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9-21.作戦会議(1)

 魔族の国にある飛竜の研究施設は確認できた。

 研究員が案内してくれたお陰で、飼育されている飛竜族の人達の数も把握できた。

 さて、どうしたものか……。

<<先ず、実際に施設を見てきた4人で念話を通すよ>>


 リサ、リチャード、クロ先生と私の4人で情報を整理することにした。クロ先生は人間たちの会話に割り込むことも無いし、作戦を立案することも無いけれど、念のために共有しておくことにしたよ。私達が見落としていることがあって、そこを確認すれば答えてくれるだろうからね。


<<お母様、発言宜しいですか?>>

<<あ、はい。リサ、どうぞ>>


<<研究施設で飼われている飛竜族の方達に心は有りませんでした。

 彼らを救出した後、我々では会話が成立しませんので、場合によっては殺す必要があります。そこを共有させて頂きます>>


<<リサ、ありがとう。私も念話が通らなかったことを確認したよ。

 救出することと、救出した後のことも考えないといけないね>>


<<はい。この状況をこのまま飛竜族の方達に伝えたら飛竜族との戦争になります。お母様は何か良い知恵があるのですか?>>


<<リチャードを含めて大方針を決めないといけないと思う。


 一番単純な作戦なら、研究施設を破壊して飛竜を救い出すだけ。これなら今晩実行できる。けれど、『人族の仕業に違いない』って、痕跡が残るだろうし、その場合には魔族の国と人族の国での戦争になる。当然、お世話になった研究員と家族も酷い目に遭うだろうね。


 次の案として、飛竜族にありのままを伝えて、飛竜族と魔族とで直接的な戦争をしてもらう。この場合は、戦争が何年も続くだろうし、魔族の国からの依頼で人族の盗人や冒険者達が駆り出されて、飛竜の巣を攻撃しにいくことも視野にいれなくてはいけない。そうすると飛竜族としては人族も魔族も敵対対象と見做して、戦争に関係する種族の範囲が拡大していくことになるだろうね。


 最期は、魔族の国へ正式に「飛竜族に関する研究を止めて欲しい」と、王族間での申し入れをする。当然ながら魔族からの反発が予想されるし、人族だけが飛竜族を飼いならしている現状の優位性があるので、そこへの不満は解消しない。

 飛竜に関する研究の意見について物別れが生じてから、飛竜族の方達に現状を伝えて介入をしてもらう。すると、飛竜族と人族の友好は失われないまま、魔族の国を潰すような戦争が始まることになる。

 時間は掛かるけれど、これは割と決着の付け方と被害の範囲が最小限で済むように思える。


 私の考えは今のところそんな感じかな>>


<<お母様、意見を宜しいでしょうか?>>

<<リサ、どうぞ>>


<<お母様の考える第一案をもう少し穏便に進める方法は無いのでしょうか?

 例えば、フウマ様やシズク様と連携して、こっそりと囚われている飛竜族を救出するのです。そして救出した後は、眠らせるなりなんなりして飛竜族に返すのです。

 そうすれば、飛竜族としても最低限の犠牲で済みますし、人族が介入した痕跡もほとんど残りません。魔族の飛竜に関する研究が途絶えることになります>>


<<ん……。色々なスキルを駆使すれば、リサが提案する方法も出来ると思う。


 けれど、魔族の逆恨みがどこに向かうか判らない問題があるね。人族やエルフ族へ向くのか、あるいは種族間の交易での不平等契約が今より更に進むのか。

 もう一つは、魔族の国で飛竜の研究を根絶やしにすることは出来ず、場所と人を変えて似たような研究が再開されることになるね。今回よりももっと厳重に隠蔽された研究として進められることになると思う。

 どちらの問題にしても人族は無関係の立場を貫くので、魔族のやることの後始末を後手後手で対応することになるね>>


<<私の考えが足りないことが判りました。進めて下さい>>


<<リサの意見を否定するような意見でごめんね。リチャードはどう思いますか?>>

<<ヒカリ、魔族は飛竜を使って何をしたいのだろう?

 契約書上は人族もエルフ族もドワーフ族も1:100の金貨の交換レートに従わされている。領地に関してはサンマール王国は人族が支配していた領地を半分近く失っている。ドワーフ族は主要な村一つを専有されて、銅の精錬所で働かされている。エルフ族や獣人族は国境を隣接していないせいかもしれないが、今後魔族の領域が拡張されればターゲットになるのかもしれない。

 魔族としては経済的にも商売的にも十分に支配できているはずだ。飛竜の力は必要無いと思わないか?>>


<<魔族は安全な立ち位置のまま、他種族を支配下に置きたいと考えているのだろうね。だから、抑圧された他の種族たちが一斉蜂起をしたときに、それを鎮圧できるたけの武力が必要だと考えていて、それが飛竜の研究なんじゃないかな?>>


<<それは不味いな。魔族の国が飛竜族の力を手に入れたら、我々では介入できなくなる。まして、ヒカリやリサに次ぐ世代交代が起きたら、飛竜族と人族の交流が失われて、戦争は一方的なものになるだろう>>


<<いま、私たちは他国だけでなく他種族の戦争にも介入できる戦力をもっていると思う。だからこそ、その力を適正に使いたいかな。

 囚われている飛竜族を救出することは簡単。ステラ達を救出することは簡単。でも、また同じことが起こるのは避けたいよね。

 ここはかなり複雑で外交手腕を要する事だから、良く考えて行動したいかな>>


<<ヒカリ、これはエスティア王国で扱うには大きすぎる問題ではないか?>>

<<うん。その場合、私たちは観光をして帰る。ステラ達にも自力で脱出してもらう。

 それでお終いかな>>

<<そうか……。そういう選択もありか……>>


<<お父様、お父様はそれが本当に正しい姿だとお考えですか?あの閉じ込められている飛竜族の方達を見てなんとも思わないのですか?正当なルールで賞金を得たステラ様やアリア様が軟禁されていることは問題ないのでしょうか?

 少なくともアリア様とミチナガ様はエスティア王国の国民なので、他国の不当な圧力に屈する訳にはいかないはずです!>>


<<ヒカリ、この問題を保留にできる時間はあとどれくらいあると思う?そして、念話を使えるメンバーのうち、どこまでこの話を共有しても良いと思うか意見を聞きたい>>


<<ステラ達の裁判が行われるまでは一週間程度。その前までにアリアやステラを救出するかエスティア王国として正当な権利を主張して邦人を保護すべきだね。

 飛竜族の件に関して、今回とは別の形で訪問するとなると、私たちは目を付けられているから、簡単には入国できなくなる。

 一方で、魔族の国は信用通貨崩壊のダメージから回復するために、飛竜族の研究は一旦停止になるかもしれない。そうしたら今囚われている飛竜族を救出する機会は失われてしまうね。陰からこっそり救出すると、その暗躍した種族が人族とエルフ族へ想定されて、いろいろな報復措置を受けることになるから気を付けた方が良いと思う。

 結局のところ、邦人救出と飛竜救出は同じタイミングで交渉の場に載せる必要があると思う>>


<<つまり、考える時間を纏めて、作戦を準備するために残された期間は一週間というところか>>

<<多少はズレるだろうけれど、目安としてそれぐらいだね。

 協力をお願い出来る人としては、マリア様と南の大陸に住む飛竜族、あとは海人族も声を掛ければニーニャが空飛ぶ船で連れて来てくれるかもしれない。私が一週間以内に支援を要請できる仲間はそこまでかな。

 念話を通してエスティア王国の王様を連れてくることは困難だし、トレモロさんの助力を期待することはできないよ>>


<<ストレイア帝国はどうだ?>>

<<今は関わりたくない。皇后様にエスティア王国を攻める作戦を実行して貰いたいし、それをロメリアで迎え撃っておきたいからね>>


<<ヒカリ、ストレイア帝国の話は保留にしよう。

 では、南の大陸にいて、念話を使えるメンバーで話をして、魔族の国を制圧する作戦を考えることで良いな?>>


<<制圧するという表現が正しいか判らないけれど、飛竜族の救出とステラやアリア達の救出をして、問題を再発させない状況を作ることだね。

 あと、念のためだけど、寝てる人には声を掛けても念話は通らないよ。>>


<<分かった。クロ先生やリサの意見が無ければ今日は寝ることにしよう。

 皆、どうだろう?>>


<<とくに意見は御座いません>>


 と、クロ先生もリサも答えてくれた。

 一旦、念話会議は終了だね。


ーーー


 私は誰が起きているか判らないけれど、片っ端から一報を入れて、明日にでも全体での念話会議を開催したいことを伝えることにしたよ。


<<フウマ、起きてる?>>

<<姉さん、なんだい?シズクと念話中だよ。鳥の飼育施設を偵察しているんだって?>>

<<鳥の飼育施設は観光だよ。ついでにバックヤード見学をさせてもらったから、こんな時間になった>>


<<それで何か分かったのかい?>>

<<飛竜研究所があった。囚われている飛竜族の人数も把握できた>>


<<姉さんの手に掛かると、全てのことが一瞬で片付くんだね>>

<<それは無い。今回はたまたまだよ。

 それはそうと、リチャードが今後の進め方を相談したいらしい。

 魔族との交渉とか、その後の種族間の不平等を無くすための条約の作成とか、飛竜の研究を凍結することとか>>


<<いつからその打ち合わせをするんだい?>>

<<皆が寝ているだろうから、明日の朝かな。今、起きてそうな人に声を掛けているよ>>

<<わかった。いろいろ考えておく。姉さん達も気を付けて>>

<<ありがとうね。シズクさんにもよろしく伝えておいて>>


 次はステラ達かな?


<<ステラ、まだ起きてる?>>

<<ん、ん……。ん……。ううん……>>


 これは……、うん。不味いタイミング。

 人の感情が伝わってくる念話での事故だね。

 明日怒られそうだけど、明日もう一度念話を流そう。


 アリアは大丈夫かな?


<<アリア、起きてる?>>

<<は、はい!カジノの宿泊施設のシャワーを借りています!>>


<<調子はどう?>>

<<スチュワート様の凄さに脱帽です。

 詳しいことは省きますが、先ほどまで二人で大勝利を収めていました>>


<<そっか。楽しめているところ悪いのだけど、飛竜研究所が発見できたから、明日から念話会議を始めたい。参加して貰える?>>


<<流石はヒカリ様ですね。本日のカジノ食事が普通の食事しかでないので、ステラ様は機嫌が悪かったんですよ?スチュワート様がチョコとコーヒーで宥めていましたが……>>


<<そ、そうなんだ……。私が飛竜研究所を発見できたのは偶然だけどね。じゃ、明日よろしく~>>


 うん。ステラとスチュワートさんが夜元気なのはそういうことね。

 私が原因だとは思いたくもないけれど、凄く怒られそう……。

 でも、あの二人が親密な関係であることは世の中が平和になるんじゃないかな?


 あとは、モリスとマリア様に声を掛けておこう。


<<モリス、起きてる?>>

<<ヒカリ様、どうされましたか?>>


<<簡潔に言うね。飛竜研究所が見つかった。ステラ達ともカジノで合流できている。魔族の国との交渉を進めるために、いろいろと作戦会議を開きたい>>


<<承知しました。このことを知っているのは、何方どなたでしょうか?>>

<<リチャードと私とリサの3人。護衛役のクロ先生。

 さっき、フウマとアリアには念話を通して、連絡を入れた。

 ステラとスチュワートさんには、上手く念話が繋がらなかったので明日の朝になる。

 今、モリスに念話をいれているので、サンマール王国の拠点周りはモリスにお願いすることになるかな。流石にこの時間だと寝ている人も多いだろうしね>>


<<承知しました。マリア様、ニーニャ様、シオンくんには私から朝にご連絡をいれます。海人族、飛竜族、妖精の長達には如何いたしましょうか?>>


<<飛竜族は内容も情勢も難しいから伝えるタイミングを慎重に検討したい。海人族は今のところ要請が必要な状況ではないかな。妖精の長達にも隠す必要はないけれど、支援してもらう様な状況にはなっていない。

 というか、その作戦を考えるのは私達人間の仕事だと思っているよ>>


<<承知しました。では、また明日の朝に!>>


 ふぅ……。

 これで主要メンバーには連絡を入れられたかな?

 明日の朝からでも問題は無いはず……。


 よし!明日に備えて寝よう!

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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