8-23.ゲーム大会3位決定戦(2)
ステラ達が関わる3位決定戦は賭け事ギルドも巻き込んだ事態になり……。
休憩時間に食事や飲み物を振舞ったことで、観客を引き留めることが出来た。それどころか、その噂を聞きつけて普段ゲームや賭け事に興味が無い連中もただ飯を食べに集まってきた。金貨100枚相当の出費だったが大した問題じゃない。
この賑わいの中で、対戦の様子を掲示できるパネルの設置も完成した。選手達の座席を囲むように4枚のパネルだ。これによって、ゲームへの興味とこれからの勝負がギルドとしてオープンな内容出あることを示すことで、再度賭け事への興味も持ってもらえるだろう。
30分後に3位決定戦の第六回戦を始めることになり、賭け札を食事のお礼とばかりに購入する人が多く現れた。そして、今回は勝ち負け、引き分けの比率が引き分けに偏っていた。
確かに6回戦は引き分けるかもしれない。だが、休憩中に差し入れとして渡した白いハンカチを男性選手が振ればグレハン率いるゴロツキ集団は男性選手の勝ちに賭けることになる。これで魔族の金貨6000枚の払い戻しは不要になる。つまり、ほぼ全ての払い戻しがゼロリセットになるのだから、観客の多少の払い戻しが発生しても全く問題ない。
グレハンは西側の人族側国境へ向かう城門から出ていることが確認された。
一方、ドワーフ族側の東側城門からは数日前に、侯爵三男のテイラー殿、エルフ族が一人、そして人族の家族一組が入城していることも記録から確認された。詳細を確認したところ、人族の女性にアリアという人物が居て、このゲーム大会の三位決定戦に参加していることが確認できた。更に言えば、エルフ族の人物はステラ・アルシウスといい、先日の武闘大会で魔族の金貨2000枚を賭けた人物であることも確定した。
要は、俺の推測通り、グレハンは何等かのきっかけでテイラー殿の作戦を手に入れることができ、アリア選手の情報を聞き取り、それを仲間内に知らせていたということで問題なさそうだ。
よしよし、上手く行くんじゃないか?
ーーー
6回戦で男性選手が白いハンカチを振った。
続く7回戦でゴロツキ集団は男性選手の勝ちに賭けた。
当然、6回戦も7回戦も引き分けだったため、彼らのゼロリセットが完了した。
そこへ『イカサマだ!』と、根拠も無く怒鳴り込んできた連中を可及的速やかに対処した。
周囲の観客からすれば、偶然であろうとなかろうと、対戦が目前で観戦できている中での引き分けだから、イカサマ等と怒鳴り込んでくる輩を処置するのは賭け事ギルドとして真っ当な対応であり、周囲の人達も我々の味方であった。
が、しかし……。その後が問題だ。
もう引き分けが13回も続き、現在14回目に突入している。
休憩を挟んでから引き分けに賭け始めた人が少数居たが、流石に10回目辺りで、その賭け札はばらけはじめる。だから、6回戦以降連続で賭け札を引き分けに賭け続けている人はほぼ居ない。
これは、本当に何が起きているのだ?
もし仮に、例えば賭け金が金貨1枚だとしても、20回引き分けてからの勝敗で当たりを引いた場合には金貨50万枚になるぞ?
先日のエルフ族の方への魔族の金貨4万枚に続いて、今回魔族の金貨1万枚の払い戻しになったら、誰が支払いをするのだろうか……。本当に教団の枢機卿が何らかの措置を講じてくれているのか、内々に確認した方が良いな……。
深夜になっていることもあり、2回目の休憩に入るように指示を出そう。そして、枢機卿を訪問しよう……。
ーーー
「枢機卿、お忙しいところご面談叶いまして幸いです」
「いやいや、こんな深夜にどうされましたか。余程の緊急な用件かと思いますが?」
「ええ……。実は先日の武闘大会の払い戻しについてのご相談なのですが……」
「うむ。エルフ族の方が魔族の金貨1000枚を賭けていた件であるな」
「教団の方達で、何らか手を打って頂けるという理解で宜しいでしょうか?」
「ふむ……。それはどういうことであろう?」
「受付嬢に確認を取りましたところ、『枢機卿の内密な指示により、エルフ族の方が追加で金貨1000枚の賭け札を購入した』と、伺いましたので……」
「ふむ。私もその際金貨100枚分ほど賭け札を購入した。結果は惨敗であったがな。アッハハ……」
「ええと、その……」
「そのときのワシの負けを今回のゲーム大会で取り戻してくれる相談だろうか?」
「あ、いや、そうでは無く……。エルフ族の方は枢機卿のお客人であると推測されるのですが……」
「うん、何を申されておる?」
「教会の資本が賭け事ギルドに投下されていることは重々承知しておりますが、先日の魔族の金貨4万枚は、賭け事ギルドだけでは賄いきれず……」
「ふむ、それが何か?」
「教会幹部からの指示で、武闘大会の払い戻し倍率やトーナメント表を作成しておりましたので、何らかの策略があるかと思い、その辺りの事情をお伺いに参った訳でございますが……」
「我は知らぬ。その指示をだした者に直接問い合わせるべきでは無いか?」
「つまり、エルフ族の方が魔族の金貨4万枚を得たことと、教団のお客様であることは関係ないのでしょうか?」
「何を勘違いしているか判らぬが、諸国漫遊の旅の者達がアジャニア出身とのことで、面談の申し入れをされているのであれば、順番を早められないか話をしただけである。
何か賭け事ギルドに不都合があったのだろうか?」
「夜分遅く失礼しました。本日の面談のお礼につきましては、後日必ず接待の場を設けさせて頂きたく」
「うむ。何か勘違いをされていたかもしれないが、賭け事ギルドには資金の洗浄と資本の増強の両面から期待しているところである。
先日の武闘大会での損失も今回のゲーム大会でなんぼか回復できるのではな無いか?私の負け分も頑張って欲しいところである」
「ハハッ。期待に応えられるよう、精進いたします!」
面談が終わってみた物の、莫大な借金と教会の指示が無かったという事実しかわからなかった。
が、しかし……。
何故、教会のお客人達がこぞって賭け事ギルドを目の敵にして、払戻金の搾取や揉め事の種をまき散らかそうとしているんだ?
武闘大会は終わってしまって、後は魔族の金貨4万枚の支払い条件を粛々と詰めるだけの状態。ゲーム大会も完了していないが、このまま20回戦からの勝利確定となると、魔族の金貨で1万枚近い損失を被ることになる。
俺が個人的に抹殺されて終わり程度な話で無くなるんだが……。
こ、これは3位決定戦に出場しているアリアという選手とコンタクトを取る必要があるのでは?
ーーー
枢機卿の所から急いでギルド長室へ戻り、アリア殿をここへ招待するように伝えた。
選手達はゲーム大会の傍にある個室を控室に変更して使用して頂いていたので、直ぐに連絡が付いた。
通訳の都合もあるので、控室にいたアリア殿と一緒にいた魔族のテイラー殿も招待させて頂いた。そのため、こちらが魔族語で話しかけるとテイラー殿が速やかに通訳を行ってくれ会話を進めることが出来た。同室に居たエルフ族の方も同席したいとのことで、ご同行いただくこととした。
「夜分遅くの招待に応じて頂き感謝します。賭け事ギルドの長である、ハッサンと申します。ゲーム大会にエントリーされてる通り、アリアさんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「はい、アリアと申します。
今回のゲーム大会の主催者であるギルド長自らご招待頂きありがとうございます。ところで、選手二人が同時に呼ばれていないとなると不公平性を欠く可能性がございます。
何か、内密がご相談があるのでしょうか?」
「あ……、うん……。
まぁ……。うん。
その……」
「何か言いにくい事情がおありの様ですが、何か私のプレイに不正疑惑でも上がっているのでしょうか?」
「いや、それは無い。そうでは無く……」
不味い。
不正の証拠は無いが、14連続引き分けはおかしい。
そして、先日の武闘大会の払い戻しに加えて、今回このまま魔族の金貨に換算して1万枚の払い戻しが発生するのも不味い。
が、不味いのはゲーム大会の運営と払い戻しのルールが不味いだけであり、プレイヤーや賭けに興じる人たちの責任ではない。
本当に不正が無ければだが……。
「ひょっとして、賭け金の払い戻しの相談かしら?」
と、エルフ族の女性がこちらの真意を突いてきた。
「そ、それも一部の理由ではございますが……」
「まず、先日の武闘大会の払い戻し金として、魔族の金貨4万枚。こちらは物納でも良いと話をしていたのだけれど、大丈夫だったかしら?」
「何かご希望の物がみつかりましたか?」
「昨日、カジノの景品に掲げられていた大きな斧を1本頂きましたわ。魔族の金貨1000枚相当とか。まぁ、鑑定書も無く、偽物かもしれないとのことなのでお遊びとして頂くことにしたわ」
「は、はい……」
「残り魔族の金貨3万9千枚を揃える目途は着いたのかしら?ただ、私はそれをエルフ族の金貨に交換してから、魔族の国外へ持ち帰ろうと思っているのだけれど、その話が通っているのよね?」
「い、いや。じ、実はそのことも問題でして……」
「そうねぇ……。
ドワーフ族の村が在ったところに魔族の精錬所が有ったわ。あれを頂くのはどうかしら。魔族の金貨3000枚ぐらいで」
「あ、いや。あれは賭け事ギルド所有の施設では無く、国有のものですし……。それに魔族の金貨3000枚は安すぎませんか?」
「国が許可している賭け事ギルドが魔族の金貨4万枚を支払い、それをエルフ族の金貨に交換出来ない。だから代わりに物納を考えているのでしょう?
嫌なら、今からあなたを連れて両替所へ向かって、エルフ族の金貨400万枚の払い出しをお願いするだけだわ」
「あ、え、ええっと。すみません。少々お待ちください。
まず、国との交渉の場を設けさせて頂きます。銅の精錬所の適正価格につきましては私がどうこういえませんことだけ、お伝えしたく」
「そう。
ハッサンさん、カジノで展示されていた景品はどれも大したものでは無かったのよ。何処にも『これは本物、鑑定書付き』等と書かれて無かったもの。ただし、『本物』と掲示されていたなら種族間の戦争が起こるところだったわね。
賭け事ギルド所有の物件とか権利書は無いのかしら?」
「ええと、あの……。
賭け事ギルドは国営の施設の運営を任せられている面が強くてですね……。
建物の類はほとんどが国の施設となっております。
また、収益に関しては教団の資本が大分入っておりまして、『賭け金と払い戻しの差額は教団との折半』となっておりまして、賭け事ギルドは利益の半分から必要な経費や手当を支払う必要があり、手元には資金がほとんど残らないのです……」
「いま、何と?」
「物件は賭け事ギルドの所有ではなく国有ということですね。ちなみに、家賃は支払っております」
「もう一つの方よ。『掛け金と払戻金の差額を折半』と言わなかったかしら?」
「は、はい」
「口頭の指示とか暗黙の了解といった形では無く、契約書があるのかしら?」
「ええ、はい。
魔族の国はこれでいて契約には五月蠅いのです。法を盾に論理武装をして、正攻法で相手を説得するのです。
ですから、私としても無い袖は振れず、ご要望にお応えすることも出来ず……」
「とりあえず、その件は契約書を確認させて頂いてからにしましょう。
休憩が長引いているようだけれど、アリアさんへの用件は何だったのかしら?」
ここで、一旦エルフ族の女性との会話がうちきられたので、手短にアリア殿に質問を重ねることにした。
「その……。不正は無いという認識で良いですよね?」
「ありません」
「この引き分けはいつまで続くのでしょうか?」
「どちらかが倒れて戦闘不能になるまででしょうか?」
「徹夜での対戦をお望みでしょうか?」
「休憩を含めて運営の方達の判断にお任せします」
「夜遅くまでとなると、婦女子の方達には不慣れな時間となりませんか?」
「それを含めての対戦と考えております」
「睡眠も必要無く?」
「睡魔による思考能力の低下を含めての頭脳戦と言えるのではないでしょうか?」
「長時間にわたる戦いも厭わないと?」
「戦争が1日で済むことは有りませんわ。一ヶ月ですら短い方かと」
「アリア殿のご覚悟、しかと承りました。もう一人の選手にも確認を取りました上で、我々の采配で進行させて頂きます」
「ええ。最後の決着に至るまでお願いします」
これはいったい……。
通訳を請け負ってくれたテイラー殿は全く中立の様相であった。
とすると、エルフ族の女性の思惑で動いているかのように思えたが、今回のゲーム大会とは全く違う所の視点をお持ちの様であった。あれはあれで大問題に発展しそうな様子が伺える。
そして何より、このゲーム大会に臨むアリア殿の覚悟だ。
本当に生死を掛けた戦争をしにきている。
我々が何をしたというのだ?
高々金貨100枚程度の賞金。そして、参加費が高く割に合わない。
精々、そのあとの就職先が見つかる程度のメリットしかない。
あそこ迄頑なに勝負を続けようとしている執念も判らない。
と、とりあえず、休憩を終えて、ゲーム大会の再開をするしか無いのか……。
ーーー
……。
……、……。
3位決定戦の第6回戦が始まるまでは全てが上手く行くと思っていた。
だが、これはなんだ?
何故、14回も引き分けが続いているんだ?