9-07.魔族訪問準備(1)
さ、魔族訪問組といつ合流出来るかな~。
リチャードを本気の夕食会に誘ってからの翌日。
リサはユッカちゃんとクレオさんとメイドさん達を連れて薬草やハーブの仕込みに向かった。
リチャードはカサマドさんとスチュワートさんに声を掛けて、ドワーフ族の人に空飛ぶ卵の操縦の練習に向かった。
マリア様とシオンは二人でゲーム大会。
モリスはグレハンさんと住居とか物品調達の説明をするって。
私は特にやること無いんだよね~。
誰にも相手にされそうにないから調理場へ向かおうかな。
久しぶりに何か美味しい物でも作ろうっと。
「ゴードン、ペアッドさん、元気?」
「ヒカリ様、元気です。ペアッド殿とも上手く交流が出来ていると考えております。
ヒカリ様は今日はどういったご用件で?」
「何となく手が空いたから様子を見に来た。困ってること無い?」
「それは訪問頂きありがとうございます。
困っていることですか……。そうですね……。
食料の消費が激しいことと、そろそろエスティア王国の方も心配になりつつあります」
「例えば、食料の何が足りないの?」
「米やジャガイモの消費量が多いですね。専用に倉庫を作り、常に備蓄する仕組みが必要だと思います。そしてサンマール王国では、ほとんど小麦が手に入りません」
「ゴードン、王都の市場では買えないの?」
「買えますが、大量仕入れによる価格交渉が裏目に出ています。
『そんなに沢山用意できないから、割り増し料金を支払ってくれ』と。
足元を見られていますね。王都以外の農村から直接買い付けをするなり、ヒカリ様流に農地を開墾して自給率を上げた方が良いです」
「ペアッドさん、何か意見あるかな?」
「はい。確かに大人300人が増えているとなりますと、小さな露店で買い付ける場合、普段から利用していた人たちにとって品不足となることは想像できます。
ですが、元々港町としての機能もあり、大型の交易船が到着した場合にはそれに応じて食料を供給できる仕組みがあったかと思います。
今回の件が食料の種類によるものなのか、量なのか、或いは他に原因があるか調べられておりません」
「ペアッドさん、大型交易船が食料を調達する場合の方法とか、付近の農村から直接購入できるルートが無いかも調べてくれる?」
「ヒカリ様、お言葉ですがペアッド殿は日々の300人分の食事の提供とその他の指揮官への別メニューの提供などで走り回っています。その調査人員を別途ご用意頂けませんと、皆様への食料提供に支障がでるリスクがあり……」
なんだか面倒な話だね。
王都が持つ備蓄倉庫から買い上げとか出来ないのかな?
それはそれで外交問題に発展して、高値で売りつけられることになる?
とすると、ユーフラテスさんにお願いして、米、芋、小麦なんかも栽培しちゃえば良いのかな……。たしか関所で開墾したときには3ヶ月必要だったけれど、ここだとどれくらい掛かるんだろう?
「ゴードン、判った。2~3週間は高値でも良いから今までのルートで調達して。周りの商店にも声を掛けて、分担して貰う様にもお願いしておいて。
自前のルートとか畑についてはちょっと考えるよ」
「承知しました。
ヒカリ様、それと……」
「ゴードン、まだ何かある?」
「『カレー』の件についてお話をしても宜しいでしょうか?」
「あ、うん。でも、まだハーブとか香辛料が手に入らないでしょう?」
「実のところ、ユーフラーテスさんやラナちゃんの支援により、シオン様が調合した香辛料は全て入手出来る様になりました。乾燥させたり磨り潰す機械もドワーフ族の方達に作成して頂いたので問題ありません。
ヒカリ様から頂いた出汁の作り方も基本は日々の肉や魚の廃棄部分を処理して作成していますのでこちらも特に問題ありません」
「なんか、凄く順調に進んでいる気がするよ」
「そこでご相談なのですが、
1つは主食とする穀類の話になります。ジャガイモや食用バナナと合わせても美味しいと思います。
2つ目は、肉や魚などに合わせて、出汁や香辛料の配合を変えると面白いと思います。 如何でしょうか?」
「いかがも何も、研究したり試作する時間があるなら好きにして良いよ」
「残念ながら、ペアッド殿と私と助手数名では、300食x3回でほぼ全ての時間を消費しております。先ほどの買い付けの件もありますし……」
「そっか!それは考えて無かったね。面白くないことさせてたよ……。
う~~~ん。どうしよっか。
何人ぐらい雇い入れれば良い?
それは普通の人で大丈夫かな……?」
「食料の買い出しと倉庫への格納、倉庫から調理場への運搬が出来る者を1,2名。
盛り付け又は配膳と食器の洗浄が出来る者を交代含めて4名。
後は調理補助になりますので、ある程度調理経験のある者を数名。
おおよそ10名でしょうか。
スキルや身分は問いません。エスティア王国語が話せると私は楽なのですが、レシピの考案や調理そのものをさせることはありませんので、ペアッド殿が指揮できれば宜しいかと」
「クレオさん経由で冒険者ギルドに頼んでおこう。
ただ、様々な種族の方達が混在しているから、びっくりしたり余計な噂を広め無いかが懸念材料だねぇ……」
「と、しますと、此方の国の事情は分かりませんが、ペアッド殿に直接奴隷を買い付けて頂いて作業させるのは如何でしょうか?
この拠点も数か月は仕事が多そうですし、その後拠点を解散することになっても、ペアッドさんを補助できる奴隷がいらっしゃれば便利です。最終的に必要が無ければ売ってしまっても良いかと」
「ペアッドさん、どう?」
「ヒカリ様、私はリチャード殿下の支配下にある犯罪奴隷です。ヒカリ様やゴードン殿との会話は判りますが、主の許可なく財産を所有できません。許可が頂けることと、その購入した奴隷の支払いが可能であれば、今日にでも伝手を使って入手に向かいます」
「ん~~~。忘れてた。ゴードン、大丈夫かな?」
「ヒカリ様がリチャード様にお願いするだけで宜しいかと」
「ペアッドさん、ちょっと待っててもらえますか?」
お金は手元にあるし、足りなければ魔石作って売っちゃえば良いから、そこは良いとして、リチャードは確か空飛ぶ卵の訓練に向かっているはずなんだよね……。
本人が此処に来ないと、指示ってできないんだっけか?
これまでは私の指示やゴードンの指示も聞いていてくれたから、あとは財産上の話だけな気がする。
こういうのはモリスが一番詳しいと思う。ちょっと念話してみよう。
<<モリス、ちょっと良い?>>
<<は、はい。込み入った話は難しいですが、簡単な内容でしたらどうぞ>>
<<調理師のペアッドさんに助手としての奴隷を購入して、サポートにつけさせたい。
でも、ペアッドさん自身がリチャードの奴隷として登録されているから、そこの財産の所有とか、権限の話が良く分からない。
どうすれば良い?>>
<<簡単な話であれば、ヒカリ様が同行してヒカリ様の名義で奴隷を購入して、そのヒカリ様の奴隷に対して『ペアッドの言うことを聞け』と、指示を出せば問題ございません。
ゆくゆくは、リチャード様とお話をされて、そのヒカリ様の名義の奴隷の扱いをどうされるか決めれば宜しいかと。
奴隷の所有者の移管手続きは私でも可能ですので、そこは後日でも宜しいでしょうか?>>
<<モリスありがとう。その線ですすめます>>
「ゴードン、ペアッドさん、ちょっと考えた。
今日のところはペアッドさんと私で奴隷市場に行って、私名義で奴隷を購入して、ペアッドさんに付けるってことでどうかな?
後々はその所有権をリチャードと3人で話してから移すってことで」
「ヒカリ様がそれで宜しければ問題ないかと」と、ゴードン。
「その進め方であれば、奴隷の所有権の問題が発生しませんので速やかに進められます」とペアッドさん。
うん。じゃ、これで行こう。
ペアッドさんの時間を貰って買い出しに行くことにしたよ。
ーーー
冒険者風の衣装に服装を整えて、日よけ替わりの帽子を目深く被って、エスティア王国からの訪問用の身分証と、サンマール王国で発行して貰ったA級冒険者の登録証の2種類を別々に携えておく。後はサンマール王国の金貨100枚程度の革袋を鞄に入れて、私の出発準備はOK。
ペアッドさんも普通の商人風な格好に着替えて貰っておく。
これはエスティア王国から来た冒険者が奴隷を探すために、サンマール王国の商人を仲介に雇っている風を装うためだよ。
拠点側の門番さんには私のことは知られちゃっているだろうけれど、奴隷商人にまでは知られていないはずで、色々と足元を見られたり、あるいは犯罪に巻き込まれないための予防措置ってことをペアッドさんにも説明して、協力して貰っているよ。
「ヒカリ様、歩きながらお話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、うん。念のため、北のストレイア帝国語なら良いかな」
「承知しました。
私が商人として、冒険者へ奴隷を仲介するという作戦は問題ありません。
ヒカリ様は何を恐れているのでしょうか?」
「女性が護衛も連れずに歩いているだけで襲われるからね。冒険者の身分にしておけば、多少は誘拐されるような犯罪に巻き込まれる可能性が下がると思う」
「としますと、エスティア王国の王太子妃の身分をお使いにならないのはどうしてでしょうか」
「今度は他国の王族がその土地の奴隷を買うとなると、要らない噂を招くことになるし、値段も足元を見られたり、素性の良く無い奴隷を押し付けられる可能性があるからね。
ちゃんと、調理場の支援ができるだけの人を雇えればそれで良いんだからさ」
「あっ。なるほど……。
そういわれますと、貴族の中には奴隷を趣味の用途に使われる方もいらっしゃったり、あるいはご自身の不満のはけ口として乱暴に扱う方もいらっしゃいますね。
その様な噂を他国で流されるのは不本意です。わかります……。
とすると、ヒカリ様に此処へご同行頂いていること自体が大きなリスクを背負われていることになりませんか?」
「リスクはあるけれど、皆が忙しいから素早く調整して解決しておきたいでしょ。
私が解決できるなら人に頼まなくても良いんじゃないかな」
「もう一つすみません。
ヒカリ様は全てをご自身で判断と指揮をされたいのですか?」
「え?なんで?そういう風に感じさせちゃってる?」
「あ、いえ、そういうことでは無いです。
今日の件も、『お金出すから自由にやって』でも良かったのではと思いました」
「皆が忙しいから、私がその隙間を埋めているだけだね。
他に隙間を埋めてくれる人が居たならその人に頼んでいたと思うよ」
「確かに私一人では城門を許可なく通ることは出来ませんし、奴隷の売買も出来ませんしね……。奴隷という身分がとても不自由に感じます」
「奴隷印が付いていても、身分証を発行して貰えば自由に通行が出来るし、自由に売買も出来るよ」
「え?ええと……。そのような事例があるのでしょうか?」
「事例っていうか、普通にみんなやってるかな」
「いやいや。奴隷に奴隷との但し書きが付かない身分証を発行して貰うことは出来ませんよ」
「お願いすれば出来るよ」
「それは……、つまり……、裏金を積むということでしょうか?」
「サンマール王国では判らないけれど、ストレイア帝国のナポルという町では、奴隷印が付いている人でも、冒険者として活動をして良いという身分証を発行して貰えたよ。その身分証があれば他の国でも身分証をだして貰えるね」
「ひょ、ひょっとして、失礼ながらヒカリ様は何方かの奴隷印が付いていらっしゃるのでしょうか?」
「え?わたし?私にはついてないよ。私の知り合いの話だよ」
「左様ですか……」
「ん……。試しにペアッドさんに商人のギルド登録証が発行できないか試してみようか」
「試すのですか?」
「やったことがなから聞いてみよう。商人の身分証があれば今日の買い物もし易いしね」
「わかりました。よろしくお願いします」
この後、二人でハピカさんの所へ行って、ペアッドさんを商人としての身分証を発行して貰えないか相談しに行ったよ。
たまたまハピカさんが在宅中だったので、ちょっとお話をしたところ、「私としては、確認不足の点があるかもしれませんが、ジュンジュ卿より『エスティア王国からの客人は最善を尽くて対応する様に』と、指示を受けておりますので、ペアッド殿の商人としての身分証を発行させて頂きます」って、感じで10分も掛からずに対応して貰えた。
「ペアッドさん、商人の身分証が手に入ったよ。まだ初級商人だから権限は小さいけれど、ちょっとした取引では信用して貰えるね」
「ヒカリ様、驚きました……。こういうものなのですね……」
と、ペアッドさんはハピカさんから貰った身分証を首から下げてしげしげと見つめなが唖然とした感じで私に呟くように返事をした。
別に裏金を積んだ訳でも無くて、『お願い』したら、『良いですよ』って感じだったよね。なんら問題無いと思う。
商人としての資格を持った副料理長の出来上がりだね。ゴードンが撤収したら、サンマール王国の拠点ではペアッドさんが暖簾分けする形で料理長を務めることになるね。
だったら、奴隷さんの調達の他にも仕入れの当たりもつけちゃった方が良いかな?
この後は奴隷商人の店を2軒周った。1つは一般的に売買されている金銭目的で人身売買されている奴隷。もう一軒は犯罪奴隷を扱っているお店だね。どちらのお店も奴隷の在庫が多く、安く売りに出ていたよ。
原因の一つは元貴族の家で働いてい居た人が暇を出され、かといって職も無くて、借金のかたに奴隷の身分に落とすことになった人が増えているらしい。
もう一つの犯罪奴隷に関しては、エスティア王国で引き取った騎士団員達だけでなく、その騎士団員が所属していた家族や貴族が連帯責任を取らさせる形で、犯罪奴隷となっているらしい。
でも、それって私が来る前から経済的に破綻している貴族が居た訳だし、王姉殿下が魔族と結託して家臣を犯罪に巻き込んでいて、誰もそれに諫言することなく放置してきた結果だと思うんだよ。
サンマール王国の経済的な立て直しが進んで、就職先が増える様になれば、こういった奴隷さん達の行先も見つかるだろうし、奴隷に身を落とす人も減っていく様になると思う。ただ、その結果が出るのはもう少し先の話かな。
とりあえず奴隷は簡単に手に入りそうなので、一般奴隷の方から10人を見繕って予約を入れて置いた。10人で金貨30枚。服とか所持品を付けると金貨50枚だって。まぁ、裸で身請けしても仕方ないから、この辺りはしょうがないかな。
次に、市場の露店を何軒か覗いてみたけれど、流石に大量に毎日供給してくれるお店は無かった。
仕方ないからもう一度ハピカさんの所に戻って話を聞くことにしよう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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