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1-32.エルフ族接待(4)

 よし!

 朝食の準備も整ったし、スチュワートさんの接待開始だね!


 マリア様の専属のメイドさん達に混ざって、私も4人分の朝食を運ぶ。スチュワートさん、モリス、ステラと私の分で4人分ね。

 だって、私だって、朝から船を運んだり、メルマから馬車を操縦してきたり、エルフの族長接待プロジェクトを立案したりと、久しぶりに良く働いてるからね?

 で、向かいの窓側って、ああ、窓を付けたんだよ。アリアに頼んで応接間には窓を付けて、その窓にガラスを嵌めたの。地下にある寝室への太陽光の採取窓とは別に、現代や洋館で使われるような鉄枠のフレームにちょっと泡なんかが入った、透明度がいびつなガラスがはめ込まれている窓ね。


 で、その、窓から太陽光が入る側の席にスチュワートさんが一人で座っていて、こちら側の廊下に接する壁側にはモリス、ステラ、私の3人が座る。そして、1:3の対面形式で4人分の食事が給仕される。


 朝ご飯の給仕っていっても、ワンプレートランチみたいな、一つの大理石の皿の上に、パン、サラダ、ソーセージ、スクランブルエッグの洋食スタイル。そこに、陶器製のカップにスープと、ガラスのコップにリンゴジュースだから、食器3点とフォーク類を並べておしまい。

 日本人からしたら、メイドに給仕されてる以外は、珍しくもなんともない500円も出せば食べられそうなレベル。


 でね?

 モリスがスチュワートさんに食事を勧めて、4人で食べ始めようとすると、スチュワートさんが私を驚きの表情で睨んでるわけ。

 ちゃんと、部屋に入る前に加護の印は隠してあることを鏡で確認してるから、作戦を失敗させちゃうようなヘマはしてない。

 とうぜん、メルマの街に迎えに行くときからメイドの衣装を身に着けたままだから、応接間に不釣り合いな狩人とかのラフな格好でもない。


 なんか、良くわからないから、「なんでしょう?何かおかしなことがありますか?」って感じの笑顔をつくって、首をかしげてみる。


 すると、スチュワートさんは目を丸くして、ステラとモリスを驚きの表情でみつつ、視線だけを私に移して、「そこにいる人を見ろ」と、目で合図を送ってる。

 いや、その位置であからさまな合図をしたら、私にもバレバレですよ?

 

 スチュワートさんの視線に気づきながらも、それを無視して、笑顔で会食を続けるモリスとステラ。私とは別の意味で図太い。あるいは、スチュワートさんの視線による合図に気が付いてない?

 ま、まさかね。私で気付くのだから、あの二人が気が付かない訳がない。


 ちょっと、イラっとしてきたから、モリスとステラに念話を通す。


<<モリス、ステラ。スチュワートさんが私のことを睨むんだけど、何かおかしい?今日は何にも喋ってないよね。加護の印もちゃんと隠れていることを確認したし。何でか分かる?>>


<<スチュワート様は人族の慣習をよく学ばれていて、違和感を感じたのでしょう>>


 と、モリス。


<<ヒカリさん、あと数日の辛抱よ。どうでもいいわ>>


 と、ステラ。


 二人とも理由が判ってる訳ね?

 な、なんだ?

 更には、私が気が付いていない事にも気が付いて、それを無視してる?

 壁際には、いつも通り、給仕を手伝ってくれたマリア様のメイドさん達が無表情で、指示がでるまで立って控えている。この二人のメイドさん達からは情報を得られそうに無いね。


 うう、よし!

 もう、判んないから聞いちゃうもんね!

 モリスにもステラにもちゃんと確認したのに、答えてくれなかったんだから、聞いちゃっても良いよね!『聞くは一時いっときの恥、聞かぬは一生の恥』っていうしね。


 軽く呼吸を整えて、「スチュワート様……」って、声を出そうとした瞬間に、スチュワートさんからステラに質問が挙がった。


「ステラ、すまぬが、ヒカリさんは特別な存在なのか?例えばシオンくんの母上であるが故に、特別な権限があるなどだが……」


「スチュワート、先に食事を済ませましょう。そして、エスト達に会いに行きましょう。もう、メイド達に指示を出して、エスト達に連絡させているはずよ。

 それとも、何か話題を逸らしたいぐらい、ここで給仕される食事に不満があるのかしら?」


「ステラ、待て。何故そうなる?私は人族の貴族の習慣などを多少は心得ているつもりだ。だが、その……」


 と、スチュワートさんはその先を言わずに、また私の方をチラッと見て口ごもる。やっぱ、私が原因な訳ね?


「ヒカリさん、スチュワートは、此処の食事よりヒカリさんの方が気になる様よ。折角の料理の味が判らないみたい」


 うぅ……。

 誰か、答え!答えを頂戴!

 そうだ!ナビだ!


<<ナビ、ナビ!凄いピンチ、この状況から私を助けて>>

<<【ヒカリだから】です。封建時代の貴族の風習において、あるじ

指示や許可も無く、食事の席に同席することはございません>>


<<ナビ!それ不味い!今更どうしろと?>>

<<日ごろの行いが、こういう時に出るのです。リチャード王子が『マナーは大事だ』っとおっしゃることを、身をもって体験して頂けたでしょうか>>


 ううう……。

 何も言えない。『聞かぬは一生の恥』どころか、『聞いていたら、一生の恥』だったんじゃなかろうか?

 黙って、俯いてしまったままの私を見かねて、モリスから助け舟がでる。


「スチュワート様、込み入った事情につきましては、後程丁寧に説明させて戴きます。ですが、今は些細な物ではございますが、長旅の疲れを癒すべく、食事をお楽しみた戴ければと思います。

 なお、メイドのヒカリに関しましては、私が4人分の食事を用意して、同席して食事をとるように指示を出しております。ご無礼であれば、謹んでお詫び申し上げます」


「そ、そうでしたか。それは知らなかったこととはいえ、大変失礼しました。食事を済ませて、エスト達に会いに行きましょう」


「スチュワート、貴方の疑問が晴れたところで、私の質問に答えてくれるかしら?給仕されている食事は不満なのかしら?ヒカリさんも気にされて俯いてしまったわ……」


 モリス、ナイスカバー!

 ステラ!私が俯いている本当の理由を知ってて、相手になすり付けたね?これもナイス!


「ヒカリさん、失礼しました。人族の貴族たちはメイドをはべらすが、食事を共にしないと聞いていたし、これまでその様な光景を目にしてきました。

 ですが、モリス殿からヒカリさんへ特別な指示が出ていたとは知らず、疑念を抱いてしまいました。気分を害させてしまい、申し訳ない」


「いえいえ、私こそ、モリス様に許可を戴いていたとは言え、お客様への許諾を得ずして、席に着き、食事をとらせて戴いた無礼をお詫び申し上げます」


「スチュワート、ヒカリさん。もう、その誤解が解けたなら良いわ。

 それより、スチュワート、食事の感想は未だなのかしら?」


「あ、ああ、そうだったな……」


 と、慌てて、思い出したように食事を始める。今までだって何口か食べていただろうに、味わってなかったんだろうね。

 それなら、ちゃんと味わった現代日本風にアレンジされた朝食の威力を思い知って貰おうかな~。


 スチュワートさんは、パンの柔らかさに驚く、スープの容器に驚く、ジュースの容器が透明であることをしげしげと見つめる。

 朝ご飯の簡素な食事だから、それ以上は味わうものも見る物も無いけどね。

 さぁ、感想は?


 スチュワートさんはゴクリと唾を飲みこんで、口の中を空にしてから言葉を発する。


「ステラ、これは何だ?」

「失礼な感想ね」


「ま、待て。何故そうなる?美味しい。不思議だ。何なんだ?」

「結局は、失礼な感想なままね」


「ステラ、お前は相変わらず意地悪な奴だな?」

「あら、2年ぐらいでは、性格なんか変わりませんわ」


「いや、もう、良い。

 モリス殿、こちらの朝食の料理人と材料を紹介して頂くわけには行かないだろうか?あと、それが終わったらこれらの容器の入手元についてもお伺いしたい」


「スチュワート様、

 こちらのパンの製法につきましては、エスティア王国で権利化され、秘匿されております。残念ながら、レシピに関わる内容をお教えすることは出来ません。申し訳ないです。


 また、容器類はそれぞれが権利化されおりますので、製法をお見せすることは出来ません。王族または皇族の許可が必要になります。

 ただ、お土産として、何点かお持ち帰り戴くことは領主の許可があれば可能です」


「そ、そうか……

 ステラは人族の王族と知り合う機会は無かったのか?あるいは、俺を王族に紹介して貰えるような人でも構わないが」


「スチュワート、食事の感想は?」

「だから、さっきから……。

 いや、違う。美味しい。これまで食べたことが無い素晴らしい味だ。この製法で作られたパンであれば、スープとの相性も良いし、焼いた肉を挟んでたべることもできそうだ。料理の幅が広がるだろう。是非とも、この技術をエルフ族の元へ持ち帰りたい。


 ステラ、これでいいか?」


「スチュワートの感想が聞けて良かったわ。 そこで、私からの質問なのだけど、エスト達が、ここにある食事と同じものをここの領主に提供されていたなら、彼女たちはどう考えるかしら?」


「もう一度、パンを食べる機会に恵まれないか、長期に滞在したいと思うかも知れないな……。

 まさか、エスト達はこのパンを食べたことがあるのか?」


「スチュワート、エスト達との面談にいきましょう?

 私も彼女らが働いている工房とか、あまりよく判って無いの。

 何か私が知らないことも、彼女らなら知っているかもしれないわ」


「分かった。モリス殿、皆さんの食事が済んだら、エスト達の所への案内を頼む」

「スチュワート様、承知しました」


 ふぅ~。

 よしよし、朝食の接待は何とか乗り切ったよ!


ーーーー


 朝ご飯を食べ終えた後、本当なら種族の族長を招いて、優雅なお茶会だとか、異種族交流なんてものをして、ゆったりとした時間を過ごせばいいんだよ。エルフ族は人族と違って、寿命も違うから時間の流れに対する感覚も違うんだろうから、そうやって他種族と交流しているんだろうしさ。


 けど、ステラの誘導も効いたのか、スチュワートさんの希望が「先ず、エスト達に会いに行く」と言うことになったよ。

 

 私が馬車を操って、チュワートさん、ステラ、モリスの合計4人で出発。

 目的地はエスト達の工房なんだけど、エストが管理するハーブ類の工房、イストが管理する皮革工房、ミストが管理する製紙工房を順番に周ることなった。私はあくまで、モリスの指示に従って、馬車を操縦するだけって感じで。朝食のときの特別なメイド事件を再発しないように、行動や発言には十分に注意していくよ!


 領地の中の様々な建物が並んでいる村みたいなのが形成されているところから、森の奥へと続く道に入る。工房同士の連携や荷物の配送があるから、ちゃんと馬車が1台通るには十分な幅の道が整備されているし、所々には馬車同士がすれ違える場所も設けてあるから、今のところ、交通の不便さはないはず。


 メイドさん達とモリスの情報網から、私たちが朝食を摂っている間にエスト達3人には紙面で作戦を伝達済み。彼女たちも今の自分たちの生活に満足してるだろうし、ステラだけがエルフ族のある南の大陸に帰還するようになることは望んでないはず。


 スチュワートさんの接待作戦はきっとうまく行くはず。


いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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