1-31.エルフ族接待(3)
【友達のしるし】【目に見えない】【種族の族長が与えられる】
それって、まさか、加護の印のこと?
ま、不味い!
皆には黙っていたけど、シオには水の妖精の加護が生まれながらに額に出ちゃってるんだよね……。
判別できるのは、人族だと私と上皇様ぐらいだから、気にしてなかったけれど、他種族の族長なら加護の印が既にあるのがばれる。
昨日は長時間の接触を避けたし、帽子やフードで隠して行動していた。今朝もステラや私は入念にアクセサリーを身に着けて隠していた訳じゃん?
今朝の子供達は二人とも寝起きで無防備だから、非常に不味い!
ばれる!
スチュワートさんは室内にシオンを呼び込んで、腰を下げてしゃがむと、シオンの額に掛かる明るい金色の髪をかきあげる。すると、スチュワートさんはぎょっとした様子で目を見開く。
「し、シオンくん。
僕より前に、誰か他の人から<加護の印>とか、<友達の印>を貰ったことはあるかな?」
スチュワートさんの声がちょっと乾いて、震え声になっている。
目もなんだか挨拶をしたときの笑顔が少し崩れて、何かを調べるような厳しい目つきになってる。
「お友達はいっぱいいます。けれど、<友達のしるし>とか<かごのいん>はわかりません」
「そうか。そしたら、僕からプレゼントをあげるね。エルフ族のお菓子だよ」
と、シオンに廊下で待つリサと二人分の小さな包みを渡すと、バイバイって、手を振って、この場からシオンをさりげなく出した。
シオンが出て行って、扉が閉まったことを確認すると、スチュワートさんはステラを厳しく問い詰めるような眼差しで見つめて、声を発した。
「ステラ、ちょっと聞きたいことがある。シオンくん達が生まれたときに、貴方はここに住んで居ましたね?」
「はい」
と、スチュワートさんが問い詰めるような視線を向けても、ステラはいつものような凛とした様子で、なんの緊張感も見せずに返事をする。
「シオンくんが誕生するときに、何か妖精の降臨とか不思議なことは起きなかったか?あるいは、シオンくんが生まれてから、妖精の長のような強大な力をもった妖精がこちらを訪問したことは無かったか?」
「スチュワート、私が知る範囲では無いわ。いったいどうしたのかしら?」
「ステラ、シオンくんには<妖精の加護>が付いている。額にティアドロップ型の印が見える。どこかで妖精の長とお知り合いになった可能性がある」
「そう……」
「ステラ、驚かないんだね?驚かない理由を教えて欲しい」
「生まれながらにして、加護を受けていた可能性もあるのかしら?」
「ステラはエルフ族の族長に就任後、僕に代行を任せて妖精の長を探す旅に出たね。
妖精の長級の力を持った人しか<加護の印>を授けるとはできない。僕には、シオンくんに<加護の印>が見える。たぶん、水の妖精ウンディーネ様のものと思われるよ」
「そう……」
「ステラが一族の宿命を背負って旅に出て、その目的の証拠となる<妖精の加護の印>を僕がこの場で見つけたのに、君が驚かなかった理由を聞かせて欲しい」
「【ヒカリさんだから】かしら」
「ステラが何を言っているか判らない。ヒカリさんとは、人族のヒカリ・ハミルトン卿のことか?シオンくんの話とは何ら関係がない」
「私の口から、これ以上のことは言えません」
と、ステラ。
この件も逃げられた。
まぁ、子供の世話は親の責任だよ……。私が何とかしないとね。
「領主補佐を務めるモリス様、ヒカリ様について詳しく伺っても宜しいでしょうか。先ほどまでの金貨の件とは別の重大案件でございます」
「私の一存ではお答え出来かねます」
と、モリスも口を噤つぐむ。
この場に妙な沈黙が支配し始めたので、「朝食の支度が遅いので確認に行ってまいります」と、席を立った。
ーーーー
調理場に移動してゴードンに挨拶をしつつ、調理場の椅子に座って、応接間にいるモリスとステラの二人に念話を通すことにした。
<<モリス、ステラ、シオンは額に長老の加護の印があるの。だから、昨日はばれないように、色々と理由を付けて逃げる様にして帰ってきたの。そして、リサにも、私と同じで項に飛竜族の加護の印があるの。
長老と飛竜族のヌマさんには、『とっておきのをあげる』とか、言われて、何のことか分からなかったんだけど、妖精の子とかじゃなくて、加護の印を子供たちが生まれる前に授けていたってことみたい。
このままスチュワートさんに隠し通せそうなのか、それとも人族には内緒にして貰って、本当のことを話すか方向性を決めたいので、二人の意見を聞きたいと思うの>>
<<ヒカリ様、私から先に状況を確認させて戴いても宜しいでしょうか>>
<<モリス、今回問い合わせを受けている件は全て私のせいだよ。なんでも聞いて>>
<<はい。
先ず、この場は朝食を提供して、一旦話題を変えていきますので、作戦の準備を行いましょう。そして、我々3人で解決できそうか、状況の分析を進めたいと考えます。
次に、帝国の件ですが、あれはオープンにして良い内容なのでしょうか?リチャード様は存じ上げない内容なのですよね?確か、マリア様はある程度把握されているとは思いますが、流石に金貨5000枚を毎年という規模は私も想定しておりませんでした。
リチャード様にご報告が必要となりますと、念話のことなど、どのようにして遠隔で連携をとったかなどの説明が必要になるため、出来ればリチャード様には伏せて頂ければと考えます。
当然ながら、ステラ様やヒカリ様のご意見を伺った上で最善策を採りたいと思います。
そして、最後に妖精の加護の印の件ですが、秘匿可能なことなのでしょうか?
確か、件の皇后陛下がオーナーを務める宝飾店で聖女騒ぎになったと聞いております。ステラ様、ニーニャ様、アリア様、レイ様、そしてヒカリ様と、5人の聖女が上皇様によって確認されたのだとか。
他にも妖精の加護の印を戴いている方がいらっしゃいます。ユッカちゃん、シオンくん、リサちゃん、そこに加えて、妖精の長自身が数名住んでおられますし、飛竜族の方達も滞在されています。
もう、妖精の長自体の存在も、加護の印も隠し切れないのではないでしょうか?
ただ、こちらもステラ様の意向を伺ってから、皆で決めさせて頂ければと思います。
以上になります>>
<<モリス、意見ありがとう。食事はもうすぐ運べるみたい。ちょっと、私はこの作戦会議が終わるまで、台所で待機しているね。
ステラはどう思う?>>
<<そうね……。
簡単に話が済むのは金貨5000枚の件かしら。私のハーブティーの偽物を無許可で銘を付けて提供していたのだから、私の名誉の為にも正当な賠償請求としてスチュワートは認めると思うわ。だから、モリスさんやヒカリさんが気にする必要は無いと思うの。
問題なのは、妖精の加護の印と妖精の長の件かしらね。
シオンくんの印だけが問題であれば、口裏を合わせれば何とでもなると思うわ。『ハミルトン卿夫妻は、婚約の儀を執り行う際に王都に居て、丁度そのタイミングで前例のない様なルナ様の降臨が起こった。その際に何らかの影響を受けたのでしょう』と、でも言い繕うことが出来そうね。
問題は、先ほどのモリスさんの指摘の通り、かなりの人数が加護の印を貰っているので、加護の印の存在を隠し切れないわ。私も寝室を共にしたら、寝てる時までエルフ族のお守りでもない人族のアクセサリーを身に着けているのはおかしいことですもの。
ヒカリさんはともかく、私を含めて他の加護の印を貰った人たちは、加護の印が見えないのだから、隠せているのかどうかも分からず、防備のしようも無いもの。
最大の問題が妖精の長の存在ね……。
私、ここを離れないといけなくなるかもしれませんわ……
スチュワートも言っていたでしょう?『種族の宿命を背負っての旅の目的』って。ここが目的地であったのであれば、私は旅を終えて帰還しないといけないでしょう?
正直、ヒカリさんとは全然別の観点で困ったことになったわ……>>
ステラがとんでもないことを言い出したよ。言うっていうか、念話を発してる訳だけども。
それにしても、どうしたもんだか……。
もう、スチュワートさんに加護の印を隠すのは絶望的だし、エスト達と長老に面談をすれば、スチュワートさんが妖精の長がいることに気が付くのは当然想定しておくべきだよね。
更には、船の修理期間をこの領地にある宿屋で滞在してもらうとすれば、シルフ、ラナちゃん、ルナ様達とも接触する可能性も増えるから、まぁ、隠し通すのは無理だよね。
じゃぁ、どうするか?
スチュワートさんには、全てをオープンにする代わり、ステラは自由に旅を続けられるってことにしておきたいなぁ~。
だって、まだユグドラシルにも行って無いし、アジャニアにある封印級の観光迷宮もクリアしてない。あと、ニーニャの宿命とかいう、4本の神器の斧も集め終わってないしね。
よし、早速ステラと交渉だ!
<<ステラ、意見ありがとう。
相談というか、提案なんだけども、スチュワートさんを妖精の長達に会わせる代わりに、ステラは今後も自由に旅を続けていい権利を貰えるとか無いのかな?
私は、私の我儘が通るなら、もう少しステラと一緒に暮らしたい>>
<<ヒカリさんが良ければ、どちらも成立するわよ。
妖精の長を紹介して、スチュワートが族長代行から正式な族長になってしまえば良いもの。
私は族長の座を降りて、自由に暮らすことが出来るわ>>
<<ステラ、ちょ、ちょっと、まって!
種族の族長って、そんな簡単に降りられるの?
それに、ステラは角苦労して、族長として認められたはずなのに、その地位を手放してしまって良いの?>>
<<ヒカリさん、族長に選ばれるのは、それなりに試練が必要ね。他者からの推薦があって、その成果がエルフ族内で認められる必要があるし、過去の族長やエルフ族のご意見番達からの賛同も得る必要があるわね。
けれども、引退するのは簡単なのよ。だって、次の族長になりたい候補者はいくらでもいる訳だし、エルフ族は長寿命な種族だから、中々死なないもの。折角手に入れた地位を簡単に手放す人は居ないわ。
私としては、ヒカリさんと一緒に暮らせるなら族長の地位を捨てるのは全然かまわないことよ?>>
<<そ、そういうもの?>>
<<ええ。だって、私の師匠だって、私がまだ見習いだったときに、『族長を退いて、旅に出る』とか言って、出奔してしまったもの。
何か、自分でやりたいことが見つかると、地位に縛られて自由に行動が出来ないデメリットが多いのかしらね>>
<<ステラがそれで良いなら、妖精の長をスチュワートさんに正式に紹介すれば良いの?>>
<<それは、ちょっと、不味いわね……>>
<<え?>>
<<第一発見者がスチュワートでないと、正式な族長として承認されるための成果として薄いわね。
私が既に発見していたものを譲り渡すのであれば、『代行が族長の成果を譲って貰っただけ』という判断をされる可能性が高いわ>>
<<いろいろ面倒だねぇ~。プライドってやつ?>>
<<さっきも言った通り、数々の試練をクリアする必要があるし、皆に認められる成果を自ら作り上げる必要があるわ。
だから、スチュワートに直接発見させる必要があるのよ>>
<<でも、そうだとしたら、ステラが既に加護の印を貰ってたりすることと矛盾が生じない?>>
<<ヒカリさんは、認めたくないかも知れないけれど、私がこの土地に来てから、まだ2年しか経過していないのよ?
その2年で、飛竜族と交流したり、ロメリアを制圧したり、帝都で宝飾店を潰したり、挙句の果てにアジャニアへの大航海まで行っているわ。
ここ半年では、とうとう師匠の【不思議なカバン】を再現して、更に軽く持ち運べる技術を確立したわ。
誰の成果はさておき、私の名前が至る所で残ってしまっているわよね?『妖精の長をゆっくり探している時間なんて無かったのよ……。』という、言い訳をしたとしても、何も知らないスチュワートからすれば自然に受け入れられる内容になるわ。
もし本当のことを言うとなると、私とヒカリさんの関係もオープンにする必要が出てくるし、私にヒカリさんの奴隷印が付いていることも話題に挙がってしまうわ。
これは、種族間の戦争に発展しうる問題なの。私が気にする、気にしないっていう問題では無いのよ……>>
<<うう……。確かに面倒だねぇ。何でこうなった?>>
<<【ヒカリだから】>>
<<【ヒカリだから】>>
<<ま、まって。なんで、ステラとモリスが念話で被る?>>
<<ヒカリさん、そんなところに突っ込むのは今更よ。
さ、スチュワートを接待する準備をしましょう?>>
ストーリーとしては、事前に妖精の長達と、エスト達に話は通しておく。
そして、エスト達が長老を紹介すると、「なんと水の妖精の長であるウンディーネ様ではないか!」っていう、スチュワートさんが妖精の長を見つける感動のシーンを作り上げる。
長老であるウンディーネから、シルフ、ラナちゃん、ルシャナ様、クロ先生、ルナ様を順番に紹介してもらう。
そこの段取りが終わったら、ステラも一緒に妖精の長達を紹介して貰って、加護の印をそのとき初めて貰ったフリをする。
私は人族だから、シオンにそんな加護の印が付いているのを知らなかったし、長老が森で遊んでいるときに見かけて、いたずらで授けたってことにしておくことになった。
ひょっとして、辻褄が合ってきたんじゃない?
<<ヒカリさん、【念話】【魔石生成】【重力遮断】は、どうしましょう?>>
<<え?>>
<<全て、ユッカちゃんとヒカリさんの固有技術ですわ>>
<<スチュワートさんは、その3つの魔術に興味があるかな?>>
<<存在を知らないはずよ。でも、皆が使えば何かおかしな事が起きていることに気が付くはずね。特に妖精の長達には、予め注意をしておかないと、挨拶の前後でスチュワートに念話で話しかけてしまうかもしれないわ>>
<<そっかー。モリスは念話と、魔石生成と重力遮断について何か意見有る?>>
<<ヒカリ様、
念話につきましては、飛竜族の方にお話しして、飛竜の血と飛竜の念話から始めるのは如何でしょうか。リサ様に飛竜族の印が付いているとのことですから、念話に類するものがあることは教えておいても良いと思います。リチャード様も飛竜の念話についてはご存じな訳ですし。
魔石生成につきましては、ステラ様、ユッカ様、フウマ殿、ヒカリ様しか行えていないと聞きます。ニーニャ様とアリアは生成する様子を見たことが在るかもしれませんが、生成自体は出来ない様子です。
私は正直良くわからないのですが、ひょっとしたら、単に魔術の術式を知るだけでは到達しえない条件があるのかもしれません。そうであれば、秘匿しておいて問題無いと思われます。
最後に、重力遮断につきましては、飛行術の応用としてモノを浮遊させることが出来ると聞いています。
スチュワート様がこちらの領地内を見て周ると、大量の石が運び込まれていることに気づくでしょう。例えば、リチャード様とヒカリ様が挙式や披露宴を執り行うために建てたお城もその1つです。
近くに大量な採石を行える岩場が無いことから、遠隔地からこの領地までの巨石の運搬方法について問われるでしょう。その質問に答えるためには空気搬送システムについて説明をするか、大量の巨石の運搬を飛竜族の方達に手伝って貰ったことにしなくてはなりません。
更には、今朝方運び込まれたエルフ族の方達の難破船につきましても、どうやってこちらまで運び込んだか問われるでしょう。
なので、色々と説明が面倒なことになるので、【飛行術の応用として浮遊術がある】と、濁しておくのは如何でしょうか?
以上、説明が長くなりましたが、私はそのように考えます>>
<<モリス、丁寧な考察ありがとう。ステラも注意点を洗い出してくれてありがとうね。だったら、モリスが言った方法で皆には隠す様に念話で周知しておこう>>
<<了解>>
<<了解>>
よし!
朝食の準備も整ったし、スチュワートさんの接待開始だね!
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第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。
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