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1-29.エルフ族接待(1)

 今日は夜明け前の暗いうちからステラと二人でメルマの街そばの海岸にあるとエルフ族の難破船の処理に来た。


 私もステラも、<飛空術><光学迷彩>も使えるから、誰にも見られずに関所からメルマの街まで10kmの距離をひとっとび。

 道中の灯りは光の妖精の長からもらった、私に専属している<光の妖精の子>に道中の照明を手伝ってもらったので問題なかったよ。ステラにも何人か専属の子が居るから、そっちも問題無いね。


 先ずは、海岸に放置されている難破船を見に行く。

 海岸まで引き上げた場所に到着したら、<索敵>で周囲に人が居ないことを確認する。次に昨日、座礁している岩場から海岸まで船を運んだときに使ったのと同じ方法の<重力遮断>を施して、船を軽く持ち上げられる状態にした。

 ステラと二人で持ち上げると、船ごと<光学迷彩>と<飛空術>を利用して、領地までもどって、領主の館の近くの森に隠しておく。これで一往復目が完了だね。


 もう一度、<光学迷彩>を掛けたまま、メルマの街まで<飛空術>で飛んでくる。

 今度は門が見える手前の位置で<飛空術>も<光学迷彩>も解除して、門番さんの所まで歩いて行く。光の妖精の子は目立つから、市販されている照明用の魔道具を使ったよ。

 日が昇ってほのかかな明りが差し込み始めるタイミングで、門番さんが門を開けてくれた。私は冒険者登録証を見せて、ステラはストレイア帝国内ならどこでも通用する特別な身分証明書を見せて通る。


 この特別な証明書は、以前にトレモロ・メディチ卿が私たちの為に発行してくれたんだよね。ありがたや~ありがたや~。私も同じの持ってるけど、関所のメイドがそんなのを持っているのはおかしいから、わざと見せないでおく。

 とにかく、私の存在は隠ぺいしないといけないからね。


 ステラが門番さんに話しかけて、見慣れないエルフ族の集団が通過しなかったかを聞く。

 何せ、特別な証明書を所持するエルフ族が同族の情報を求めているわけだから、その問い合わせが面倒でも無下には断れない。交代して仮眠中だった門番さんから情報を収集すると、8人ぐらい集団が困っていたので、宿を案内したとのこと。

 宿屋の名前と場所を確認できたので、感謝の気持ちを込めて、門番さんにチップを渡しつつ、お礼を言って別れた。


「ヒカリさん、宿まで行ってスチュワート達が起きるのを待てば良いかしら」

「うん、いいと思う。私がメルマの宿屋でエルフ族の人達を待つのは、エスト、イスト、ミストの3人を助けた時以来だね」


「あのときのことは、ヒカリさんにとても感謝してますわ。

 今回も勿論です。ただ、今回は訪問の理由が私にも判らないわ。きっと、ヒカリさんが何かをしたのでしょうけど……」


「ステラ、それは違うって。私がエルフ族の族長代行と話をする機会は無いよね?書状とかも送ってないし。

 そもそも小型船で乗り付けて難破しちゃうとか相当無茶だよね。トレモロさんの交易船に同乗させてもらえばいいのに……」


「ヒカリさんには、前に簡単にお話ししたかと思いますが、南の大陸ではユグドラシルの樹を求めて、いろいろな種族が争っています。人族へ頼って、さらに交易船に同乗させて貰うのは正式なルートでは難しいでしょう。

 私のときもエスト達のときも、身元を隠して種族を離脱する放浪者扱いでしたし、密航者のような特別料金を支払う必要がありましたわ」


「そっか~。だとすると、今回は族長代行としての正式な何かを持って、こっちの大陸まで旅しにきてるってことだよね。


 あ、でもさ?

 難破してるってことからすると、行先はメルマとは限らず、たまたまメルマで遭遇したって可能性もあるよね。ストレイア帝国とか、他の国に行きたかったかもしれないし……。


 まぁ、ステラの知り合いだから、誰への用事でも預かってる船は修理してから、好きな港に戻してあげるつもりだけどさ?」


「確かに、他の人族の国へ向かっていたその可能性もありますが、ストレイア帝国へ向かうのにわざわざ座礁する危険のあるルートを選ぶとは思えないですわ。南の大陸からでしたら、北西方面へ直進するルートをとれば、良かったのですから……」


「そっか~。その辺の事情は直接聞いてみないと判らないね。ステラよろしくね」

「わかりましたわ。ヒカリさんが何か確認したいことがあったら、念話で連絡頂ければ、会話を誘導しますわ」


ーーーー


 門番さんから聞いた情報を元に、スチュワートさん達が宿泊している宿へ向かう。


 ただし、その前に私もステラも全ての加護の印が隠れるようにアミュレットやイヤリング、手甲などの装飾品を完璧にセットした状態に着けておく。

 もし、スチュワートさんがエルフ族の加護を施せる人だとしたら、私たちの体にある複数の加護の印が見えるだろうし、そしたら、妖精の長達が複数人いるってこともばれて、いろいろと面倒なことになるもん。


 入念な準備を終えてから、門番さんから情報を得た宿の受付で、二人分の朝ご飯を提供してもらうようにお願いする。


 私たち二人は、朝食のエリア全体が見渡せる隅っこに席をとって、静かに、ゆっくりと朝食を食べながらスチュワートさんが来るのを待ち構える。

 中身は相変わらず高くて、美味しくない。帰ってからゴードンにご飯を作って貰うまでの辛抱だ。


 割と朝の早いタイミングで、エルフ族の人が一人で宿屋の受け付けで精算を始める。この人がスチュワートさんなのかな?


 それにしても、移動するには船を修理する必要がある訳で、その期間はここに滞在することになるのに、宿を引き払ってしまって、大丈夫なの?


 受付で精算をすませて、一人で朝食が出てくるの待つスチュワートさん。そこへスチュワートさんの視界に入るようにステラが手を振って、気を惹かせる。

 スチュワートさんは、何かが視界に入ったのを感じたのか、チラッと私たちの席の方を見るけど、何の興味を示さずに、テーブルの上に両肘をついて、あごの下で手を組んで何やら考え事をしてしまう。考え事の重要性のためか、手を振った人がステラだったことを認識できてないっぽいね。


 ステラは無視されてもイラっとした様子も見せずに、ゆっくりと席をたつと、スチュワートさんが座るテーブルの相席の位置に堂々と座って、スチュワートさんが俯き加減で考えている状態を妨害するかのように覗き込んで話しかける。

 

「旅の方、何かお困りごとですか?」

「ああ、放っておいてくれるとありがたいな」


 目を伏せたまま、考え事を続けるスチュワートさんはステラの方を見ようともせずに、ムスッと返事をする。


「エルフ族の少ない土地ですから、私の知り合いの伝手つてで貴方を助けるこができるかもしれませんわ。例えば、難破船の修理とか」


 ステラの2度目の声掛けに、スチュワートさんはガバっと顔を上げて、正面にいる人物を凝視する。

 ステラの顔に目の焦点が合ったスチュワートさんは、ステラの手を勝手に握りしめて肩を落として泣き始める。


 あーあーあー。

 ステラが泣かした~。


 スチュワートさんは身長も高くて、緑色の長いストレートな髪、薄い水色の目はステラと良く外見が似てるんだよね。顔つきは切れ長の目に髪の毛と同じ色の眉毛とまつげ。面長ですっきりとした顎。日本人でも役者さんでもない限り、こんなすっきりとした顔立ちの人は少ないよね。


 放っておいてもしょうがないから、私もステラの隣の席に座って、はす向かいに座っているスチュワートさんの様子を伺う。

 私の気配を察知したスチュワートさんは、目の周りを赤くして涙を流しながら、ステラの手を離して、私の方を向くと恥ずかしそうに自分のハンカチを取り出して涙を拭き始める。

 流石は族長クラスの貴族。ハンカチが綺麗だ。絹なのか?ちょっと羨ましい。


 スチュワートさんはステラには何も言わずに、私に話しかけてきた。


 「あ、ああ、ええと……。たしか、シオンくんのお母様でいらっしゃいますね。昨日はきちんとした挨拶もできずにすみません。お名前を伺っても宜しいでしょうか」


「ヒカリと申します。

 スチュワート様、言い訳がましく申し訳ありませんが、昨日は娘が居たもので、最後まで支援させて戴くことができず、大変失礼しました。

 帰宅後、ステラ様にご報告しましたところ、お知り合いの可能性が高いとのことでしたので、今朝駆けつけさせていただきました」


「いやいや。

 人族や海人族の方達のお陰で、大事な船と荷を沈没させずに済みました。大変感謝しています。

 ところで、ヒカリさんはステラと知り合いなのですか?」

「ステラ様には日ごろから、種々ご支援を戴いております」


「そうでしたか。同郷のエルフ族の者がお役に立てているようで幸いです。

 ステラ、私はヒカリ・ハミルトン卿に挨拶に行きたいのだが、お会いする伝手つては知らないだろうか。

 それと、できれば、船で同行してきた8人分の宿も確保したいのだが……」


「ヒカリさん、大丈夫かしら?」

「領主補佐のモリス様にお話をすれば可能と思います」


「スチュワート、ヒカリさんが大丈夫と言うなら大丈夫よ。


 ところで、ハミルトン卿の屋敷までの移動はヒカリさんの馬車で移動するのが良いと思うのだけど、乗合馬車の方が都合が良いかしら?」


「可能であれば、ステラの手配に任せたい。それと、我々が乗ってきた船なのだが……」


「スチュワートなら私に任せてくれると思って、既に手配してあるわ。宿屋の精算が終わったら、ハミルトン卿に直ぐに会いに行きましょう。

 朝食もそこで提供してもらうし、その他のことも何も気にしなくて良いわ」


「わ、わかった。だが、船の荷には貴重な物もある。そこは覚えていて欲しい」

「大丈夫よ」


 ステラが、スチュワートさんへの挨拶と今後の方向性決めてくれた。

 私は領地の館まで馬車をるだけだから身バレする可能性は無いね。


 領主の館に戻る道中に、モリスに準備して貰うために、念話を通しておいたよ。

 朝食、8人分の宿泊手配、船の修理の手配。最初は情報漏洩が怖いのと、スチュワートさんが訪問した目的が判らないから、スチュワートさん、ステラさん、領主代行のモリス、あと、メイドの私が会席することを伝えておいた。


ーーーー


「ハミルトン卿の領主補佐をしおります、モリスと申します。お初にお目にかかります」

「スチュワート・アルシウスと申します。ステラがこちらの領地でお世話になっておると伺いまして、こちらを訪問させて頂きました。

 こちらにヒカリ・ハミルトン卿がいらっしゃるということで宜しいでしょうか」


「はい。領主には、どういった御用件でございますか?」

「幾つかご相談させていただきたい件がございます。政治的な内容も含みますので、出来ればご本人と直接、人払いをした上でお話をさせて頂きたいのですが……」


 うん?政治的な話?

 それに、領主のヒカリ・ハミルトンはお飾りで、領主代行のリチャードか、実質的な指揮を執ってる補佐役のモリスに話を通すことが重要だって、エスティア王国のみならず、ストレイア帝国まで知れ渡ってるはずなのに……。


 でも、流石に海を越えた別の大陸の別の種族までは情報統制も効いてないってことかなぁ~。


「左様ですか。

 ハミルトン卿は多忙な側面もございますので直ぐにお会いできるか判りかねます。まして政治的な話となりますと、一国の伯爵が他種族と直接対応を行っても良いか判断しかねます。

 内容にも依りますが、エスティア王国の王族や大臣が同席の上、ご対応させて頂ければと存じます」


「モリス様、実は要件が2つございます。


 1つはヒカリ・ハミルトン卿の領地に奴隷として捕らえられているエルフ族の身柄を引き受けたい件。

 もう一つはエスティア王国ではなく、ストレイア帝国が介入している、南の大陸に位置するサンマール王国からエルフ族への貢物の件になります。

 こちら2件に関して、ご面談を申し入れて頂けますでしょうか」


 うわ、よっぽどのことなんだね。

 モリスのやんわりとした「急用じゃないなら、正規ルートを通して、時間を掛けて話をしようね」っていう断りの文句を、ぶった切ってきたもん。


 って、この緊急事態にモリスから念話が入った。


<<ヒカリ様、何をしましたか?>>

<<この領地にいるエルフ族の奴隷はステラだけのはずだよ。サンマール王国のことは知らない!朝ご飯でも食べながら、もっと情報を引き出して様子を見ようよ>>



 と、モリスからの念話にも、時間稼ぐしかないことを告げる。

 私だって良くわからないよ。誰かがエルフ族の奴隷でも購入して使役してるのかな。それにサンマール王国って何?初めて聞くんだけども。


ーーーー

いつもお読みいただきありがとうございます。

第一章終了まで、連日の22時投稿を予定しています。

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