9-17.魔族の国の観光(1)
今日はちょっとして家族でお散歩。リサとお父さんとタップりと接することができる貴重な機会になるんじゃないかな?
リチャードと『明日は観光をしよう』と相談をした翌日。
私は「今日は用事があるので、食事は調理場で働いている人たちに任せる!」って、言付けをしてカジノにある宿泊部屋で4人で食事をすることにした。
私が部屋で食事の準備をしたり、リチャードが部屋に居てソワソワしていたりと、リサは気配がおかしいことを察知しているみたい。
「お母様、今日は何か作戦を実行するのですか?」
う。気づかれたか。
別に隠すことでは無いけれど、リチャードが誘った方が喜ぶと思うんだよね……。
「ん……。朝ごはんを食べながらお話しよう?」
これって、何か作戦があるって、バラしてるようなものだけど、まぁ、良いよ。
リチャードとの作戦を勝手に違える訳にはいかないしね。
で、クロ先生を含めた4人が席に着いて食事をはじめると……。
「今日は皆で観光に出かけようと思う」
と、リチャード。
これまで連日カジノに入り浸っていたお父さんが突然の方向転換。
リサが発言をしたリチャードの方を見ずに、私の方を見て再度確認する。
「お母様、作戦の主旨をご説明ください」
「ええと……。リチャード、皆に詳しく説明して貰えますか?」
「ああ。リサ、お父さんが悪かった。
今日は皆で外を観光したいと思うんだ。クロ先生には護衛について貰うし、この部屋には居ないが通訳の人に案内して貰おうと思う」
「それは、お父様が立てた作戦ということでしょうか?」
「リサ、お父さんが悪かった。
カジノのゲームに夢中になっていた。だが、その夢から醒めたんだ。だから改めて皆で観光をするのはどうだろうか?
お母さんとは昨日のうちに相談をして、賛同して貰っている」
「お父様、魔族の国との交渉を求めた作戦ではなく、家族での交流を意図した散歩の様な物でしょうか?」
「ああ、そうだ。
お父さんは南の大陸のことは良く分からないし、今回が初めての魔族の国の訪問だ。
だから、何か面白い物が無いか皆で見て周るのも良いと思うんだ」
「……。お父様がその様にされたいのでしたら、私は反対しません……」
リサは、普段お父さんと接する機会が無いから、好きとも嫌とも言えないんだろうね。かといって、他人では無いので反対の意を唱えることもできない感じかな?
「そうか。リサは何か見たり、試したりしたいことはあるかな?」
「興味があるのは教会の治療施設とか鳥の飼育所でしょうか」
「リサはそういうものに興味があるのかい?」
「前者は治療薬の普及方法や新薬のヒントになるかもしれません。後者はお母様の作るお菓子や食事に大量の卵を使っています。魔族の国で特殊な鳥を飼育する施設があると、カジノのお客さんが話をしていました」
「そうか。通訳の人に話をしてみよう。
リサは通訳の人だけでなく、ここにいる人以外は念話で会話をしよう。観光中に質問があれば、お父さんから質問をしよう。それでいいかな?」
「はい。大丈夫です。
ただ、残念なのはこのカジノの外では魔族の国の普通の食事になってしまうことですね……」
ちょっとリサは残念そう。でも1日ぐらい我慢してくれても良いと思う。夜には多分戻ってきてこの部屋で食事をすることになるんだしさ?
ーーー
通訳の人に事情を話して、我々4人と通訳の人を合わせて5人で観光をすることにしたよ。
最初は教会の治療施設の訪問。
見学者用の列と治療を受ける人で別の列が出来ていた。見学者用は10人ぐらいの集団につき一人のガイドさんが付いていて、色々と案内をしてくれるらしい。一方で治療を依頼する人の列は色々な種族の人が入り混じっている雰囲気だけど、格好は貧しい身なりの人ばかりで、貴族以上に見られるような裕福な格好の人は並んでいなかった。
「リチャードさん、これから見学者グループに交じって治療院の案内を受けます。宜しいでしょうか?」
「リサちゃん、これからみんなで教会で治療してくれるところを見に行くよ。何が見られるか楽しみだね~」
と、言葉が分かるか判らない赤子へ優しい言葉をかけるリチャード。この辺りの演技は上手いと思った。やるね!
<<お父様、貴族の方達の受付がこの建物にあるのか確認してください。多分、平民と貴族で治療の種類を変えているはずです。一般見学者ルートでは、貴族向けの高度な治療方法を見学できない可能性があります。ここを確認して、必要なら割増料金を支払ってでも高度な治療が見学できるように伝えてください>>
<<分かった。その辺りも頼んでみるよ>>
結論から言えば、見学者ルートには一般用に開放されている治療と貴族向けの治療では入り口が分けてあるが、基本的に同じ内容を施しているとの説明だった。
ただし、貴族向けは病気の症状や身元が分からない様に裏口から入っているとの説明であったけれど、実際の治療内容にも差があるかもしれない。そこは一般見学では分からないし、貴族の方達の身元を明かせないために治療の様子も見学出来ないとの説明だった。
<<リサ、そういう説明だが良いか?>>
<<お父様、先ずは一般見学で使っている治療薬や治療方法を確認しましょう。それで凡その治療技術を推し量ることができます。そこから更に上のレベルの治療技術がある様でしたら、別の方法を使って見学の要請をするのが良いかもしれません>>
<<リサ、わかった。先ずはこのまま一般見学をするとしよう>>
ゾロゾロと一般見学ツアーに交じって、お布施をする場所だとか、薬草の保管庫だとか、特殊な調合施設の外側だとか、完成した治療薬を来院の方達に施している様子なんかが見学できた。
<<お母様、これはインチキですね。貴族の方達にも同じ治療方法を施しているとすると、この教団は詐欺集団になります>>
<<リサ、リサ。ちょっとそれは不味くない?
そもそもこういった治療行為って本当に効果があるか判らない訳で、効き目があったり無かったりするものだろうし、ちょっと見学しただけでそれを決めつけるのは軽率じゃない?>>
<<お母様、私は南の大陸の修道院で治療を施した経験もあります。当然治療薬を作りましたし、そのための薬草を育てもしました。お母様はそれをご存じですよね?>>
<<うん、そうだね。一緒に薬草を採りに行ったよね>>
<<私は薬草倉庫と呼ばれる所で保管されていた草の種類が判ります。ほとんど薬効成分のない雑草です。あるいはあそこまで乾燥させてしまってはダメな種類の物です。
その証拠に中身は拝見できませんでしたが、調合施設から薬草独特に香りは漂っておらず、単に雑草を鍋で煮たような臭いだけでした。
最後に治療薬として配布されている薬も香りがおかしかったです>>
<<リサ、そうだとすると……。この教団は人を集めて何をしているんだろうね?>>
<<お母様、人は救済を求めるのです。心にしろ、体にしろ、運命にしろ、自分では解決できないときに宗教に頼るのです。その心情を分かって、出来る限りの施しをするのです。 ここの宗教は単に搾取しているだけです>>
<<リサ、ごめん……。
リサの言いたいことは分かる……。
でも、でも、これだけ多くの人が集まっているのだから、少しは効果があるんじゃないかな?>>
<<お母様、治療薬の他に簡単な食事を提供すれば、無職の方達が毎日のように並ぶでしょう。その中に本当に治療の施しが必要な人が何割含まれているか判りません。
そうであれば、この行列は治療行為の列という意味合いが薄れてきます>>
<<ん……。リサ、分かった。今はリサを信じる。
でも、今は様子見ということで、大騒ぎするのは止めておいても良いかな?>>
<<はい。腹立たしい行為ではありますが、私が今何を叫んだところで意味がありません。この体では尚更です>>
<<リサ、我慢してくれてありがとうね。今回の飛竜救出が終わったら、この教団に何らかの方法で天罰が当たると良いね>>
<<お母様、お母様の天罰は怖いです。事前に教えておいてください>>
<<わかった。先ずは飛竜の救出が先だね。その後でゆっくり考えようよ>>
<<分かりました。では、もう此処の見学は不愉快になるので、お父様から次の見学場所に移る様にお願いして貰えますか?>>
<<リサ、分かった。お父さんから通訳の人に伝えるよ>>
リチャードから通訳の人に、「ここの見学は堪能したので次に行きたい」と申し出はしたものの、一般見学ルートで申し込んでいるので、ガイドを無視して勝手に順路を変更できないとのこと。
このあと神様を祭る聖堂を巡ったり、貴重な宝物を拝見したり、効能が高いと言われるお札の斡旋販売を受けたり、薬草を販売しているコーナーでお土産物を斡旋されたりした。
リサは怒り心頭だったけれども、一生懸命宥めて我慢させた。
次行く、動物園なのか鳥の飼育施設だかに期待しよう!
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