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1-27.海岸の工房(2)

「シオン、どうしよう?」


 お母さんは、僕に相談しつつ、僕を肩車から降ろして、さらに背中のリュックも降ろす。何かするつもりなのかな?


「助ける人が残ってるなら、助けた方が良いよ。昆布工場の見学前には難破船は見当たらなかったし」


「そ、そっか。シオンは良く見てるね。うん、じゃ、助けに行こ……」

「おかあさん、どうしたの?泳げないの?」


「あ、ああ……。うん……。

 シオンは、さっきの昆布工場まで歩いて戻って助けを呼んで来られるかな?お母さんは、あっちの加工場まで行って、助けを呼ぼうと思うんだけど」

「いいよ。僕出来るよ」


 そっか。

 スマホとか無いなら、電話で助けを呼ぶこともできないよね。さっきの市場では歩きスマホどころか、電気製品がほとんど見当たらなかったし……。たぶん、この地域には電気が通って無いのかもしれない。


 それにしても、お母さん一人が泳げても難破船の救出は無理だよね。助っ人を呼ぶ判断は賢明だと思う。 僕とお母さんで手分けして助けを呼ぶのも理に適ってる。

 緊急時でアタフタするはずなのに、普段のお母さんらしくない判断でちょっと感心しちゃったよ。


「シオン、足場が悪いから気を付けてね。ゆっくりでいいからね?」

「うん」


 僕はリサおねえちゃんみたいに運動神経が良くないし、素早く走ることは出来ない。だけど、ちゃんと一人で歩けるし、転んでも泣かないで立ち上がることは出来るよ。ただ、どうやって昆布工場の人に僕の言うことを聞いてもらえるか、そっちの方が心配だけどね。


 ちょっと歩いてから、お母さんのことが心配になって振り返えってみると、岩と石の間をよろよろと進んでいくのが見える。潮だまりに足を滑らせて、びしゃびしゃになってる。でも、お母さんらしくないぐらい、一生懸命に助けを求めるために急いでるのが判る。


 僕もお母さんに負けてられない。


 一生懸命歩く。

 滑る。

 岩に足を取られる。

 転んでお母さんみたいにびしゃびしゃになる。


 泣きたい。

 泣いても仕方ないから泣かないけど、痛みと悔しさで涙がでてくる。

 顔を拭う手がしょっぱい。きっと海水のせいだね。


 もう一度、お母さんの方を振り返ると、お母さんの姿は見えなかった。もう、向こうの工場までたどり着けたのか、岩場に嵌って転んでるんだと思う。僕も歯を食いしばって、あとちょっと頑張ろう。


ーーーー


 体感で15分ぐらい掛かって昆布工場に辿りついた。

 びしょびしょで、岩場で擦りむいた手足から血が流れてる。自分で治療できるけど、それよりも先にすることがある。先ずは、船のことを昆布工場の人に知らせなくちゃ。


「あ、あの、船が……」

「おや、坊ちゃん。ヒカリ様……、じゃなくて、お母さんはどうしたんだい?こんなに傷だらけになって。ちょっと傷薬を持ってくるからそこで待ってな」


 と、昆布工場のおじさんは、僕の話を聞かずに、物凄い速さで家の奥まで入って行ってしまう。ちょっとは人の話を聞いてよ!

 でも、おじさんは素早く戻ってきて、僕になんだか怪しい軟膏なんこうを塗ろうとする。


「おじさん、僕より、船を助けてあげて。船が岩場に挟まってる」

「な、なんだって!? 

 坊ちゃんは助けを呼びに来てくれたのか。塩水は傷に染みるから、そこの桶の水で傷を洗ってから、この軟膏を塗ると良い。ちょっとおじさんは様子を見に行ってくる」


 そう言い残して、おじさんは船の様子を見に飛び出して行っちゃった。

 この工場には他に人が居ないみたい。僕が追いかけても役に立たないし、留守番も必要だと思って、自分の擦り傷の治療を始めた。折角だから、おじさんが教えてくれた通りに、桶を探して真水まみずで傷を洗い流してから、軟膏を塗る。もし、僕の治療の魔法が必要になったら、それは船で助かった人のために使えばいいもんね。


 傷の治療が終わって、濡れた服を広げて日向で干しつつ、体を乾かす。体は乾いたけど、服がなかなか乾かないので、お母さんと一緒には見学できなかった昆布を干して乾燥させる様子を順番に確認する。


 ちゃんと、昆布表面を洗ったり、傷ついてない部分だけを丁寧に干してる様子が伺える。職人さんが凄いんだろうね。

 一通りじっくりと工場の見学が終わってもおじさん達は帰ってくる様子が無い。そりゃ、岩場に難破してる船なんか、そう簡単には動かせないし、人が近づくことも難しいもんね。人だけでも救出出来ればいいんだけどさ。


 することがなくなって、一人ぼっちで留守番してるのが不安なのと、船やお母さんが心配になって、生乾きのワンピースに袖を通して、全く乾いていない腰ひもで腰を絞めてから、工場の外に出る。すると、このタイミングで昆布工場のおじさんが一人で帰ってきた。作戦会議にしてはおかしいよね?


「坊ちゃん、傷薬は一人で塗れたかい?それと留守番ありがとうな」

「僕はシオン。傷薬ありがとう。それで、船は……?」


「シオン君か。すまんすまん。お母さんの仲間のお陰で、もう大丈夫だよ。一緒に見に行くかい?」

「え?は、はい……」


 お母さんの仲間?

 向こうの工場に知り合いがいっぱい人がいたのかな?

 大体、大丈夫って何さ。

 岩場の船をどうにかしないと、いけないだろうしさ……。


ーーーー


 昆布工場のおじさんに肩車をしてもらって、岩場を進む。さっきまで見えていた岩場に挟まっている船が見当たらない。


 なんか、海岸の開けた石だらけで岩場ではないエリアに移動されている。そして、その船の周りに10人ぐらいの男の人たち。お母さんはそこから少し離れたところで、一人の男の人と話をしている。

 おじさんは、素早くしっかりとした足取りで僕を肩車したまま、ほんの数分でお母さんたちがいるところまでたどり着くと、僕を降ろした。


「ヒカリさん、それでは私はこれにて失礼します。シオン君、またな」


 と、挨拶もそぞろに昆布工場の方に帰って行ってしまった。僕は背中に向けて「ありがと~」と、一生懸命叫ぶと、おじさんは背中を向けたまま手を振って返してくれた。とても忙しい中、僕とお母さんのせいで迷惑を掛けてしまったのかな……。


「ヒカリさん、それでは我々もこれで失礼します」

「エイサン達もありがとうね~」


 と、さっきまでお母さんと話をしていた人と、船の周りに居た人たちが海の方へ歩いて帰っていく。


 え?船も無いのに、岩場の海へ入って行っちゃうよ。ふんどし姿で、ほとんど着衣が無いから動きやすそうだけど、そういう問題じゃないよ。沖合に本船があって、そこから乗り継ぎ用のボートで救出しに来てくれたのかな?でも、そんなボートがある様子も無いし……


「シオン、みんなが助けてくれたよ。シオンが最初に発見してくれたおかげだよ。心配しなくても大丈夫だよ」

「で、でも……」


「ああ、船の人は無事見たい。助けるのを手伝ってくれた人たちは海人うみびと族の人達だから、気にしないで大丈夫だよ」


 お母さんは何を言ってるの?

 お母さんが何で海人族と知り合いなの?

 

 それだけじゃないよ。

 この船はどうやって運んだの?

 船に乗ってた人たちはどうなったの?

 全然判んないよ!


「シオンが助けた人たちに挨拶する?エルフ族の人たちみたいだよ?」

「え?え?え?」


「あ。怖い?やめておく?」

「だ、大丈夫」

「じゃ、お母さんと一緒に挨拶しにいこっか」


 と、言うとお母さんはリュックを背負い直して、身に着けていたアクセサリーの位置を確認し直す。それが終わると僕の帽子をどこからか拾ってきて、僕の頭にぎゅっと被せる。そんなに深く被せると周りが良く見えないんだけどね?


ーーーー


 僕を左手に繋いで船の傍まで行くと、見えていた側と反対側に8人の人が居た。お母さんが僕に教えてくれたようにエルフ族の人だ。


 ステラ様みたいに皆の耳が尖っていて、髪がステラ様と同じ薄い緑色。ちょっと青っぽい人もいるけど、それは人それぞれの個性なんだろうね。皆の服はローブを羽織っていたり、僕らみたいなチュニックだったり、ヒダヒダがふんだんに使われたワンピースみたいな衣装だったりと様々。船旅なせいか男性が6人で女性が2人見えるよ。


「こんにちは~。皆様無事でしたでしょうか。他にご支援させて戴くことがあれば相談に乗りますけど……」

「皆様のご支援に大変感謝しております。私、スチュワート・アルシウスと申しますが、助けて下さった方のお名前を伺っても宜しいでしょうか」


 と、お母さんの挨拶にお母さんよりちょっと年上に見えるスチュワートさんが答える。あれ?ステラ様と同じ苗字だよね?エルフ族には良くある名前なのかな……。


「あ、え、ええと、シオンです!」

「シオンさんですね。大変助かりました。命の恩人に何等かお礼をさせて頂きたいのですが……。

 と、言いましても船が難破してしまっては、大したこともできない状況ではありますが……」


 お母さん、それ、僕の名前だから!

 僕は船を見つけただけだし!助けてくれたのはお母さんの知り合いの海人族の人達なんでしょ?

 普通の会話をしてよ!


「シオン、何か手伝ってもらいたいことある?お礼がしたいんだって」

「スチュワート様は、お母さんの名前をきいてるんだよ。

 それに僕は何もしてないからお礼なんて要らないし。エルフ族の人たちが無事なら、早く帰ろうよ。リサお姉ちゃんが待ってるよ」


「そ、そうだよ!シオン、早く帰らなきゃ!

 スチュワート様、中途半端で申し訳ありませんが、娘を待たせているのでここで失礼させて頂きます。

 この後はあそこに人族の街が見えるかと思います。あそこには港もあるので、そこでこの後の助けを求めて頂ければと思うのですが、宜しいでしょうか」


 お母さん、何か変だよ?

 急にたくさん喋って、ちゃんとスチュワート様に敬語使って、いつものお母さんらしくないよ。貴族に仕えるメイドっぽくて、ちょっとはまともに見えるけどさ。


 お母さんはスチュワートさんの返事も待たずにサヨナラの合図で手を振って、僕を肩車をすると、何かから逃げ出すようかのような速足で岩場の海岸をメルマの街に向かって走り出した。


 そんなに急ぐと、また転ぶと思うんだけど、大丈夫かな……。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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夏休みが始まる今日この頃。

今日から連日22時の投稿で第一章を乗り切ります!

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