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9-01.訓練からの帰還(1)

さて、私が騎士団員の訓練したり、カレー作ったり、ゲーム大会に参加していたおおよそ2週間。リチャード達が漸く迷宮の訓練から戻って来るって。

 魔族の国でゲーム大会を終えて帰還した翌日。

 私達が魔族の国を訪問していたことが、当たり障りなく話題に上らないギリギリのタイミングでリチャードから念話が届いた。


<<ヒカリ、そろそろ皆で帰ろうかと思う。そちらは変わりは無いか?>>

<<うん。特に問題無いかな。皆で待ってるよ>>


<<そうか。上級迷宮に関しては我々の訓練のみならず、権利化についての知見も深めることが出来たと思う。皆と共有する場を設けたいが、都合は大丈夫だろうか?>>


<<皆に集まって貰う様に声を掛けるとして、いつ頃帰って来られそう?>>

<<今、地下25階層で撤収準備をしている。途中の経路はユッカちゃん達が掃除をしてくれているらしいので、迷宮から出るまで2日。そこから帰路に着いて1週間といったところだろうか>>


<<うん?飛べば1日で帰って来れそうだよね?>>

<<いや、地下25階に来るまでに4日以上掛かった。帰りは早く見積もっても2日程度かかるだろう。迷宮の出口から拠点まで飛ぶといっても、空飛ぶ卵には乗ってきて無いぞ?>>


<<ユッカちゃん、クレオさん、ナーシャさんは何か言ってる?>>

<<「私達だけなら1日で拠点まで帰れる」とのことだ。ヒカリが合ってる>>


<<訓練生としての、リチャード、スチュワートさん、カサマドさん。あとマリア様の4名だと、迷宮からここの拠点まで飛べない人がいるの?>>


<<ヒカリ、馬車で1週間かかる距離だぞ?200km程度の距離があるのではないか?>><<時速100kmで飛べば2時間だね>>


<<ヒカリ、時速100kmとは何だ?>>

<<1時間で100km移動できる速さだね。馬のギャロップが時速20km程度だとして、その5倍の速度。それを2時間継続すれば良いね>>


<<馬の駆け足は2時間も続かない。馬の駆け足の5倍の速度で走れない。無理とは思わないのか?>>


<<それなら、訓練生の3人で一緒に後から走ってくれば良いよ。マリア様はユッカちゃんかクレオさんが引っ張ってくれば良いし。到着する前日ぐらいになったら念話してくれる?>>


<<いや、ヒカリの言ってることが無茶だと説明しただけなんだが、なんでそうなる?>>

<<私とリサとで訓練した人たちは時速40kmぐらいで走れるようになったよ。だから、道に沿って走ってくるだけなら1日も掛からずに帰って来れると思うよ?>>


<<有り得ないだろう?>>

<<よくわからないけど……。マリア様は何か仰ってますか?>>


<<母は「どちらでも良いわ。合わせるわよ」だそうだ。つまり、ヒカリの言っていることを実行できるということになるな……>>


<<まぁ、任せるよ。迷宮を出るまでは皆で一緒に行動した方が良いけれど、迷宮からここの拠点までは各自の速度で移動してくれば良いんじゃないかな?>>

<<わ、わかった。皆と相談してから連絡すう>>


<<うん。またね>>


 さて……。

 こっちは何の準備をしておけば良いんだ?

 ステラとアリアのチームは暫く帰って来れないし……。

 ニーニャ達の運河がどこまで進んでいるか確認しないとね。あ、ニーニャには斧の真贋も判定して貰わないと!

 食料関係は調達さえできていれば、ゴードンとペアッドさんに任せておけば良さそうだし……。

 薬草を用いた治療薬の作成とカレー用の香辛料のブレンドはパイスさんに任せておけば大丈夫だし……。


 ニーニャの件以外は、リサとシオンと遊んで待っていれば良いかな?


ーーー


「ニーニャ、ただいま。調子はどう?」

「ステラ様達が集めた石と、ラナちゃんと私で作ったナイフと、訓練されて身体強化ができる騎士団員達と、モリス殿による測量結果があるから区画整備も運河の構築も順調なんだぞ。

 ヒカリ達はどうだったんだぞ?」


「あ、ステラが斧を取ってきてくれたよ。ニーニャに真贋判定して貰わないと!」


 私のリュックから例の複製品工房ですり替えた斧をニーニャに手渡す。受け取ったニーニャは全体を眺めて、彫られている銘なんかを確認してから、持ち手の位置を握って力を込めた。


 すると、斧の先に取り付けてあった魔石が光りだして、逆雷りの様な雷光が天に向かって放出された。耳のすぐ近くを飛んで行ったから、衝撃波と音と光が凄いことになったよ!

 エネルギー量が小さかったみたいだけれど、本物の雷のようなエネルギーだったら、放電経路が人体の水分とか介して、色々とダメになってたんじゃないかな?そんなことになったら、またラナちゃん達の禁忌のお世話になるところだったね……。



「ヒカリ、これは本物なんだぞ」

「そ、そうみたいだね。かなり危ないね」


「だが、先頭部に取り付けてあった魔石は一回で消滅したんだぞ。もし、武器として使うにしても範囲が狭く、連射もできない。斧も大きいから取り回しもしにくい。使いどころが難しい神器なんだぞ」

「それはそうだけど、この斧を神器として悪用されたら相当危険な兵器として活用できると思うよ?攻城兵器にもなるし、指揮官諸共吹き飛ばすことも出来そう……」


「よく、魔族の国がこれを手放したんだぞ」

「複製品が展示されていて、本物とすり替えて、本物を持って帰ってきたよ」


「また複製品か……」

「カジノの展示場に色々な複製品が展示されてたね。ただ、どこにも本物と表記されていないし。ニーニャとかロマノフ家の銘入とは書かれて無かったね。『特殊なスキルを代々受け継ぐ部族による意匠が込められた、知る人ぞ知る逸品と言われている』みたいな表記だったかな」


「微妙に嘘とも本物とも言えない。詐欺とも言えない線なんだぞ」

「そうだね。だから、本物とすり替えて持ち出しても本物が盗まれたことも判明しにくいんじゃないかな?」


「分かったんだぞ。この対価は誰に支払えばいんだぞ?」

「本物と偽物をすり替えたのはステラとリサと私だけど、その景品を交換したのはステラだから、ステラにお礼を言うことになるのかな?」


「ステラ様ですか……。ヒカリ様に仲介頂けないでしょうか」

「ニーニャ、言葉遣い……」


「ヒカリ様、種族間の根源に関わる大事です。安易なこととして扱う訳には参りません。種族間の戦争に発展するやもしれませぬ」


「いや、まぁ、そうかもしれないけど。でも、賭け金も元金はニーニャが作った魔族の金貨だったと思うよ?」


「魔族の金貨はカサマド殿からドワーフ族を解放するために作成したに過ぎません。その残渣を旅の資金に充てて頂いただけのことです。そこは分けて考えなければなりませぬ」

「ニーニャ、それはそうかも知れないけど……。ステラはそういう種族間の交渉のためにこの斧を取ってきてくれたのでは無いと思うよ?」


「ステラ様とヒカリ様の関係であれば、その様な解釈が成立するかもしれませんが、ステラ様と私の関係を同様に扱うことは出来ません」


「うん……。じゃぁ、私がステラから貰って、それをニーニャにあげたことにすれば良いの?」


「ヒカリ様、その様なことをされますと、それはヒカリ様がステラ様を奴隷として扱い、搾取を強行したことになります。ヒカリ様はそれをお望みでしょうか?

 ヒカリ様は奴隷制度を嫌っております。であれば、私が斧を望むことを諦めることがこの場の正しい納め方と考えます」


「ニーニャ、ニーニャ……。

 私がステラの嫌がることをして搾取しているなら、その考え方は正しいかもしれないけれど、ステラが気にして無ければ、そんなんに重く捉えなくても良いんじゃないかな?」

「ヒカリ様はドワーフ族の宿命を軽んじての発言では無いと思いますが、軽々しく捉えて良い内容とそうでない内容があることをご理解頂きたい」


「わ、わかった。失言です。ステラに確認します。その上でどの様な対価の在り方が双方にとって合意できるものとなるか取り決めましょう」

「ヒカリ様の配慮に感謝します。結果が出るまではこちらの斧は謹んでお返し致します」

 いや、まぁ、そうかもしれないけれど……。

 種族の宿命っていうのは、知らない人が軽々しく論じちゃいけないねぇ……。


ーーー


「リサ、シオン、お父さん達が帰って来るって」

「お母様、お迎えの準備ですね」

「お母さん、いたわり言葉を準備されることをお勧めします」


「あ、あの……。

 二人とも、なんていうか……。

 お父さんと久しぶりに会う喜びよりも、帰還者へのねぎらいに重点が置かれている様に聞こえるよ?」


「お母様、お父様はミッションを達成して、その成果をもって無事に帰還するのですよ。凱旋と言っても差し支えない状況です。その準備をされないのは失礼に当たります」

「お母さん、2週間以上も迷宮で訓練をされたのです。そしてまだまだ若いお父様にとって、お母様以外に側室を持たない環境下で過ごされたのです。その苦労がお分かり頂けるでしょうか。

 夫婦の営みをさりげなく促すことが夫婦円満の秘訣と言えるのでは無いでしょうか」


「君ら流石だねぇ……。

 王侯貴族と一緒に戦争をした経験があったり、男性という性的な欲求を理解していたりと、私には全然気が付かない知識を持ってるよね。

 リサの言う準備は、モリスとか他の人に手伝って貰えばわかりそうだけど……。シオンの言う準備はどうしたもんだか……」


「お母様が迷宮まで迎えに行って、一晩過ごせば良いのです」

「お母さん、迷宮までお迎えに上がると喜ばれますね」


 え?

 いや、ちょっと待ってね?

 1日も掛からず帰って来れる場所でしょ?

 それもちょっと長めの訓練してきただけで、そんな大それたことが必要?

 もし私が迷宮の出口でお迎えとかされたら、びっくりしちゃうけどね……。


 あ、いや……。

 でも、それが普通ってこと?

 それを二人が教えてくれているなら、それに合わせる?


 いや……。

 中高一貫校でオタクっぽく過ごしていたから恋愛の知識に疎いし、まして女子高だったから男性の生理現象に疎いのは仕方ないとする。

 王国や貴族のマナーについても、あくまで城のなかのパーティーとかそういったレベルの知識としてのマナーは身に着けたけれど、冠婚葬祭とか軍事行動における凱旋準備とかは考えたことが無かった……。


 こういうのって、クワトロとかモリス辺りだったら知ってるのかな……。


「お母様、どうされましたか?」

「お母さん、僕たちは適当に食事がとれますので、急がれた方が良いと思います」


「あ、ああ……。うん……。

 二人の意見は尤もだけど、ちょっとクワトロやモリスにも確認してみるよ」


 さて、雰囲気的に迎えに行くのが正しい感じだねぇ……。

 念話で『勝手に帰ってくれば』ぐらいな返事をしてしまったのは不味かったかな……。

 恋愛音痴で、封建制度における王族の役割を分かっていないと、えらいことになるねぇ……。現代知識だけでは解決に至らないよ……。


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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