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9-23.作戦会議(3)

 魔族の国との交渉に備えての作戦会議が続くよ!

 マリア様が国家間戦略に向けて決めるべきことを簡潔に纏めてくれた。


(1)飛竜の研究をしていることを魔族自ら認めさせること

(2)飛竜族と魔族の戦争を見守ること

(3)調停に係る条件提示の際に、我々の要求も滑り込ませる案を作っておくこと。


 私はマリア様の提案の通りで良いのだけど、実際どういった流れで進めるかだよね……。普通に考えて、カサマドさんがステラ達の魔族の金貨の出所を明確にして身の潔白を証明するところから始まると思うんだけど……。


 そのタイミングでこちらの条件を飲ませることが出来れば問題ないけれど、彼らはその条件を飲めない。ここをどう制御するかだよね。

 基本的には時間制約を設けて、相手に回答する時間を与えずに、自分たちにとって都合が良さそうな意見を短絡的に選ばせてしまうのが良いよね。


 例えば「教団施設の訪問も出来ず、カジノと宿泊施設の滞在だけでは充実した時間が過ごせない。この精算が速やかに完了できないのであれば契約書を種族の元に持ち帰る。利息を含めて後日一括で返済して欲しい」とか言う。

 賭けの払戻金の手続きに不備は無いのだから、契約書に従ってお金を支払うのは魔族側の義務。これ以上引き伸ばす戦術は取れないよね。

 うん。ここはこれでプレッシャーを掛けられそうだね。


 次に、飛竜の研究をどの様にして提示させるかだね。

 軍事力は最後の手段に取っておくとして、先ずは特産品による物納、次に技術の供与や施設や領土の譲渡を考えるだろうね。

 特産品で言えば、魔族の国で見ているフルーツ類、木の実、ハーブ類といった農作物はサンマール王国の市場で見ていたものと大して変わらない。鉱物資源もエスティア王国が鉱山をもっているし、必要があればニーニャとかルシャナ様にお願いして採取してもらうことも出来なくはない。敢えて飛竜族を犠牲にする対価として交換する意味はない。

 技術供与で言えば鳥の飼育施設が欲しいかも。施設や領地としては銅の精錬所の領地の譲渡かな。

 そもそも魔族が人族の国境を侵略してきたことに対して謝罪をして欲しいところだけどね。戦争は勝ったら官軍。貰ったもん勝ちだから、過去の戦争の結果に言及することは出来ないよね。


 ふむ……。鳥の飼育施設と銅の精錬所だけでは金貨600万枚の価値に見合わないよね。せいぜい金貨10万枚ってところかな。


 あ……。

 鳥の飼育施設を裏に飛竜研究所があるとは知らない振りをして、単なる卵を採取できる施設として、施設ごともらうのはどうだろう?かなり困った反応をしてくるんじゃないかな?ここを突くことで鳥の飼育施設の裏にある何かを相手に吐き出させるのは有りだね。ここも皆に相談してみよう。


 調停が終わったとして、欲しい物リストの作成。

 第一に鳥の飼育施設。ただし、飛竜の研究は永久に取りやめる条件付きで。現代の地球で言うところの核兵器の開発施設みたいなもんだね。

 次は、人族の領土の回復とユグドラシルへの登頂権の部分的な譲渡だろうね。


 あとは……。私は特に興味無いかな。

 ハネムーンはユグドラシルに登るために来たようなもんだしね。ユグドラシル自体もドリアード様にはお会いしているし、ユグドラシルの子孫の実もゲットしていたって話だから、登山みたいな楽しみ方しか無い訳だけど……。でも、町一個が内包出来ちゃうような大樹ってのは地球にはなかったから、何か面白いことがあるかもしれない?


ーーー


<<皆さん、何かご意見は無いかしら?>>


 私が独り頭の中でグルグルと考えている間、マリア様の司会に対して誰も意見を出してこない。マリア様なりに皆に考えて貰う時間を取ったみたいけれど、待っていて仕方ないと考えたのか、マリア様から問いかけが始まった。


<<ステラ様、ご質問宜しいでしょうか?>>

<<マリア様、何なりとご質問ください>>


<<エルフ族の知見およびステラ様の諸国訪問の経歴と照らし合わせて、こちらの魔族の国の王都で何か目ぼしい特産物、貴重で交易に足りうる品々はございましたでしょうか>>


<<マリア様、正直のところ、植物、ハーブ類を元にした加工品やフルーツ類ですと、サンマール王国で提供頂いた品々に並ぶものはございませんでした。

 スチュワートは何か気付いたかしら?>>


<<サンマール王国で提供頂きました、コーヒーとチョコレート。これに敵う食品は今後数百年単位で発見は難しいと思われます。

 エルフ族の主要な文化の1つであるハーブティーを大切に培ってきました。また、それに見合うお茶うけも研鑽を積んできたと自負しておりました。ですが、一瞬にしてその全てを凌駕する品物に出会った所存です。この突然の変化を体験してしまうと、多少のことでは驚かなくなっておりました。

 とどめに、カレーなる食事の提供でした。そして、このカレーなる食事は無限の可能性を秘めていることも理解した次第です。


 その様な訳でして、誰がという話は控えさせて頂きますが、サンマール王国の特産物に比べて、是非とも交易をおこないたい食文化に出会うことはできませんでした>>


<<ステラ様、スチュワート様、ご意見賜り感謝します。

 食文化やお茶に関する専門家のご意見は大変重要な交渉材料になると考えられます。裏を返しますと、『魔族の国の食文化やお茶の文化から得られる物は少ない』と、断言してしまって構わないですね>>


 皆から、<<ふむふむ>><<うんうん>>といった、肯定の感情が流れ込んできた。

 そこを察して、マリア様は次の問いかけを行った。


<<ニーニャ様、先日銅の精錬所を訪問されたと思いますが、その際に魔族の精錬、冶金といった技術や貨幣の鋳造技術に関して、なにか感じるところはございましたでしょうか?>>


<<マリア様、恐れながら申し上げますと、精錬所は外部への汚染がが酷く、持続可能な技術と呼べるものではございませんでした。

 また、魔族の国の通貨が交換レート100倍とのことで、高度な偽造防止技術だけでなく、金属の特性を活かした合金なども目を見張るものがございました。誰がとは申し上げませんが、その魔族の高度な貨幣の鋳造と鍛造を組み合わせた製造技術をいとも簡単に見破り、魔族の国としても偽物と判定できないレベルまで再現できているのが現状です。

 国家の柱となるべき通貨の技術レベルに到達出来てしまっている現状としまして、マリア様と運命を共にする方達にとって、有益な技術は稀有であると考える次第です>>


<<ニーニャ様、ありがとうございます。追加で質問をさせてください。

 武具や宝飾品に関しての技術レベルを知る機会はございましたでしょうか?>>


<<マリア様、武具に関しては分かりませんが、宝飾品に関しては触れる機会がございました。ストレイア帝国で作成された偽物が魔族の国で流通していましたので、レベルはおして図るべしです>>


<<そうでしたか。ドワーフ族の方にはご迷惑をお掛けしましたこと、人族としてお詫び申し上げます。既に流通してしまったものはなるべく回収したいですが、なかなか探しようがないですね……>>


<<マリア様、お気遣い頂きありがとうございます。カサマド様には王族か教団幹部の一部にしか出回っていないとのことで、必要数を私が作成し、交換を申し出る様に伝えました。これで偽物は回収できると思われます>>


<<ヒカリさん、ニーニャ様の指輪はどの程度で流通しているか分かるかしら?>>

<<ええと……。偽物は人族の金貨で2000枚。今回魔族に偽物を幾らで売りつけたは分かりませんが、5000枚程度ではないでしょうか……>>


<<でしたら本物を魔族の金貨100枚で交換しても良い感じね。

 結局魔族は鉱物や武具、宝飾品についても交易に値するものが無い訳ね……。

 モリス、何か気が付いたことは無いかしら?>>


<<確か、ヒカリ様は以前、『綿の生地が欲しい』様な話をされていらっしゃいました。

 サンマール王国では見当たらなかったので、ひょっとすると魔族の国では見つかるのではありませんか?>>


 誰からも返事がない。

 あれ?誰かが綿なら南の大陸って言って無かったっけ……。

 ステラかな……?

 う~~~ん。誰だったっけ……。

 ま、無いなら無いでいいや。

 結局、羊毛とは別の紡績機が必要になるし……。そこから布の生地を作って衣服へ加工するとなると手間も時間も掛かるし……。ま、いいよ。


<<ヒカリさん、綿があると言ったのは私だったかもしれないわ。けれどそれは衣服としての話ではなくて、生地を作る植物のことだと思っていたのよ。オシャレな衣服が欲しいのでしたら、話が違ってくるわね>>


 と、ここでモリスから念話が通った。


<<私からも一言宜しいでしょうか。

 ヒカリ様の展示品にはステラ様の毛皮やレミ様から贈られた結婚式で使った毛織物は他にない逸品でございます。魔族の国の綿の加工技術が素晴らしかったとしても、あれらに並び立つものはございません>>


 まぁ、それはそうなんだけど……。

 そもそも綿は大量生産して下着なんかを作りたかったんだよね。

 でも、それが技術的に確立しておらず、手作業で綿花から糸を紡ぐとなると大事件だよ……。

 毛織物で十分なんじゃ無いかな?


<<そう……。他に何か興味深い物や技術的に優れている物はないのかしら……。薬学とか宗教と政治のかかわり方とか……>>


<<マリア様、魔族の国の宗教は詐欺です。治療施設では薬学も雑草と変わらない物を使い、治療効果が無くても食事を提供して人を集めているだけなのです。必要があれば私が教えを広めます!>>


 と、リサが憤って感情を荒げる。

 それを落ち着かせるように、軽く宥めてからマリア様は続ける。


<<ヒカリさん、どうやって魔族の国は成立しているのかしら?>>

<<信用通貨と契約書によるものだと思います。軍事力も無い訳では無い様ですし……>>


<<飛竜の研究施設になる訳よね。でも、それを交換条件に出す訳にはいかないわけでしょう?>>


<<マリア様、鳥の飼育施設としては興味深かったです。人工的に孵化させて、それを飼育することで卵や鶏肉を人工的に入手ができるのです。

 これは肉質や肉の大きさを均等化できることは多くの人に同じレベルの食事を提供できます。卵に至っては普段の料理として用いることで栄養を補給できるだけでなく、各種お菓子の材料として多く用いることができます>>


<<あら、良いじゃない。価値はあるのかしら?>>

<<観光施設として公開しているぐらいですので、まだ、魔族の国全体に広める意図は感じられませんね。それよりは飛竜の研究を隠すための表向きの施設としての位置づけだと思います>>


<<飛竜の卵も人工孵化に成功しているのよね。これも価値がある技術ではないかしら?>>

<<どうなんでしょうね。6個卵を購入して4個の孵化に成功しているとしたら、成功率は70%近いですね。外敵の脅威を別として、結構よい確率であると思います。

 飛竜族の方達に孵化の成功率について確認しましょうか?>>


<<ええ。戦争が起きる前に重要な技術であるか確認しておいた方が良いわね。飛竜族にとても重要な技術であった場合、飼育施設の人員含めて丸ごと買取りしないといけなくなるわけだから、下手に攻撃をしてもらっても困るわ>>


<<ヒカリさん、飛竜族のとの調整はお願いするわ。

 あとはカサマド様達が王都に入るタイミング、ステラ様達が行動を起こすタイミング、リチャード達が偶然を装って接触するタイミングね。

 その邂逅さえ無事に済ますことが出来れば、自然と今日の流れに持ち込めると思うわ。

 リチャード、皆様、如何かしら?>>


 皆がマリア様の〆に納得した。

 これで全体会議は終わりだね。

 後はカサマドさんとタイミングを合わせて合流するだけだ。

 良いんじゃないかな?



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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