいま。


 シオンには、お米を焚く、納豆、焼き魚を作る。

 リサには、南の大陸では当たり前に食べられているライ麦パンをベースにチーズとハーブで作ったパン粥、豆ベースのマリネを作る。


 ハーブ類はある程度持ってきたけど、私も全部は判らないから、料理に合いそうなのを教えてくれるかな?

 あと、ライ麦パンって、ここで手に入る?」


「ヒカリ様、もう、ヒカリ様で宜しいですね。全力で支援させて戴きます。


 また、今日のヒカリ様のお子様達に対する接し方がこれまでと異なることから、離乳食では無く、大人向けのメニューを作成すること進めます。


 ライ麦パンに関してですが、南の大陸出身の調理補助が出来る者を雇っていますので、ライ麦パンがあるかを確認しつつ、リサ様向けのパン粥やマリネにつきましても、その者に確認をとります」


「ゴードン、ありがと!

 リサには修道院で出されるような料理が良いみたい。もし、そういうのを知っているなら、アレンジしてくれるかな。シオンの方は私が作り始めるね」

「承知しました!」


 ゴードンは大忙しだけど、なんか、その忙しさが嬉しそうだった。


 ちなみに、南の大陸から来た人が作ってくれたライ麦パンのパン粥とか、野菜のマリネなんかは、日本人には、ちょっとつらいメニューだと思う。パン粥はライ麦特有の酸っぱい匂いと、チーズ臭さとの臭いが食欲を誘わない。スプーンで掬ったドロドロを口に含むと、なんというか、まぁ、ちょっと、ご飯のお粥とも、グラタンとも違う微妙な感触。

 

 マリネもドレッシングとかではなくて、バルサミコ酢のようなキツイ臭いと独特の色で酸っぱいのね。これに油と塩が掛かっていても、日本人には不慣れな味だね。個性がとても強いです……。


 二人に、それぞれのメニューを提供したところ、シオンは目が回ったみたいで、アワアワ言ってる。多分、食当りじゃないよ。魂というか記憶が呼び出されちゃったみたい。今の自分を受け入れられないギャップなのかな。

 じっくりと話が出来る状態じゃないから、ユッカちゃんから教わった睡眠の魔術で気持ちを落ち着かせてから、寝室に運んで寝かせつけた。


 そして、リサは……。

 メニューを見て、目を丸くした。

 そして、臭いをかいでからスプーンでパン粥を一口食べる。

 そのまま、何も言わずに、今度はマリネをフォークで少し食べる。


 リサが泣いたよ。

 泣いた上で、私に声を掛けた。


「お母さん、私を助けてください」と。


 私は何も言わずにリサを頭から抱える様に体全体で包み込んだ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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