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9-03.訓練からの帰還(3)

 さ、リチャード達を出迎えるよ!

 迷宮の入り口に到着してから、嵐の様な忙しい時間が過ぎた。

 ユッカちゃんやクレオさんと念話でやり取りしながら、出口に到達する予想時刻を教えて貰う。それに合わせて出来る準備をリサとシオンと私の3人で進めた。


 当初は地下25階から地上まで2日ぐらい掛かかるとリチャードが言っていたけれども、私が「1日で帰って来れるよね?」と疑問をていしたことがリチャードの気に障ったらしい。

 そうなると、クレオさん、ユッカちゃん、ナーシャさんとしては「自分たちの出来る最速での移動」ではなくて、「リチャード達3人が出来る最速」を見極めなくちゃいけない。無理をさせて王族だとか族長にケガをさせようものなら国際問題に発展するし、場合によっては種族間の戦争が勃発する。

 まぁ、そんなこんなで「ケガをさせない全力に近い速度」を見極めるのがとても大変らしく、到着時刻の先読みが出来ないらしい。


 「ざっくり12時間を見込めば良い」という話にはなったけれど、迷宮の外側では夜中から早朝にかけて到着する訳で、この暗闇で準備を進めるのは結構大変だったよ。

 リサやシオンとは身長差があるから二人作業で小屋を建てるような仕事は出来ないし、リサもシオンも未だラナちゃんから妖精の子を貰っていないから、私の妖精の子を中心に照らして貰う訳だけど、1点から照らと周囲全体を明るくするのは難しいし、小屋とか作るとその内側には影ができちゃう。


 うん。重力遮断が出来て、何でも切れるナイフがあるだけでは小屋は作れないってことだね。


 と、そんな条件下で10人ぐらいが休憩できそうな小屋と、男女を別々に2~3人が同時に入れそうな浴場を作った。

 アメニティーというレベルでは無いけれど、ハーブオイルとそこかの貴重な動物からと思われる軽くてフワフワの毛で出来たタオルとローブを人数分用意できた。

 浴槽は予定通りに穴を掘って、その周囲を押し固めてから高温でガラス化処理をして、それで十分に水漏れがしていないことを確認した。本来なら穴を掘ってお湯を入れると、冷めたお湯の入れ替えも継ぎ足しも出来ないから、そういう作りでは駄目なんだけど、今回は数人しかいないし、お湯が冷めたら凍らせて投げ捨てて、代わりのお湯を入れなおせば良い。

 要は「排水設備が無いなら、固めて(ただし、凍結とする)捨てれば良いじゃない」作戦って感じだね。リサはこの考えをすんなりと受け入れてくれたけれど、上下水道が整った暮らしをしてきたシオンには受け入れ難い発想だったみたいだね。


 いや~、結構頑張ったんじゃないかな?


 クレオからの念話の感じでは、もう地下5階まで上がってきているから、この先は1時間も掛からずに着くだろうって。

 リサとシオンは途中から寝て貰っているから、みんなが到着するまで起こさないでおこう。迷宮の中のメンバーは小休止しながらの移動で12時間かもしれないけれど、こちらは昼間に連絡を受けて、そこから移動してきて夜中通して働きっぱなしだった訳で……。


 あとは、元気よく朗らかに、笑顔で皆を迎えてあげたいね。


ーーー


「うん?そこに居るのはヒカリなのか?」

「リチャード、訓練と迷宮の調査で大変だったでしょう。お疲れさまでした」


「あ、ああ……」


 ええと……。それだけ? 私は何て返せば良いんだ?

 とりあえず、お風呂と食事を勧めれば良いかな。


「リチャード、皆さんのお食事を提供できる準備が整っています。お風呂も即席ですが作りましたので、男女に分かれて入浴して疲れを取って頂けるかと思います」


「あ、ああ。皆にも確認をとるが……」

「承知しました。決まりましたらご連絡ください」


 ん……。

 喜んでるとか、感謝とか、そういった良い側の感情が伝わってこないよ?

 平然としているというか、訝しげに探りをいれている、あるいは不安があるような。

 単に疲れているだけ?


 良く分からないから、リサとシオンを起こそうかな?

 一応、二人からは「お母様のことが心配なので、お父様が帰ってきたら必ず起こしてくださいね」とか、言われていたからね。親としては疲れてスヤスヤ寝いる子供を起こすのって、物凄く嫌なんだけどね?

 でも、リサとシオンに後から事態を説明して怒られるぐらいなら、二人が不機嫌になってでも起こしておいた方が良いよね。


 リチャードが迷宮に入って居たメンバーを集めて、色々と相談に向かった。私も作った小屋に寝かせているリサとシオンを抱え起こして、フニャフニャと目を擦っている二人を両脇に抱いて、リチャードが皆の意見を纏めるのを待った。


 すると……。


「ヒカリ、皆はこのまま帰るそうだ」

「え?食事もお風呂もあるのに?」


「うむ。私だけが残ることになった」

「え、あ、リチャードはここでゆっくりするということ?」


「そ、そうなるな……」

「わ、分かった。リサとシオンも手伝ってくれたんだよ」


「お父様、お帰りなさい。無事で帰還されたとのこと、お慶び申し上げます。

 今はきっとお疲れのことと思われますので、拠点に戻られてからゆっくりと冒険にまつわる成果と英雄譚をお聞かせ頂けますでしょうか」


「お父さん、お疲れ様です。

 お母さんはお父さんが帰還するとの話を聞いて、居てもたってもいられなくなり、3人でお迎えに上がりました。僕は皆と一緒に先に拠点に帰りますので、お父さんはお母さんとゆっくりお過ごしください」


「あ、うん。リサもシオンも元気そうで何よりだ。また、拠点で色々と話をしよう」


 リチャードは皆を返すことに何ら躊躇ためらいも無かったのかな?

 皆は皆で、ある程度念話で通話していたメンバーも居たはずで、私がお風呂や食事を準備していることを知っていたはずだけど……、気を利かせた?

 リサとシオンは……、一緒に出迎える話は何処行った?凱旋のお出迎えはしたことになっているけれど、皆と帰る?


 ま、まぁ、いっか。

 皆と簡単に挨拶をして、リサとシオンを託して、誰もいない街中で本当にリチャードと二人きりになったよ……。


ーーー


 ええと……。

 ええと……。

 う~~~~ん……。

 この状況は……。


 リチャードと二人きりで過ごすの?

 普段の寝室で二人のときとは別の雰囲気なんですが……。

 何が特別なのか判らないけれど、何かが違う……。


「ヒカリ、久しぶりに二人で風呂に入ろう」


 リチャードから声が掛かったので、「はい」と俯きながら返事をする。

 普段はこういうのじゃない。もっと、こう、なんていうか、ビジネスライクな感じ。

 お誘いされるときも口数少なく体を交えることが多かったのだけれど……。


 出迎える前にピュアもしたし、リサお勧めの香を炊いて香りづけもしてあった。

 けれど、ちょっと火照った感じの、ジワッとした脇汗が流れるのを感じる。折角の準備が台無しだ。私が緊張してるのかな……。


 お湯を張って、湯加減を確認してからリチャードに先に入る様に勧める。リチャードが先に入った後で私を手招きするので、私も足を投げ出す形で並んで入る。湯気と熱気による汗以外の、気持ちの変化に伴う妙な汗が噴き出すのを感じる。


 そっか……。

 異世界に来てお風呂でゆっくりするって、これで3回目かな?温泉を探す冒険もせずに、領地改革と子育てに必死だったね……。今回だって新婚旅行のはずなのに、何故かサンマール王国経済立て直しを支援したり、飛竜族の卵が盗まれている事件の解決に乗り出したりしてる……。


 あぁ……。

 寛ぐ……。

 日本人はお風呂が体に合うんだろうね……。


「ヒカリ、いつも通り素敵だな」

「え、ええ?ええっと、何でしょう?」


 と、突然何を言いだすんだ、この人は!

 油断も隙もあったもんじゃないね!

 只でさえ容姿端麗で、引き締まった筋肉なのに……。


「この出迎えも、ヒカリの香りもいつも通りだ」

「リサお勧めの香を焚いていたのですが、私の汗で台無しですね……」


「それが良い……。

 が、しかし、どういう風の吹き回しだ?」


 人の体臭に対してなんてことを……。

 この人は次から次へと……。

 いつもはこんな風なこと言わないのに!


「リチャードこそ、今日はどうしてですか?子供達も一緒に出迎えたのに、あっさりとお別れしましたね」


「ヒカリがいつも通りに拠点で何か忙しそうにしながら、食事の時に顔を合わせるだけだと思っていた。

 けれど、ヒカリが此処まで出向いて、風呂や食事の準備をしたのだろう?私がヒカリに夢中になるのはおかしいことか?」


「あ、いや……。そんな……」


 そっか……。

 気持ちでは大切だと思っていたけれど、声に出さないとその大切さが伝わっていなかったんだね。

 リサやシオンに言われて出迎えに来たけれど、想像以上の効果があった。効果っていっても、自分が知らなかった相手の情報を知ることができた。

 こういうのって、理屈じゃないよね!


「ヒカリも念話で連絡をしたときは忙しそうだったにも拘わらず、今日はどうして出迎えに来たんだ?まして、無人化したこの街で風呂と食事の準備をするのは簡単では無かっただろうに」


「ええと……。

 封建制度における妻の役割が認識出来ていなかったと思います。今回の凱旋に当たり、出迎えることの重要さに気が付いておりませんでした。それを気付かせてくれた方達に感謝するとともに、リチャードの帰還に間に合う様に最善を尽くさせて頂きました」


「ヒカリ。今回の出迎えに私はヒカリに無理をさせたのではないか?」

「いや!とんでもないです。反省するしかありません。如何に自分勝手に生きてきたのかと……。もっと家族を大事に……。そして王族の一員としての役割を果たすべく……」


「ヒカリ、ヒカリが反省などする必要はない。私の至らぬところを種々対応頂いていることに感謝している」

「そうですか……」


 と、二人並んで湯船の中で各自が自分の体を撫でながら話をしていのたのだけれど、リチャードがこちらを向いて、改めて話しかけた。


「ヒカリ……」

「はい……」


「この後は二人で食事だな?」

「は、はい。不思議なカバンから何なりと取り出せます」


「その食事の後は……」

「はい……」


「俺としては、ヒカリの子だけが欲しい」

「……。ありがとうございます……」


 妻の役目、王族の役目。

 それだけでなく、一人の女性としても愛されているんだね。


 こう、なんていうか……。

 私が不得意な分野だけれど、改めて認識した。

 私もリチャードを大切にしたい。

 そして、その気持ちを今後はちゃんと伝えなくては!


 約2週間ぶりのリチャードはいつもより激しかった……。



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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