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1-36.エルフ族との勝負(2)

 私は1m角の大きさの石2個を関所の橋を渡った所へ準備して、とっとと、元応接間に戻ってきて、準備が終わったことを告げる。


「モリス様、2個の石の準備が終わりました。

 傷や署名は無いはずですが、念のため開始前にご確認ください」


「ヒカリさん、ご苦労様です。

 

 今、ヒカリさんに石を準備頂いている間に、もう一件、頼みたいことが出来ました。

 ステラ様とウンディーネ様がメルマまで移動時間を利用して、記憶術の勝負を先に行うことになりました。


 エルフ族の代表はスチュワート様になります。

 人族の代表は私が務めさせて戴きます。

 そこで、エストさんとヒカリさんにはエルフ族と人族の文字をそれぞれが100文字書いて、審判役を担ってほしい。


 良いかな?」


 ステラが長老ウンディーネを飛行術で運んでるだろうから、メルマの門前なら、すぐ着くと思うんだよね。ただ、そんな手の内を見せるようなことをいう訳には行かないから、二人から到着の念話連絡があっても、そのまま待ってて貰おう。

 先に記憶術の勝負をしておくっていうのは、夕飯を早く準備する配慮として尊重したいしね。


「承知しました。エスト様と一緒に問題を作成させて戴きます」


ーーーー


 よし、先ずは記憶術の勝負からだね。

 大きめの伝言メモ用の石板を4枚用意して、私とエストが100文字ずつ書いて、問題を作成した。


 スチュワートさんとモリスはその出題された100文字ずつの2枚の石板を100秒間確認してから、自分の持つ石板に記憶を頼りに書き写し始めた。


 一応、文字と場所さえ合えば正解ってことで、200文字の配列と文字の正誤を照らし合わせて、正答率を確認したよ。


 なんと!

 スチュワートさんもモリスも200文字パーフェクト正解!


 これには、私やエストだけでなく、勝負に参加していたスチュワートさんもモリスも驚いた。二人とも1回目で差が付いて、決着がつくと思っていたんだろうね。


 このまま、ズルズルと何回も続けると、出題する側も、回答するか側も時間がかかるし、答え合わせの時間もかかる。

 なので、少々ルールを変更して、いきなり300文字ずつの合計600文字を出題することにした。挙句、記憶するための時間は半分の50秒!


 こんなの、私はやりたくないね。

 やるとしたら、目に焼き付けた内容をナビ経由で画像としてアップロードしておいて、そのアップロードした画像を、今度はナビ経由でダウンロードすれば、映像を見ながら一文字ずつ書き起こすことが可能になる。


 でも、そんな技があることを皆には教えて無いし、モリスも知らないはずだから、自分の特技の1つで、少しでも勝負を有利に進めてくれようとしたんだろうね、



ーーーー


 記憶術勝負の2回戦目の回答作成が始まった。

 と、ここでモリスから念話が届いたよ。


<<ヒカリ様、3戦目の種族との交流の多さの勝負ですが、勝ち目はありますか?>>

<<え?なるべくなら奥の手は見せたくなかったけど、勝つだけなら強引いけば、いけるんじゃない?なんで?>>


<<2戦目でヒカリ様が勝つということは、ヒカリ様の魔術や技をオープンにする必要がでてきます。

 2戦目で負けて、3戦目で勝つためには、きっと他の妖精の長達から戴いている加護の印を見せることになると思います。

 結局は、ヒカリ様の正体を隠すことができませんので、穏便に、友好的な交流を進めるためには、私が負けておくべきかと考えます>>


<<そっか……。素直に勝つだけじゃダメか。ここでも接待の継続だね?>>


<<その方が、ハネムーンで南の大陸へ旅した際に、友好的な交流が期待できます>>


<<南の大陸へ行っても、マリア様にお会いして、多少は交易の交渉をしたら、素直に帰ってくると思うんだけど?>>


<<ヒカリ様、ユグドラシルに住まわれるドリアード様にもお会いするのですよね?>>


<<うん。できれば>>


<<すみません。わざとでなくとも、600文字の記憶がこぼれそうです。それに、話が長引きますので、また後程相談させてください>>


<<うん。わかった。適当にしてくれていいよ~>>


 モリスは念話を通しつつ、いくつか文字を書き並べているのは凄いね。そして、考えてる素振りをしたり、額の汗を拭うふりをしたり、かなり苦戦している様子を演じている。

 どんな風に負けを演じるのか、ちょっと様子みてみようかな?


ーーーー


 スチュワートさんモリスがそれぞれの石板を提出し終えた。といっても、600文字もあるものだから、石板も一人3枚っていう、なんだか古文書の書き写しみたいな大掛かりな内容になってきたよ。


 それぞれが、相手の書いた石板と試験問題をチェックし始める。

 極まれに、スチュワートさんが驚きの表情を示しつつ、モリスが書いた石板にの文字に丸印をつける。二人とも答え合わせが終わったところで、お互いの答え合わせの結果を見せ合った。


 モリスが確認したスチュワートさんが書いた石板の方は450文字ぐらいから先の所に区切り文字が入っていて、そこから先に文字が書かれていない。ある意味で、450文字は完璧な回答が出来たってことだね。


 一方、モリスが回答した石板の方には、上から四分の一、半分、そして最後から3文字目の3か所に丸印が付いている。


 もし、この丸印が誤答の箇所だとすると、トータル文字数ではモリスが上だけど、最初から順番に覚えた文字数ではモリスが負けるってことになるね。


 さてさて……。


「スチュワート様の正解数は450文字です」


 と、モリスが発表する。


「モリス殿の正解文字数は597文字でしだが、途中3か所で間違いが発見されました。その間違いも、書き直した際の消し忘れか判りませんが、余計な線が重なり、あたかも別の文字として書かれています。


 この勝負の開始時に、『順番に覚えた数で勝負をする』と、ルールにしてあったので、モリス殿は最初の誤答までの175番目が正解数という判断となります。


 宜しいでしょうか?」


 と、スチュワートさんは、モリスの石板を皆の前に示し、丸印をつけた個所と、正解の文字を比べる様にして、皆へ示す。


 確かに、数字の5と6みたいな、微妙な違いではあるけれど、どっちとも読めるというよりは、文字としてみれば、誤答であると言わざるを得ない。どうして誤答のような文字形成になってしまったのかは、判らないけど、微かに消して書き直した跡が残っている辺り、記憶ミスなのか、書き間違いなのかは微妙なところ。


「これはこれは、スチュワート様、明らかに私の誤答です。また、連続した文字を記憶する勝負でしたので、スチュワート様の連続文字数450文字が私の175文字より遥かに多いです。

 この辺りが私の限界と考えます……。負けました……」


 モリスは正々堂々と負けを認めつつ、ちょっと肩を落として残念そうな素振りを示す。

 一方、スチュワートさんは勝負に勝てたものの、記憶した文字数の量ではモリスの方が多かった訳で、実力としては勝てないと感じていた様子。勝てた喜びよりも、接戦からの勝ちを拾えた冷や汗の方が勝る感じだね。


 っていうか、二人とも異常だからね?

 ランダムな2言語の文字をたった50秒で500文字を順番間違えずに覚えるって何事よ?日本語で意味のある文章を原稿用紙1枚渡されて、それを50秒で覚えろとか無いし。

 たしか、ニュースキャスターが読み上げる速度が1分間に300文字だとか?2分近い原稿を50秒で覚えたとしても凄い事なのに、意味のない文字とか、有りえないよね……。


 まぁ、こんな人たちを相手に戦争とかしたくないね。

 平和裏に、ことを運ぶに限るね。


「スチュワート様、第一戦目は私どもの完敗です。

 もし、お疲れで無ければ、準備も整っていることから、二戦目の重い石を運ぶ勝負に入らせて戴きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ああ、モリス殿、正直言えば、実力では貴方に負けていた。ですが、ルールによって勝てたのだけでしょう。

 魔術を駆使することになる第二戦でも、私がエルフ族だからといって慢心することなく、気を引き締めて掛かろうと思います。

 私の方の準備は問題ありませんが、次もモリス殿との勝負になりますか?」

「ええと、2戦目はヒカリに任せようと考えています。

 ただ、高速で飛行するとなると、そのメイド服のままで良いかは本人に確認が必要になりますが」


 あ、忘れてた。

 このメイド服はさ、帝都で観光したときに結構な金額で一式揃えたんだよね。中古だったけどサイズも合っていて、美品だっただから大事に使っていた。これを着たまま勝負するとなると、風圧で服がボロボロになっちゃうね……。


 前に、フウマを救出するために高速飛行したときは、後で服がボロボロで色々と問題になった。フウマが無事だったから、服なんてどうでもいいんだけどね。

 今回は全速力で飛ぶことが判ってるんだから、予め準備しておいた方がいいね。冒険者風の狩人の服にしておこうかな?あれなら丈夫だし、破けても修繕して使えばいいもんね。


「モリス様、勝負であることから、こちらの服を破くと後々問題が生じることが懸念されます。私服でラフな格好な物が有るのですが、そちらに着替えてきても、差し支えないでしょうか?」


 って、ちょっとだけ、お客様を配慮してる素振りを見せておくよ。


「なるほど。

 スチュワート様、ヒカリの方が高価な衣服をダメにしてしまうことを恐れている様子です。彼女のためにも、雑多な服に着替えることを許可したいのですすが、構わないでしょうか?」


「ああ、服の交換は構わない。

 構わないのだが、ヒカリさんが人族の代表として勝負に出場するということで構わないのだろうか?」


「はい。私の判断で彼女を選出します。

 石の準備は出来ているとのことですので、我々は先に向かい、石の確認をしに行くことで宜しいでしょうか。

 ヒカリさんは、着替えてから来なさい」


ーーーー


 ということで、スチュワートさん、エスト、モリス、着替え終わった私の4人が大きな2個の石の前に集合したよ。

 で、表面の5面は見えるから、予めステラと長老のしるしが描かれていないことは分かる。ただ、底面は持ち上げて確認しないといけないっていうね……。


「スチュワート様、底面も確認されますか?それとも、2面以上にサインを戴いてくれば良いということであれば、このまま勝負に入らせて頂ければと思いますが」


「はい。私は構いません。ヒカリさんはどうですか?」


「スチュワート様、ルールについて、いくつか確認させて戴いても宜しいでしょうか?」


 と、私。

 あとで、ルール違反とかならないようにしておかないとね。


「うん?なんだい?」


「まず、この石を浮遊させて、移動させますと非常に人目に付く行動となります。また、人族の多くの者が飛行術を使えません。

 それゆえ、私は石と共に姿を消した状態で移動し、この石にサインを戴いたら、再び姿を消して持ち帰りたいと考えます。


 そうしますと、スチュワート様からは私の姿が見えず、私が何かズルをして、サインを貰って来たのでは無いかと疑問が生じる可能性がございます。


 この辺りは如何いたしましょうか?」


「そうか……。

 確かに、この石を消すことさえ出来れば、予め二人のサインがしてあった石を、私が飛行している間に運んできて、あたかもゴールしているかのように見せることは出来ますね。

 そのような準備をすることができたかは疑問ですが、そのような疑義が残る勝負はよろしくないですね。


 では、こうしましょう。

 貴方が運ぶ石には私のサインも入れておきます。そして私が運ぶ石にはヒカリさんのサインを入れておきましょう。そうすれば、すり替えは出来ないと考えます。


 如何でしょうか?」


「はい。それなら安心です。

 それと、飛行する際の高さとか、速さに制限はあるのでしょうか。石を持ち上げつつ、飛行しますので、万が一落下させると、道の上を飛ばない方が良いとか。あるいは、道に沿って、低空で飛ぶべきなどです」


「ふむ。それは、手の内を見せろとの誘導でしょうか?


 私は私なりの考えで、ルートや高さを決めて移動するつもりです。たまたま、そのルートが貴方の妨害となってしまっても、それは故意にしていると思わないで欲しい。

 逆に、貴方のルートは貴方が自由に決めて良い。


 そういったルールでは不味いでしょうか?」


「あ、いえ。特に問題はありません。

 ところで、今の話にでてきました妨害に関してなのですが、故意の妨害かどうかの判別は如何いたしましょうか?

 私としましては、先ほどのモリス様の提案にありましたように、戦争や揉め事を起こすために勝負に参加しておりません。

 なるべく、妨害行為はお互いにしないルールが良いのですが……」


「なるほど、確かに。

 では、相手の石や体に直接、間接問わずダメージを与えるような行為は妨害行為としましょう。

 ですが、先にサインを受け取るために到着した者が、後着の者のサインを受け取る時間を待たせてしまったり、進路を妨害することになってしまっても、それは妨害と見做さない。


 なにか、不安なことはありますか?」


「丁寧にルールを作って頂きありがとうございます。

 念のためですが、使用して良い魔術の種類とランク、継続時間、多重起動、妖精召喚などについても制限が無いと考えて良いでしょうか?」


「それはもちろんです。

 石を持ち上げて運びつつ、本人が飛行しているのですから、制限を掛けていては勝負が始まらなくなってしまうでしょう?」


「承知しました。私の方はいつでも結構です」

「モリス殿、私の方も準備はOKです」


 と、モリスが二人の意思を確認して、それぞれの石にサインをするの確認してから、スタートの位置へ移動する。


「よーい、はじめ!」


 と、モリスがスタートの合図をだす。

 私は、先ず身体強化と、服へのコーティング、そして、顔や腕への油脂による強化皮膜を形成する。そんな作業をしつつ、スチュワートさんの方をちらちら見る。


 なんか、石を浮かせるのに、土魔術を使って持ち上げてる。それって、石を浮かせたことにはならない。多分、手を入れる隙間が無いからなのかな?

 一度持ち上げた石を掴むと、今度は周囲から風を起こしして巻き込み始める。凄い土埃が立ち始めたよ。まさか、風圧だけで1トン以上あるような石を持ち上げようっていうの?それは無茶でしょ……。


 もう、なんか、様子をみててもしょうがないから、石と自分に光学迷彩を施して、石には重力遮断。軽く持ち上げて、とっとと飛ぶことにしたよ。

 

 石を前面に持っているから、思ったより風が体に当たらない。流れてくる空気は当たるけど、持って支えている手とか、指が痛いだけ。皮脂による強化コーティングしておいたよかったね。


 距離で10kmぐらいなもんで、時速100kmだと、片道6分ぐらいだね。

 さっと、到着して、重力を遮断したまま石を降ろして、そこに2面にステラと長老のサインをもらう。

 二人に笑顔で軽く会釈してから、とっとと戻る。二人とも何も言わずに私を見送ってくれた。

 二人が終始無言で事務的な対応をしていたけど、まさかの大逆転とか、ないよね?


 帰り道も、行きとほぼ同様で特に問題無し。


 でも!

 関所から数百メートルぐらいのところで、エライ竜巻みたいな砂ぼこりが上がている訳。まさか、あれがスチュワートさんの移動経路ってこと?あんな竜巻を起こしながら街道を通られたら、他の人にも迷惑だし、周囲の森にもダメージが出ちゃうよ。街道の西側は結構貴族の別荘地として分譲してるのもあるのにさぁ……。


 とりあえず、ゴールしてから考えよう……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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