8-20.ゲーム大会(3)
朝ごはんと昼ご飯を準備を終えてからグレハンにゲーム大会の賭け方について説明をすることにした。
「グレハン、今日はモリスに付き添って賭け札を購入し続けて。明日の決勝まで行くと思うけど、そこまではモリスに賭けることを忘れなければ良いよ。
明日の決勝ではモリスが引き分け続けるから、焦らず、恐れずに信じてモリスの指示通りに引き分けに賭け続ければ良い。
最後にモリスが『そろそろ限界で、次は負ける』との合図がでたら、今まで引き分けで積みあがった賭け札を全部モリスの負けに賭ける。
分かった?」
「わ、分かりました。モリス殿、よろしくお願いします」
「クロ先生はモリスとグレハンに付き添って。私はリサとシオンと一緒に、昨日の様な感じで行動します」
「承知しました」
よし、準備万端。
本戦のチーム数とか払い戻しの倍率は気にしてないけど、ちょっと会場の熱気に当てられて、こっちも少し興奮してくるね。
本戦出場者はなんと128名!
優勝賞金が大したこと無いのに、これだけ本戦に出場者が登録することになるのは、実は武闘大会と一緒で、頭脳の回転の良い人をスカウトする場でもあるんだって。上位3位に入る人は当然として、その途中の対戦の様子でも優勝候補と良い試合をしているとスカウトされる場合もあるのだとか。
ふ~ん、なるほどね。直接的に自分を売り込めるチャンスであれば、多少の出費も先行投資って考える人もいるのかもね。
で、トーナメント表が張り出されて……。モリス、アリア、ステラ、私の4人が何処に配置されているかを確認すると、A~Dブロックが各32名ずつ配置されていて、ステラがAブロック、私がBブロック、アリアがCブロック、モリスがDブロックだった。綺麗に分かれているね。
「皆が順当に勝ち上がれば、準決勝に4人が残れる感じだね」
「ヒカリ様、私はA、Bブロックに何か悪意を感じます」
「うん?モリス、どういうこと?」
「ヒカリ様が武闘大会に参加されている間、私はグレハン殿と共に『強いと噂される人』と数多く対戦していましたが……。
その方達のほとんどがA、Bブロックに集中していまして、C、Dブロックには1人か2人でしょうか……」
「偶々(たまたま)ということはない?」
「というか、アサリが勝つたびに常に強者とぶつかる様に配置されています」
「ステラは?」
「ステラ様は、予選時のスコアが悪いことから、ヒカリ様とぶつかるための強者が楽に勝てる人を配置したとも考えられます」
「モリスから見て、シオンや私では勝てない?」
「どうでしょうか……。ヒカリ様が本気で勝ちに行くためにコマ数の調整をしているところを見ておりませんので……」
「つまり、単に勝つレベルではなくて、相手の手を読んだ上で、相手の嫌がらせを出来ないと駄目って言うこと?」
「ええ、まぁ、そういうことです。逆にそのレベルの相手ですと、私も引き分けに持ち込み易く、勝敗をコントロールし易かったですね」
「そっか……。そうしたらアリアとモリスで2位と3位を取って貰って、モリスには2位になるときに10引き分けからの負けになって貰おう。それぐらいやっても良いよね?」
「10連続引き分けとなりますと、会場は盛り上がりますが、賭け事ギルドから命を狙われる危険性が高くなりませんか?」
「賭け金の上限が人族の金貨で10枚でしょう?仮にモリスの対戦時の払い戻し倍率が2倍だったとしても、20枚しか払い戻されないのだから、賭け事ギルドも甘く見てると思うよ?」
「そこで10連続引き分けというのは……。ヒカリ様、10連続ですと2の10乗。つまり、最初の賭け金が1万枚にまで払い戻しが膨らみまして……」
「いや?10回も引き分ける訳がないのだから、他の人は引き分け以外、例えばモリスの対戦相手にずっと賭け続けることになるよ。一人金貨10枚x10回で100枚。これが何十人も何百人もいるのだから、何万枚も賭け事は回収しているはずだよ」
「そ、そうですね。気にし過ぎですかね……」
「そうだよ。フウマがどうなったか判らないけど教会騎士団にスカウトされているし、武闘大会でのステラの払い戻し金額に比べたら私やグレハンの獲得金なんか微々たるものだよ。私個人が武闘大会で勝利したこととか、霞んで見えていると思うよ?」
と、まぁ、モリスの心配事を聞きながら本戦1日目が開始された。
今日中に8名にまで絞り込むとのことで、会場では120試合近く消化する必要があるので、昨日と同様に会場には20台以上の対戦盤が設置されていて、どんどんと賭け札の販売とゲームが進められていった。
対戦の順番を待ちながらだけれど、4回勝てればベスト8進出で、二日目の本選に残れるね。シオンも私もなんだかんだで順調に勝ち進んでベスト8進出が確定。当然のごとく目立たない様に勝ち方を調整した上でアリアとモリスもベスト8進出を果たしていた。
8人中4人も私の関係者っていうのは不味くない?でも、バレて無ければ問題無いし、例え関係者ということが分かったところで、「わざと引き分け」に持ち込まない限りは賭け事ギルドとしては取り締まりのしようが無いよね。だって、予選会なんかヤラセで突破できる様に設定してあるのだから、仲間内で本選出場していても良い訳なんだから……。
ーーー
1日目を無事に終えて夕方にはカジノに到着。
昨日みたいに夕食を他の人の分まで作らなくて良い様に、早めの夕飯にすることにした。お腹が空いたら、時間をずらしてまた来れば良いしね。
ところが……。
「グレハン様、ようこそいらっしゃいました」
って、昨日の執事が待ち構えている。連泊で宿泊しているのだから、夕飯だってここのレストランを借りるのは当たり前でさ?わざわざ出迎えてくれなくても良いのに。
「今日もあちらの奥様が夕飯をお作りになられるのでしょうか?」
まぁ、そのために食材をグレハンが買い込んできている訳だし、他の人の目に着かない時間帯を選んでレストランに来たわけだし。そりゃ、私が夕飯を作るよ。
グレハンが黙って頷くと、執事は笑顔で私を連れて調理場へ案内する。
私は用意していた食材を使って、今日は手打ちのスパゲッティーみたいなものを作ってみようかな。スパゲッティーなら丸い断面の麺が良いのだけれど、蕎麦やうどんみたいな角のある断面の小麦の麺を作った。食感がスパゲッティーとは変わるけど別に良いと思うよ。
次はソースだけれど、魚の卵があったからタラコみたいにほぐしつつ、バターと醤油で仕上げよう。スープはトマトベースのミネストローネを並行して作っておいて、デザートは氷で冷やしたフルーツ盛り合わせ。今日はこれで良いかな?
出来上がった食事6人分を執事の人に手伝って貰って、スパゲッティーとミネストローネから運んでもらう。食事が食べ終わったら、食後にフルーツ盛りを持ってきてもらう様に頼んでおいた。
グレハン以外にとっては、これが普通。別に驚くことじゃない。けれど、グレハンも執事も目を見張る。グレハンは食事も食べているから、驚きを隠さない様にしているけれど、体が喜んじゃっているね。
昨日辺りからリサの要望で普通のご飯に切り替えているけれど、やっぱり美味しい物は落ち着くね。さて、あとは食後のデザートを持ってきてもらって、歓談しながら過ごそうかな~~。
「グレハン様、昨日に引き続きですが、本日の食事を追加で3人前作って頂くことをあちらの奥様にお願いできませんでしょうか。今日も遊戯チケット100枚を進呈させて頂きます」
と、執事がグレハンに頼み込む。私は良いんだけどね?明日は2回ぐらい戦って負ける予定だし、その後頑張るのはモリスだから、モリス用のサンドイッチなんかをちゃんと準備してあげれば良いだけだし。
「アサリ様、あの……」
「グレハン、良いよ。何人前?あと、お礼はグレハンが良いと思う物を貰っておいて」
「は、はぁ……。アサリ様、申し訳ございません……」
こんなカジノのレストランで数量限定で食事を作ったところで、ずっといる訳で無いし。カジノとしてもお客さんに料理を作らせ続けられる訳が無い。多少サービスしたところで、私たちのチームがこのカジノで快適なサービスを受けられると思えば大した問題じゃなよね。
あ、まぁ、暇なら子供と一緒にカジノ巡りをするっていうのもあるけど、所謂賭け事にあまり興味が無いんだよね……。お金を儲ける気持ちが湧かないというか……。それなら、カジノ主催のショーを見学したり、吟遊詩人の物語を聞いたりとかね。
この辺りは、ちょっと食事を作ってから皆と相談すれば良いかな?
で、まぁ、手際よく10食分ぐらいの材料を作っておいて、「どっちも、温めてから給仕すれば良いだけだからね」って、状態で執事に任せた。
うん、まるで問題ない。こんなんで、遊戯チケット100枚とか貰って良いのかね。遊戯チケット自体の使い道が無ければ、何枚貰っても仕方ないんだけどね……。
皆で宿泊している部屋に戻ってきて、皆に明日の決勝戦以外で何かやりたいことがあるかを聞いてみたよ。
<<お母様、実力を隠さないといけないですし、母親から離れて勝手に歩いたり飛び回っていたら迷子扱いされます。部屋でじっとしていることが一番安全です>>
と、グレハンに気を遣って念話で返すリサ。
<<おかあさん、僕もリサお姉ちゃんと同じです。あと、吟遊詩人の語りですとか、ショーもあるのですが、僕には魔族語が全然理解できませんので、グレハンさんに通訳して貰いながらでは楽しむのが難しいです>>
と、シオンも念話で返す。
そっか。今までは気にしてなかったけれど、情報の秘匿を最優先にしている以上は、何もしないのが一番安全だよね……。カジノという安全が確保された場所でコソコソとしているのが一番無難な行動なのかも?
私が家族のために食事を作っていることにとしても、情報が拡散しやすい普通の宿屋よりも、ある程度客層が絞られている方が拡散はしにくいはず。
昨日と今日で何食か執事に渡しているけれど大丈夫だよね?カジノ側だって、私が居ないと出せない料理とか、カジノの名物料理にする訳じゃないし。
更に言えば、明日か明後日には当初の目標である、『フウマの資金を稼いで、カジノや教団に潜入する』って、ことが果たされているのだから、モリスの休暇が果たせたら直ぐに帰れば良い。
うんうん。なにも問題無い。はず!
明日はゲーム大会本選の最終日。準々決勝進出者8人のうち、4人も残っているから良く作戦を練らないとね。
決勝戦はDブロックのモリスが他人と戦う必要があるからAブロックかBブロックからの勝ち残りと戦う必要がある。ということは、AブロックのステラとBブロックの私の両方が準決勝に勝ち残っちゃダメってことね。つまり、この準々決勝で故意に敗退しないと駄目ってことじゃん?
CブロックとDブロックはモリスとアリアが勝ち残っても大丈夫なんだけど……。
問題はAブロックのステラとCブロックのアリアの二人が勝ち残っても良いの?って話になる。教団関係者が何処に潜んでいるか判らないけれど、武闘大会の賭けの払い戻しでステラがかなり目立っているはず。それに加えて、アジャニアから来たミチナガさんの妻であるアリアが居るとなると、目立った行動は出来ないよね……。
ちょっと、念話をステラとアリアとシオンに通して作戦会議が必要かな?
<<ステラ、アリア、シオン。あと、念のためにモリスとリサとクロ先生も話だけは聞いておいて>>
<<ヒカリさん、何かしら?>>
<<明日のゲーム大会で、このまま勝ち続けると悪目立ちをするからそこそこの順位で終えておいた方が良いと思う。決勝戦でモリスが引き分け10回後に敗退するだけでも目立つと思うから>>
<<そうね。決勝進出がモリスさんなら、アリアさんは3位決定戦に進むことになるわね。あら、私が準決勝に残るとアリアさんと対戦になるのね……。確かにシオンくんが強くても、3位と4位の対戦でアリアさんと私が残っているのは目立つわね……。
シオンくん、状況が状況だけに初戦で負けようと思うの。良いかしら?>>
<<ステラ様、お母様、僕は構いません>>
<<ステラ、そうしたら私も初戦で負けておくよ。その方が目立たなくて良いし。
モリスは決勝戦で引き分けるとして、アリアは3位決定戦で何かしたいことはある?>>
<<ヒカリ様、私が父に勝てたら決勝戦に進んでも良いですか?決勝戦ではヒカリ様の指示通りに引き分けてから負けます>>
<<モリス、大会でアリアと対戦したらどうなる?勝敗は着くの?>>
<<ヒカリ様、私の見解では先手有利のゲームですので、『どちらが先手を取ったか』で、決まると言って過言ではございません。もっと複雑なゲームですと、そういった最初の一手が最後まで響くことは無いかもしれませんが……>>
<<モリスもアリアもそんな境地まで来てるんだ。モリスとアリアが周囲に悪目立ちしなければ、どちらが決勝戦に勝ち残っても私は構わないよ>>
<<<<承知しました>>>>
と、モリスとアリアの二人が同時に答えた。
ま、良いかな?
明日はモリス親子の晴れ舞台ってことになるね。