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9-22.作戦会議(2)

 魔族の国との交渉に備えて作戦会議を開くよ!

 飛竜研究所を発見した翌日。

 朝早く、皆が動き出す前から私たちはカジノに向けて移動開始。馬車が無いから徒歩になるけれど、直線距離にして10km。通訳の人以外は大した距離じゃないね。通訳の人にはカジノの朝ごはんを作る都合があることと、昨日帰してしまった馬車の引き受けがあることを説明して、鳥の飼育施設に一人で戻って貰うことにした。

 ここから私達4人は光学迷彩と飛空術で移動する。夜が明けたばかりの濃い紫と茜色が混ざった薄暗い空の中をあっというまに魔族の王都の門番近くまで移動出来たよ。冒険者の服装に乱れが無いかを確認してから、堂々と身分証を提示すると、怪しまれることなく通過できた


 カジノに着いてから、念のためシャワーを浴びることにした。

 普段ならピュアで済ませるのだけど、昨日は教団の治療施設見学で薬草やお香の臭いがついたと思うし、鳥の飼育施設や飛竜研究所の餌やりでも臭いが付いた可能性があるからね。

 私だけがメイド服に着替えて調理場へ顔をだす。調理場の人達は何故かオドオドした様子で私が来るのを待っていた様子。何が問題なんだろう?私は別に怖いことをしてないと思うのに……。


「アサリさん、お待ちしておりました。今日もよろしくお願いします」


 と、レストランの執事長らしき人から丁寧な魔族語で挨拶を受ける。この人も少し緊張しているね。どうしたんだろう?


「私が昨日留守にしている間、何かあったのですか?」

「あ、あの……。エルフ族の上客の方達が……」


「うん?」

「『特別料理が出せないのは何故?』と、問い詰められまして……」


「少しは材料残してあったでしょ?潤沢ではないけれど、2-3人分は行けたはずだよ?」

「そ、それが……。他のお客様との取り合いになっておりまして……。偶々、タイミングが悪く、エルフ族の方の分が無くなりまして……」

「でも、順番通りに提供したのだから、順番を無視するのは客側が悪いのでしょう?」


「私も昨日知ったのですが、どうもカジノのオーナーがVIPとして扱っているお客様であったらしく、『どういうことだ!』と、オーナーからも責められまして……」

「そう……。そうしたら、今日は最優先で提供するしかないですね。何かそのお客様から特別な注文は入ってますか?」


「アサリさんなら分かるかもしれませんが、『鳥の照り焼きソース仕上げ』か『チキンカレー』なる物がご要望として挙がっております。ご提供頂くことは可能でしょうか?」


「素材はあるけれど、どちらもソースというか調味料が無いですね。どうしようかな……」


 少し困った素振りを見せると、調理場の面々も執事長もオロオロし始める。ステラが要求するのは間違っていないけれど、私が留守のときの事故は仕方ないよね。仕方ないから、朝はサンドイッチ、昼はパスタ、おやつにホットケーキ。そして夜はスパイスと香草で仕上げた鳥の蒸し焼きでいこうかな?

 まぁ、ステラも多少は我慢してくれるでしょ。


 メニューを決めてから5人前分を盛り付けた状態で冷蔵庫に入れて、下味やソースが必要な物は下ごしらえをして、あとは直前に温めて併せて出せば良い状態にして、その出し方も指示を出してから調理場を後にした。

 これで、今日1日は部屋でゆっくりしていても大丈夫かな?


ーーー


 部屋に戻って自分の鞄から人数分の食事を出して念話会議の準備を始める。一応、司会は私がすることにしたけれど、状況説明や方針の最終決定はリチャードに決めて貰うことを口頭で打ち合わせをしておいたよ。


<<皆様、朝からお集まりいただきありがとうございます。

 リチャード殿下より、現状の説明と課題を共有し、皆様の意見を伺いながら今後の方針を決めたいとのことです。皆様のお知恵や支援が頂けますと幸いです>>


 と、私が念話で参加者全員へ挨拶を通した。その後はリチャードが現状問題となっていることを説明し、他に魔族に対して困りごとが無いかの意見を募った。その中にはリサからの教団に対する治療施設についても問題点として挙がっていたよ。


<<以上をまとめると、

(1)魔族の国の金貨の贋金を作っている疑惑をかけられていること

(2)魔族の金貨に換算して、既に6万枚以上の賭け金の払い戻しがされていないこと

(3)飛竜族の卵を輸入し、飛竜族の意思を無視して研究所に捕らえていること

(4)教団は治療施設とは名ばかりの施しを行い、治療費を搾取していること

(5)銅の精錬施設を書類上買い取ったが、納税の可能性があること

(6)各所で契約書を元に犯罪奴隷に近い待遇で働かされている種族がいること

ですね>>


 と、皆の懸案事項が出そろったところで、私が整理して念話を通した。

 こう並べてみると、魔族の国側に明らかな非があるのは(2)の金貨の払い戻しぐらいなんだよね。


(1)は魔族側が「問題ありませんでした」と言い切ったら、それで解決する話。まぁ、嫌疑を晴らして明文化しておく必要はあるけれど。

(3)は「人族が飛竜族から卵を盗んでいたとは知らなかった。我々は、珍しい卵を買い取って、それを育てているだけ」と主張されたら責任は人族にあることになる。

(4)は言い掛かりと言われてもおかしくない。何せ教団は治療の効果を「治療を受ければ治る」と、明言してないから、努力目標であるし、効果に個人差があると言われたら仕方ないよね。

(5)は上物うわものは我々が権利を持っていても、土地の所有権をもっているのが魔族の王国なら領地へ税金を納めるのは仕方ない。ここは確認が必要だね。

(6)は契約書が結ばれているなら、正当な対価を支払うしかない。それが詐欺まがいの契約だったとしてもクーリングオフ制度の様なものが無いのだから、無知でありながら契約書にサインをしてしまった側が悪いってことになる。


 うん。思ったよりも面倒な状況だね。

 けれど、(2)の正当性が認められれば、魔族は契約で信用通貨であることを明言している以上、人族やエルフ族の金貨で600万枚相当を準備しないといけないよね。だから、その対価として各種施設を購入するっていうのは有かもしれない。


 相手が王族と教団だと軍事力を盾に契約の破棄をいい出す可能性があるからね……。


 ん?例えばだけれど……。


 魔族側が「軍事力の示威」として飛竜を飼育していることを開示してきたとすると、飛竜族の意思で魔族を襲撃してもらうことができるんじゃないかな?

 飛竜族側からすれば、種族の不当な捕縛に対して会話が成立しないのだから、武力解決を採用するのは有り。他の種族は中立的に見守る立場でも問題ない。


 この状況が成立すると、仲介する立場として和平交渉と借金の返済、そして王都の立て直しに向けた調停が必要になる。更には信用通貨にしろ、飛竜の研究にしろ、カジノの出資にしろ全て教団の戦略と認められるので教団の解体に持ち込むことも出来るかもね。


 皆が同調してくれるなら、魔族の人達にどうやって「研究施設の飛竜を使った示威行動」を実行させるかって話だね……。


 ちょっと、皆に意見を聞いてみようかな?


<<リチャード、ちょっと思いついたことがあるのだけど、発言宜しいですか?>>

<<ヒカリ、なんだ?>>


<<いろいろな意見を整理して分かったこととして、魔族側で言い逃れができないのは、賭け事ギルドが抱えた借金の肩代わりぐらいしかないと思う。後は書面で残されている訳ではないから、契約とか証拠を盾に交渉されたら、訴えるこちらが不利だと思う>>


<<んん……。確かに今まで列挙した事柄が確認されているが、教団の指示だとか魔族の王国の指示といった話は無いな>>


<<そうだとすると、国家や種族間の取り決めを契約書に基づいて実行している魔族の国としてみたら、契約書が残っている以上、賭け事ギルドの借金を返済しなきゃいけない。

 けれど、皆が薄々感じている様に、魔族の国が破綻する規模の人族やエルフ族の金貨を準備しなくてはいけないよね?>>


<<当たり前のことだな>>

<<どうすると思う?>>


<<まず、契約自体の無効にしようとするだろうな>>

<<契約書として、教団と魔族の王国の分割支払いの借用書を書かせたのでしょう?

 契約書自体は無効化できないね>>


<<次は、借金の元となる勝負自体の無効化をするだろう>>

<<多くの観客の前で開催された競技の結果だから、勝負自体は無効化できないね>>


<<勝負自体が無効化できないなら、賭けをした人に不正行為があったとでっちあげる>>

<<武闘大会もゲーム大会もテイラーさんや教団の幹部が立ち会って賭け札を購入しているから、賭け札の購入行為を無効化するのは難しいね>>


<<だから、賭けに使われた賭け金の入手元が不明として、軟禁状態にある訳だな>>

<<そうだね。けれどカサマドさんが銅の精錬所で授受の記録を開示して、尚且つ魔族の金貨が無くなっていることを示しているから、魔族の金貨の入手元は問題ないことになるね>>


<<ヒカリ、これまで整理した内容を詳しくおさらいしただけだな>>

<<契約書の無効化が不可能であると、皆で再認識出来たよね。

 国家が破綻する規模の借金を抱えて、通貨の信用崩壊を起きるわけだけど、それを魔族の国が受け入れると思う?飛竜の研究をしてまで軍事力を高めようとしているのに……>>

<<私が魔族の国の国王であれば、国を明け渡すか、最後の手段として軍事行動にでることになるな>>

<<借金の元を作ったのは国王じゃないし、国王が王座を明け渡しても、経済戦争を仕掛けられている訳ではないから、借金の問題は解決しないね>>


<<だったら、もう借金の主と勝負するしかないだろう?>>

<<何で勝負する?

 契約書に関する証拠固めでは負けている。

 個人戦の闘技でも人族の冒険者であるフウマが独り勝ちしている。

 知能戦でもアリアが勝敗を制御できることは何となく理解されている。

 銅の精錬所では、水の出る樽とか本物の指輪が確認され、技術力も負けている。

 どうしよう?>>


<<ゲーム大会で勝負を挑むか、飛竜を仕掛けるしかないんじゃないか?

 ただ、ゲーム大会は「何故多額の借金を抱えることになったか」が判明していない以上、正式な勝負項目に挙げてくる可能性は少ないだろう。

 こちらが飛竜の研究について何も知らないとすると、虚勢を張って、『飛竜が軍事力と成り得る』ことをチラつかせて、我々に譲歩を求めようとするのでは無いかな?>>


<<他の皆様も魔族の側に立って考えて、借金の契約書を無効化する方法の意見を頂けますか>>


<<リチャード殿下、ヒカリ様、意見を宜しいでしょうか>>

<<スチュワート様、どうぞ>>


<<今回はステラの賭け金の払い戻しのトラブルに巻き込んでしまい申し訳ございません。また、種々助力頂いていることに感謝します。

 私は飛竜の件を良く分かっておりませんが、ステラが勝ち得た賞金が問題の根源であるならば、換金可能な物や利権で支払っていただき、それ以外は領土の割譲と長期返済の契約を結ぶことで如何でしょうか?>>


<<ああ……。申し訳ございません。

 今念話に参加してもらっているメンバーですと、飛竜族のことを知らない方はスチュワート様だけで宜しいでしょうか?

 今はカサマド様は王都へ旅程ですので参加されていないはずで……>>


<<ヒカリ様、飛竜ではなく、飛竜族なのですか?>>

<<スチュワート様は私やリサのうなじに飛竜族の加護の印があることをご存じですよね?>>


<<はい。この目で拝見しておりますが、そのことと飛竜の研究に関係があるのでしょうか?>>

<<飛竜族は高度な魔法が使えます。ですので、今回魔族が飛竜族に対して行っている行為が彼らに知られたら、彼らは大群で押し寄せて魔族を滅ぼすでしょう>>


<<ヒカリ様、確か北の大陸では飛竜を飼いならして飛竜騎士団を構成していると聞いたことがございます。すなわち、馬とか羊のような飼育できる生物なのではございませんか?>>


<<ステラ様、個別の念話でスチュワート様に飛竜族の説明をお願いします。

 スチュワート様、申し訳ございませんが飛竜を研究することの重大さについてご理解いただけましたら、再度お話に加わって頂けますでしょうか。

 他にご意見はございませんか?>>


<<ヒカリさん、私も意見を良いかしら?>>

<<は、はい!>>


 ここでマリア様から発言を頂くことにした。


<<魔族の国で息子と義理の娘を支援頂けている皆様には日頃より感謝しております。改めてお礼を申し上げます。

 ヒカリさんの意図としては「契約を破棄できな以上は、飛竜の研究で示威行動をしてくるはずだ」ということよね。

 であれば、(1)飛竜の研究をしていることを魔族自ら認めさせること(2)飛竜族と魔族の戦争を見守ること(3)調停に係る条件のついでに我々にとって妥当な線を予め作っておくこと。この3点をこの会議で決めれば良いのではないかしら?>>


 流石はマリア様だ。国家間戦略に長けてらっしゃる。私が言いたかったことを簡潔に纏めて何をすべきかを皆に提示してくれる。

 私だったらこうはいかないよね……。見習うべきことが多いよ……。



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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