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9-06.リチャードの夕食会(3)

 一応、良い感じで夕食会の報告は終わったんだけどね……?

 夕食会を終わって、寝室にて……。


「ヒカリ、俺は明日から何をすれば良いんだ?」

「え?」


「いや、夕食会のメンバーとして皆に協力したい」

「エスティア王国の王太子としての役目と、王族の家族を育成する役目と、ハネムーンを楽しむための調整を考えた上で、それが夕食会のメンバーと共有できれば良いんじゃないかな?」


「とすると……」


 リチャードが色々と自分で考えてくれるのは有難い。

 ヒントは出すけれど、答えは出さない。

 そうでないと、各自の利益や個性と結果が結びつかないからね。

 指示したこと、言った事をこなすだけなら、別に夕食会のメンバーにならなくても良い訳だし。


「空飛ぶ卵の操縦方法の習得、母とともに港湾施設の利権調整。この2つを魔族の国を訪問する前に片付けておきたいな」


「良いと思うし、私としても有難い。

 空飛ぶ卵の操縦は魔族の人やスチュワートさんも知りたいかもね。ドワーフ族の先生に習っておいて。

 港湾施設の利権調整についてはシオンも連れて行ってあげると喜ぶと思うよ。外交関係と利権の調整、文化の違い、人脈の作成という意味で良い勉強になるからね」


「とすると、リサも一緒に連れて行った方が良いか?」

「リサは、薬草の世話とか加工とかの方に時間を割きたいと思うよ。ステラやアリアが居ないからリサが指導役にまわらないとね」


「ヒカリ、素朴な疑問だが、リサとシオンはエスティア王家を継いで貰えるのだろうか……」

「なんで?」


「国政とか貴族の暮らしとは別の世界を生きている……」

「でも、あの子達まだ1歳だよ?」


「ぐっ……。そういわれれば、そうなんだが……。

 だが、リサは私より強く、薬草や治療の知識があるならば冒険者を志してもおかしくない。

 シオンは調味料や食品の加工技術に専門性があり、商人としての目端が利く様だ。

 彼らがその専門性を磨いたとすると、王宮のつまらない政治は投げ出しかねない」


「リチャード、それをマリア様が居るときには言わない方が良いと思うよ?

 マリア様が此処で商人を偽装してくれているのは、私たちのハネムーンの拠点確保のためじゃないよ?」


「いや、母は王宮の人間関係に疲れて……。我々のハネムーンの下準備をするために……。

 まさか、それも偽装なのか?」


「いや、さっき話を聞いていたよね?」


「母が貿易商人に身分を偽っていることは知っている。だが、あくまで拠点を確保するために、怪しまれない姿だからであり、母の趣味もあるだろう?」


「怪しまれないためだけれど、趣味でも無いし、私たちのハネムーンのためだけでも無いよ。

 海賊の話って知ってるっけ?」


「何の海賊の話だ?」

「1年くらい前に、砂糖が枯渇しそうになって、それが海賊に襲われたことが原因だって話」


「砂糖の話をヒカリに相談したのは覚えている。あの後、レイ様が樽で届けてくれたな。あれは助かった。それが海賊とどういった関係があるんだ?」


「面倒になったから説明するのを止めよう。マリア様が此処に来たのは海賊封じと王姉殿下の行動監視のためだよ」


「ヒカリ、全然分からないが海賊はどうなった?王姉殿下はストレイア帝国へ帰国されて、監視どころでは無くなった。それが母の仕事だというのか?未達成ではないか」


「状況証拠から、王姉殿下の意見を尊重して、海賊に偽装した集団が私たちの船を襲った。たぶん、まだ1年も経っていないから関係者を辿れば犯人が判ると思う。

 ただ、それよりもサンマール王国からの貿易に対して港と運河を直接手に入れることが出来れば、サンマール王国を経由せずに安定して交易が出来る様になる。だからここは海賊の犯人を追及するよりも、運河と港を建設させてもらう権利を優先して解決に至った。 だから、海賊の件は解決済みだよ」


「分かっていないことが分かったが、そこに母が絡んでいるのか?」

「まぁ、色々と。今度港湾施設の利権調整をしてくれるのだから、最後の〆ってやつだね」


「海賊の件はそれで良いとして、王姉殿下の監視はどうするんだ?」

「ストレイア帝国に直轄地奪取のために攻め込んで貰う。そこをロメリアで撃退する。その調整を進めている。

 だから王姉殿下には皇后として率先してエスティア王国侵攻の提案をして欲しいんだよね」


「な、何故だ?」

「皇后ともなると外部圧力だけでは隠居に持ち込めないし、暗殺をして犯人が判らなかったとしても、帝国側の憶測でどこか都合の良い領主や国が滅ぼされることになる。

 だから、帝国内部で敗戦の責任を負って貰う形で隠居してもらうしかないと思う」


「ロメリアを制圧したときのようだな」

「あのときより大変だけどね。権力も大きい、広い、そして人心掌握も出来ているから隙が無いよ」


「放置は出来ないのか?」

「邪魔ばかりするから表舞台から適切に消えて貰った方が良い」


「それはヒカリから見たら都合が悪いことなだけでは無いか?」

「その質問は広い視野を確保して思考を広げる練習をしているの?それとも私の浅慮であることを危惧して諫めているの?」


「ヒカリも感じている様に帝国の影響は大きい。軍事力も強大で、同盟国が付き従えば、エスティア王国単独ではひとたまりもない」

「私は何もしてなくて、戦争を仕掛けたいのは皇后様ご本人だね。それを手伝うだけだよ」


「……。」

「なに?」


「ロメリアのときもそうだったのか?」

「なにが?」


「裏で手をまわして、戦争を仕掛けさせたのか?」

「戦争にならなかったはずだよ。というか、エスティア王国をボロボロにされてたのは私が来る前から入念に準備されていたこと。私とは関係ないよ」


「あ、スマンかった。信じられない裏の世界を知ると、本当に表の情報だけを信じて良いのか判らなくなってくる」

「それはそうかもね。リサとシオンも『私がメイドをしているところをリチャードに見初められて、無理やり伯爵に陞爵させられた存在』って、信じていたからね」


「それは凄いな。子供達の情報網も凄いが、そこまで浸透しているのも凄い」

「色々と努力してるから、その効果だと思うよ」


「ヒカリが裏の情報に騙されている可能性は無いか?」


「どういうこと?」

「皇后様の振舞や行為が実は別の意図があるとか、そういったケースだ」


「ん……。

 サンマール王国でどういう目に遭ったか覚えていない?」

「王宮に招聘された件か?」


「うん。あれは裏工作?」

「どちらかと言えば、我々は穏便に済まそうとしたが、王姉殿下の独走が招いた結果、母の借りている屋敷も襲撃されたな」


「表の情報は何で、裏の情報は何?」

「表の情報は観光迷宮から魔物が溢れたこと。それを我々の責任と決めつけて招聘しつつ、証拠や貴重な品物を獲得のために屋敷に押入ったと言える」


「裏の情報は?」

「王姉殿下が魔族と繋がっていて、魔族のために各種利権供与を行っていた。その一環として味方の騎士団や指揮官を魔族に包囲させて殲滅させた可能性がある。それだけでなく、ストレイア帝国内で自分の足場固めのために皇太子妃候補を剪定した可能性も高い」


「その裏の情報によると犠牲者は誰?」

「先ず、サンマール王国の臣下や住人たちだろう。戦争で領地を減らし、魔族に蹂躙された犠牲者のことを考えると、王族として許せる行いでは無いな。


「他には?」

「前世のリサもその犠牲者だろう」


「他には?」

「う~ん。魔族以外の犠牲者が居たのだろうか……」


「まず、簡単な所では飛竜族だね。卵の盗難被害に遭っている。産卵数が少ない彼らにとっては種族の存亡の危機だよ。

 次に、他の種族を騙っての偽物の斡旋と販売。これは種族の大切な心を踏みにじる行為。王姉殿下個人の問題に収まらず、種族間の戦争に発展してもおかしくないね。まして、それを裏で手を結んでいるはずの魔族にまで売りつけているとしたら四面楚歌だよ」


「ヒカリ、すまない。私が持っていない情報が多すぎる。

 それと最後のシメンソカとは何だ?悲哀を表現する歌の一種か?」


「ごめん。そこは私の祖国の方で伝わっている故事成語だね。簡単にいうと、周り中が敵だらけって状態だね。因みに歌っているのは敵なのに、自軍の歌を歌われている始末だよ」


「敵に囲まれているのに、敵側から自国の歌が流れてくるとか絶望しか無いな……」


「指揮官によって、サンマール王国は四面楚歌への道を歩んでいたと思う。そこを解放するためにかなりの労力を強いられていると私は感じている。だから私は王姉殿下に速やかに表舞台からご退場頂きたい」


「た、確かに表の情報でだけあれば独裁者の独断で済む。

 だが裏の情報まで含めて考えると種族間の問題に発展しかねない……。そしてそれをサンマール王国の人々は判らずに盲従しているではないか……」


「皇后様としての動きもそうだったんだよ。

 まず、偽物づくりと販売。次に上皇后様への殺人教唆未遂、上皇后夫妻の誘拐未遂、同盟国の貿易船への略奪行為。最後のは海賊の話だけどね」


「ヒカリ、偽物の作成と販売はなんとなく分かる。

 上皇后様の殺人教唆や誘拐は犯罪として成立していないだろう?であれば裏情報の信ぴょう性にも疑義が生じるのだが、この辺りは大丈夫なのか?」


「殺人教唆は皇后陛下付の女性騎士団長とステラからの情報だから大丈夫だよ。誘拐未遂はマリア様やフウマ達が護衛中に遭遇した話だから、これも大丈夫だよ。事件にならない様に穏便に済ませているよ」


「ま、待て待て待て。それはいつのことだ?」

「殺人教唆は、リチャードがタコを獲りに行っている頃。私が帝都で買い物をしに行った時期だね。誘拐はリチャードが私たちの結婚式場であるお城を作る指揮を執っていた頃だよ」


「何も聞いていないんだが?」

「教えても仕方ないからね」


「今は?」

「『裏情報に騙される可能性』の検証をしていると思っているよ」


「その場に居合わせた訳では無いが、ステラ様や母の話となると信じざるを得ない」

「それが夕食会のメンバーの力だよ。その情報が正しい前提で話を進めることが出来る。裏の駆け引きや情報操作が不要。そして対応すべきかことを迅速に判断するメンバーが集まっている。

 素晴らしいと思わない?」


「そう考えると、夕食会の正会員になれたのは幸運と言わざるを得ない」

「皆も速く入ってきて欲しかったと思うよ?」


「ヒカリ、今日は疲れた。そろそろ寝るか……」

「はい……」


 今日は移動と夕食会だけだったけどね。

 可愛がってもらって、明日から頑張ろうっと!


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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