1-24.ドワーフの工房(1)
武器と防具の絵が描かれた看板のあるお店にやってくる。きっと武具屋なんだと思う。
お店に来るとお母さんは僕らを肩から降ろして二人の手を繋ぐと、店主に声も掛けずに、ずかずかとお店の中に入っていく。
僕ら二人は物珍しさとお母さんの大胆さに驚きながら、おどおどとお母さんが進んでいく通路を付いていく。こっちの手前にも武器とか防具があるんだけど、お母さんはそんなのに目もくれない。
一方のリサ姉さんはチラチラ気になる様なんだけど、お母さんがニコニコしながらリサお姉ちゃんの手を引っ張るから、仕方なく付いていく感じだ。
店の奥のカウンターを更に抜けて、工房があるところまでずかずかと進んでいく。お母さん、勝手すぎない?
その先にいたのは、身長がちょっと低めでがっしりとした体つきのドワーフ族の人だった。何やら金槌を振り上げて一心不乱に作業をしていたみたいで、お母さんは指を口に、当てて『静かに』って、小声で僕らに言う。僕らも頷いて、きちんと口を結んで待つことにした。
三人でしばらく様子を見ていると、僕らが来ていたことにドワーフさんが気付いて、声を掛けてきた。
「うむうむ。鍛冶屋の作業中は声を掛けないって礼儀を知ってるのは嬉しいね。人族にしては珍しいな。
それで、今日はどんな用事だい?」
って、言いながら僕ら3人を一通り見渡すと、ハッとする素振りを見せた。
「ひょ、ひょっとしてヒカリ様!こ、これは大変失礼しました!」
って、大声で謝ると、膝を着いて頭を下げ始める。
それを見たお母さんはそのドワーフさんに直ぐに近寄って、抱き上げる素振りを見せると、何かを耳元で囁いている。
「あ~。オホン。大変失礼しました。知人の貴族のによく似た方がいらっしゃいましてね。勘違いしました。お客様達は、本日はどういったご用件で?」
な、なんか、この鍛冶屋さん、素振りが二転三転してる。
ぶっきらぼうな態度⇒貴族と勘違い⇒丁寧な対応。
なんだろ?
ま、いっか。
「あの、この子に剣を作って貰いたいの。
材料はミスリルを用意してあります。
加工料は金貨でお願いしたいの」
と、お母さんは背中のリュックから白銀に光るちょっと溶けかかった感じの塊を何個も何個も取り出して、床に並べた。 それとさっき手に入れた革袋を3つ取り出した。
おかあさん、そのミスリルの塊は、お父さんの握りこぶしぐらいの大きさで、30個ぐらいあるけど、リュックの中はどうなってるの?物を取り出す前と取り出したあとで、リュックの大きさが変わってないし。
「お、お客さん。材料持ち込みで、その手数料は貰い過ぎだよ」
「でも、小さい子用の特別サイズだし、今日帰るまでに仕上げて欲しいの。いいかしら?」
「ヒカ……。ひ、日が、日が暮れるまでの時間を貰えるならそうしよう。
それと、そのお嬢ちゃんのサイズの検だと、このミスリル鉱石の量は多すぎる。更には、その塊は純度も高めて精錬までしてあるじゃないですか」
「そう。今日作ってくれるのね。れありがとう。
それと、鉱石に余りが出るなら……。
リサちゃん、剣は片手剣?それとも両手剣がいい?」
「お父さんと同じ両手剣」
「それなら盾とか要らないね。他に何か欲しい物ある?材料が少し余るって」
「滑って転ばない靴」
「ドワーフさん、ミスリルで靴って作れるの?」
「作れなくはない。
だが、お嬢さんはこれから成長して直ぐに小さくなっちまうから、何回もサイズ直しが必要だ。
それに金属製の靴は、防具としての優秀さはあるが、お嬢ちゃんの言う『滑らない靴』という条件には向かない。
地面と靴の密着性が下がって滑りやすくなるし、金属の中では足が汗をかくと、あっという間にぬるぬるのツルツルになる。靴の中でいくら踏ん張っても力が地面に伝わらないなら意味がない。
それでも作るかい?」
「なら、いい」
と、つまらなそうにリサお姉ちゃんが答える。
「ドワーフさん、残りの材料を差し上げる代わりに、皮や木でできた滑りにくい靴は無いかしら?この子でも履けるようなサイズがあるといいんだけど」
「それなら、靴底を丈夫に作ったサンダルを改造した靴がいいだろう。
ミスリルを細く伸ばして繊維状にして、それを張り巡らせておけば強度も上がるし、魔力を通すことで色々な作用を靴に持たせることもできる。
ただし、剣にしろ、靴にしろお嬢ちゃんの体に合わせて作り上げるから、ここで待っててもらって、サイズ合わせをしながら一緒に作ることになるが構わないかい?」
「リサちゃん、ここで一人で待てる?」
「……。」
「……リサちゃん?」
「お母さんたちと一緒に待つ」
「お母さん、悪いが、剣と靴の両方だと、大急ぎでやっても夕方までに終わるか判らないぞ?
お嬢ちゃんの面倒は見るから、坊ちゃんと市場でもみてきたらどうだい?」
と、ドワーフさんから声がかかる。
すると、リサお姉ちゃんが自分から呟く
「ここで待つ。お母さんはシオンと買い物に行って」と。
「そ、そう……。
ドワーフさん、そしたらこの子を預けるのでお願いしても良いですか?
一人で勝手に出歩かない程度の躾は出来ていますので……」
「判った。お母さんたちの用事が終わったら戻ってきてくれればいい。あとのことは任せておいてくれ」
リサお姉ちゃんは凄い!こんなところでお母さんから離れて一人で待つなんか僕にはできないよ。
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