9-02.訓練からの帰還(2)
恋愛っていうのは科学の知識の積み上げでは解決できないんじゃないかな……。
リサとシオンのアドバイスを受けて、ニーニャとモリスに「リチャード達を迎えに行く」って、言づけてから早速迷宮に向かった。
まぁ、時速50kmぐらいで飛んでも、リチャード達のペースなら迷宮から出てくるまでに間に合うんじゃないかな。リサには自分で飛ぶ練習をしてもらって、シオンを抱っこする形で3人だけで向かうことにしたよ。
<<お母様、準備はどの様にお考えですか?>>
リサが並列飛行しながら念話で話しかけてきた。
話しかけられている質問の内容は判るのだけれど、答えの中身が無い。
とりあえず、準備とか何も考えずに飛んで来てしまった訳で……。
<<お母さん、お食事とお風呂の準備が良いと思います>>
と、シオンがアドバイスをくれる。
まぁ、確かに疲れを取るにはお風呂と食事だよね……。
<<お母様、お父様達は迷宮の中でどの様な生活をされていたか聞いていますか?食生活が厳しい物であった場合には、いきなり消化の悪い物を食べて頂くのは良く無いです。お粥などとともに、薬膳スープなどが良いと思います>>
<<お母さん、ユッカおねえちゃん、ナーシャ様、クレオさんが同行されたので、最低限の栄養は摂られていたと思いますが、お母様の食事には敵いません。きっとお父さんも喜ぶと思います>>
そうなのかな……。
ユッカちゃんが一緒だったら食材も豊富に持って行っただろうし、クレオさんが居れば冒険者としての料理はしてくれていたと思うんだけどね……。
<<お母様、食事は程々の準備で良いとして、お風呂はどの様に準備されますか?>>
<<えっ?>>
<<お母様、迷宮のある町は無人化しています。宿屋も営業していません>>
<<リサも、シオンもだけど……。だったら、みんなで王都の外れに作った拠点まで皆で一緒に帰れば良いんじゃないかな?>>
<<お母様、こういう所ではお母様の予測とかリスク管理は役に立たないのですか?>>
<<え?どういうこと?魔物がでたり、盗賊が出るってこと?>>
なんか、私が返事をしたらリサからもシオンからも返事が無くなった。
なんだ?
いつの間にか魔物とか盗賊で制圧されていて、それを片付けるのが当然ってこと?
と、念話での会話が停止してから2-3分経つと、シオンから念話が届いた。
<<おかあさん、少しお話をしても良いでしょうか?>>
<<シオン、なにかな?>>
<<お父さんは、お母さんのことを大切に思っているはずです。お母さんはお父さんのことを大切に思っていますよね>>
<<うん>>
<<お母さんは、大切な人に思いを伝えたことはありますか?>>
<<え?>>
<<やはり、無いのですね?>>
<<ええと、家族が大事なのは当たり前でしょ?その上で、今回の迷宮訓練もして貰っている訳でさ。ちゃんと、大切なことを共有して伝えていると思う>>
<<ん……。これは手強いですね>>
<<え?シオンの話したいことを否定してないよ。質問に答えているだけだよ>>
<<お母さん、お父さんとの馴れ初めは……>>
<<ナレソメ。何それ?>>
<<お母さん、恋バナとかは……>>
<<コイバナ?>>
<<お母さん?恋愛小説とか少女漫画はお読みになりましたか?>>
<<ん……。ん~~~~~。友達が話をしているのを聞いたことはある……。かな?>>
<<お母さん、お父さんとは政略結婚の一環として、そして僕たちはその産物ですか……>>
<<え?え?なんのこと?>>
<<お父さんとお母さんは恋愛感情が無く結婚の儀をされて、生物学的に順当な手段を経て我々が生まれて、家族になったと想像しています>>
<<あ。私には政治的な価値とか特別な権利とかそういうの無いよ。リチャードに拾って貰った感じだね。
私から見てリチャードは素敵な人だとは思ったけれど、この世界での身分差が大きいと知っていたから、憧れとかそういう感情は湧かなかったかな>>
<<お母様、ちょっと宜しいですか?>>
<<あ、リサ、なに?>>
<<どうやって、お父様と知り合いになったのですか?>>
<<リチャードと私の最初の出会いは……。毛皮とかハムを売りに行ったら高く引き取ってくれる青年が現れてね。その人がお父さんだったよ。でも、その時は取引相手って感じだったね>>
<<お母様、それだけでは結婚に至りませんよ。
というか、お母様はメイドとして領地の特産品を売るために出かけていたのですか?>>
<<え?リサは何の話をしてるの?>>
<<お母様は領地でメイドをしているのをお父様に見初められたのでは無いですか?そして伯爵の地位を与えられたと>>
<<あ~~~~~。その噂は正しいのだけど、本当じゃないかな……>>
<<お母様、正しいのに本当じゃないとは?>>
<<エスティア王国の王族や重鎮とか、私の仲間になってくれた人達に協力してもらって、私の存在を消すために、リチャードと私の出会いを演出した噂を故意に流してるのが正解かな。
だから、リサが町の噂や他のメイドさんから聞いた内容は正しいのだけど、それは作られた情報になるよ>>
<<お母様は何者なのですか?>>
う~ん、困った。
本当のことを話をしてもリサには分かって貰えないだろうし。
秘密を打ち明けることが嫌な訳じゃないけれど、上手く伝わるかが判らない……。
私が黙っているとシオンが応じてくれた。
<<リサお姉ちゃん、お母さんは僕と同じように他の国から来た人なのでは無いかと想像します。僕と言葉が通じたり、生活していた文化がとても近い印象だからです>>
<<お母様、異国の政治的な利用価値も無い人がフラフラと歩いていて、お肉を交換したからといって、結婚には至りません。馴れ初めを教えてください>>
<<あ、リサ……。ナレソメっていうのは、男女が出会って、仲良くなるまでの出会いみたいな、そういったきっかけのこと?>>
<<お母さん、恋愛の用語として、ナレソメという言葉があり、そのような解釈になります。そしてコイバナとは、恋愛トークをすることを言います>>
<<ふーん、ふーん、シオンもリサも物知りだねぇ……。私はそういうのに興味が無いっていうか、関心がないっていうか、経験が無くて……>>
<<お母様、このまま3人で暫く飛びますので、お父様との馴れ初めについて伺っても良いですか?>>
私は他の国からやってきて、ユッカちゃんとの出会いとか、リチャードとの出会いとか、領地改革の話を思い出した順番に話をした。
途中で、<<それはおかしい>><<それは隠して当然>>とか、色々な評論が上がった訳だけれど……。
<<お母様、獣人族のレイ様の所でお世話になったお風呂の話がありましたよね。それを再現することはできますか?>>
<<ん~~~。あれは娼館の設備だったし、石鹸とかハーブ類も用意してくれていたからね。フワフワのタオルすら手元に無いよ。
出来るとしたら、あなを掘って、土壁を高温でガラス化して水漏れを防いでから、そこにお湯をはるぐらいしか出来ないんじゃないかな?>>
<<お母様、ハーブなら先日採取したものが私の鞄に入ってます。ですが、石鹸とかオイルとなると……>>
<<お母さん、風呂おけを短時間で作るのは難しいのでお母さんの提案で良いと思います。そしてお姉ちゃんのハーブも分けて貰ってお風呂の準備は良いと思います。
後は風呂上りのオイルマッサージ用の薬用オイルはゴードンさんやペアッドさんに分けて貰ったものがあるのでそれが使えそうです。
後はフワフワのタオルですね>>
う~ん。
異世界来てからピュアをメインに体を整えてきたから、お風呂に関わる装備品って余り拡充してこなかったんだよね。レイにはいくつかの手法を教えて勝手に作って貰っていたけど……。
毛織物だったら、獣人族のレミさんと服飾店の夫婦から貰ったの布が残ってるかな……。
あ。結婚の儀で使える様にと、なんかフワフワの生地を貰った気がするな……。上手く記憶と一致すればそれを鞄から取り出せるかも知れないかな?
<<リサ、シオン、私の鞄にフワフワの毛織物の生地なら残ってるかもしれない。私の記憶が一致しないと取り出せないけども>>
<<お母様、もう少し急いで飛びましょう。お風呂と食事の準備が間に合うかもしれません>>
<<お母さん、僕も出来る限り手伝います。お父さんをもてなしましょう>>
う~~~~~~~~ん。
いや、なんていうか、私には全然分からない世界。
部屋で待ってて、「お帰りなさい」で良いんじゃないの?
わざわざ出迎えて、お風呂とご飯を廃村の中で準備するっていうのは無駄じゃない?
時間も手間も明らかに無駄なことだと思う。
それなら料理の専門家にご飯を作って貰って、ゆっくり寝れば良いのに……。
喜ぶ?嬉しい?
何なんだろう……。
なんか……。
リチャードの馴れ初めについて子供たちに話をしていたら、随分と無茶なことをしてきたと思う。であるにもかかわらずリチャードが私を見捨てなかったのは、単なる政略結婚では無かったのかもしれないねぇ……。
ただ、リチャードからそういう恋愛関係の様な物を求められたことは無かったけれど、私が無関心過ぎたのかな?
駄目だ……。
私には分からない。先読みも経験も役に立たない。
現代科学の知識を積み上げても、こういう問題は解決出来ないんじゃない?
リサとシオンに助けて貰おう……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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