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9-18.魔族の国の観光(2)

 さ!気を取り直して、鳥の飼育施設を見学にいくよ!

 午前中は教団の治療院の見学だけれど、最後の方は何も見ずにスルーしたので、お昼ご飯までは結構余裕のある時間で終わった。


 通訳の人に次の見学地へ行きたいとお願いをすると、王都の城門を抜けてから、私達専用に手配した馬車に乗るように案内された。2時間近く揺られながら草原を通って森の中へ。そのまま傾斜道をジグザクと登りながらを山の中へ入っていった。なんだかんだでお昼過ぎちゃったし、随分王都から離れた辺鄙な所にある施設だね。

 まぁ、鳥獣の臭いはそれなりに付近へ漂うから山中に施設を構えるのは分からなくもない。王都の町並みがとても綺麗に作られていたので、観光客や他の国からの訪問者への威光の見せどころでもある。そこへ獣の臭いで気分を害するのは避けたいところだよね。


 鳥の飼育施設って、日本でいう動物園みたいな感じで、色々な鳥が見学できるのかな?熱帯地方の密林だと、きっと派手なインコとかオウムみたいなのがいっぱいいるかな?私は動物のことは良く分からないけれど、フラミンゴとかダチョウとかあまり見たことが無い鳥を見学できたら面白いのに。でも、リサの機嫌が直ればそれが一番嬉しいけどね。


 目的地に到着したので馬車を降りて、通訳の人に入場チケットの購入とか、園内で食事ができるのかとか、いろいろ確認をしてもらうことにした。その間、私達は馬車を降りたところで待っていたのだけれど……。


<<お母様!>>

<<リサ、なんか機嫌が悪いままだよ?>>


<<気が付かないのですか?>>

<<何が?>>


<<何がって、飛竜です。この施設に居るに違いありません!>>

<<リサは飛竜探知機?>>


<<お母様、その二つ名は絶対に認めません。許しません!>>

<<分かった。悪かった。もう言わない。

 それで飛竜がこの施設にいるの?>>


<<この施設の中なのかは判りません。ですが、この山のそれほど遠くない所に飛竜が居ます>>

<<ん……。シズクさんに念話を通してみるよ>>


<<フウマさんのチームに進展があったのですか?>>

<<進展があったか判らないけれど、『飛竜研究所の表向きの施設と言われる場所に当たりを付けた』とか言ってたかな。

 もし、この辺りにその施設があるなら、リサの……、素晴らしい能力とフウマ達の調査結果が一致することになるね>>


<<この位置をどの様に伝えるのですか?>>

<<魔族の国がこの辺りを領地マーカーで囲って無ければ、私が単独で領地マーカーを置く。その位置を確認して貰えば良いかな>>


<<領地マーカーですか。良く分かりませんが、それをお願いします>>


 そっか。リサは領主という役職に就いたことが無いから領地マーカーとか関係なかったのかな。そのうち仕組みを理解して貰おう。使い方次第でいろいろと便利になるからね。

ーーー


 早速周辺の土地を確認したところ、この馬車の停車場の周りと、森の途中、そして山の周辺一帯が領地マーカーで囲われていることが確認できた。

 領地マーカーのある所へ侵略するのは不味いので、ちょっと姿を消して、森の外れの領地マーカーで囲われていない位置まで移動してから、私の単独の領地マーカーを設置した。これで下準備はOKっと。


<<シズクさん、今、念話を通しても大丈夫ですか?>>

<<は、はい。ヒカリ様、なんでしょうか?>>


<<今、王都の外れの施設に鳥を見学できる施設があるっていうので、家族で見学にきたの>>

<<は、はい!>>


<<シズクさんは、私の領地マーカーの設置ポイントを確認する方法をフウマから教わってますか?>>

<<はい。ヒカリ様の過去の作戦で使われたスキルや手法は一通り学習させて頂いております>>


<<王都の東門から北東に10kmぐらい進んだ地点の辺りに、私の領地マーカーを単独で設置したんだけれど、検知できますか?>>

<<はい!探知できました!って、ここは……>>


<<うん。何か気付いたことがありますか?>>

<<私が昨日フウマに報告した『飛竜の研究施設の偽装施設』のある場所にとても近いです>>


<<そっか……。どこまで調査が進みました?>>

<<まだ、偽装施設には潜入しておりません。確か、動物園とか鳥獣が飼育されている施設であったかと思います。ただ、飼育して食肉加工をしているのか、見学者向けに珍しい動物を展示しているのかは、暗くて良く分かりませんでした>>


<<昼間、ここに偵察や調査に来る予定はありますか?>>

<<森と山に囲まれているので明るいうちに偵察をした方が良いと思っています。

 ですが、昼間は子供を一人にできず……。かといって、当たりを付けた場所に飛竜研究所が無い場合、グレハンさんの情報収集を止めることも現時点では危うい状況でして……>>


<<じゃぁ、ちょっと一般客として見学してきます。何か判ったら連絡しますね>>

<<は、はい……。大丈夫というか、宜しいのでしょうか……?>>


<<ええと、何か不味いことあるかな?>>

<<王族が畏敬訪問の形で見学をされるのでしょう?下手に質問をして飛竜に係る内容ですと、隠蔽や移転などの対策をしてくるかもしれません>>


<<ああ、今は冒険者とメイドの身分証で動いているから問題無いよ。一般客だね>>

<<ヒカリ様はフウマから聞いている以上に隠密活動に長けていらっしゃるのですね……>>

<<隠密活動っていうか、偶々食事が合わなくて、皆が不機嫌になるからメイドと冒険者の身分証を使って、宿で調理場借りてるだけだよ。

 そういう意味では、隠密活動よりも食い意地が張ってるだけかもね>>


<<いや、そんなことは無いです。偶におすそ分けを頂くのですが、どれもこれも私が体験したことが無い様な貴重な食料を頂く機会に接することができて光栄です>>


<<そっか。シズクさんは夕食会のメンバーでは無いから、余り一緒に食事をしてなかったですね。今回の作成が上手く行ったら、皆で豪華なパーティーでも開催しよう?そうしたら、シズクさんも功労者として堂々と食事ができます>>


<<その様なパーティーが催されると、警戒や警護の任務が増えるので、結局のところ……>>


<<ん……。身内だけでこっそり開催するから心配しないで。

 じゃ、ちょっと見学してきます。何かあったら追加で連絡しますね>>


<<は、はい!無理をなさらず!>>


ーーー


 元の馬車がある場所に戻って、通訳係の人が戻ってきていないことを確認してから音声会話で皆と情報共有した。


「ヒカリ、つまり飛竜の関連施設の可能性あり、表面上は別の施設を装っているということか?」

「そうだね。だから、一般客を装いつつ、飛竜に関する資料や研究なんかを質問してみて、隠そうとする反応があれば、何かを知っている人か、従業員ですらも情報が開示されていない場所があるってことになるね」


「わかった。そういうことであれば、怪しまれない程度に探りをいれてみよう。本来であればフウマやシズクさんがこういう任務に適しているのだが、事情が事情なだけに、私なりに努力してみよう」


「お父様、頑張ってください!」


 と、リサからも応援があったところで通訳の人が戻ってきた。


 入場券が人数分手に入ったこと。園内で食事ができる場所もあり、料金は街中と変わらないが、こちらで飼育している鳥や卵を使った料理が食べられるとのこと。

 ガイドは一般見学用のガイドでは無く、施設研究員が専門的な意見にも答えて頂ける方にお願いすることにしたとのこと。

 ガイドに関しては多少はお金が掛かるかもしれないけれど、自由に行動ができて、専門的な質問にも答えてくれるならそれの方が都合が良いしね。

 良い感じに進んでいるじゃないかな?


 園内は大きく3つのエリアに分かれていて、1つは研究内容や剥製の展示品がある建物。2つ目は、実際の人工的に作られた植物園の様な空間に鳥が放し飼いにされていて、それを観察できるエリア。3つ目は、食用鳥の飼育をして、お肉や卵を採取するエリアがあることが判った。

 園内を全部詳しく見ようとしたら1日がかりになりそうな規模だし、食事施設があるのは便利で良いなって感じだね。


 先ずは軽く研究や展示品があるエリアを軽くみてから食事をして、最後時間に余裕があったら飼育施設の見学をしに行くことで案内をお願いした。


 ガイドとして雇った施設の研究員が色々と説明をしてくれる。ガイド役を務めるだけあって、20代前半ぐらいに見えるスラっとして容姿が整った女性だった。魔族語での説明だけれど、文法も話し方も綺麗で好感がもてるね。

 魔族語の説明については、通訳の人がエスティア語に翻訳してくれる。こちらもエスティア語で質問をすれば、通訳の人がガイドに伝えてくれる流れだね。今の所、ガイドが説明してくれている内容と掲示物に書かれている内容に相違は無いし、通訳もちゃんとされているから特に問題は無いかな。


 と、リサから念話が届いた。


<<飛竜の研究がされているか、質問してください>>


 まぁ、そうなんだけど。

 直接的な質問は警戒されちゃうから、少し婉曲した表現で触れてみようかな?


「色々な鳥の研究をされている様ですが、飛竜は鳥なのですか、それとも魔物に分類されるのですか?」


 通訳の人は私の質問をそのまま魔族語に翻訳してガイドの人に質問をしてくれた。ところがガイドからは「飛竜のことは良く分かっていません」と、質問に正面から答えてくれようとしない。明らかに話題を避けている雰囲気。


 だったら、こっちも別の角度から情報を引き出そうとしてみようかな?


「飛竜は危険な生物ですから、研究の対象にできないということですよね。北の大陸では飛竜に騎乗する飛竜騎士団があるので、こちらでも研究がされているのかと思ったのです」


 と、人族の方が飛竜の研究が進んでるかのようなハッタリをかまして、研究者の自尊心に揺さぶりを掛けてみる。

 通訳の人が魔族語でガイドに質問をすると、一瞬の躊躇ためらう様な間があったけれど、何も問題が無かったように「それは素晴らしい研究ですね」と返してきた。


 この質問で分かったことは2つ。

 魔族の国でも飛竜の研究に興味があること。そして人間が飛竜を取り扱えることを知っているということだね。

 最初の質問で、「鳥か魔獣か良く分かっていません」と答えているのだから、本来であれば興味も関心もないはず。まして研究家として飛竜が研究の対象として扱えるかどうかすら分かっていないはず。

 けれど、「素晴らしい研究」と反応を返したことから、飛竜が研究対象と成り得ることを知っているということ。そして、その答えをだすために一瞬の躊躇いがあったということは、何らかの研究をしているからこそ、その情報を隠す必要があったということだね

 この場ではしつこく質問して勘繰られるのは不味いから、一旦飛竜に関する質問を止めて、別の場で探りを入れることを念話で共有しておいたよ。


ーーー


 次は様々な鳥が放し飼いにされているエリアを見学するつもりだったけれど、お腹が空いてきたから何か食べたいってことで、先に食事ができる場所に案内をしてもらうことにした。


 ガイドのお姉さんのお勧めは、卵料理と鳥の丸焼きが好まれているとのことで、そのお薦めの2品を大人4人分頼んだ。リサは見かけは2-3歳児に見えているので、幼児でも食べられそうなパンケーキみたいな何かを頼んでおいた。


 まず、リサのパンケーキ。

 これは、色々とダメな奴。カチカチパンでも無ければパスタでも無い。うどんを延ばして広げた様な何か。うどん粉だけで作ったお好み焼きの具材なしみたいな?そこにひき肉みたいな何かが盛り付けられていた。

 リサは一口食べて諦めた。私とリチャードで処分するしかないのだけれど、これは諦めて残しても良いと思う。食事を粗末にしてごめんなさい!


 次に、卵料理。

 スクランブルエッグとか、オムレツとかそんな感じのをイメージしていたのだけれど……。ピータンみたいな何かが出てきた。ピータンは色が黒っぽくても、冷やしてあるせいか、臭いもきつく無く、ゼラチン質に変化した白身を食べたりと、前菜を彩るには良いと思う。

 目の前にあるのは、臭いも硫黄の様な臭いがしてキツイし、色合いも黒ずんでいる。温泉地の火口で作っている温泉卵は外側の殻だけ黒いくて中身は白いし臭いも無い。けれど、これは中身が黒くて臭いわけ。これを卵料理と銘打って出す料理かと言われれば、日本にいた頃には見たことも聞いたことも無いレベル。

 まいったな……。異文化交流というか、異世界交流というか、かなり厳しい……。


 最後に、鳥の丸焼き。

 すみません、すみません!私が悪かったです!

 七面鳥の丸焼きみたいな、何か大きな鳥のお腹に詰め物がされたような、ああいった感じの物を想定していた。あるいは、もう少し小型でもいいけれど、頭やしっぽが無くて、照り焼きにされた様な物を想像していた。


 手の平に乗るサイズの鳥の姿をした丸焼きが出てきた。炭火焼のためか、少し全体が黒ずんだ灰色をしている。羽根はむしられて残っていないけれど、頭も羽の形も、足も残ってる。これを丸ごと口に入れて、骨ごとバリボリと食べるんだって。


 日本にいた頃、父が言うには、中東の方で鳩の丸焼きを頼んだら羽根以外まるごと食べる料理だったとかで、骨がチクチクして嫌だったとか言っていた。あるいは日本の何処かの居酒屋ですずめを頼んだら、小さな丸焼きの雀が出てきたって。


 そっか。

 こういった料理に遭遇していなかった私が未熟者ってことだね?


 そうですか、そうですか……。

 私以外の大人3人は平然とバリボリと音がしそうな勢いで食べている。リサも私がオドオドしているの見て、なにか怪訝そうな顔つきで私のことを見上げている。


 私は自分の鞄にいれてあるサンドイッチでも食べようかな……。

 それかちゃんとしたパンケーキでも良いし……。

 なんか、もう、疲れちゃったよ……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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