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9-04.リチャードの夕食会(1)

 さ、拠点に戻ってから凱旋の結果を共有するよ!

 外がしらむ頃に二人で寝床に入り、目が覚めたの日が傾き始めた頃だった。

 随分とゆっくり過ごしたね。


「ヒカリ、そろそろ帰るか」

「はい!」


 リチャードに私なりの飛び方をコツを教えてみた。

 「風の魔法」ではなくて、浮遊と空気の押し出しによる飛行術を体感してもらった。今までの様に「浮いて動く」感覚から、「空気の中を風を受けて進む」感覚へと変わったらしい。


 二人で念話で会話をしながら時速40kmぐらいで飛行を続けて、夕飯には間に合うタイミングで拠点に到着した。

 一応、到着時刻をモリスに伝えておいたので、夕食会のメンバーを集めて夕食の準備を整えておいてくれたよ。


ーーー


 夕食会のメンバーは、マリア様、モリス、ニーニャとユッカちゃんと私。そして今回から初参加になるリチャードの合計6名だね。


 ステラ、フウマ、アリアは魔族の王国に遠征中だから不在だし、妖精の長達や魔族のカサマドさんやエルフ族のスチュワートさんも今晩は遠慮して貰うことにした。

 他にもリサとシオンはまだ体力的に厳しいのでご飯食べて直ぐに寝てしまう様で、今回はクレオさん達にお守りをしてもらうことにした。


「今日は人数が少ないですけれど、久しぶりに夕食会を開きたいと思います。リチャードは初参加になるけれど、皆様よろしくお願いします」


「ヒカリ、遮ってすまない。夕食ならこれまで数えきれないぐらい皆で一緒に食べていただろう?今回わざわざ夕食会と名付けるのは何故だ?」


「簡単に言えば秘密が守れるための意思と自衛できる能力がある人達で現状の課題共有や今後の進め方を決めるための報告会になりますね」


「これまでも私は参加していたと思う。それこそヒカリと結婚する前、ヒカリを見初めて婚約の儀に連れて帰る頃からだ。私が不在となるときはフウマが私への連絡役として活躍して貰っていたはずだ」


「今日は不在ですがフウマも夕食会に参加して貰っていました。全てをエスティア王国の方達へ伝えてしまうと個人の問題だけでなく、国家存亡の危機に陥る様な案件が多かったので、夕食会のメンバーで問題の目途づけが出来るまで、情報を共有することを控えていました。このことはフウマにも承諾頂いています」


「いつからだ?」

「いつからとは?」


「夕食会が始まったのはいつからだ?」

「……。ええと……。

 厳密にいえばユッカちゃんと私が出会ったときから。

 夕食会の名前が出来たのは、関所の領地を拝領して、モリスやフウマと一緒に会食をしたときからですね。そのあと色々な方達に参加して頂く様になりました」


「秘密にしていたのは国家存亡の危機があるとの話だが、なぜそれを最初の段階で相談しなかったんだ?」

「解決出来ない問題を、『あれが不味い、これが問題、それは嫌だ』って、駄々をこねていても、それは全く建設的な意見にならないで、現状の不満が溜まるだけだからね」


「ヒカリがそれを解決できたのか?」

「私じゃなくて、夕食会のメンバーで情報を収集して、分析して、方向性を定めて、それに向かって各自が良く考えて行動した結果として、幾つかの課題は解決したし、今も解決に向かって動いてくれていると思うよ。


 ということで、夕食会を始めます。各自の報告からお願いします」


 リチャードとしては不満というか、言い返したいことも沢山あると思う。

 国王がなんのためにいるかとか、領主が何のためにいるかとか。

 リチャード自身だって、国を良くするために色々と行動してくれていると思う。

 けど、まぁ、それはそれってことで……。

 話を一旦区切って、次へ進むことがいいかな……。


「じゃ、私からで良い?」


 と、元気なユッカちゃんが空気を読んで率先して話題を振ってくれる。こういうのは本当に助かる。


「ユッカちゃん、お願い」


「はい。皆で上級迷宮に訓練と魔物を倒すと偶に出てくるアイテムを集めに行きました。クレオさんとナーシャさんと私は支援。

 2週間でリチャードさん、スチュワートさん、カサマドさんが身体強化レベル2の習得と、念話の習得、そして重力遮断を身に着けて貰いました。

 これで3人は夕食会のメンバーと同じくらい自分のことを守れるぐらい強く成ったと思います。

 収集品はマリア様とクレオさんが集計してくれたので、良く分かりません!」


「ユッカちゃん、報告ありがとう。訓練の指導役お疲れさまでした。

 皆から質問とかなければ、このままマリア様に収集品の概略を報告して頂こうと思いますが、宜しいでしょうか」


「ヒカリ、質問があるのだが」

「ユッカちゃんの報告の補足とかかな?会話についていけないだけなら、後から教えるから今は議題の進行を優先させて欲しいけど……」


「個人的な疑問なので、後で構わない」

「リチャード、ありがとう。他に何かご意見はありますか?

 無い様ですので、マリア様お願いします」


「上級迷宮での収集品の集約を担当したわ。

 約2週間とのことだけれど、かなり退屈で長い期間を過ごした感じね。

 結果として、神器の発見は無かったけれど、準神器級の武具が10点ぐらいは見つかったかしら。薬剤や鍛冶の素材に使えそうな小物は、皮の小袋で120袋程度。その他、普通の冒険者に配布したら喜ばれそうな武具類を数百点持ち帰ったわ」


「マリア様、報告ありがとうございます。

 何か質問などありますか?無ければ次の方の報告をお願いしようと思います」


「ヒカリ、これは共通の情報として補足したい」

「リチャード、何でしょう?」


「上級迷宮の資源化が目的の1つだったが、あれは不可能だ。

 ユッカちゃんは訓練が簡単に終わり、母は大量の収集品が集められた結果を報告する。 これでは上級迷宮の資源化が明日からでも可能な様に受け止めてしまう。

 そんな簡単な話では無いことを皆にも分かっておいて貰いたい」


「リチャード、ありがとう。

 私の司会進行が不味くてリチャードに誤解を与えてますね。

 指揮官級の人には結果報告と共に、課題があればその課題についてもこの場で共有して、場合によっては個別の検討会を開く流れで運営してきたの。


 ユッカちゃんの場合は訓練生の指導役としての指揮官だったので、クレオさんやナーシャさんと上手く結果をだせたことを報告してくれたので、特に問題無いと皆が理解したよ。

 マリア様の場合は、『収集品を回収する担当者』として、その役目を果たして来れたので、その結果報告だけになりますね。そして課題が無かったならばそこでお終い。


 今後マリア様が上級迷宮を資源化するための指揮を執ることになった場合には、収集品を誰でも簡単に出来る策を皆と考える必要があれば、今回の報告とは別に話題を振ってくれることになると思うよ」


「ヒカリ、では迷宮関連の調査の流れで、次に私が話題を振っても良いだろうか?」

「リチャード、多分課題が沢山でてきて、議論が盛り上がることになるから、先に他の人の報告を済ませてしまって、その後でお願いしても良いですか?」


「あ、あぁ……」


 リチャードもこの場の流れを段々と理解してくれているみたいなので、この場はこのまま押し切らせてもらうよ。


「では、次にニーニャから報告をお願い」

「承知しました。

 マリア様には以前からご了承頂いておりますが、リチャード殿下にも改めてお願いがございます。

 ヒカリ様が開催する報告会では儀礼的な振舞よりも、簡潔に事実と感想、課題を分けて報告することが求められますゆえ、私の話し方に粗雑で不躾な点が多々ございますこと、予めご了承頂けますでしょうか」


「ニーニャ様、承知しました」


「では。

 私は運河と港の作成、こちらにある城外の拠点の整備、農地までの街道作成、農地の開墾の指揮を担当していました。 また、それらに必要な機材の作成やドワーフ族への作成指南をしました。

 運河と港を並行して実施しており、あと1~2週間で完成予定です。

 こちらの拠点の整備は指揮官や教官、種族の族長クラスの住居としてマリア様の商館の半分程度の大きさを10棟、土木工事や農園作業を行う担当者用に4人同居の小屋を100棟、共同浴場、上下水道の整備まで終わっております。後は適宜拡張するスペースが残っているので、必要に応じて追加できる状況となっております。

 農地の開拓は40km先までの街道と、その沿線にある農地は奥行き500mで10km程度は開墾が終わっている状況になります。こちらも残り30kmの拡張は必要に応じて対応を進めることが可能です。

 ここ2週間としての成果ですので、順調であると申し上げます」


「ニーニャ、ありがとう。

 何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


「ヒカリさん、良いかしら?」と、マリア様。

「はい。ご質問をどうぞ」


「まず、私が王都内で借りている商館だけれど、いつまで続ければ良いかしら?もう商人として活動する必要が無ければ、全てをこちらの拠点に移してしまうのも良いかと思うのだけれど」


「リチャードとの新婚旅行として訪問拠点を確保頂くことと、海賊の抑制をして頂く戦略は終焉に向かっていると思います。

 ですが、港が開港された場合の利権で揉める可能性がありますので、もう1~2週間はマリア様の異国商人の身分と住居としての商館を持続頂ければ思います」


「そう。分かったわ。

 この作戦を続けるのなら、私としては農地で何を育成しているのか情報を知っておく必要あるわ。

 今は何を栽培していて、いつ頃何が収穫出来る予定かしら。それとこの先育成する予定の作物についても知っておきたいわ」


「マリア様のご協力に感謝します。そして、農作物に関して説明を致します。


 先ず、高付加価値の作物としてカカオ、コーヒー。そしてそのシェイド作物としてバナナ。

 次に、目先の出荷を偽装するために、パイナップルやマンゴスチン、チェリモヤなんかのフルーツ類を街道沿いに育てています。

 そして最近初めている作物として、薬草、香辛料、ハーブ類を少量多品種で植えていると思います」


「ヒカリさん、それらが商品として卸せる時期はいつ頃になるかしら?」

「ドリアード様……、ではなくて、ユーフラテスさんからのお話ですと、

 偽装のために植えている果物類は1~2週間後。

 カカオやコーヒーは3ヶ月もあれば出荷できる分量が確保できるそうです。

 薬草類は収穫までに1週間程度。その後の加工する工程までは判りません」


「ヒカリさん、加工が必要な物は収穫後に時間が掛かるということね。

 だとしたら、先ずは果物類が1~2週間後に出荷が出来る様になる訳ね。これは北の大陸に持ち込めるのかしら?」


「一般的には検疫作業が必要と思われます。何らかの方法で検疫と同等な作用を与えることが出来れば、船でも空飛ぶ卵でも運搬可能になります」


「権益?私は商人として交易する利権をもっているわよ」

「すみません。権利の話ではなくてですね……。

 疫病の検査とでもいいましょうか。異界の地の動植物はそこに寄生する虫や病原菌を含んでいることがありまして、それを免疫のない土地へ運んでしまうと、簡単に蔓延してしまう可能性があります。

 ですので、病原菌、虫や虫の卵といったものが付着していないか、あるいは内部に産み付けられていないかを確認する方法が必要であると考えます」


「その話、以前に聞いたことがあるわ。

 南の国の感染者が北の土地を来訪して、治し方が判らずにその町で感染が拡大したらしいわ。治療方法が確立するよりも、被害の拡大を恐れて、町を封鎖して隔離し、町ごと住人が滅ぶのを待つしかなかったと。

 それを虫なんかでも起こることを想定すると、結構大きな問題となるわね」


「そうなんです……。香辛料、茶葉、チョコレートの様に加熱されたり、乾燥したり、加工工程が入っていれば、不用意に持ち運ぶことが無いのですが、生ものや生き物ですと、リスクが格段に上がり、検疫の処置が必要か、あるいは持ち運び自体を禁止しなくてはいけません」


「ヒカリさん、バナナとパイナップルとチェリモヤはどうなのかしら?」

「私が居た土地では、熟れた黄色のバナナはダメで、パイナップルは土地で検査した物は大丈夫でした。チェリモヤは知識としては知っておりましたが、交易の手法は私が存じ上げておりません。参考までに、ドリアンは外の殻を剥いて、実の部分だけにすれば大丈夫なことが多い様です」


「ヒカリさん、だったら、皮を剥いて冷凍してから、それをステラ様の鞄に入れて、その状態で運ぶのはどうかしら?」

「マリア様、確かに果物類の皮を剥いて、安全だと判明した物を冷凍して持ち帰るのであればリスクは減ると思います。この手法は魚や肉、乳製品の加工品では適用できませんが……」


「まぁ、確かに、これで大丈夫だとしても、一般的な交易には使えないわね。何だか勿体ない気がするけれど、一部の人へのお土産とするしか無いわね」

「その様に配慮頂けると助かります」


「他に、ニーニャが建築している港、運河、拠点について質問などはありますか?」


「ヒカリ、ちょっと良いか?」

「はい」


「先ほど、農地の管理でドリアード様の名前が出なかったか?」

「ドリアード様の力を備えたユーフラテスさんのことですね」


「ヒカリ、何か隠していることは無いか?

 普通の人の力では運河や港が一ヶ月で終えられる土木工事では無いし、街道や農園もそう簡単には作れない。

 ひょっとして、ユーフラテスさんがドリアード様で、その能力を発揮して支援して頂いているとか、そういった可能性は無いか?」


「ユーフラテスさんの街道作成するためのスキルはナーシャさんとかステラさんも伝授して貰ったはずだから、そのこととニーニャの建築が早いことはそれほど関係ないんじゃないかな?」


「だとすると、何故そんなに仕事が速く進むのだ?」

「私が説明しても良いのかな。

 まず、材料の岩はステラ達が切り出してきてくれた。北の大陸では空気搬送システムを活用して、ゆっくり運んだけれど、今回は一晩で何往復もしてくれたらしいよ。

 次に、人は北の大陸から派遣している騎士団員とここで犯罪奴隷として確保した元騎士団員を合わせて300人以上いるから人手には困らないはずだね。

 設計と測量はモリスとニーニャがしてくれたから、後はそこに岩を加工して置いて行くだけで済む話になるね。

 岩の加工には、ちょっと特殊な『岩が切れるナイフ』を使っているから、仕事はスムーズに進んだと思うよ」


「ステラ様に岩を運ばせたのか?」

「たぶん。私が寝ている間に済ませてくれたから良く分かってない」


「何個ぐらいだ?」

「1000個ととか言って無かったかな?少し多めに切り出して隠してあるらしい」


「まぁ、人が運べるサイズの石が1000個なら、籠に何杯か往復すれば良いな。

 が、それでは運河や小屋を建てる資材にはならない」

「確か、1辺が10mの立方体の石を1000個かな。普通には1個も持ち上げられないよ」


「無理だろう?というか、そんな方法が使えるなら、北の大陸でも使えば良かっただろう?」

「北の大陸では石を隠す森とか無かったし、川の護岸工事をする上で、土手に沿って大量に石が必要だったから、石の切り出しと運搬を兼ねて、空気搬送システムを構築したね。その後リチャードにはそのシステムを流用して、関所の拠点にもお城を作って貰ったでしょ?」


「皆の邪魔をして悪かった。

 続きは今度時間があるとき個人的に教えて欲しい。

 次は誰の番だ?」


「モリスと私だと思うけれど……。

 二人で拠点の整備のために領地マーカーを設置したり、薬草を扱える人を雇ったり。

 あとは子供達とゲームをしていたかな。

 モリス、何か報告ある?」


「いえ、今のところ補足すべき事項はございません」


「ということで、質問が無ければ最後はリチャードの番になるけれど、大丈夫?」


「モリスとヒカリの成果が大人しいのが気になるが、きっと俺には判らない複雑で高度な話が含まれているのだろう。これも後で質問をさせて頂く。

 次は私の番で良いのか?」


 特に皆からは何も反応が無かった。

 まさか、300人の試験してて死にそうになったり、カレー作ろうとして大冒険になったり、魔族の国で賭け事ギルドを荒らして来たとか言えない。

 夕食会のメンバーなら知っていることだけど、夕食会初心者のリチャードには少しずつギャップを埋めて貰えば良いのだと思うよ。



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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