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8-21.ゲーム大会(4)

 今日はゲーム大会の最終日。

 私たちの作戦は順調に進み、私とステラは準々決勝で敗退。

 モリスとアリアはモリスが先行を取り決勝戦に進み、アリアが3位決定戦に進んだ。

 ここから賭けの本番なんだけど……。


<<ヒカリ様、私も引き分けに調整して良いですか?>>


 と、アリアから念話が入った。


 むむ。これは少し考えどころ。

 普通に「良いよ」って、言おうものなら、10連引き分けどころか、一晩中引き分けに持ち込む可能性がある。途中休憩を挟んでもアリアは許さないだろうから、アリアが「もう、良いかな」って、思うまで続けちゃうと思う。一応、アリアに意思を確認しておこうかな?


<<アリアさ、何連引き分けとかを狙うつもり?>>

<<少なくとも10連。後はステラ様が止めるか、主催者が中止を言い渡すまでですかね>>

<<ええと……。アリア、怒ってる?>>

<<怒ってませんよ。運の悪さに打ちひしがれていて、無闇に弱い者いじめをしたい気分です>>


<<冷静に怒ってるよね?>>

<<ヒカリ様も私が父より弱いと思っていますよね?>>


<<いやいや。私には分からないけど、先手を取れたモリスが勝てただけでしょ?アリアが先手を取れたらモリスに勝てた可能性が高いのだからさ>>


<<でしたら、運以外は父と同等以上の力があることを私が示す機会をください>>


<<アリアの気持ちは分かった。だけど、行動は別々にしてても、アリアとモリスが親子と疑われるような行動は慎んだ方が良いと思う。

 きっと、後でそれぞれが勧誘されるし、その思考の似た鋭さから、夫々の出身を勘繰られる可能性が高いよ>>


<<ヒカリ様、私にわざと負けろと?>>

<<いや、あの……>>


 ちょっと、モリスに交渉して、『引き分け作戦はアリアに譲る』ことにしようかな?


<<モリス、ちょっと良い?>>

<<今は昼休憩です。この後、決勝戦ですね。何か不味いことが有りましたか?>>


<<アリアがモリスに負けたことに納得が行かなくて、『引き分け大作戦をアリアもしたい』ってことになってる>>


<<それは目立ちます。それに親子でスカウトされると出身地の共通性から『親子で目的をもって潜入している』と、余計なことを勘繰られる可能性がございます。

 そうしますと、ステラ様やミチナガ様が折角教団へ接触を試みている行為にも疑いの目を向けられる可能性がでてきます。ただでさえ、ステラ様による魔族の金貨4万枚の話も片付いていない状況ですし……>>


<<モリス、どうしよう。例えば決勝戦であっさり負けるとかは有り?>>

<<ヒカリ様、10連引き分けの話が無いのでしたら、勝っても良いですよね?>>


<<アリアが10連以上引き分けたら、そっちの方が問題になるから目立たない。というか、賭け事ギルドとしてはそれどころでは無くなる>>


<<でしたら、それで行きましょう。そして我々はステラ様とアリアに3位決定戦の勝負の行方を任せてカジノへ戻り、荷物を纏めてサンマール王国へ戻りましょう>>


<<グレハンに渡してある金貨とか、アリアの連続引き分けの払戻金が……>>

<<好きなだけグレハンに差し上げ、ヒカリ様の手数料分だけ回収すれば宜しいかと。グレハンはアリアに賭け続けるので、最後はその分が天文学的な金額となって彼に払い戻されるでしょう>>


<<その線で良いか、ステラとアリアに話を通す。話が通ればグレハンに予定変更を伝えて、私たちはお別れの挨拶をする>>

<<それが宜しいかと>>


 ステラとアリアに念話を通して了承して貰った。

 グレハンには引き分けの連続勝負はアリアなる女性に賭け続ける様にお願いして、後は今回の旅の精算をすることにしたよ。


「ヒカリ様、ここでお別れでしょうか?」

「あ~。カジノの精算もしないとね。カジノに寄って滞在用の荷物だけ持ち出してから私たちは旅に戻るよ」


「ヒカリ様、カジノと言えば、ヒカリ様から預かっている遊戯チケットが合計500枚になっていますが……」

「それはあげるよ」


「ヒカリ様、預かっている金貨はどの様に……?」

「ええと、今いくら残ってる?」


「ざっとですが、ヒカリ様からお預かりしている残金としまして、魔族の金貨で230枚程になります。カジノの宿泊費や調整のための裏金、賭け金などで使用したため、幾らか目減りしております……」


「なるほど。

 グレハンさんが今晩手に入れるゲーム大会の払戻金を当てにしないとすると、今回の私たちの世話代として幾ら欲しい?」


「ヒカリ様のおっしゃっている意味が判りませんが?」


「今回はガイド料としてグレハン達を魔族の金貨11枚で雇った。そして、その報酬の魔族の金貨11枚を増やして返すって言ったよね。いま、魔族の金貨200枚には増えた。 幾ら欲しい? あ、しつこい様だけど、この後のゲーム大会の払い戻し金と遊戯チケットは全部あげる」


「でしたら、ヒカリ様のお持ちの人族の金貨11枚を記念に頂けますでしょうか。そうしましたら、私の手持ちは全てお返しします」


「ん……。良いよ。金貨11枚ね」


 って、私の腰の鞄にいれてある革袋を取り出して、そこから更に人族の金貨を11枚取り出してから、それをグレハンに手渡す。

 すると、グレハンは背負っていた鞄を下ろして、私に革袋を2つ渡した。1つは魔族の金貨が入っていた。もう一つは今回の旅で使いやすいように人族の金貨や銀貨で細かな買い物がし易い様に両替されたものだった。


「グレハン、ここにも人族の金貨が入ってるよ」

「ヒカリ様との出会いの記念に、今頂いた方の11枚の金貨を一生の宝物とさせて頂きます。3位決定戦のお代とカジノの宿泊費や食費は今日の分までを前払いしてありますので問題ございません」


「ん……。モリス、どうしよう?」

「ヒカリ様のご意向に合わせます」


「ん~~~~~。雇いたい」

「それでしたら、グレハン殿には仲間との清算をして頂かないとなりませんね」


「グレハン、あんたの仲間との手切れ金は幾ら必要?」

「ヒカリ様、モリス殿、話が見えませんが……」


「さっき私が渡した金貨は仲間11人で分けるんでしょ?

 それとは別にグレハンが彼らと別れて独立するために必要な手切れ金の話だよ。

 それが幾らになるって話」


「私を雇って頂けるので?」

「いや、『雇う前に身元を綺麗にしてきて』って言ってる」


「あの後、彼らとは連絡を取っていません。私がへまをして、騎士団に捕らえられたと思っているでしょう。その程度の関係です。私が何をしていようと問題ありません」


「ん~~~~。モリス、どうなの?」

「ヒカリ様がサンマール王国かエスティア王国へ連れて帰れば問題ございません。

 ですが、次回の訪問に備えてこの王都で待機を命じたとなると、何らかの方法で仲間と決別して頂く必要がございます」


「そうだよね……。あ、モリス、そろそろ決勝戦。先に済ませてきて」


 モリスを決勝戦に送り出してから、もう一度グレハンと向き合う。


「グレハン、私が冒険者の資格を持ったメイドとして貴方と接しているうちは、今のグレハンで問題無いの。

 けれど、私が夫と一緒にこちらを訪問したときにグレハンを雇うには、今のままでは貴方の身元が危ういから雇えなくなる。

 分かるかな?」


「ヒカリ様は、実はSランク冒険者の称号持ちなのでしょうか?」

「う~ん。それは持ってない。余り興味が無いかな。それより友人関係は清算できる?」

「ヒカリ様、例えばですが……。

 彼らに魔族の金貨10枚ずつを配布したとします。合計で魔族の金貨100枚相当になります。次に、『今日の3位決定戦でアリアという女性のサインを見逃すな』として、私と同様に賭けに参加させたとします。

 私は人族の金貨で賭けのチケットを購入しますが、彼らは魔族の金貨10枚でチケットをそのまま購入するでしょう。

 彼らは莫大な払戻金とともに、この街に住めなくなるぐらいの追ってを差し向けられることになります。如何でしょうか?」


「ん~。悪くない。

 悪くないついでに、そこまでしたらグレハンも共謀犯に見られるから、グレハンも彼らに方針を教えたら、私達と一緒に姿をくらまそう。

 グレハンには特定の家族とかいる?」


「一時的な付き合いをした人物は居ますが、現在は独り身です」

「じゃ、彼らに渡す分の魔族の金貨100枚を渡す。準備してきて。


 あ、あと、3位決定戦の引き分けから負けへの切り替えるサインを決めておこう。

 そうだね……。


『白いハンカチを出したら、アリアの負けに賭け先を変える』これで伝えて置いて」


「しょ、承知しました!」


 割とラフな作戦なんだけど、ちゃんと伝わったかな?そもそも作戦に乗ってきてくれないと徒労に終わるっていうね……。とりあえず、引き分けから敗戦への切り替えをハンカチの色で指定することでステラとアリアには念話で話を通しておいた。


 まぁ、モリスの決勝戦がおわって、3位決定戦が始まるまでに準備が整えば大丈夫だよね。


ーーー


 モリスは会場でグレハンの姿を確認できなかったとのことで、時間稼ぎのために1回引き分けを挟むとのこと、念話が入った。アリア達も3位決定戦に備えて目立つハンカチを買ってきてくれたらしい。


 あとは、グレハンが戻って来るのを待つだけなんだけど……。はぐれたか、あるいは魔族の金貨100枚で満足して持ち逃げされたか……。


<<モリス、グレハンと連絡が取れない。もう一回だけ引き分けにして時間を稼いでくれる?私はカジノに預けてある荷物1式を持ってきておくよ>>

<<承知しました。ご連絡頂けるまで引き分けておきます>>


 両脇にシオンとリサを抱えたまま歩いていると、ステラから念話が入った。


<<モリスさんが引き分けたけれど、これは作戦の変更かしら?アリアさんが心配しているわ>>

<<ああ、私達はモリスの試合が終わったら一度先にサンマール王国に戻ろうと思ってる。そうしたら、武闘大会のメンバーとゲーム大会のメンバーは完全に独立するから魔族の国や教団側から怪しまれることは無いと思う。

 いま、その旅立つための精算を準備していて、その時間稼ぎをモリスにしてもらっているの。ここからはそんなに時間掛からないと思う>>


<<そういうことね。わかったわ。でしたら、少し私の所へ来て下さらない?斧をニーニャさんの所へ持って帰ってあげて欲しいの。本物かどうかも鑑定してもらえるし、本物ならきっと喜ぶと思うわ>>


<<そっか。あれだけ苦労したけれど、私達ではあの斧が本物かどうか確定情報が無かったよね。このゲーム大会の会場を出て、カジノ方面へ向かう所で擦れ違いで斧を受け取る感じで良いかな?>>


<<ええ、良いわ>>


 私はゲーム大会の会場からカジノ方面へ向かう出口を出た所で、壁に向かってリサとシオンを下ろして、背中の荷物も下ろして、何やら子供の世話をする振りをする。

 そこへ通りがかりのエルフが私の隣で壁に荷物を寄りかけて、中身の整理をはじめた。その後エルフが先に整理を終えて出発すると、布に包まれた私の身長ぐらいある物干しの棒の様な物が壁に立て掛けられたまま置き忘れている。

 私は置き忘れた荷物に気が付いて辺りを見回すが、誰もいない。誰もいないことを確認してから、光学迷彩をかけて洗濯物サイズの荷物を私の鞄の中に入れ込んでしまう。


 よし!これで周囲にはステラと私が斧を受け渡していた様子はバレてないはず。

 斧の受け渡しに成功すると、荷物を背負い直して、子供二人を抱え直してからカジノに向けて出発する。


 っと、向こうから大きな荷物を抱えつつ、小さなカートの様な物に荷物載せて運んでくる人を発見。あれって、グレハンでは?


「あれ。グレハン、どうしたの?」

「あ、ええと……。アサリ様、カジノの宿の精算を済ませて、皆様の荷物も引き払ってきました」


「あ、ああ、そう……。それで、仲間には金貨を渡したり、ゲーム大会の作戦は上手く伝えられたの?」


「は、はい!『例のゲームで引き分けなんか起こらない。賭け事ギルドに買収されてないか?』と、疑われていたのですが、丁度モリス殿の決勝戦が始まり、1回目で引き分けの結果となりましたので、信用して貰えました」


「そっか。グレハンが帰って来るのが遅かったからモリスに引き分けて貰っていたんだよ。それなら、もう、モリスとクロ先生とは城門で待ち合わせで良いね」


「あ、アサリ様、待ち合わせ場所を変更しても大丈夫でしょうか?」

「あ?ああ、うん。グレハンが来ないから先にカジノの荷物を引き払っておこうって話になって、別行動をしたんだよ」


「そうでしたか。それでしたら、大会終了に伴う帰り客で城門が混雑する前に、手続きを済ませて我々だけでも外で待っていましょう」


 グレハンと合流できたことをモリスに伝えて、クロ先生とモリスの二人で直接城門の外で待ち合わせをすることにした。



 決勝戦の2回目では、勝者の方がインタビューが長くなるので、わざと負けることにしたらしい。モリスも片言の魔族語は理解できる様になっていたので、「詳細は良く分からない。旅に戻ります」って2位の賞金も辞退して、適当に人族語を喋って会場からの速やかな脱出を図ってくれた。


 大した問題も無く、城門の外でグレハン合わせて6人が無事に合流できたよ。


 う~~~ん!

 身バレもせずに斧の奪還に成功だよ!

 あとは、空飛ぶ卵まで移動してからサンマール王国に帰れば良いだけだね。

 ステラのチームには悪いけど、斧とグレハンをお土産に一足先に帰らせてもらうよ!


ーーー


 この後、グレハンには目隠しをして、更にその上から麻袋を被せて、周囲が見えない状態でクロ先生に担いでもらうことにした。グレハンの支度が整ったので、人目の付かない所で光学迷彩を掛けてから、空飛ぶ卵までひとっとび。

 そしてグレハンには目隠しをしたままで、サンマール王国の外れにある空飛ぶ卵置き場へ着地。そこから城外の我々の拠点にまで飛んで戻ってきた。

 流石に、到着したら明け方近くになっちゃったね。


「グレハン、長旅だったけど、やっと着いたよ」


 と、グレハンの顔に被せた麻袋と目隠しをとる。


「ヒカリ様、皆様。ここは何処でしょうか。そして、どれくらい時間が経過したのでしょうか?」


「ここは人族の国の町はずれにある私たちの拠点。魔族の国を昼過ぎに旅立って、大体その翌朝ってところだよ」


「つまり、ヒカリ様達は馬車での移動を含めて、夜通し移動されていたのですか?」

「え?なんでそう思ったの?」


「魔族の王都が幾ら人族側に近寄っているとはいえ、国境まで100km以上離れています。ヒカリ様達の特別な馬車だとしても、乗り換えと乗り継ぎを絶え間なく移動が継続出来たとして、やっと国境に辿り着けるかどうかになります」


「なるほど。悪くない推理だね。でも、まぁ、そのうち目隠しをしていた理由が判るから、それまでは、色々と推測しておいてくれて良いよ。

 この拠点は色々な種族が交流しているから、グレハンさんも適当に家を見繕って貰って、過ごしてくれれば良いよ。

 まだ、みんな寝てるから、私達も軽く軽食を食べて、ゲーム用の小部屋で私達もひと眠りしよう?」


「あ、あの……。食事の準備はヒカリ様がするのですか?」

「うん。出来合いの軽い物だけどね。あ、グレハンは夕ご飯食べて無いか。ちょっと、私たちのチームメンバーが疲れているから、一寝入りして起きたら料理長に色々作って貰うよ。だから、今だけは物足りなくても勘弁して」


「あ、いえ。私が心配したのはそういう話では無く……。ですが、良いです。

 そして、私はここで誰に仕えれば宜しいですか?」


「ん~。カサマドさんが帰ってきたら、カサマドさんに任せようかな。

 カサマドさんが帰って来るまではモリスの指示に従って」


「王族の第三王子の名前を人族の方が付けているのは面白い偶然ですね。

 承知しました。先ずはモリス殿の指示に従います。

 ところで、ヒカリ様はここで何をされるのでしょうか?」


「夫が迷宮から戻って来るのを待つのと、港の建設の支援ぐらいかな?

 その辺りが片付いたら、また家族皆で旅にでるつもりだよ。そのときはグレハンも一緒に行こう」


「各地の迷宮を探検しながら旅を続ける旦那さんをお持ちですと、色々と大変ですね……」

「うん、まぁ……。

 それより皆が待ってるからご飯を作るよ。

 そして軽く食べたら寝ようね」


 私は魔族の国で何が起きているか、特に報告も聞かないまま、サンマール王国の拠点で休むことにしたよ。

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