1-18.不思議なカバン(3)
「じゃぁ、続けるよ。
単純で小さな物で良いから、そこをエネルギーに変換することを考える。
ただ、そのときのエネルギーは人間ではコントロール出来ないのね。ラナちゃんのような妖精の長だったら、そこを制御することが出来るかもしれないけどね。
だから、その膨大なエネルギーを、そのままエーテルに作用させて、情報にまで分解してしまうことを目指すの。
そうすると、ある単純な物体が、姿を消して、情報の塊へ変換されることになるね。ただ、そのときに発生したエネルギーは、後で情報を物体に戻すときに必要になるので、情報とともに、何処かに保存しておかないといけないね。
これが出来れば、不思議なカバンにモノを入れたときに、カバンの中にはなにも残らない片道切符が手に入るよ。」
「ヒカリ様、最後の片道切符が何か判りません」と、アリア。
「ヒカリさん、その膨大なエネルギーの格納先と情報の保存方法が判りません」と、ステラ。
「アリア、ごめん。
片道切符っていうのは……。
空気搬送システムにモノを載せた時に、送り先まで届けるときに、ちゃんとその荷物が行き着いたかどうかを確認するための証書みたいなもの。今度、別の荷物を載せて、トロッコが戻ってくれば往復できたことになるね」
「ヒカリ様、ひょっとして、空気搬送システムはこちらで思いついたのではなくて、ヒカリさんの国では普通に使われていることなのでしょうか?」
「うん。
維持費が物凄くかかるんだけど、人や荷物を安全に大量に、高速に、定時で安く運送する手段として、いろいろなところで活用されてるね。
ここでいうなら、ロメリア~サイナス~メルマなんかは石材の運搬とか穀物の運搬、あとは毛糸や毛織物で物の動きが盛んにおこなわれてるでしょ?ああいうところで、馬車による隊商を編成して、その護衛まで雇うとなる運送費がモノの値段より高くなっちゃう。
だから、空気搬送システムのような形でモノの輸送が出来るってことは、国の発展にも非常に有効な手段になるんだよ」
「ヒカリさんは、橋やお城を作るためだけに空気搬送システムを作った訳では無かったのですね……」
「え?さ、流石にそれは無いよ……。
作った費用が回収できないのなら、私が死んだら維持できなくなるでしょ?」
「アイスクリームですとか、スワン型シュークリームですとか、綿菓子ですとか……」と、アリア。
「あ、あの、アリアが正しい!
で、でも、婚約の儀や結婚の儀で皆をもてなす役にも立ったし……。
みんなも喜んでくれたでしょ?」
「レシピの再現が出来ていないので、普及しないと思います……」
と、アリア。
「アリア、私が悪かったよ。今度レシピを残すから……。
砂糖や冷蔵技術が潤沢に使える社会に成ったら、みんなで贅沢しようね」
「ハイ。
スワン型シュークリームより先に、【不思議なカバン】の方が皆の役に立つと思います!」
まぁね。
高級なお菓子より、インフラの整備、食料生産効率の向上とかの方が重要だよ。あとは多産多死型の社会からの脱却とかね。
ただ、不思議なカバンはエネルギー操作の観点から、非常に危険な物になるだろうし、重力遮断技術なんかを誰でも使えるようになったら、悪用された途端に世界は壊れちゃうかも知れないね。
この辺りの制限は、上手くシステムに組み込んでいくしかないね。
「ヒカリさん、私はヒカリさんが甘い物を好きでも構いませんわ。
それより、情報やエネルギーの格納先を知りたいですわ」と、ステラが話を元に戻す。
「ステラ、実は私にもわかんない!
そもそも【重力遮断】だって、どうやって重力波を相殺したり、遮断させているのか判らないの。
だから、具現化したい現象を明確にイメージ出来たなら、エーテルさんが支援してくれるんじゃないかっていう甘い期待があるよ」
「ヒカリさん、確かにそういうものが魔法にはありますわね。
火の魔法をターゲットに向けて放つ場合にも、燃え盛る炎のエネルギーを何処から調達しているのかとか、ターゲットまでの推進エネルギーを何処から捻出しているのかは、私にもさっぱりわかりません。
そんなことを一つ一つ詠唱の中に盛り込んだ上で、全てのプロセスをきっちりと過不足なく定義して実行させるぐらいなら、ターゲットを直接爆発させてしまうことを念じ方がよほど簡単ですもの。
でも、炎を出してターゲットにぶつけることは火属性の魔術ランク3まで極めた人であれば、簡単にできますわ」
「うん。
魔法って、便利な場合と不便な場合があるよね。
念話をするなら、一時的な現象だから魔法が簡単で良いと思う。
だけど、前にアリアと一緒に月の表面を観察したときには、魔法で実現しようとすると、多重起動が必要なうえに、観察するターゲットと自分の位置ずれを時々刻々調整し続けるのでは、観察することは困難だよ。
だから、あのときは科学と工学で実現した望遠鏡が役に立ったよね」
「ヒカリさん、そうなんです。
例の魔法のカバンは継続的な効果と魔法のような効果の融合なのです。なので、どんな作用で起こっているのか、私には判りません」と、アリア。
「うんうん。
継続的な効果を与える方法は【印】を描く方法があるね。
だけど、印は単純な作用を永続的に与えるのに向いているけど、人が操作したいタイミングとか、状況で変化させるのには向いてないよ。
空気搬送システムで下地の石板には大きく分けて3つの印が施してあるの。
(1)トロッコが通過するとスイッチが入る印
(2)スイッチが入ると、スイッチが切れるまで風が吹き続ける印
(3)トロッコの後輪が通過すると、スイッチが切れる印
このスイッチを動作させてるのがトロッコなんだけど、その出発点と終着点に人が居て動作させることで、あとはそれぞれの石板の3つ印が順番に動作する仕組みになってるね。
だから、空気搬送システムは、人や獣の妨害が無ければ無人で永続的に動作させることが出来るよ。トロッコ自体に重力軽減を施してあるから、石板やトロッコの車輪の減りもゆっくり進むと思うし」
「ヒカリさん、あの空気搬送システムで使われている印は非常に簡単な内容ですわ。
ただ、石板の大きさ、トロッコが走るための溝、印を描く位置が正確に決められているので、そこの組み合わさった条件が印を正しく作用させていると思うの。
今までの領地マーカーとか、封印をするための印などは、そこに印が描かれていればその機能が発揮できたのだけれど、個々の単純な印が全体で一つの複雑なシステムを作るっていうのは面白い考えだと思ったわ」
と、ステラからフォローが入る。
アリアは個々のパーツが1つのシステムを作る考え方自体は理解してるはず。問題は印を描いて魔法を発動させるっていうことを体験してないことかな~?
「アリアも大体同じ理解で良いかな?
ここまでのことをまとめると、こんな感じになるよ。
・長時間状態を維持させることは印で制御する
・短時間の変化はエーテルで作用させる
・ただし、印を作用させるためには、ある程度科学的な現象を理解した上で、その術式を描かないといけない
どう?」
「ヒカリ様、大丈夫です。
つまり、物質をエーテルにまで変換する現象を印で描くことができれば、その状態が永続的に保たれるということですよね」
「うん。
それが1つの印で描き切れるのか、複数の印を連携させて作用させるかは、ラナちゃんとステラの解釈次第になるけどね。
ここが出来れば1つの突破口が開けることになるよ」
「「ハイ!」」
と、二人から元気な返事がもらえた。
よしよし!
この調子で次のステップへ進もう!
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