9-14.魔族訪問(2)
魔族の国を訪問して、1日目が終了。
フウマとステラに念話を通してから2日目に備えるよ。
<<フウマ、今、念話を通しても大丈夫?>>
<<ああ。大丈夫。何かあった?>>
<<今日、無事に船で入国した。予定通り、リチャード、私、リサ、クロ先生の四人でカジノにある宿に滞在中>>
<<何か目立った動きはあったかい?>>
<<王族と教団への面会の申し入れを済ませて、さっき食事も終えた所。今のところこちらのチームに問題は無いよ。
グレハンっていう前回の訪問で雇った通訳の人をシズクさんを迎えに行かせたけれど、そちらも無事かな?>>
<<ああ。シズクから念話が入った。母子ともに冒険者として無事に入国できて、宿も確保できた。姉さんが斡旋してくれた通訳の人が優秀らしい。ありがとう。
僕の方は相変わらず監視と指導役としての立場で教団の訓練施設と宿泊所以外には行動範囲を広げられない。『休暇をとって観光できないか?』みたいなことを言ったけれど、『必要な物は提供します。観光案内は通訳をつけて堪能頂きます』とか、のらりくらりと躱されているね>>
<<そっか。シズクさんが無事に入国出来て何よりだよ。子供連れだから偵察活動も大変だよね……>>
<<昼間はグレハンさんが観光案内しつつ、情報を集めてくれているらしい。夜に見当をつけた場所を上空から偵察したり、建物の偵察をしてくれるみたいだね。
不確定な情報であれば僕も話を聞いているけれど、僕自身が動けないと情報の活かしようもないね>>
<<とすると、飛竜関係はシズクさんとグレハンに任せて置くしかないね。あと一週間でどこまで進むかだね>>
<<そこは僕もシズクも判ってる。戦争を回避することを姉さんが望んでいる訳だからね。皆がそこに力を合わせているね。
そういえば、シズクから聞いたのだけど、スチュワートさんも入国したんだって?>>
<<え?>>
<<シズクと一緒に空飛ぶ卵で魔族の王都の最寄りの村まで来たらしい。入国した後は別行動らしいんだが、姉さんの作戦に含まれているんじゃないのかい?>>
<<いや。スチュワートさんは正式な夕食会のメンバーでは無いし、人族の私から無関係な種族の人を巻き込むつもりは無いよ。
上級迷宮の訓練を乗越えた人だし、妖精の長の秘密を知っているから夕食会のメンバーと同じくらい優秀な人材だけれど、私の家族でも奴隷でもなんでもない人を巻き込むのは申し訳ないから私からは声を掛けてないよ>>
<<僕からすれば、身体強化レベル2と念話が使えている時点で夕食会のメンバーとか関係なく、姉さんの仲間だと思うけどね。そこは姉さんの拘りがあるだろうから、そこの判断は姉さんに任せる。
それで、スチュワートさんの件だけど僕やシズクで対応した方が良いことあるかな?>>
<<フウマ、いろいろ気遣いありがとう。スチュワートさんの件はステラが知っていると思うからステラに聞いてみるよ。
もし、何かあったらこちらから念話をいれる。フウマもシズクさんも気を付けて行動してね>>
<<分かった。姉さん達も慎重に行動して>>
ふむ。
フウマとシズクさんは問題無い。
彼らが自分の命を投げ出してまで戦うような状況にはまだなって無い。だから、彼らなりに無理・無茶はしているかもしれないけれど、飛竜の調査を完了するまでは簡単に死ねないことを自覚してくれているから大丈夫。
問題はスチュワートさんだね。
確かにスチュワートさんを作戦会議に招いていない。ステラの窮状も私からは共有していなかった。これは大きな問題だったかもしれない。けれど、私からすれば種族間の問題に発展させない最良の方法を選んでいるつもり。
ステラだって、無理にゲーム大会に参加したかった訳でもないし、魔族の人達に軟禁状態になってまで、ドワーフ族の斧を取り戻そうとして頑張ってくれた訳では無いはず。割と軽い気持ちで、『魔族の金貨が沢山手に入れば、ドワーフ族の斧がもらえるかもしれないわね』ぐらいな気持ちだったと思う。ちょっと、アリアとの連携で結果が派手なことになっちゃったもんで、今の状態になっていることは本人も判ってるはず。
ん……。
じゃぁ、スチュワートさんの単独行動を責められるかというと……。
エルフ族の文化とか夫婦の関係とか、そういうがどの程度結びつきが強いのかっていうのと、個人で訪問して今回の問題が解決できるのかっていう問題がある。
エルフ族と魔族で交流が密接にあって、外交ルートを通せば簡単にステラを解放できるなら、それはそれであり。残りはアリアの家族だけの問題になるけれど、アリアは大した金額を儲けていないっぽいから今回の主犯というか、生贄にはされにくい。
ただ、これまで聞いてる感じだと、魔族とエルフ族での交流が密な関係にである様には思えないし、スチュワートさんがアリアの家族を放置してステラだけを救出に向かっているとすれば自分本位の行動ともとれなくはない。
この辺り、ステラが事情を知っていそうだから、ステラに聞いてみるのが良いかなぁ……。その上で、スチュワートさんを支援すべきか、行動の抑制を促すべきか念話を繋げばいいかな?
よし!悩んでいても仕方ないからステラに様子を確認しよう!
ーーー
<<ステラ、今、念話通しても大丈夫?>>
<<あら、ヒカリさん。大丈夫よ>>
<<こっちは無事に人族の王族として無事に入国できたから、その報告です。
ステラ達は、その後、何か困っていることはありませんか?>>
<<カサマドさんに念話を通して、銅の精錬所での魔族の金貨の説明については手筈を整えてあるわ。だからこの待ち時間が鬱陶しいぐらいかしらね>>
<<そうですよね。こちらの食事は飽きるというか、忍耐というか……>>
<<ヒカリさんは自作調理していると聞いているわ。ズルいと思うのよ>>
<<え?>>
<<国賓待遇で接待されているのだけれど、ヒカリさんの夕食会に参加していると全ての食事がつまらないわね。忍耐よ。辛抱よ。
ラナちゃんを連れて来なくて正解って、リサちゃんも言っていたわ>>
<<うん……。ここの食事を回避できる方法があればねぇ……。
結局、南の大陸で食べている食事って、サンマール王国で食べている物と大して変わらないですよね>>
<<ヒカリさん、それは違うわ>>
<<え?>>
<<貴方、サンマール王国で作った物を覚えていないのかしら?>>
<<いや……。何かしましたっけ?>>
<<醤油ベースの甘辛い照り焼き、ドリアン、誕生日ケーキ、コーヒー、チョコレート、カレー。他にもあるけれど、先ずはこの辺りかしらね>>
<<あ、あぁ……。
まぁ、確かにゴードンには教えていない物が含まれていますね。
あと、南の大陸ならではの植物由来の食べ物も多いと思います>>
<<私はなんだかんだで、50年以上はこの大陸で過ごしてきたの。でも、一回も食べたことがなかったのよ。そこら辺にある物で素晴らしい物が食べられるのに、そこに気が付かなかった私はなんなのかしら……>>
<<あ、いや、ええと……>>
<<暇だからスチュワートにお使いを頼んだの。『コーヒーとチョコレートを持ってきて』と。良いわよね?>>
<<え、ええ……>>
<<不満かしら?>>
<<いや、そうではなく、どうやって手に入れて、どうやって手渡して貰うつもりなのかなと……>>
<<リサちゃんとシオンくんに相談したら、『直ぐに準備します』って、用意してくれたみたいよ。
あとは、ヒカリさんとリサちゃんは王族としての訪問で、シズクさんは飛竜の調査だから任せられないでしょ?
手が空いていて、念話が使えるのはスチュワートぐらいだから、スチュワートに頼んだのよ。
ヒカリさんの作戦の妨げにはなっていないはずよ?>>
<<は、はい。少々びっくりしただけで……。全く問題ありません!>>
<<ヒカリさん、どうやったら、私はスチュワートから差し入れを手に入れられるかしら?>>
<<え?>>
<<私がここで軟禁されていることを、表立ってスチュワートに知らせる手段はないわ。だからスチュワートも私に面談をする発意ができない。
私は軟禁されている身だから市街観光もできない。街中で偶然を装った接触もできないわけよ。何かいい手は無いかしら?>>
ええと……。
スチュワートさんを荷物持ちというか、嗜好品の運搬役としてこき使っているのは判った。食生活に問題があることも判った。でも、出会えないんじゃ、手渡す手段が無いのは当たり前だよね……。
ステラはどうやって渡すつもりだったのかな?市場で買ってこさせようとも買えないだろうし、献上品としても無理があるし……。
ああ……。
出来るかどうかは別として、異国の特使のお土産を王族の方達と一緒に味わう機会に巡り合うっていうのは、可能性としてゼロでは無いね……。でも、これは出入りの商人にこっそり持ち込ませるよりも相当無理があるよ……。
うん……。
私が直接ステラと接触できる機会があれば問題は一気に片付くわけだけど……。それができないから、人族の王族特権で面会をしなくちゃいけない訳でさ……。
<<ヒカリさん、誰かと念話かしら?>>
<<いや。色々と考えてました。差し入れをしようにも、出入りの商人に根回しする時間も無いし、スチュワートさんが直接持ち込むことは無理だと思う。
一番簡単なのは偶然ステラと私が出会えば良いんだけど……>>
<<ヒカリさんは面会の日が決まるまで自由に行動できるのでしょう?
今はどこの宿で調理場を借りてるのかしら?>>
<<ええと……。
ステラが闘技場の賞金をドワーフ族の斧に換えたカジノで宿をとっているよ。あそこの調理場は自由に使わせて貰えるの。今回もアサリという偽名のメイドの格好で調理場を使わせて貰ってる>>
<<ふ~ん……。そうね……。私も宿泊場所をそこの宿に替えられないか確認するわ。
そこの宿に変更すればスチュワートとも偶然を装って会えるし、ヒカリさんの料理も食べ放題になるわ>>
<<はい。もし、それが出来れば一番楽ですね。
ステラのコネがあれば、王族との面会日も早めて貰えるかもしれません>>
<<ヒカリさん、そこは逆よ。
彼らは私の白黒の判定結果を黒と言い渡してから暗殺するつもりなの。余計な人と接触して、軟禁されていることを知る人物は少ない方が良いに決まっているわ>>
<<それはそうですね……。偶然を装うにしても、アサリというメイドが調理した物を間接的に渡せるのが精々ですね……>>
<<ええ。賭け事ギルドのギルド長に圧力を掛けて、軟禁されている場所を変更できないか仕掛けてみるわ>>
<<わかった。無理しないでください。私たちは暫くこのカジノに滞在すると思うから、上手く会えたらそのときはよろしくお願いします>>
<<ええ。私もヒカリさんの料理を食べるために頑張るわ>>
ふむふむ。
飛竜の調査は大きな進展は無いけれど、もしステラがカジノ内の宿泊施設に拠点を移せるようになれば、連携も取り易くなるし、いざとなった場合に脱出もし易くなるね。
そこはステラに任せておいて、私は私の方でアサリというメイドとしての仕事を全うしておけばいいね。
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