8-24.ゲーム大会3位決定戦(3)
「アリアさん、もう夜が明けて朝ね。今ので何回目だったかしら?」
「確か20回戦目の引き分けが完了したことになります。
やっと、繰り越しした賭け札の払い戻しが100万枚を超えました」
「アリアさん、お金なら武闘大会での払い戻しが400万枚になっているわ。
まだ必要なのかしら?」
「お金の面では……。そうですね……。確かにカジノの景品にあった得体のしれない鉱石類と交換してみるのも面白いかもしれませんね。きっと偽物でしょうけれど……。
それより、まだ私にスカウトが来たり、優勝者との交代の申し入れが来ませんので、だれも私を勝者として認める気風がありません」
「アリアさん、多分、皆がおかしいと思い始めているけれど、アリアさんが凄すぎてその境地に踏み込めず、だれも価値を理解出来ないのではないのかしら?」
「それは流石に無いでしょう。
あそこまで私が引き分けになる様に手を調整していることが、大きなパネルを通して大観衆に晒されているのですよ?気が付かない訳がありません」
「そもそも、今の様な事が起こるまでは『引き分けに調整が出来る』ことすら理解されないのじゃないかしら?『賭け事ギルドと選手二人が組んで調整している』と思われても不思議では無いわ」
「そ、そんな……。それでしたら私は何のために?」
「アリアさんなら気が付いていると思っていたのだけれど……」
「分かりました。もう、良いです。次で勝負をつけましょう。
そして私の価値が判らない人たちに私の手の内を見せる必要はありませんね。
次の勝負で私が負けて、賭け札の払戻金を得て終了にしましょう」
「アリアさん、4位で良いのかしら?」
「順位に価値は有りません。後は払戻金を確実に貰える様に『私の負け』に堂々と賭けて払戻金を得ましょう」
「分かったわ。アリアさんが覚悟を決めたのでしたら、『21回戦目はアリアの負け』に賭ける様に指示を出してくるわ」
「はい。お願いします」
ーーー
アリアさんの負けで3位決定戦は終わったわ。
アリアさんの払い戻しが魔族の金貨2万枚と人族の金貨8万枚と端数は手数料として納めることにした。私はエルフ族のエルフ族の金貨208万枚ね。そしてテイラーさんはなんと魔族の金貨を賭けていたので、魔族の金貨208万枚になったそうね。
さて、どうするのかしら?
払い戻しが不能になるのは目に見えていたので、賭け事ギルド長であるハッサンと3度目の面談になったわ。
メンバーは、通訳としてのテイラーさん、私、アリアさん。今回はアリアさんのゲーム大会の終了もあったことから、シルフとミチナガ様とお子様にも同行頂く形になったわ。 シルフが居てくれているので、テイラーさんの通訳は不要だけれど、まぁ、手の内を見せる必要は無いわね。
「その……。3度目の面談叶いまして、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。昨日の夜に話をさせて頂いた契約書の類は揃っているかしら?」
「は、はい、こちらに。
そちらに書かれていますように、資本は教団から入っており、そのため収益を折半する内容の記載が第7項に記載があると思います。
カジノに関しては別契約書になりまして、賭け事ギルドの所有権は無く、賃貸契約になることが第33項に記載されております」
魔族語と法律用語は流石に理解出来ないのでテイラーさんに読み上げをお願いするとともに、念のためシルフから念話での思考の漏れをチェックして貰ったわ。今のところ、ハッサンさんが説明した内容に問題無いわね。
とすると……。
当然ながら、損失も被って貰えるのかしら?それとも債権放棄が成立して、投資した資本のみの放棄で済むのかしら?それとも教団側に連帯責任が発生するのかしら、ここをテイラーさんに確認して頂きましょう。
「ハッサン殿、少し我々でその契約書を吟味させて頂いても良いかな?」
と、テイラーさんと一緒に契約書の中身を精査したわ。
すると、共同責任を負うという形で記載があり、資本は提供する分、そこに係る費用負担はギルド側が負う。収益は折半であることが記載されていたわ。
簡単な話ね。
今回の武闘大会とゲーム大会の運営を賭け事ギルドが仕切っているのであれば、その損益も教団と折半ということよ。
この内容をテイラーさんからハッサンさんへ説明して頂いたわ。
「え?いや、まさか……。何処にその様な……。
いや、確かに……、ええ……、はぁ……。
なるほど……。
今回の損失の半分は教団が請け負う形になりますね……」
「ハッサン殿、ゲーム大会の端数は手数料として差し引かせてもらったが、
ステラ様が魔族の金貨換算で6万枚。アリア殿が2万枚。私が208万枚。
まぁ、私の分は魔族の国の中で活用させて頂くとして、エルフ族のステラ様と人族のアリア殿に於かれては、それぞれの種族の金貨に交換する義務が生じる訳だが……。
教団側が半分を負担するとして、賭け事ギルドが破綻しては認可を出している王国側にも責任が生じる。よって、教団側と王国側で魔族の金貨8万枚相当を準備する必要があるという認識になるが良いかな?」
「いや……。テイラー殿の説明通りになりますが……。
果たして教団や王国が素直にその返済に応じるかは……」
「簡単な話よ。払戻金の半額ずつの借用書をハッサンさんが書くの。
私たちはその借用書を持って、国営の金貨交換所へ持ち込んで、種族の金貨に交換して貰う様にお願いをするだけだわ。
それが終わったら、今度は賭け事ギルドの収益の精算として教団に金貨4万枚の請求書を持参するだけ。
良いかしら?」
「でしたら、最初から王国側に申し入れをすることでも構いませんかね?」
「私たちはその順番を気にしないけれど、私たちは旅の者ですから、見て回る物が無くなれば、それぞれの種族の金貨に交換してこの国を旅立つだけだわ。一か所に何か月も滞在する必要は有りませんもの」
「と、いいますと……。一ヶ月程度は猶予があるのでしょうか?」
「もう、一週間近く滞在させて頂いたけれど、賭け事やカジノは十分に楽しんだし、市場も他の種族との交流が盛んな様な目新しい物は見かけなかったわね。
あとは教団を訪問したり、飛竜の卵のお土産を買うことぐらいかしら」
「いや、あの……。その仰り様ですと、1週間ぐらいでしょうか?」
「のんびりと対応されても困るということよ。真剣に速やかにご対応頂きたいわ」
「しょ、承知しました。王国側への面談の申し入れと教団側への収支報告書の提出を迅速に進めます。
ところで、『飛竜の卵のお土産』にご興味がおありですか?賭け事ギルドの景品としても幾つか展示があったかと思いますが……」
「そうね……。無くはないわ。
飛竜そのものに近づけていることに興味がある感じかしら。
もし巣に近づいて盗んでこれるなら相当な技術の持ち主だと思うわ」
「いや~。ここだけの話なのですがね?飛竜の卵は教団が集めているんですよ。
その中で『不要』って判定がされた卵を我々が買い取らされていまして、その買い取った物を加工して、中身を抜いた上でランプにしたり、お土産用に整形したりしております」
「あら、そうなのね。では飛竜の卵を巣から盗み取っているかとかは、教団の方達に聞かないと判らないってことね」
「ええ。私には分からないです……。申し訳ございません……」
ーーー
さて……。
これで私達教団側へのアクセスと飛竜の卵の出元を探る役目は終わったかしら……。
敢えて急がせずにヒカリさん達家族がハネムーンとして正式に魔族の王国を訪問されるのを待っていても良いし、アリアさんご家族が飽きてしまって帰りたいようでしたら早めに決着を着けても良いかもしれないわね。
後で簡単にヒカリさんに念話を通しておきましょう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次章から暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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