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1-21.買い物へ行こう

 僕が生まれて1年ぐらいが経過したのだと思う。

 僕は家族にお姉ちゃんがいることが理解できるようになった。


 お姉ちゃんはの名前はリサ。僕はリサお姉ちゃんって呼んでる。 リサお姉ちゃんは黒髪でお母さんによく似ている。瞳の色は濃い青色で、お父さんともお母さんともちょっと違う。目つきがちょっと怖いのは、まだ寝返りしかできなかった頃、僕がアタックしていたのを覚えているからかどうかは分からない。

 一方、僕はお父さん譲りの少し黄みが掛かった金髪で、瞳は明るい水色だよ。


 この家にある鏡は、姿や色を綺麗に映すことが出来る。『この鏡はとても貴重な物なんだよ』って、お母さんと一緒にメイドをしている人から聞いたけど、そんなの僕は知らないよ。鏡は鏡なんだから。

 普通に綺麗に映ってる。表面のガラスが良く磨かれているね。


 僕らは半年ぐらい前から、お父さんの朝の稽古をリサお姉ちゃんと一緒に見学するようになった。お父さんは建物の裏庭で、黒い鎧の人とお父さんが向き合って、稽古している。


 先ずは木刀でカンコン、カンコンと、ゆっくり型を確認しながら、お互いの動作順序を確かめ合う。動きは複雑で、お互いの攻めと受け、そして交わしながら反転しての切り替えし。そんな型のパターンが20動作ぐらいで1式の様子。


 1式の基本の型を5種類ぐらい確かめ終わると、少し速度を上げて練習が行われる。3セットめぐらいになると、木刀の打ち合う音がカカカン、コココココ……。音は聞こえるけれど、僕の視力では動作がボヤケテ見える。


 5セット目になると、姿も見えず、音も「ガーーーン」って、感じの大きな長い音が聞こえるだけ。

 『目にもとまらぬ速さ』って、聞くけれど、本当に見えない。視覚神経の伝達速度よりも、肉体の動作が上回るっていうこと?

 意味が分からない。


 お姉ちゃんの方を見ると、目をギンっと見開いて、唇をキッと結んで二人の稽古の様子をみている。ひょっとして、お父さんたちの稽古姿を捉えているかも?

 だって、リサお姉ちゃんは凄いし。


ーーーー


 お父さんは稽古が終わったら、それぞれの肩にお姉ちゃんと僕を担ぎ上げて移動する。ちょっと、お父さんの汗の臭いがする。でも、なんか爽やかな匂いで、僕は好きだ。


 お母さんは、ここの館でメイドの仕事をしてるらしく、いつもメイド姿に着替えた状態で、朝ご飯を用意して待っている。朝ご飯はだいだいいつも家族4人で一緒に食べられる。

 お父さんもお母さんもも背が高いから、僕も背が高くなるのかなと思う。お父さんみたいにかっこよくなれるなら、ちょっと嬉しいかもしれない。


 この日の朝ごはんは野菜スープが出た。

 ここ最近はお母さんのおっぱいはほとんど飲んでない。鰹節や昆布出汁のスープとか味付いたジャガイモのペーストなんかを食べさせてもらっていたけども、今日は初めての香りと味だった。ちょっと魚風味かな?


 リサお姉ちゃんは怪訝けげんな顔をして、お母さんをにらみ付ける。

 確かに、少し魚の内臓のような臭いがあるけど、スープに魚は入ってない。

 きっと小魚で出汁だしをとるときに、時間を掛け過ぎたのか、内臓を取らずに出汁を取ったからだと思う。僕は料理なんか、作ったことが無いのに、なんかそんな気がする。

 

 僕が1歳程度で、それなりに考えたり喋ることができるのは、この家に住むメイドさん達からすると、「お父さんに似て優秀でいらっしゃいますわ」となるし、お母さんと親しい人達からすると「ヒカリさんの子だから」と、お母さんの影響だという。

 僕たちがもっと大きくなって、色々なことを学んだり、活動するようになったら実感できると思う。でも、まだ血筋なんて関係無いと思う。


  ともかく、お姉ちゃんの不機嫌な顔を見るのは嫌だから、お母さんに聞いてみることにするよ。


「お母さん、出汁の味がおかしいみたいだけど?」


 お母さんは、睨み付けるようなリサお姉ちゃんの顔と、質問をした僕の顔を交互に見比べてから、ちょっと困ったような顔をしつつ、


「ごめんね」


 と言って、野菜スープの皿を下げてしまった。

 なんか、肩を落としていて、ちょっと悲しそうだった。

 お母さんが作ってる訳じゃないから、お母さんが悲しむことじゃないのに。


 お母さんは、調理場にいるゴードンさんに何か説明をしているみたい。

 ゴードンさんの料理は美味しいと評判で、遠くの貴族が旅行してまで食べにくるんだって。そんな凄い人に食べ残しのスープのことでお母さんが相談しに行くものだから、話が長引いている。


 そっか、お母さんはメイドの子達がゴードンの料理を残していることを謝らなきゃいけなくて、そのことが怖かったのかな?そしたら、僕がゴードンさんの代わりに、お母さんと一緒に出汁を作ればいいんだよね。


「おかあさん、一緒につくろう?」


 と、スープ皿を手に持ったまま、ゴードンさんと話を続けているお母さんに、僕は足元から声をかけてみる。


「シオンが手伝ってくれるの?」

「うん。やってみたい」


ーーーー


 お母さんは皿をゴードンさんに渡して、軽々と僕を抱きかかえると、食料倉庫に行って、いろいろな物を見せてくれた。ここに入るのは初めてなんだけど、干し肉やキノコ、スパイスなんかの匂いがいろいろ混ざってる。そこの一角に【煮干し】らしきものが見えた。

  僕は【にぼし】が何か判らないのに、なぜかそれを知っている。誰から聞いたんだろう。


「シオン、


 【醤油】や【味噌】は、品切れで暫く手に入らないの。

 【昆布】や【鰹節】は、今作って貰ってるけど、もう少し時間がかかるみたい。

 今日はお魚で出汁を取ってみたの。お母さん失敗しちゃったね。

 ごめんね。


 シオンなら、ここの中にあるものなら、どれを使う?」


「お母さん、これを使ってみよう」


 と、何故か出汁を取るための煮干しを指さした。

 お母さんは嬉しそうに無言でほほ笑むと、抱きかかえたままのぼくの髪をくしゃくしゃにしながら撫でて、


「シオン、ありがとう」


 と、言った。

 まだ臭みの無い出汁がとれた訳ではないのにね。


ーーーー


 お母さんは片方の腕に僕を抱えて、もう片方の手で一掴ひとつかみの煮干しを食料保管庫から持って、台所に戻ると、お父さんもリサお姉ちゃんも既に台所には居なかった。

 何か別の物で急いで食事を終わらせたのかな。お父さんは忙しい人って、みんなが言ってるもんね。きっと領主様の護衛とかしてるなら遅れる訳にはいかないもんね。


 ゴードンさんの所に戻ると、お母さんは何か説明をしてから、僕と二人で作業を始めることにした。


 お母さんは、僕に煮干しを渡すと、無言で見つめる。

 僕は不器用な柔らかい指をせっせと動かして、どうにか固い煮干しの頭とはらわた部分を取り外す。

 これを何本か作り終えてから、フライパンで軽くるのだけど、フライパンが見当たらずにキョロキョロする。


「シオン、何を探してるの?」


 と、手が止まった僕に声をかけてくれる。


「フライパン」


 お母さんが、鉄製の鍋を持ってくる。それは鍋だよ。フライパンじゃないよ。とても重そうだけど、僕を左手に抱えて、右手で鍋を持ちながら、そこにさっきの煮干しを落とす。


「シオン、シオンはまだ小さいから、お母さんが代わりにるね。

 止めて良いタイミングでストップって言ってね」


 と、煮干しを煎る準備をしながら、抱きかかえた僕に話しかける。

 僕は、コクリと黙って頷いた。


 香ばしさと表面の色の変わり始めを確認して、お母さんに「ストップ」の声を掛けた。僕たちの後ろではゴードンさんが黙って煮干しを煎る様子を見てメモを取っているみたい。


「シオン、次は?」

「お湯で煮る」


 お母さんは、水を汲んできて煎った煮干しの入った鍋に入れる。

 そういえば、このレンジは火が無い。電磁調理器?でも、周りに電気器具が無いんだよね。


 そういえば、僕たちが暮らしてる部屋や廊下にも照明が無かったよ。天井からの彩光を利用した太陽光が照らしていたし、薄暗い日や夜は、何かぼわ~~って光るフワフワしたものが部屋を照らしてた。

 エアコンも本体は見当たらす、通気口のようなところから直接風が吹いていた。


 それよりも、TVやラジオが無かったんだよ。当然お父さんやお母さんがスマホやパソコンを使っている様子も無かった。此処って、電波もインターネットも通じにくい不便な環境なのかな?

 

 散歩してるときはアスファルトで舗装された道なんかなくて、土を固めたり、石畳が敷かれている道しかみかけなかったから、整備が遅れている過疎地域なのかな~。髪や瞳の色も日本人ぽく無かったから、ここは未開の地なのかもれない。。


 それなのに、何で台所には最新型の電磁調理器があるんだろ?

 まいっか。


 そんなことを考えながら煮出しが終わると、 レモン色に澄んだ出汁が出来上がった。


 問題なのは出汁だけではなんの味がしないし、美味しくもなんともないってことなんだよね。スープに入っていた野菜自体はちゃんと面取り、皮むきとかきれいにされてたし、素材は美味しいのだから、出汁と調味料を調節するぐらいで美味しいスープになるはず。

 たぶん、出汁に、ひとつまみの塩を加えるだけでいいと思う。


 お母さんが出来たての出汁を冷まして、木のコップに入れて僕に味を見させようとする。僕は塩味が足りないのが判っていたから、塩をお母さんに取って貰って、コップに入っている出汁の量に合わせて、微妙に調整した塩を入れて混ぜてから試飲する。


 うん、美味しいね。これならお姉ちゃんも文句ないはず。


「おかあさん、はい、どうぞ!」


 塩味を足す前の出汁の段階で味見をしていたゴードン料理長とお母さんは、僕が味付けをしていたコップの味を見ると、二人で目を見張ってうなずき合った。なにをそんなに驚いているんだろうね。


「シオン、シオン!お母さんと一緒に買い物しにいかない?」


 と、お母さんが興奮気味に話しかけてくる。


「ひ、ヒカリ様、じゃなくて、ヒカリさん、それは許可が必要です!」


 と、ゴードン料理長が慌てて言葉を返している。


「ゴードン、そんなこと言わないでよ。これは凄い発見だよ?」


 と、続けるお母さん。


「お母さん、ゴードンさんはエライ人。

 あと、お出掛けするなら、リサおねえちゃんと一緒ならいいよ」


 と、メイドであるお母さんが料理長であるゴードンさんに横暴な話し方をしてるから、ついつい会話に割り込んでしまった。


「シオン、ごめんね。おかあさん馬鹿でごめんね。


 ゴードン料理長失礼しました。買い物への許可は別途取りつけます。

 この子たちの今日の予定を確認して問題が無ければ出かけても宜しいでしょうか?」


「はい。ヒカリさん、重々お気をつけて」


 と、ゴードン料理長。この人は料理の腕だけじゃなくて、メイドさん達にも寛容で人気があるんだよね。だからといって、ただのメイドであるお母さんが失礼なことをしてていいのは違うと思う。


久しぶりにシオン登場です。


いつもお読みいただきありがとうございます。

週末1回、金曜日の22時を予定しています。

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