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9-19.魔族の国の観光(3)

 鳥の飼育施設で出てきた食事に疲れてしまったので、私は普通の食事を求めたさ!

 別に悪いことじゃないよね!

 施設の食事コーナーで名物とされる料理にげんなりしてしまったので、私はリサに与える振りをしながら、自分の鞄のなかから完成品のサンドイッチとパンケーキを取り出す。パンケーキのほうは冷めてて、ソースもかかってないから、別の器を取り出して、生クリームとフルーツとジャムを皿の上で添えた。


 うん。気分は上々!

 ちょっと疲れた気持ちが回復したよ!


 あとは視界に鳥料理を入れないようにしながら、何か飲み物を出そうかな。

 簡単な野菜スープで良いかな。

 よしよし、良いんじゃない?

 

 と、リサから念話が入った。


<<お母様、何をしていますか?>>

<<何って、リサと私の分の食事を並べているだけ>>


<<そんな、見れば分かるようなことを私が質問するわけがありません>>

<<いや、だって。美味しくないから普通の食事をしようかなって>>


<<そんな普通じゃない料理をだしたら、周囲の目を引きます。目立ちます!>>

<<ええ~~。じゃぁ……。仕舞うよ……>>


<<今更遅いです!通訳の人は良いとして、ガイドのお姉さんの好奇な視線をなんとかしてください!私も食べにくいです!>>

<<じゃぁ、聞いてみるよ……>>


 私は片言しか喋れない風を装って、魔族語でガイドのお姉さんに話しかける。


「お姉さん、食べてみますか?」


 と、私の呼びかけにビックリして返事が出来ない様子。

 私が魔族語を話せたことなのか、それとも料理の提供を持ちかけられたことなのか。こちらとしてみれば、リサが気になるレベルで観察されていたのだから、そんなことを気にしてくれなくてもいいのに。


「沢山あります。分けられます」


 と、片言な魔族語で継続して会話を試みる。

 二回目の問いかけには、やっと反応をしてくれた。


「それは何ですか?」


 なるほど。食べ物として認識されていない。

 いや、食べ物のと知ってて、料理名を聞いているのかな?


「これは、パンで肉や野菜を挟んだ物です。こちらはパンにフルーツとソースをかけた物です」


「どこで購入したのですか?」


 なるほど。王都のどこかのお店で買えると思ったらしい。

 この場で少しのおすそ分けをして貰うより、自分で満喫するまで食べに行きたいと思ったんだね。それは良い手かもしれない。王都のお店で売っていればだけれども。


 さて、どうやって話を続けようかな?


「王都にあるカジノで貰いました」

「どこのカジノですか?」


 食いつきが良いな。絶対に自分で食べに行く気満々だ。

 私がいないと料理は提供されないけれども。

 そして、このサンドイッチとパンケーキはメニューとして公開してないから食べられないんだけど……。

 ちょっと、複雑な魔族語は分からない振りをして、通訳の人にエスティア語で話しかける。


「すみません。ガイドのお姉さんに、私達が宿泊しているカジノの名前を教えてあげてください。ただし、期間限定の料理人が作っている様ですと口添えしてください」

「ヒカリ様、承知しました」


 通訳の人が私より丁寧に、上手く情報を隠す様にして説明をすると、会話を重ねるうちに、どんどんとお姉さんの顔が曇っていった。独占して自分で楽しむことを諦めざるを得ない状況を悟ったんだろうね。


 ちょっと、可哀想だからここに出ている分を譲っても良いかな?

 ただし、譲った後に追加の料理を出すとなると、今度は私の鞄の容量がおかしいことが問題になる。ここは避けたいのだけど、料理を他の人に持ち物に分散してこなかったのはしくじったね……。


<<お母様、譲る気ですか?>>


と、場の雰囲気を読んだリサから念話が入った。


<<ああ、うん……。でも、鞄の容量が……>>

<<ダメに決まってます。ここに出ている容量以上に料理をだしたら怪しまれます!>>


<<そうなんだよね……>>

<<お母様が我慢するのは構いません。私も我慢するのですか?>>


<<あ、いや。判ってる。判ってるんだけど……>>

<<中身をクロ先生かお父様の鞄に移してください。それなら問題ありません>>


 リサの危機管理能力が凄い!

 すかさずクロ先生に念話を通してから机の下で鞄の中身を受け渡す。


「あの、私達の物ですが、食べますか?」


 と、片言の魔族語で通訳の人とお姉さんの会話に割り込む。


「ええ?良いんですか!」

「はい。この人が余分に持っています」


 この食いつきようは凄いね。

 食べたこともない、見た目だけで、ガイドとして知り合っただけの他種族の食べ物に興味を惹かれるっていうのは……。普通じゃないんだろうけれど、それだけ目を引いたってことかな?


「あの、おいくらで分けて頂けるのでしょうか……」


 ちょっと難しい言い回しが使われているので、通訳の人の方を向いてニッコリとほほ笑む。


「ヒカリ様、そちらの昼食を頂けるなら、幾ら支払えば良いかを確認しております。

どの様に交渉しましょうか?」


 いやいや。パンのレシピは南の国に持ち込んでいないけれど、パン自体は大量にゴードンが持ち込んでいる。だから、ほとんど材料費みたいなもん。他の中身は機材と手間を抜きにすれば、市場で簡単に買える物ばかり。

 これに正規の値段をつけると、銀貨2-3枚でおつりがくる。ところがカジノでは一人前当たり魔族の金貨1枚とかで提供しているらしいよ?

 どうしたもんだか……。


「ええと、通訳の方はカジノで提供されているこれらの料理のお値段はご存じですか?」「はい。存じ上げております。ランチで魔族の金貨1枚、夜で魔族の金貨5枚で提供されております」


「ええ?そんなに?」

「はい。ガイドの方にはカジノで提供される料金は提示しておりません。貴重なものとだけ伝えてあります。ヒカリ様のお好きな価格を提示できます」


 そっか。カジノとしては私達に支払う以上の対価を顧客から貰っていたってことね。今回私達は対価に何を貰えば良いかというと、お金は要らないんだよね……。

 彼女が出来そうなことなら、生みたて卵のお土産とかを貰えれば良いかな?


「彼女では正当な価格は支払えないでしょうし、カジノに来ていただいても注文できないと思います。ですので、ガイドとしてできる精一杯のおもてなしを無理のない範囲でお願いしてみてください」


「承知しました」


 通訳の人にガイドのお姉さんとの交渉をお任せして、私はクロ先生が出してくれた別プレートをリサに食べさせつつ、自分も食べる。

 お姉さんはこちらの食事の様子をチラチラと見つつ、通訳の人が提示している条件に対してウンウンと頷く。頭の中がグチャグチャなってそうだね。

 まぁ、出来る範囲でいいんだけどさ?


 私達が料理を食べ進めて、終盤に差し掛かったところで、通訳の人とガイドの交渉が終わった。終わったんだけれど、今からガイドの人が食事をするの?私達はぼ~~っと待ってるだけになるんだけど……。


「ヒカリ様、少々よろしいでしょうか?」

「どうなりましたか?」


「交渉はまとまりました。こちらの2つのプレートは、研究員がお持ちの保温庫へ格納させて頂きたいとのことです。

 皆様の食事がお済みになり次第、案内を続けさせて頂きたいとのことです。ここまでは宜しいでしょうか?」


「はい。それで?」

「続きまして、対価についてですが、皆様の観光が終わり次第、研究員用の夕飯をご一緒してから、研究資料のあるバックヤードへご案内させて頂くとのことです」


「それが私たちのメリットになるのですか?」

「先ほど、展示コーナーのを案内されている最中に、飛竜に興味がおありの様でしたことを覚えていらっしゃいました。ですので、特別にそういった一般公開出来ない資料につきまして、内密にご案内させて頂くことができるとのことです」


「まず、飛竜にそれほど興味がある訳ではございません。

 それに、一般公開されていない内容を研究員が勝手に見学ルートに組み込んでしまいますと、何らかの責任問題になりませんか?」


 ここは通訳の人が我々の完全な味方では無い以上、飛竜に関しての興味を下手に勘繰られるのは不味い。そして、それを元に魔族の王族や教団に目を付けられるのは絶対に避けたい。一般的な会話の範疇を超えないところでけん制しておいた方が良いよね。


「そうでしたか……。それは残念ですね。

 彼女には我々に支払える対価が他にありませんので、今回の話はなかったことなります。力不足で申し訳ございません」


「あ、いや、ええと……。分かりました!

 交渉ありがとうございます。もう、ここに出したものを仕舞うのは難しいので、彼女に差し上げてください。対価につきましても閉園後のバックヤードをご案内頂くことで構いません。よろしくお伝えください」


「ヒカリ様、承知しました」


 ふむ……。気が利くのは良いことだね。けど、まだ飛竜関連のことを通訳の人に知られちゃうわけにはいかないからね……。ここはしょうがないね。

 よし!バックヤード見学迄の時間を適当に潰して待てばいいね。


 昼食を食べた後は、珍しい鳥を見学したり、食用の鳥や卵を採取する施設を見学した。 鳥の飼育施設では日本の鶏とかチャボの様な飛ぶのが不得手で、大きめの卵を産む品種が飼育されていた。この品種と飼育方法をサンマール王国やエスティア王国で導入出来たら結構良いんじゃないかなって思った。

 卵を入手するために飼育するのは異世界あるあるって、聞いたことがあるけれど、ここにあるの飼育技術は異世界人の誰かが導入したのか、それとも自発的に発生したのか……。でも、街中で安い卵料理やお菓子を見かけなかったよね……。まあ、いっか。


 ガイドのお姉さんは皆で夕飯を食べるとき、昼間にプレゼントしたサンドイッチとパンケーキを食べていたよ。なんか、とっても満足そうな顔だった。これで研究施設の案内が捗ってくれると良いんだけど。


ーーー


 そして、とうとう本命のバックヤード見学。


「こちらが飛竜の研究施設になります。卵を孵化させる技術は鳥の飼育施設にあるものの応用になります。飛竜の育成には大量の餌が必要と考えられているのですが、飛竜そのもの生態の研究が不十分なため、餌は鳥と同じ飼料を与えています」


 そっか……。

 ここに飛竜の研究施設があったんだ……。

 飛竜の卵を孵化させているってことは、卵も産ませることが出来てるのかな?それとも人族の盗賊団に任せて、そこの経路から入手してるだけなのかな?養殖の飛竜だけで研究が成立していて、天然の飛竜がこれ以上被害を受けないなら問題無いけれど、もし天然の飛竜からの卵しか研究できていないとすると大問題だねぇ……。


<<お母様、ここで飼育されている飛竜たちは全て自然の飛竜の卵を元にされています。魔族の国では人工的に飛竜の卵を採取することは出来ていない様です>>


 なるほど、なるほど。

 流石は飛竜探知機。天然物と養殖物を判別できるんだ。

 わざわざ危ない橋を渡って研究員に質問する必要が無くなったね。


<<リサ、何か気が付いたことととか、聞きたいことはある?>>

<<亡くなられた飛竜族の方達には申し訳ないですが、今は生存している方達の救出です。この施設や関連施設で何人の飛竜族が囚われているかを知りたいです>>


<<分かった。ちょっと聞いてみる>>


 私は通訳の人を通して、貴重な研究施設を見学させて貰ったお礼を伝えることにした。


「貴重な研究施設を紹介頂きありがとうございます。厳重に管理しないといけないことも良く分かります」


「ええ、そうなんです。

 それに、研究自体も未だ道半ばな状態でして、成獣と言われるサイズにまで成長したのは3頭のみです。その3頭すら我々の手に負えず殺すか、あるいは餌や環境が合わなかったのか数年で死んでしまいました。飛竜の飼育はとても難しいのです……」


「とすると……。今現在、育成に成功している飛竜は何頭ぐらいいるのですか?」


「孵化器に掛けているのが先月から6セット。人族の商人が運んできた卵になります。あとは育成中が4頭で、ほぼ成獣に近いサイズが1頭です」


「それは、それは。人が扱える飛竜はとても貴重なものなのですね。飛竜の研究が一般に公開されていないことも良く分かりました」


「そんなに喜んで頂けるとは、ご案内させて頂いて良かったです。

 それで……。

 本日は私が餌やり当番ですので、施設の中で一番大きな飛竜を見学できますよ。

 如何されますか?」


「はい、是非お願いします」



 いや、あのね?

 私の作戦じゃないからね?

 偶々、鳥を飼育している施設見学をして、偶々研究員のガイドが私たちの昼食に興味を示して、偶々バックヤード見学が対価として提供頂けることになっただけ。

 夕食会のみんながこの状況を聞くと、『ヒカリがまた勝手に行動している』とか言われそうだよね。でも、今回はリチャードもリサもいるから大丈夫。

 うん、大丈夫なはず!


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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