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1-35.エルフ族との勝負(1)

 ここで、エルフ族の族長代行として、スチュワートさんは再び口を開いたよ。


「モリス殿、一連の流れをご理解いただけたと思いますが、今、ステラはエルフ族の族長でも、代表でもありません。私は族長代行ですが、エルフ族の代表として、人族と交渉が行える立場にあると考えています。


 そこで、相談なのだが、こちらにいらっしゃるウンディーネ様について、人族と交渉をさせて戴きたい」


「はい。私が決定できることであれば、この場で判断させて戴きます」


「なるほど、話が早い。ハミルトン卿はモリス殿へ全幅の信頼を寄せていることが伺えますね。

 では、こちらに座っていらっしゃるウンディーネ様をエルフ族の村へ賓客として迎え入れたいと思います。認めて頂けますか?」


「お断りします」


 と、モリスが迷いなく即断したよ。

 この辺り、打ち合わせも何もなく、私と同じ考えで行動してくれてるんだろうね。とっても助かるよ。


「ふむ。交渉の余地はあるのでしょうか?」


「この領地を預かる者として、譲歩する余地は全くございません。

 ですが、種族間の全面戦争へ突入することを回避するための策として、種族間における何らかの力量の比較によって、解決の道を探ることを提案させて戴きたい」


「……。 


 なかなか面白いですね。

 交渉が決裂した場合、エルフ族による武力行使を想定できていて、その戦争に至らぬ決着の仕方を決めたいということですか。


 具体的には?」


「ハミルトン卿は戦争を大変嫌います。戦争を回避するためとあれば、多大な努力が必要であったとしても、その労を惜しまないでしょう。

 そのような意味では、エルフ族の方から見て、人族との戦争を想定した際に有利な点において、力比べをするのが良いと考えます」


「ふむ。

 エルフ族は弓と妖精召喚を主とした魔術を得意としていて、体力勝負や人海戦術を得意とした人族との戦争を嫌います。

 すなわち、大規模な遠距離攻撃により、敵の戦力を奪うような戦術を得意としている訳ですが、このことはご存じですか?」


「全ては存じ上げませんが、種族の特性としてそのような戦術を得意としていると噂程度に伺っております」


「モリス殿の覚悟が分かりました。それらの不利を承知の上で、代表を選出するなどして、エルフ族との勝負を受け立つということですね?」


「その通りでございます」


「ふむ……」


 スチュワートさんは何かを考え始めた。

 ここで、モリスのペースで事が進んでいることを疑わなかったら、ズルズルと引き込んで行けるから、王様とか上皇様に仲介してもらわなくても、この領地内の出来事として終結できるね。

 もし、モリスの提案に対して、エルフ族にとって不利にならないようなルール作りへの交渉が始まったなら、もう、完全にこっちのペースだね。


「ステラ、モリス殿は何か隠し玉があるのか?」

「質問の意味がわかりませんわ」


 と、スチュワートさんの質問にステラは素っ気無く答える。

 そりゃ、これから何を始めるか判らないのだから、何を答えたら良いのか判らない。

 知ってても、族長の座から降りてまで私と一緒に暮らすことを選んだのだから、スチュワートさんに有利となる情報は出さないかも?


「モリス殿、この後で行う予定の勝負に関して、その結果がもたらす効力はどの様なものを想定されているのでしょうか?」


「ルールが決まり次第、書面を2部作成し、双方が署名したものを所持する形でよろしいでしょうか。必要があれば、ステラ殿に仲介のための署名をして頂いても結構です。

 その書面の効力に関しては、人族の国家間においては、国王や皇帝へ書面を提出することで、効力が発揮できるように圧力を掛けられると考えて頂いて結構です」


「つまりは、人族の国家間の法律と同等な効力がある書面を作成するということでしょうか」

「はい。そのようにお考え戴いて結構です」


 ちゃんと、後々揉めないように、あるいはその国家間の契約に相当する内容の反故ほごがあった場合に、種族間の戦争に発展しても文句を言えない効力があることを確認したね。

 うんうん。理性的に判断してくれて助かるよ。


「モリス殿、ステラやエスト達はエルフ族であり、尚且つこの領地で世話になっている。彼女らは、エルフ族の戦力と見做せるのか、あるいは人族の領地にきょを構えているので、人族の戦力として見做せるのだろうか?」


「私ども、人族の立場としてはどちらでも構いません。


 ですが、もし、エルフ族の戦力として参加された上で、エルフ族にとっての敗因を引き起こした場合、エルフ族の村に帰郷することが難しいかもしれません。

 逆に、人族の戦力に加わり、人族の敗因の原因となりますと、彼女らはこの領地に住み辛くなると思われます。

 勝つにしろ、負けるにしろ彼女らの心理的な負担は大きいと考えます」


「ふむ。

 彼女らの扱いは此方で決めて良いと理解した。ルール次第で、どのようにするか、改めて決めさせてほしい」


「承知しました」


「それで、勝負する内容でなのですが……。

 ジャンルは問わないと考えて宜しいのですか?」


「人が死に至ったり、不可逆な身体の欠損が起こらない内容が望ましいです。可能であれば、広域的な作物の被害や気候変動を引き起こすような大規模な模擬戦も避けて頂ければと思います。

 それと、精神的なダメージに関しましても、故意に精神破壊するようなダメージや後々禍根を残すような呪いを与え合うような内容も望ましくないです」


「モリス殿、そのような意味では、広域な戦争によって引き起こされるような被害を抑えるためのルールを詳細に作り込んでいくとで考えて頂ければ構いません。

 例えば、算術、魔術といった、武力衝突を前提としない内容でも構わないでしょうか。

 一種の特技といわれるような内容で勝敗を決めることになりますが」


「……。

 勝ち負けが明確であり、種族によって明らかに不公平でない内容であれば構わないと考えますが……。

 例えば、エルフ族の歴代の族長の名前を読み上げるとか、エルフ族の伝統のダンスや楽曲を演じて、その評価ポイントで競うなどといった内容ですと、種族による不公平があります故……」


「こちらの勝負に挙げる内容で、明らかに不公平だと感じる物があれば、予め申し入れして欲しい、勝負項目を変えたり、ルールを変更するなどしよう」


「承知しました。では、早速勝負の内容とルール作りに移らせて戴きましょう」


ーーーー


「モリス殿は自信満々ですね」


「そんな、とんでもないことです。

 エルフ族と人族での種族間戦争に至らない方法を模索しているに過ぎません。領地の住人が勝負に負けましたら、書面に記した内容を速やかに実行に移させて戴きます」


「では、とりあえず5項目を考えたので、是非を確認して頂きたい。


1.遠距離の伝言速度

2.記憶術

3.駆使可能な言語の種類数

4.重量物の運搬能力

5.飛行術の操作能力


どうでしょうか?」


「スチュワート様のご提案戴きました内容は、局所戦術だけでなく、戦争の戦略にも非常に有効に作用する内容が選ばれているとお見受け致します。


 大まかな内容としまして、私の独断で5項目の勝負として良いと考えます。ただし、詳細のルールや勝敗の判定方法につきましては、それぞれの項目で詰めさせて戴きたいです。

 また、人選の都合がございますので、勝負までの準備期間が必要と考えますが、宜しいでしょうか」


「モリス殿、

 留守を預かる身として慎重な判断をすることは重要でしょう。

 ですが、他国との戦争が始まった時に、相手方はこちらの準備が整うまで待っていただけるのでしょうか?


 異国の地に8人のエルフが到着した。疲れも完全には回復していない。精々、4人のエルフがその地に滞在した経験があるばかりだが、それも今回の内容に直接有利に働くとは思えない。


 その情報をいち早く精査して、直ぐに指揮を執る必要があるのではないでしょうか?」


「スチュワート様、承知しました。


 夕食前であり、お客様のおもてなしが不十分な状況ではございますが、エルフ族にとっての宿命を阻害するに十分な理由を人族が提示できるよう、全力で勝負に挑ませて戴きます。


 人族側の人選につきましては、この館にいるメンバーで対応させて戴きますので、詳細のルールが決まり次第、勝負開始とさせていただきます。


 また、ステラ様、エスト様達には、人族側に参加いただく必要はございません。

 これで宜しいでしょうか」


 スチュワートさんも、時間が掛かれば、人族の領地での戦いだし、準備をする隙を相手に与えることになるから、けしかけている部分はあるんだろうね。

 一方、モリスは5項目の内の3つは、私が参加すれば、ほとんど問題無く勝てるだろうし、記憶術に関しても、モリスに敵う人族は居ないだろうから、人選する必要も無いってことだろうね。

 あと、残りの多言語の習熟だけど、時間があれば帝都に残ってる上皇様の執事長を務めているアルバートさんが居ればいいんだろうけれど、まぁ、そこまでしなくても良いよね。


 あとは、詳細のルールが決まるのを待つだけだね。


「モリス殿、即決戴き感謝します。

では、ルールの詳細についてですが……。


1.遠距離の伝言速度について、

 この地から港のあるメルマの街まで行き、これから配置する者の署名を持って帰る速さを競うものです。

 メルマの街中に人を配置すると、勝負の阻害要因になるので、メルマの街の門前で署名をすることを考えています。


2.記憶術について、

 意味のない数字を人族語とエルフ族語で100文字ずつしるす。これを100数える間だけ、双方で記憶し、その200文字を別の羊皮紙に記憶を頼りに順番に書き起こしていく。

 この文字列の正解数の多い側の勝ちとします


3.言語の駆使種類数について、

 これは私が言うのも何ですが、勝敗を分ける方法が難しいです。であれば、異なる言語体系の地や種族と交流があったことを示せれば良いとしませんか?書状やその地の特定の種族しか収穫できない特産品などがあれば良いこととします。


4.重量物の運搬について、

 単純に力比べとお考えください。

 重たい、大きな石を用意して頂き、それを運んだ距離を競います。

 もし、同じ大きさ、同じ距離で決着がつかなそうな場合は速さとします。


5.飛行術について、

 人族にも飛行術を駆使できる人が居る前提ではありますが、飛行術を駆使できる距離と速さで良いかと考えます。


如何でしょうか?」


「スチュワート様、内容は把握できました。

 ただ、先ほども申し上げました通り、夕食前でございますので、時間短縮のために、1番の遠距離伝言と、4番の重量物運搬と、5番の飛行術は3つを1セットの勝負にして戴いても宜しいでしょうか?


 要は、重い荷物を持ち、飛行術を駆使し、メルマの門前まで行って帰ってくるということです。

 もし、エルフ族の方に不利なルールとなるのであれば、この申し出は取り下げます。


2.の記憶術に関しましては、合計200文字で決着がつかない場合は、文字数を100文字ずつ増やし、どちらかが記憶違いを起こすまでと、させて戴くのが宜しいかと。


3.に関しては、書状や種族との交流が明白であれば、その言語を完全に駆使出来なくても構わないとのこと、理解しました。確かに理解していない言語を語られて、それが本当に駆使出来ているかどうかは、判らない側には判断のしようがありませんので。


如何でしょうか?」


「モリス殿、お気遣いに感謝する。


 こちらは全て私一人で対応する予定でした。もし、人族で1番4番5番を同時に引き受けて頂ける人物がおられるのであれば、それは勝負の時間短縮に繋がって良いと思います。

 3番はモリス殿の提案の通りで良いと思います。


 ステラ、これから誰か人族を1人連れて、門番の所まで向かって欲しい。そこで、私と人族の代表が来た際に、到着の確認の署名をして欲しいのだけれど、頼まれてくれないか?」


「スチュワート、構わないわ。


 人選は……。そうね……。

 ウンディーネ様にお手伝い戴いても宜しいかしら? 

 石を運ぶのでしょう?その石に署名を入れるとなると、それなりの魔術を駆使できる必要があるわ。適当に選んでいては、署名が出来なくて勝負がスムーズに進まない可能性があるわ。


 それと、私たちの署名が入っていない石であることを確認してから勝負を開始すればいいわ。私たちの署名は簡単には偽造出来ないもの」


「ステラ、ありがとう。ウンディーネ様にもご協力賜りたいです。

 モリス殿、ステラの提案で良いでしょうか?」


「スチュワート様、了解しました。お二人には準備に向かって戴いて結構です。

 ヒカリさん、話を聞いていて分かった思うが、領地で力比べの競技で使用している一番大きな石を2個準備を始めて欲しい。

 良いかな」


 と、ここで漸く私の出番っていうか、発言の場できたよ。

 まだ、猫被っておこうっと。


「モリス様、承知しました。人族の力比べで用いた一番大きな石を2つ準備します。出発点は関所の橋を渡った辺りで宜しいでしょうか?」


「ヒカリさん、問題ないでしょう。あの辺りは多少開けていて、見通しも良いので。くれぐれも橋を壊さないように」


「承知しました。準備を進めます」


 と、私が答える。

 特に勝負の内容も問題無いし、駆け引きが必要な内容も無かった。

 淡々と進めるだけで良さそうだね。


いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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