表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/302

9-09.魔族訪問準備(3)

 食料調達の準備はペアッドさんと奴隷さんに任せるとして……。

 魔族の国の情報を収集しようかな?

 ペアッドさんと一緒に奴隷商人を訪問した日の夕食。特に夕食会という形での報告会は無く、適当に空いているメンバーが集まって夕食を食べていた。リサやシオンも元気だったから夕飯を一緒に食べたよ。


「お母様、お父様の英雄譚を聞く機会はいつになりますでしょうか?」

「リサ、いつでも良いと思う。けど、今日お父さんはいつ帰って来るか判らない」


「お母様、お父様と念話で連絡をとっておられないのですか?」

「空飛ぶ卵の運転を覚えている最中だから、念話で操縦ミスさせたら怖い」


「お母様、外はもう暗いです。訓練は出来ないのではないでしょうか?」

「夜間飛行もあるからね。連絡が無いってことは皆で頑張ってると思うよ」


「そうですか……」

「リサとシオンは今日はどんな一日だったの?」


「私はカナエさんとパイスさんと一緒に薬草の仕込みをしました」

「僕はマリア様と一緒にゲームをしていました」


「そっか。二人とも頑張ってるみたいだね。何か困ったことは無かった?」

「カナエさんもパイスさんも優秀です。簡単な治療薬は2-3日後に完成すると思います。ただ、ステラ様やアリア様がいらっしゃったら、もっと効率よく、もっと効能を高めることが出来たかもしれませんが、私の知識ではここが限界です」


「ふむふむ。

 ステラやアリアと一緒に薬剤の研究ができるのは、南の大陸での旅行が終わってからかも知れないねぇ……。

 だから、カナエさんとパイスさんには今ある治療薬の作り方と素材となる薬草類を育てて貰う方に注力して貰った方が良いかもね。


 シオンはどう?」


「マリア様は……。おばあ様は……。少し負けず嫌いです……。

 最初の内はゲームのルールを教えていたのですが、僕が偶に負けると『おかしい』と、仰るのです。でも、僕が勝ち続けると機嫌が悪くなるのです。とても難しいです」


「そ、そう……。

 マリア様は頭が良い上に、プライドも高くて、審議のスキル持ちだからねぇ……。こちらが偽った情報を与えたときに、それを確かめることが出来るんだよね……」


「お母さん、僕はどうしたら良いのでしょうか?」

「リサが勝ち方を教えてあげたらどうかな。その上でシオンと再戦するのはどうかな。

 シオンは自分に勝つ方法を教えるのは難しいし、相手が同じことをしてきたら、それに対応できるだけのゲームセンスがあるから……。ワザと負けてもそれを見抜かれちゃうから、リサの戦術を取り込んでもらうのが良いと思うよ」


「お母様、私がマリア様にお教えしても勝てる保証がありません。シオンが可哀想です」「マリア様が自分で『強く成った』と感じることが重要だよ。

 その後でシオンはゲームの途中から思考封鎖をすれば良いよ。『おばあ様がとても強く成られたので思考の漏れを防止しました』って理由でね」


「お母様、私とシオンで共同してマリア様を騙すのですか?」

「リサ、騙しているとしたらどの辺りかな?」


「私がマリア様に教える戦術より、シオンの方が上手いのであればマリア様が本当にシオンに勝てたか判りません」

「本当のことが分からないのであれば、誰が騙しているかも分からないってことだよ。

 あとはモリスと対戦してもらって、何回も引き分けに持ち込んで貰うとかだね。あれをされたら多くの人は唖然として、あのゲームをすることを諦めると思うよ」


「お母様、アリア様と念話で会話をしたのですが、20回も引き分けたそうですよ?」

「え?」


「テイラーさんが魔族の金貨1枚、ステラ様とアリア様がエルフ族と人族の金貨1枚を賭けていたそうです。最後にアリア様の負けに賭けて、魔族の金貨に換算して200万枚とか2万枚とか勝ったらしいです」


「2の20乗が200万とかなるんだ……。そんな目立つことしたら余計なトラブルに巻き込まれそうだけど大丈夫かな?」


「私が聞いたところでは、賭け事のギルドの出資者に教会の名前があったらしく、国と教会の両側に借用書を書かせることで決着をつけることにしたらしいです。

 お母様は伺っていないのですか?」


「え?ええと……。空飛ぶ卵の運転と、リチャードの出迎えと……。夕食会とか?」

「まぁ、お母様であればそうですよね」


 むぅ。

 リサの情報網は凄いな。アリアに聞いたのかステラに聞いたのかはわからないけれど、なんか私とは違う情報共有がされているってことだね。


 それはそれで良いとして、本当に上手く行ってるのかな?夕食が終わったら念話を通して聞いておこう……。


「お母さん、魔族の国の話は後でお願いします。僕は結局どうすれば良いのでしょうか?」


「リサの戦術とシオンの思考ガードを使って、それでもマリア様の機嫌を損ねるような状態になったら、モリスにお願いしよう。引き分けなら勝負がつかないのだから文句の言い様が無いし。モリスなら私より上手い解決方法を知っていると思うよ」


「分かりました。でしたら、明日からはコーヒーやチョコレートの作成に専念します」

「うん。シオンは余裕があったらカレー粉の作成の支援もお願いね」


「わかりました」


 ふぅ。

 ゲーム大会がここまで後を引くとは思っていなかったね。

 とりあえず、リサとシオンが進めたいことに集中できそうだから、そこをサポートしてあげれば良いかな。


 3人で夕食を食べ終えて、ゴードンやペアッドさんの様子を見に行ったけれど、ペアッドさんは今日仕入れた奴隷さんたち世話で手一杯ってことでゴードンさんが普段の2倍ぐらい忙しそうだった。

 これは暫くカレーの研究は手が付かない感じだね。


 じゃあ、ちょっとステラに念話を通してみようかな?


ーーー


<<ステラ、今念話を通しても良い?>>

<<ヒカリさん、良かったわ。こちらもヒカリさんにお願いがあったのよ>>


<<ステラが私にお願いって、珍しくない?>>

<<ヒカリさんの真似をして金貨の獲得を狙ったのだけれど、途中から横やりが入ったのよ>>


<<どういうこと?>>

<<少し時間が掛かるけれど良いかしら?>>


<<うん。お願いします>>


 ステラからの説明はこんな感じだった。

 夕食でリサが言っていた様に、賭けに勝って大量の金貨を賭け事ギルドから貰えることになり、その責任分担をするために国と教会に借用書を書かせることに進めたらしい。


 ところが……。

「ステラ様の金貨2000枚の入手元を知りたい」

って、いちゃもんが付いたらしい。


 魔族の国として、魔族の金貨は他の種族に比べて、相対的に金貨100枚の価値があるから、魔族の金貨の造幣量が少ないらしい。逆に銅貨や銀貨が他の種族の銀貨や金貨1枚相当になるものだから非常に流通量が多く、魔族の銀貨で賭けが行われていれば問題にならなかったらしい。


 つまり、魔族の金貨を100枚単位で授受する様な機会がこれまでほとんどなく、その様な場合には契約書に替えて支払いを済ませることにしていたらしい。そこへ現金としての金貨2000枚が持ち込まれたものだから、流通量に比べて、個人の持つ金貨の枚数が非常に大きな比率を占めることになり、何らかの偽物や違法取引が行われていないか確認されることになったらしい。


 なるほどね。

 相手は完全な通貨の発行枚数を押さえている訳では無いけれど、流通に必要な枚数は大体把握していたってことね。そこに得体の知れない大量の金貨があると、国の財政が疑わしくなる事態だし、ここを逆手に取って相手への疑義が公式に認められれば、今回の支払いを無効化できることになるね。


 うんうん。必死だね。


<<なるほど。ステラは何て回答したの?>>

<<私たちはドワーフ族村があった側から入国したし、銅の精錬所で働いていたテイラーさんに同行して貰っていたから、『銅の精錬所へ立ち寄った際にお礼として魔族の金貨を頂いた』と、説明したわ>>


<<ああ。色々と作戦が良い方向に結果として出ているね>>

<<そうね。この辺りは『念のため分かれて入国する。そして銅の精錬所側からミチナガ様に入って貰おう』という作戦が功を奏していると思うの>>


<<うんうん。とすると、問題無い様に見えるけれど?>>

<<『そんな素晴らしいたるがあるなら、是非とも拝見したい』って、話になったのよ>>


<<ん……。

 それは単に水が出る樽の視察だけではなく、精錬所にある魔族の金貨の在庫も調べられる可能性が高いね。

 その視察に備えるとすると、カサマドさんを精錬所に戻して、視察員を出迎える準備を整えないといけないね>>


<<そうなのよ。私は魔族の王都で軟禁状態なので動けないのよ。だから銅の精錬所側で視察部隊の対応をお願いしたいのよ>>


<<なるほどね。物理的に銅の精錬所にある魔族の金貨を隠す必要があることと、カサマドさんを送り返して、口裏を合わせた対応をして貰えば良いね>>


<<ええ。『早馬で確認に向かわせましょう』となっったので、多分1週間ぐらい掛かると思うわ。

 こちらは空飛ぶ卵で移動すれば十分間に合うでしょうけれど、念のため早いうちに手を打った方が良いと思うわ>>


<<それは重要な情報だねぇ。一応、カサマドさんが念話を覚えてくれているけれど、ステラ達と面識あったっけ?面識が無いと念話が通らなかったはずだだよ>>


<<マリア様が城外に設けた拠点で顔を合わせているわ。だからカサマドさんが念話を使えるなら私から念話を通すことも可能よ>>

<<それはいいね。細かな情報の整合をとっておかないと、視察する人に怪しまれちゃうからね>>


<<ヒカリさん、銅の精錬所での視察対応が上手く行って、視察部隊がその報告をしに王都に戻ってきたとすると、今度は武力介入が起きる可能性が高いわね>>


<<その前に飛竜さんの問題が片付いていないと面倒なことになるねぇ……>>

<<嘘だとは思うけれど、『飛竜を駆使して、各種族を偵察出来る』と言っていたわ。もし、その様なことが出来るなら銅の精錬所も飛竜で向かえば良いのよ>>


<<ステラ、万が一にも飛竜に騎乗出来ているとしたら、時速50kmで移動して10時間ぐらい。今が夜だから、昼間のみの移動と考えても2日ぐらいで移動が完了しちゃうね>>

<<ええ。

 そこの可能性はゼロでは無いけれど、騎乗まではいけてない感じね。ミチナガ様やアリアさんにロメリア王国の飛竜騎士団の話を興味深く聞いていたもの。

 魔族の国が飛竜族を操れていたとして、精々飛行させて偵察させるぐらいじゃないかしら。ただ、偵察した情報を入手することも出来ないでしょうから、飛竜を飛行させることができるという示威行為でしょうね。

 ほら、アジャニアのレーザー砲が在ったじゃない?あれと同じで、使えなくても相手に戦力としての脅威を与えることが出来るってことよ>>


<<ステラ、判った。銅の精錬所の方はなんとかするよ。

 あとは、視察部隊が王都へ帰還したあとの武力行使の話だけど、それはどういった準備が必要かな?>>


<<ヒカリさんが嫌で無ければ、本物の飛竜族の方達に登場して貰えれば簡単よね。

 ただ、その際に魔族の国で研究されている飛竜族の存在を明確にして、救出完了している必要があるわ。

 私たちは軟禁状態にあるので、フウマさん一人でそこを片付けるのは難しいと思うの>>

<<確かに、1-2週間で飛竜の研究の全てを暴いて、その対応を完了させるためにはフウマ一人では厳しいよね。

 どうしたもんだかねぇ……>>


<<シルフが『僕たちも支援するよ』ですって>>

<<飛竜族以上に、『お願い』してはいけない存在だと思う。当然、武力衝突以外の面で解決に向かう案があって、そこを支援して貰えるなら大歓迎だけれども……>>


<<『ヒカリがそれを考えて願うなら協力する』ですって。つまり、ヒカリさんが武力衝突への介入を願わなければ、そこは問題無いわね。

 どうしましょうか?>>


<<フウマに飛竜の調査がどうなっているかを確認するのと、私達が手伝えることが無いかを確認するよ。

 あとは、人族の王族が魔族の王都を訪問することで、他種族の訪問における戦争状態を抑制する効果が無いかをこちらで検討してみる>>


<<ヒカリさん。ありがとう。これからもよろしくね>>

<<うん。ステラ達も気を付けて>>


 いやはや……。

 魔族の国の攻略は一筋縄ではいかないねぇ……。

 軟禁状態から解放するためには武力衝突を生じるってことだろうねぇ。

 そこを回避する方法があれば良いのだけど、魔族の国からすれば、他種族が賭けに勝ったからと言って、その存在が消滅してしまえば借金は無かったことに出来るからねぇ……。


 う~~~~ん……。

 ちょっとずつ情報を集めつつ考えなきゃいけないね。



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


いいね!ブックマーク登録、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ