9-25.魔族との会見(2)
私達が王宮を見学してお茶会をしようとしているとき、カサマドさん達の報告会はこんな感じだったんだって。
(ノック、ノック)
『カサマド・ディアブロ、王命により報告に参りました』
「入室を許す。入れ!」
魔族の国王の執務室に3人が招き入れられた。一人は先ほどの名乗ったカサマド・ディアブロであり、この国の第三王子である。他2名は王都から視察に派遣された派遣員2名である。
今日は視察隊と一緒にカサマドも帰還したとのことで、国王の執務の時間を合間を縫って面談の運びとなった次第である。
「カサマドよ。元気にしておったか?」
「ハッ!」
「銅の精錬所では空気も悪いのではないか?」
「ハハッ」
「谷の合間にあり、日が射す時間も短く、水も十分ではないと聞く。体を壊していないか心配しておったのだ」
「私の体調を心配して頂けるなど、有難き幸せでございます」
「うむうむ。元気そうで何よりである。
それで今日は遠いところから報告来たという。用件は何だ?」
「ハッ。こちらにご同行頂いている監察官2名とともに、銅の精錬所の財政状況をお伝えに参りましたと共に、特殊な技術情報の入手とお土産を持参した次第でございます」
「うむうむ、そうかそうか。
私としては息子の報告をそのまま信じたい。
だが、確認事項の抜け漏れがあっては御三方の時間を何度もとってしまうことになる。宰相も同席させたいのだが、これから呼んでも良いか?」
「ハハッ!」
ーーー
約10分後、緊急招集でも掛ったのがごとく足早に国王の執務室に人が集まった。
国王、元帥、宰相、教団の教皇、枢機卿。そして元から部屋にいたカサマド殿下と査察官の二人である。
執務室の長机の短辺側に国王と教皇が並んで座り、国王から向かって右側に国王軍を統括する元帥、国の財政を統括する宰相、そして今回の重要な報告の鍵を握る銅の精錬上の統括官であるカサマド。国王から向かって左側に教団の頂点に君臨する教皇が座り、その長辺側には枢機卿が座っている。
一般的な国王の御前会議がどのような規模で行われるか不明であるが、少なくとも魔族の国を運営するトップ5人が揃った状況であり、最高機密の会議と同等な構成である。
上記幹部メンバーが招集され、カサマドへのヒアリングと、必要に応じて査察官への書類確認が行われるなどして、銅の精錬所の経営状況の確認が行われた。
「つまり、経営権はカサマドが維持しているが、精錬所の整備と運営、そして我々への土産物の対価として、魔族の金貨2000枚相当がエルフ族へと流出したということで良いな?」
「ハッ!」
と、カサマドは尋問の様なヒアリングに対して淡々と答え続けていた。
「その事実は覆しようが無いか?
なにか書類整備上の穴があったり、或いは対価として貰っている物品に瑕疵があり、魔族の金貨2000枚が不当に流出したような状況は作れないのだろうか?」
「と、いいますと……?」
カサマドとしては自分の経営内容で間違ったことは述べていない。査察官の提示した資料と現物の通りを、そのまま報告しただけである。その内容と説明に不備は無かったはずだが、自分の報告に穴が合ったかのような指摘をされた格好となる。
「なになに。カサマドの報告と監察官の報告から銅の精錬所の経営はきちんと行われている様だ。そして、精錬所の運営に必要な経費と、運よく手に入れることが出来た土産物に対して魔族の金貨を支払ったことを咎めている訳では無い。
だがな……」
国王から最近行われた賭け事ギルドでの騒動の説明があり、エルフ族が武闘大会で魔族の金貨4万枚を獲得したこと。また、その後のゲーム大会において、テイラーが魔族の金貨で208万枚、エルフ族と人族がそれぞれ魔族の金貨で2万枚の勝利を収めているという収支報告があった。
「そ、それは大事件でございますね……。何かルール違反や仕込みがあったのでしょうか?」
「今の所、見つかっていない。
武闘大会の競技のルールや参加者に問題は無かった。参加者の予選会も通常通りに行われたし、本選の大会自体も公衆の面前で行われており、勝敗結果についても問題は無かった。ただ、難癖を付けられるとすれば、エルフ族のステラと申す者が魔族の金貨2000枚を賭けていたことぐらいだ」
「魔族の金貨で2000枚ですか?万が一にも掛け金の払い戻しが行われるとすると、例え倍率1.1倍であっても、賭け事ギルドとしては魔族の金貨で200枚相当の損失がでることになります。1週間の収益が丸々吹き飛ぶことになりますね……」
「カサマドは計算が早いな。確かに1.1倍であれば、その程度で済んだであろう。ところが予選会では大したポイントを獲得していなかった大穴チームが優勝してしまい、20倍の配当が付いた。これで魔族の金貨4万枚の払い戻しだ」
「陛下!時間を掛けて無利息での返済が許されたとして、200週間分。すなわち4年先まで賭け事ギルドは利益ゼロで運営することになるのではありませんか?
それどころか、エルフ族の金貨で即時支払いを求められますと、エルフ族の金貨で400万枚に相当し、魔族の国は一気に破綻することになります!」
「うむうむ。お主の想像の通りじゃ。『金額が大きいため、事実を精査したい』と申し入れをして、決着を引き伸ばしているのだがな」
「そこで何か不備は見つからなかったのですか?優勝したチームがお金を使って、他の優勝候補を買収していたとか、そういった類の話なら簡単に出て来そうではありませんか。そうであれば、優勝チームを無効化できます」
「うむ。簡単に言うと、予選会では人族の混成チームが勝つとは誰も思っていなかったし、実際に予選通過ポイントも低かった。土地にもルールにも不慣れな3人チームが、多少冒険や護衛の心得があったところで、教団の最強チームに本選で勝てるとは思っていなかったのだよ。つまり、ノーマークだった訳だ。
ところが、一人の人族の冒険者が3人分の働きを見せて勝ち進み、決勝戦では親子の絆がその冒険者をサポートする形で勝利を収めた訳だ。観衆の前の夢の様な勝利を成し遂げたとあっては、余程のルール違反が見つからない限り、その勝敗の結果を無効に出来ない」
「その3人分の活躍をした冒険者が怪しいのでは?」
「身元を洗ったが、人族の国から商人の護衛として入国してきたらしい。腕試しにと武闘大会に出場しようとしたが、3人の枠が見つからず、賭け事ギルドの前でフラフラ歩いていた親子をチームに加えてエントリーした。そんな事実しか分からなかった。念のため教団の騎士団の指導役にスカウトして見張りを付けてある」
「ルールに問題無く、参加者に問題なく、観衆の面前で行われた勝敗に問題がなく、たまたま大穴の20倍に賭けていた人が勝ってしまったということでしょうか?」
「そうなる」
「でしたら、賭け金の預け入れが贋金だったとか、後から魔族の金貨にすり替えたという可能性は御座いませんか?」
「通訳係のテイラーと、そこに座っておられる枢機卿の斡旋で賭け事のチケットを購入したらしい。そのチケットを購入した際に、預け入れた革袋に名前と封印も施してあったのだから、魔族の金貨自体はすり替えようがない。
そして、真贋鑑定もかけたが、我々魔族で発行しいている金貨と区別がつけられなかった」
「陛下、待ってください!魔族の金貨2000枚ですよ?それほど多くの金貨を集めたら人目に付きます。大ごとになっていてもおかしくないはずです!
魔族の金貨は換算値としても用いられることはありますが、契約書で代替してしまい、金貨の流通量は他の種族に比べて少ないはずです。何かカラクリがあるはずです!」
「カサマドよ。その期待を込めてお主のところへ査察官を派遣したのだがな。先ほど説明してくれた通り、エルフ族に対価として金貨2000枚を支払ったというでは無いか?」
「あっ! がっ……。ぐ……。つまりは、私の責任であると……」
「そうは言っておらぬ。だが、ここ金貨2000枚の入手ルートの調査結果に問題が無かったとすると、もうエルフ族のステラとやらを足止めすることは出来なくなるな……。
ふむ……。何か策を考えねばな……」
「陛下!発言宜しいでしょうか!」
「カサマド、なんだ、何かアイデアがあれば申してみよ!」
「今朝、ステラ・アルシウス様御一行を王宮の控室までご案内させていただきました。
私の報告が終わり次第、国王陛下と面談をするためにお待ち頂いているかと……」
「むむ。それは不味いな……。
何か良い案がある方はいないか?
この部屋は防音措置が施されているし、盗聴用の印などが無いことは毎朝確認済みだ。 それにこの時間は執事やメイドも入らせない。扉の外には信頼のおける護衛騎士4名のみだ。
安心して発言して欲しい」
と、ここで教皇から発言があった。
「ふむふむ。この暑い中、ご面談の申し入れとは大変なことです。
お茶とお茶菓子でも召し上がって頂くことは如何でしょうか?念のためですが、急激な体調不良等起こされますと、魔族の国の接待に問題があったと疑義が湧く恐れがございますので、その辺りは十分に配慮された内容が宜しいのではないでしょうか。
そうそう。
例えばある種のハーブにはリラックスし、夜にはすんなりと眠れる効果があるものあるのだとか。そういったハーブティーを適量に調合されればよいかもしれません。ただし、淹れ過ぎには注意が必要ですよ。もし効能が強くて折角の面談時間を逃してしまうのは問題ですからね。
それと、食べ合わせにも注意が必要です。お菓子に混ぜ込んだジャムに使う果実がハーブとの特性によって、多少頭の回転が鈍くなってしまう場合があるそうです。そういったときに国王陛下との面談をしても、真剣な話は出来なくなってしまうでしょうからね。
こちらに、ハーブの調合、煎じる時間、付け合わせに相性のある食べ物を記しておきますね」
「教皇、なるほど……。それは良いもてなし方ですね。
その内容をメモに書いて頂くことは可能でしょうか?」
「ふむ。枢機卿、私は宗教用の文字で記載してしまいました。
貴方が魔族語の文字に変換したメモを作成し、この部屋の外の護衛騎士に手渡しなさい」
これは、「意に沿ったメモを作成し、その通りに実行させろ」と言っているのと変わらない状況である。そして教皇の指示ではなく、枢機卿の手書きメモだけが残るのも恐ろしい。
この会合のメンバーにエルフ族側の内通者が居て、尚且つ念話でその内容を伝えることが出来ていなかったならば、国王や教皇たちの罠にまんまと嵌っていることだろう……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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