9-35.ステラの実演
お茶をしながら、実演を皆で楽しむことになったよ。
先ずはステラからだね。
「では、私から実演を始めさせて頂いても宜しいでしょうか?アリアさんの実演には残る3人のメンバーを選定が必要でしょう?
それと、その間にお昼のときに出して頂いたデザートのレシピを再現頂けるかしら」
ステラはああ言うけれど、実際のところデザートのレシピなんか交渉の条件から外れているんだよね。ただ、まぁ、彼らが『準備出来る』と言った以上は、彼らにも実演して貰うのは良いよね。
「ステラ様、判りました。
アリア殿のご相手をする3名は早速こちらで選定し、準備させよう。
枢機卿は先述の通り、レシピを再現したデザートを追加で提供するように指示を出して欲しい。
さて……。それで、その……。
ステラ様の実演とは、どういった形で進められるのでしょうか?」
「ええと、1つは石を落とせば良いのよね。
あと、飛竜を召喚することをお望みでしたかしら?
ただし、石を落とすことも飛竜を召喚することもこちらは一切危害を加える意図はなく、魔族の国の要請に応じて行うことは、繰り返し確認をさせて頂くとともに、書面に残して頂けるかしら?」
「ああ……。こちらが依頼した主旨の書面はこの後の直ぐに準備させよう。
実演の依頼をしておきながら、申し訳ないが、王都の国民に飛竜が飛来する旨を周知する時間を頂けないだろうか?
万が一にも国民が魔法や投擲で飛竜を攻撃したとなると、そこが戦火の発端となるかもしれぬゆえ……」
「ディアブロ陛下、つまり魔族は飛竜に危害を加えることは無いと、国民に周知するということかしら?」
「ああ。今回の実演を除いて飛竜からの攻撃が確認されない限り、魔族が飛竜を傷つけることはしないと誓おう」
「ディアブロ陛下、そういうことでしたら、『実演の結果に対して全ての責任を負う』という署名とは別に、『実演とは異なるタイミングで、飛竜からの攻撃を受けた証を無しに魔族が飛竜を傷つけた場合には、飛竜からの反撃を全て受け入れる』と、署名頂けるかしら?」
「ああ。問題無い。
それで、ステラ様の飛竜召喚には、どの程度の時間が必要になるだろうか?」
「そうね……。今が夕方で……。そうね、夜には召喚できるわ。
けれど、王都民へ周知する時間が必要なのでしょう?それが終わってから召喚すれば良いわね。
そのお触れを待つ間の食事は枢機卿のレシピに期待して良いのかしら?」
「うむ。当然であろう。
ステラ様の石落としの実演とアリア殿のゲームの対戦。
我々は書面の準備、食事の準備、対戦者の選定、国民への周知。
これで良いだろうか?」
「ええ、良いわ。では早速石落としの実演から始めるわね。
何か手ごろな石は無いかしら?」
「うむ。中庭で実演をするのであれば、中庭で適当な物を選ぶことで如何だろうか?」
「ええ。では夫々の準備でお手すきの方に石の選定と立会人をお願いするわ」
「うむ。では元帥、ステラ様を中庭にご案内するとともに立ち合い、軍事面からの分析を行えるようにしなさい。安全が配慮されれば手すきの者はステラ様に同行頂いて構わない。
教皇、枢機卿、宰相、カサマドはここで書面等の準備を行うため、このまま残って欲しい」
うん?
ステラの実演を見に行って、皆の反応を見るのも大事だけど、実演の被害に対する書面だとか、魔族側の良からぬ思惑が無いか、誰かが残って確認する人が必要だね……。
ちょっと、私は残ろうかな?
「あの……。私はステラ様のお力は良く存じ上げていることと、体調がまだ優れませんのでここに残らせて頂いても宜しいでしょうか?」
と、私が発言すると、スチュワートさんも気が付いたのか、私の発言に乗っかってきたよ。
「陛下、私も妻の実力は知っているので、ここで書面づくりの支援をさせて頂ければと思う」
流石だね。魔族だけで書面を作らせることは危ないもんね。まして、『魔族の王族が今回の実演に伴う被害に責任を負う』という内容の書面が完成するまえにステラが実演をしてしまったら、それを盾に色々と要求を突き付けられかねない。
この辺りは慎重に進めておいて損はないよね。
ーーー
「それでは書類の方も整うまで、どの石を使つか決めましょうか?」
「ステラ・アルシウス様、軍事の総指揮を務める元帥の役職におります、フジラワ・ディアブロと申します。
今回実演頂く内容なのですが、どの位の大きさの石を持ち上げて、どこまで高く運ぶつもりなのでしょうか?」
「石は動かせるのであれば、どの大きさでも構わないわ。地中に埋まっていて掘り起こすとなると時間が掛かるでしょう?
あと、高さについては、どなたか飛行術を使える方がいらっしゃったら、その人の限界高度までで構わないわ。それとも目視で1km先の人の姿が識別できる方がいらっしゃるのかしら?」
「そうしますと、石の大きさは手のひらサイズでよく、高さは300mぐらいでしょうか?」
「確か、ヒカリさんの計算では高さ2000mじゃなかったかしら。高さ300mでは大した威力ではないけれど確認できる人が居なければ仕方ないわね」
「私の実力では過去300m程度飛行した経験があるだけでして……。それ以上は体力が維持できるか不安でありまして、もし上空で力尽きますと……」
「そう……。
仕方ないわね。複数の妖精の力を借りることになるので、そう簡単には出来ないけれど……。私の実演で魔族の方に危害を加えることは目的としていませんもの。少し、お時間をください。
その間、フジラワ様は上空へ持っていく石と服装の準備をお願いしますわ。高さ2000mは風も強く気温も低いので体が冷えますわ」
さて……。
ヒカリさんの存在を隠すのもそうだけれど、私も過度な実力を見せない様に工夫しないといけないわね。人が抱えられない様な巨石を私個人が運べてしまうことが判ったら、魔族としては驚異でしょうけれど、サンマール王国で建設中の運河の話とか、色々と問題になってしまうわ。
ということは……。
ひょっとして、上空高くまで上がるのも、相当時間を掛けてゆっくり上がるのかしら?フジラワさんの飛空術に合わせて、それをサポートするぐらいの速度が良いわね……。
さて、久しぶりに詠唱したり、印を描いたりして妖精と交信している雰囲気をださないとけないわね。それと私も体が冷えない様にトイレにいったり防寒対策をした方が良いわね。
と、なんだかんだで30分くらい掛かったかしら。
私とフジラワさん以外はひたすら待ちぼうけね。でも、その間に書類の準備も整ったようだし、良い感じかしらね。
「では皆様、これよりフジラワ様とご一緒に約2000mの上空まで飛行して参ります。そして、そこからこの円に向けて石を落下させますので、皆様は建物の中へ避難して頂けますでしょうか。あるいは高い建物の屋根や砦の窓から観察して頂いても結構です。
とにかく、こちらの中庭には人を近づけないでください」
と、皆に説明を終えてからフジラワ様と紐でお互いの腰を結んで落下防止をしながら飛行することにしたのだけれど……。
これは、遊泳?浮遊?何と表現したらいいのかしら……。
海で溺れそうになって藻掻いている人という感じね。そして進む速度は人が歩く速度くらいかしら。一生懸命なのは分かるのだけれど、このままだと30分くらい掛かる計算かしら……。
あまり、牽引する紐を強く引っ張らない程度に支えてあげる感じで進むしかないわね……。ひょっとして、ヒカリさんも例の銅の精錬所でカサマドさん達と同じようなことをしたのかしら?
<<ステラ、我慢だよ>>
<<あらヒカリさん、見ていたのかしら?>>
<<うん。スチュワートさんが優秀で、あっという間に双方で合意できる内容の文章を作成して、双方で署名も済ませたあらね。ステラの分とアリアの分はスチュワートさんが代理でサインしてくれたよ。
魔族の人達は背中の羽根を羽ばたかせて自身の運動能力で飛行しようとするから大変なんだよね。私やステラは重力遮断と妖精さんやエーテルさんへお願いを併用しているから、自身の運動能力は殆ど必要無いんだよ……>>
<<そうね。私もスチュワートもヒカリさんに会うまで自分より重い物を持ち上げて飛行するなんて芸当が出来るとは思っても見なかったわ。
今回の実演が飛竜族の方達の力を借りずに出来るのはヒカリさんのおかげよ>>
<<まぁ、私一人で発見した訳じゃないけどね。
そろそろ私の視認範囲からはステラ達の姿が見えなくなるね。
それはそうと、どれくらいの大きさの石を持って行ってるの?>>
<<あまり大きな石だと、過去の巨石運搬のいろいろが疑われるから、私がする実演では人が持ち運べるサイズにしたわ。隣で泳いでいるフジラワさんが持っているはずだから、それほど大きくはないはずよ>>
<<そっか。余り軽いと風に流されないか心配なんだよね。ちょっと下向きに勢いをつけて投げ下ろした方がいいかも?>>
<<わかったわ。フジラワさんに実行してもらうことにするわ>>
<<うん。任せても良いけど、中庭の的から外れないように注意しておいた方が良いよ。一応、免責の書類は整っているけれど、建物を壊して人に被害があるのは不味いからね>>
<<わかったわ。その辺りも上手くやるわ。
ヒカリさん、声を掛けてくれてありがとう>>
<<ううん。ステラが大変な役目を負ってくれて感謝してる。
私は応援しかできないけれど頑張って>>
さてと。
ヒカリさんとの念話は終わったけれど、この速度は本当にかったるいわね。
ヒカリさん達と空を飛ぶと走るより遅い移動が許されないから、それが普通になっちゃってるのよね。
子供相手に世話をしていると考えるかしか……。
といっても、ヒカリさんの周りの子供たちは普通の子がいないのよね。
ライト様、ユッカちゃん、リサちゃん……。
ああ、シオンくんが普通の子かしら?
それでも、普通の子が念話を使ったり、迷宮の最下層で野営したりしないわよね……
普通が何だか分からなくなってきたわね……。
と、フジラワさんから声が掛かったわ
「ス~。す~。すてら。様~」
「フジラワ様、如何されましたか?」
「2000mは、まだかかりますか?」
「今、大体半分くらいかしら」
「そ、その……。私が飛ぶのはそろそろ限界です……」
「わかったわ。お疲れ様、この先は私が引っ張るわね。ゆっくりおやすみになってください」
「は、はい……。お手数をおかけします……」
これはチャンスね。少しの間寝て貰って、その間にさっさと2000mまで行っちゃいましょう。帰りは急いで下りたことにすれば、登りに使った時間やエネルギーのことは気にならないはずよ。
「フジラワ様、到着しました。おおよそ2000mになります」
「ん……。んん……。す、すまない。寝てしまった様です!」
「いえいえ。お疲れの様で、良くお休みでした。
でも、それほど時間は経ってないとおもいますわ。
ほら、夕日がまだ残ってますわ」
「う、うむ……。
そ、それで、私は石をここから落とせば良いのか?」
「ええ。石はどちらに?」
「はい。腹に抱えております」
って、あら……。
形は平べったいけれど、大き目のまな板ぐらいの大きさがあるじゃない。
これはヒカリさんの言う通り、風の抵抗を受けて流されないように注意しないと不味いわね
「わかりました。
私も手伝いますので、風の抵抗を受けにくい様に、回転をさせながら下に投げましょう」
「は、はい!」
練習もしてこなかったわけだけれど、ポロっと落とさないように私がしっかりと支えて、風の魔法で石に回転を掛けて、横風の影響を受けにくくしてから、「せーのー!」って感じで石を投げおろしたわ。
さて、地上に下りて実演の結果を確認しようかしら。
ーーー
たかだか50cm角の20kg程度の石に回転をかけて落としただけなのに、地上はえらいことになっていたわ。
単にに石が地面に突き刺さって終わりかと思っていたら、その衝撃で半径1mぐらいの大穴が空いていたわ。その周囲には飛び散った地面が散乱していて、更なる惨劇を示しているわね。風魔法をかけた効果や石の形状も有ったのかもしれないけれど、この被害は相当よね。
実演としては十分な示威になったではないかしら?
「フジラワ様、ちょっと、暗くなっていて様子が分かりにくいですが、皆様には安全だと伝えてください。そこの大穴が結界の印を描いて、石を誘導した地点になります。もう、跡形も残っておりませんが」
「ステラ様、ここは一旦立ち入り禁止にして、明日皆で確認させて頂いても宜しいだろうか?」
「ええ、構わないわ。皆も待ちくたびれたかもしれないわね。
先ほどの謁見の間に戻りましょう」
これで実演その1はヒカリさんの想定の範囲で上手く終わったかしら?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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