表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/302

1-22.勝負!

 普段、朝ご飯を食べ後は、お父さんは領主の仕事があるらしくて、どこかへ出かけてしまう。お母さんはメイドの仕事があるみたいで、僕らと一緒に居てくれることは殆んど無い。


 なので、僕たち姉弟は朝ご飯を食べ終わったら、家の周りのいろいろなところを散歩するけれど、散歩にはお姉ちゃんと二人だけでは行けないので、必ず大人の人が付いてくる。付いてくるというか、僕らがどこへ行きたいかを聞いて、連れて行ってもらう感じかもしれない。


 ユッカお姉ちゃんも良く一緒に遊んでくれる。ラナちゃんとシルフも一緒に遊んでくれる。妖精が住む森とか、領主様が治める農園とか、この街にあるいろいろな工房を見に行ったり、こっそり貴族の別荘街に忍び込んだり、いろいろだ。

 

 散歩にどこへ誰と出かけるかは、その時の気分次第なのだから、お母さんがお姉ちゃんを見つけられるとは思えない。それなのに、お母さんはメイドの仕事をほっぽらかして、僕を抱きかかえたまま、おねえちゃんを探し始める。

 これって、良いの?


 お母さんは誰に聞くわけでもないのに、最短コースでユッカお姉ちゃんとリサお姉ちゃんが一緒に剣術の稽古をしている場所を見つけ出した。どうして分かったのか不思議だけど、きっと勘が良かったのだと思う。


「リサちゃん~。一緒に買い物に出かけない?」

「嫌」


 と、リサお姉ちゃんは素っ気無く答える。

 リサお姉ちゃんはお母さんのことが嫌いなのかな?


「なんで?」

「お母さんは弱い」


「お母さんも、今度強くなる稽古を一緒にするよ。

 だから、一緒に買い物に行こう?

 ね?お願い!」


「私と勝負して、お母さんが勝てたら良いよ」


「え?」

「木刀で試合をして、一本取った方の勝ち」


「ちょ、ちょっと待ってね」


 と、お母さんは勝負とかよくわからないようで、ユッカお姉ちゃんと相談を始める。僕には理解できないけど、魔法とか、身体強化とか、防具とかそんな言葉が聞こえてくる。


 木刀で試合をするだけのはずなのに、何を確認してるんだろう?

 リサお姉ちゃんはユッカお姉ちゃんに習って身体強化の魔法を習得してるらしいよ。だから、お父さんの稽古を見た後で、ユッカお姉ちゃんと復習をしてるぐらい凄いんだから。

 いくらユッカお姉ちゃんにアドバイスを貰ったからって、普通のメイドに過ぎないお母さんじゃ、かないっこないさ。


 お母さんとユッカおねえちゃんのお話が終わると、 ユッカおねえちゃんが、審判をしてくれることになったみたい。


 リサお姉ちゃんとお母さんが互いに5mぐらいの距離をとって、対峙たいじする。


 リサお姉ちゃんは開始の合図がある前から正面に両手で木刀を構えて、お母さんを睨み付けて、やる気満々。木刀が子供用の短めのものだけど、構えが綺麗で隙がないように見えるよ。


 一方、お母さんはメイド服を着つつ、右手に木刀っていう不釣り合いな恰好。木刀は片手で端っこを持って、だらんとぶら下げてるだけ。構えとか何にも知らないみたいで、どうしたら良いか判らない様子。


「はじめ!」


 と、ユッカお姉ちゃんの合図で試合が始まる。


 リサお姉ちゃんが正面に木刀を構えたまま、ジリジリと間合いを詰めるために前進する。隙を見せずに徐々に間合いが詰まってくる。


 一方、お母さんは、お姉ちゃんが間合いを詰めているにも関わらず、はじめの合図のときから何にも動かず、木刀を右手にぶら下げてぼ~~っと、立ったままだよ。


 リサお姉ちゃんが大人の歩幅で残り3歩ぐらいの所までくると、木刀を両手で右肩に背負う形に構えを変えて、お母さんに突っ込む。


 リサお姉ちゃんは、お父さんほどじゃないけど、僕らを世話してくれている大人よりは断然速い。だから、残りの距離なら、お母さんとの間合いを一瞬にして詰められるはず。一本勝ちは見えてきたね。


 だけど、あとちょっとのところで、リサお姉ちゃんは地面にあった石につまづいてしまったみたいで、ものすごい勢いで前のめりに転がって、お母さんの目の前でうつぶせに、ズザザ~って感じで倒れ込む。


 手や顔が擦り傷と泥まみれになって、メソメソと泣き出した。

 

 それを見ていたお母さんは、ぶら下げていた木刀で「えいっ!」とか言いながら、軽くおねえちゃんの頭を木刀でコツンと叩く。


 お母さんの木刀の攻撃は痛そうに見えなかったけれど、おねえちゃんは、大声で泣き始めた。


 おかあさんは、「あらあら」とか、「痛いところある」とか、言いながらお姉ちゃんを抱き起して、顔や手に付いた泥を払は始める。

 そして、「痛いの痛いの、とんでけ~」とか、何かよく聞きなれた呪文を唱える。

 おかあさん、そんな呪文で痛くなくなるなら、この世に怪我人は居ないよ。


 僕はリサお姉ちゃんの所へ駆け寄って、といってもヨチヨチと一生懸命歩いてだけど、お姉ちゃんが転んだときに出来た手のひらの傷を魔術で治癒する。僕だって、ユッカお姉ちゃんから、いろいろ教わっていて、各種治療の魔法を使うことが出来るんだもんね。


 お母さんの様子をみていたユッカおねえちゃんは


 「大人げない……」


 って、つぶやいていた。

 お母さんがお姉ちゃんに勝てたのは運だとおもうけど、こういうときに使う表現だっけ?ぼ~っと立ってただけのお母さんは、大人げないっていうより、大人らしくないって感じ。僕の聞き間違いかな?


 勝負はお母さんの勝ちだから、明日は3人で買い物に行くことになったよ。



 やっと、3人で買い物に行けます。

 当初、拙作の『気ままに研究』の続編として下書きを始めたころは、第三話目ぐらいで、此処にたどり着いていました。ところが、いざ書き始めてみると作者の準備不足が多々あったため、いろいいろと時間が掛かってしまいました。今後ともよろしくお願いします


いつもお読みいただきありがとうございます。

週末1回、金曜日の22時を予定しています。

ブックマーク登録をして頂いたり、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励み になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ