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9-13.魔族訪問(1)

 さてさて。

 今度はハネムーンの名目で正式に魔族の国を訪問して、ステラ達の軟禁状態を解放するミッションだよ。本来のハネムーンは何処行った?

 今回王族として魔族の国を訪問するメンバーはリチャード、私、リサ、クロ先生の4人。通訳や執事、メイドは無し。


 名目上はクロ先生が執事役なので、まぁ、そこはギリギリOKとしておこう。

 護衛はクロ先生が兼務するってことで、ここもOKとしておこう。

 問題は双子が生まれたはずなのに、リサだけが連れて来られている不思議な状態だね。

 メンバー選定の打ち合わせのときに、リサが『私は行きます。他の人に迷惑をかけません。自衛もできます』って、言い張る。

 ここを否定できる人は居なかったし、リサのステラ様への強い想いを他の人も知っているから仕方ないかなと。


 次に、シオンの方は『僕は行きません。自衛できないですし、交易する相手でもないので、僕が行くと邪魔になるだけです』って。


 今回は名目上はハネムーンの一環として南の大陸を周遊しているていを装うけれど、実際には軟禁状態のステラやアリアの家族の救出を達成しなくてはいけないし、場合によっては皆でこっそりと脱出してからの逃避行に移らなければいけない可能性がある。 この辺りは飛竜研究所の調査進度と、魔族の王国や教団がステラ達の殺害への本気度に合わせてこちらも対応を変えていかなくてはいけないから、シオンの言うことは正しい。

 名目上の言い訳として、『息子は船酔いが酷かったので、サンマール王国の知人に預けている。また連れてきた世話役のメイド達も看病のためになるべく多く残してきた』と、ギリギリの線での理由を整えることにした。


 で、まぁ、こうしておけば、魔族の国を離脱する際に『畏敬訪問させて頂きました。我々も残してきている息子の件がありますので、過度な接待は結構です。またの機会に』とかなんとか言って、こちらの手の内を見せずに、やるべきことが終わったらさっさと離脱しても別におかしくない。

 リサについても、『この子がグズるので、席を外させて頂きます』とか、リチャードと別行動が必要になったとき、簡単に離脱できる権利を堂々と行使できるようになるね。


 そんなこんなで、サンマール王国と魔族の王国で交易が出来るギリギリサイズの小型の船を一艘借りて、この間連れてきたグレハンに偽の身分証を発行して、船頭と入港手続きや入国手続きをさせることにした。

 グレハンはサンマール王国の拠点がどこにあるか分かって無いから、目隠しをして魔族の国の傍まで船を飛行させても、夕食会としての秘密は保てるってことで。

 入国手続きを終えたら別の通訳を現地で雇う。グレハンさんは船か宿で待機してもらうという名目で、シズクさんたちと合流してもらって通訳兼連絡係を務めてもらう作戦だよ。


 まぁ、シズクさん達は空飛ぶ卵で移動できるから私達より早く魔族の王国に入国できているはずだから、グレハンとも上手く合流できるはずなんだよね。

 よし、この作戦で進むよ!


ーーー


 月明りと私の妖精の子に照らして貰って、真夜中の海の上を飛行して進む。私が先頭で左右にはリチャードとリサ、船尾部分にはクロ先生を配置して、4人で時速100kmぐらいで飛行し続けた。

 あ、グレハンさんには目隠しをして船内でお休みしてもらってるし、船体と我々は全員光学迷彩を掛けてあるので傍目には妖精の子が高速で飛行しているぐらいにしか確認できないよ。


 時速100kmで飛んだから朝焼けが始まる頃には魔族の王都からそれほど遠くない海域に到達できた。ここからは海上に船を下ろして、船に帆を張って海上を風力によって進むよ。この風も追い風のみのイージーモードで進むからグレハンには船内で目隠ししたまま待機して貰っておく。


 そんなこんなで、幻想的な海上飛行と1時間程度の海上航行を合わせて、朝ごはんが始まる頃には魔族の王国の港に無事に到着。船の中で私の鞄から取り出した簡易的な朝ごはんをグレハンを含めて5人食べて、作戦の再確認をした。


 さて、ここからはグレハンの腕の見せ所。私たちの入国が目立たない様に入国手続きと通訳の手配をしてもらう。その間、私たちはひっそりと船で待つだけ。グレハンには悪いけれど、私たちは船内で仮眠を取らせてもらうことにしたよ。


ーーー


「……ヒカリ様……。ヒカリ様……。

 ……。……。

 あ、あの!ヒカリ様!」


 ん……。

 なんか、五月蠅い。

 だれよ?


「あ、あの。ヒカリ様、宜しいでしょうか?」


 ん……。

 ん~~~~。

 ええと……。グレハン?

 あっ。寝過ごしてた?


「グレハン、ごめん!寝過ごした?」

「い、いいえ。お疲れのところ申し訳ございません。

 まず、船の入港の手続きが完了しました。

 また、王族の身分での入国手続きも完了しました。

 それと、この船のオーナーをアサリ様の名義で登録しましたので、万が一の事態には私が不在でもアサリ様の名前でこの船を出向可能な手筈となっております。

 最後に、外に通訳を待たせておりますので、ヒカリ様にお目通り叶いたく」


「いろいろと迅速な対応ありがとうね。それで、通訳はどんな人?」


「貴族や王族との面談経験がある通訳を確保できました。観光協会での身元保証がされておりますので、王族や貴族との面談時に通訳者の入場拒否されることはございません。そういった点では、単にサンマール王国語で観光案内ができる程度の私とは格が違います。

 契約ですが、1日当たり人族の金貨で1枚。ただし、そこには通訳者としての同行に係る経費は含まれておりますので、食事や宿代は本人の負担となります。

 特別に入場料が掛かる物やイベントに参加される場合には別途費用がかかりますが、予め魔族の金貨1枚分を観光協会へ預けてあります、そこから精算できる手筈です。ですので、事後に追加請求されることはまずございません。

 とりあえず、専属契約期間として2週間分、金貨14枚。そして観光協会への仲介手数料金貨1枚を前払いして済ませてあります」


「グレハン、優秀だね。助かるよ。私はこの後どうすればいい?」


「王宮への面談申し込み、教会の訪問と教団への面会の申し入れ、その後は魔族の金貨の両替、興味あるテーマに応じて観光案内後、宿までご案内。ここまでの一連のスケジュールを連絡済みです。

 翌日以降は面談日を夫々確認後、観光と宿への帰還を繰り返す形となります。最優先で面談の申し入れをするように伝えてあります。賄賂については必要額を包む様に伝えてあります」


「ん~~。グレハンさんも連れて来てくれている通訳も優秀だね。

 そうしたらさ。

 面談の申し入れの際に、エスティア王国の特産品を何点か添えておこう。

 それと、宿はカジノにしよっか。あそこなら材料持ち込みで自作調理をさせてもらえるから、いろいろと便利。それにカジノチケットも余ってるよね?」


「ヒカリ様、お土産物の件は承知しました。

 それよりも国賓待遇の方が調理場を借りて自ら調理をされるのですか?」

「不味いかな?」


「いえ、美味びみでございます。問題ありません」

「いや、そうじゃなくて。味ではなくて、行動が目立つ?

 余計なことをするなって、リチャードから釘を刺されている」


「アサリ様のご身分で、アサリ様として宿泊されるのであれば問題ございません。

 王太子妃としての宿泊となりますと、カジノは遊技場でございますので、少々格が落ちます。お金持ちであることを自慢することが目的であれば良いですが、王族がそのような場で宿泊をしますと、異国文化への敬意より、遊戯に興じる者としてのレッテルが貼られることを危惧します」


「料理も作れて、時間も潰せて良いかと思ったけれど仕方ないね。宿泊は諦めて、異文化交流に飽きてから、ちょっと遊びに行く感覚で利用することにするよ」


「承知しました。

 美食家であることと、アサリというメイドが調理場に立ちたい希望があることも伝えておきます」


「ありがとね。

 じゃ、ここからグレハンとは別行動だね。危ないことになりそうだったら自分の命を優先に逃げて大丈夫だからね。お互いに無事な姿で会おう!」


 グレハンは礼儀正しくおじぎをして船から出て行った。

 私はそれを見送りに船を出ると、一人の紳士風な服装をした人が立っているのが視界に入った。この人が通訳の人かな?

 グレハンは私の方をチラッと見つつ、紳士に話しかけて何かを伝えてから、軽く手を振って去っていった。


 一旦船に戻って、眠っていた皆を起こして、荷物を纏めてから4人で船の外に降り立つ。そして通訳と私達含めた合計5人で軽く挨拶と自己紹介を終えてから、手続きの済んでいる入国証を見せて魔族の王都を正式に足を踏み入れた。


ーーー


 グレハンが予め伝えてくれた通り、通訳の人は流暢なサンマール王国語で私達に話をしながら王族への面談、教団への面会の申し入れの手続きを取ってくれた。


 その後は王都ではちょっと有名で一見さんお断わりらしいお店で通訳の人のコネを使って入店して、ちょっと遅めの昼食をとった。


 味?やっぱり、冷蔵とか冷凍技術が発達していないと駄目だよ……。

 鮮度が悪くなることを気にしてか、鮮度を気にしないで良い様な食べ物しか出てこない。港が近いんだから鮮魚が振舞われても良いと思うのだけれど、万が一のことがあるから難しいのかもね。

 魚は大きな切り身をパサパサになるまで良く焼いて塩やハーブで味付けをしたもの。肉類も良く火が通を通して、かなり硬くなった塊をスパイスとかで味付けされたもの。

 鮮度と臭みけしの気持ちはわかるけれども、そもそも鮮度が保たれていて、寄生虫なんかを捌くときに気を遣っていればここまで火を通さなくて良いし、素材の味は味わえずにスパイスやハーブを楽しむような事にもならない。


 メインディッシュがこのレベルだから他の物は推して知るべし。

 リサは私に抱えられながら、少しずつ料理を口に運んだけれど、念話がでてこないぐらい無言。リチャードもお世辞を言おうとしているけれど、どうしても口数が少なくなってしまってるね……。


 お店を出ると、通訳の人から申し出があった。


「ヒカリ様、メイドのアサリ様の出番がございますでしょうか。その場合には市場へお連れするようにとグレハンから伝言を頂いております」


「所持している荷物にメイドの服はあります。適当な着替える場所があればメイドのアサリが登場できます。アサリであれば適切に市場で買い物も行えるでしょう。後は客人が調理場を借りられるような交渉をお願いします」


「ヒカリ様、失礼ながら、私の見聞において客人が宿屋の調理場を利用できることはございません。貸家形態の物件か、あるいは宿屋ではなくて、露店などの調理設備を少し間借りする程度かと存じ上げます」


「私は食事コーナーの執事に依頼されて料理作りましたが……」

「ヒカリ様、以前に魔族の国を訪問されたご経験がおありですか?」


「アサリっていう名前の冒険者で訪問しました。ただし、カジノで宿泊するために、冒険者の格好ではなく、小奇麗なメイド服を着用して利用しました」


「小職の無知を承知で申しげますが、その宿泊施設付きのカジノお名前を教えて頂けますでしょうか」

「国営の一番大きなカジノと案内頂きました。お店の名前はよくわかりません」


「その……。大変申し上げにくいのですが、にわかには信じられず……。

 そちらのカジノへご案内することは可能ですので、一度アサリ様のお名前で調理場を借りれるかご確認頂いても宜しいでしょうか。

 その上で、宿の変更手続きや市場へのご案内をさせて頂ければと思います」


「わかりました。では、実際にカジノを訪問して、調理場の利用が可能か確認しましょう」


 結果は調理場の利用OK。

 カジノ内のレストランの執事は私のことを覚えていてくれて、「またお世話になるから調理場を借りたい」と言えば、喜んで貸してくれることになった。「お手すきの際に、他のお客への料理提供もお願いします。遊戯チケットをサービスしますので」と、オマケの条件付きでだけどね。


 まぁ、宿屋の拠点が変更になったぐらいで、魔族の王都訪問の1日目としては無事に終了かな?



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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