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8-18.ゲーム大会(1)

 頬っぺたに、何か冷たいものが……。

 すこしミルクの甘い香りが……。


 ん~~~。

 食べちゃえ!

 パクっとその冷たい何かを口にくわえると、少ししょっぱい。なんか鳥の足みたいな?いや、もっと柔らかいけど……。口の中から、もの凄い勢いで鳥の足が引き抜かれると、


「お母様!何してますか!私の手です!」って、リサに怒られた。


 あ……。

 悪気は無いんだよ。

 疲れてて、リサが起こしてくれていることに気が付かなったの。ついでに言うと、魔族の国で美味しいもの食べて無かったから、美味しそうな香りにつられたの……。ガブっと歯を立てなくて良かったよ……。


「リサ、ご、ごめん。みんなは?」

「お母様、この宿には私達二人だけです。グレハンさんも他の方達も皆カジノの宿泊施設に泊まっています」


「あ、ああ……。そっか。着替えに帰ってきて、そのまま寝ちゃったんだね。ピュアでもしよっか」

「お母様、クロ先生とモリスさんから念話が入ってます。

 ステラ様からも念話が入ってます。

 フウマお兄ちゃんからも念話が入ってます。

 どうしますか?」


「え?なんで?」

「お母様、昨日この宿に無事にもどってきたことをモリスさんとクロ先生に伝えませんでしたよね?心配するに決まってますし、今日の合流の仕方もグレハンさんに伝える必要があります」


「あ、ああ……。でも、リサが無事を知らせてくれたんだよね?」

「ステラ様がモリスさんに念話で報告をしてくれた様です。

 その上で、『ヒカリさんが何の連絡もしてないなんて、大丈夫かしら?』と、お母様に念話を入れて頂いた様です。お母様が念話を受けられなかったので私へステラ様が念話を入れてくださいました。とても優しくて気配りが出来る方です」


「そっか。それで、フウマはなんだって?」

「教会騎士団にスカウトされて、暫く雇用されることになったそうです。『ゲーム大会で金貨を増やす作戦は一旦停止』と、お母様への伝言です」


「リサ、凄いね~~~。全部、話を捌けてるじゃん?」

「お母様、ここの宿では私は独りで動けませんし、朝食を頼むことも出来ないんですよ?それは魔族語を理解できないとか、そういう問題じゃないのです。

 分かりますよね?」


「あ……。リサ、ごめん。ご飯と着替え。そしてモリス達との合流だね」

「私の手を食べている場合じゃないです。皆様、『ヒカリさんをゆっくり寝かせてあげて』と、仰っていましたが、私はお母様以上に空腹で喉も乾いているのです」


 よし!ご飯だね!

 朝は鞄から出して食べよう。

 こういうときの非常食だよ!


 リサが喜んでくれそうな、お皿に盛りつけられたパンケーキ。そこにバターと黒蜜をかけて召し上げれっと。私は鞄の中からお肉の塊とチーズと黒パンを取り出して、夫々をスライスしてサンドイッチにして食べる。野菜類はカットフルーツを出してお終い。


「リサ、朝ごはんは、これで良い?」

「お母様、良いですがお母様の方が美味しそうです」


 私は作ったサンドイッチをナイフで半分に切ってリサにあげる。歯も生えそろっていなのにどうやって食べているかは相変わらず判らないけど、まぁ、食べたい物を食べて成長してもらおう。


「お母様、この後はどうされるのですか?」

「モリスに念話を通してる。今日はゲーム大会の前夜祭ってことで、カジノもゲーム大会に向けたイベントとかあるらしい。だから、昨日買った小綺麗な服に着替えてカジノで合流するよ」


「お母様、もう少し美味しい物はありませんか?」

「うん?今の食事では美味しく無かった?」


「そうではありません。魔族の国の滞在中に食べられる食事の話です。

 これだけ頑張っているのだから、美味しい物を食べても良いはずです」

「ええっと……。

 私の鞄にはそこそこな量があるけれど、ピンチなとき以外は頼らない方が良いと思うよ?」


「我慢しろってことですね……。分かりました……」


 こう……。なんていうか……。

 気持ちは判らなくは無いけれど……。

 かといって、ご飯を食べて貰わないと困るし……。


「リサ、カジノか次の宿屋で調理場を借りれる場所を探すよ。

 素材がそこそこ美味しければ、あとは調理方法で何とかなるよ」


「お母様、お母様が本気を出すとおかしなことになるので、本気は出さないでください。気持ちだけで十分です。マリア様やお父様達の所へ戻るまで我慢します……」


 本気とかそういう話ではなくて……。

 子供の食育というか、食生活を整えるのは親の役目ってことでさ?

 お金が有っても、ちゃんとした食事を出せない環境は大変だね。自然食品100%で糖質や油に偏った間食もないから、普段の食事でカロリーを整える必要がある。けれど普段の食事は、保存技術も調味料も料理技術も発達していないから、それなりに調達から考える必要があって……。


 頑張ったときぐらい、ご褒美が欲しいって気持ちは判るよね。市場か何処かで小麦と砂糖、バターを調達して、クッキーでも焼いてあげようかな?


「お母様、何かおかしなことを考えていませんか?」

「ううん。市場に寄ってからカジノ行けば良いかなって思ったぐらい。

 ほら、私たちは大会の予選会とか順番待ちとかで市場の観光とか出来なかったでしょ?だから、すこし散歩してからカジノへ戻ろう」


ーーー


 カジノへ行く前提だから小綺麗な格好をして市場を歩いていたら、人の目を引くみたい。それとも私の黒髪が異国人として目立つのかな?リサの青黒い髪も目立つかもしれない。っていうか、リサが綺麗で可愛いから目立つ?

 まぁ、いいや。


 王都の市場だけあって、そのエリアは広かった。

 家の中にお店を構えているところは少しお値段も高いし、おしゃれな感じ。お店の前でお試し品を並べていたり、手に持ったサンプルを見せながら呼び込みをしていた。この辺りは市場っていうより、商店街って感じなんだろうね。

 露店が立ち並ぶ様になってくると、質より量。自分の得意な食品とかアクセサリー、食器なんかを並べてお客さんが寄って来るの待ってる感じ。

 露店が並ぶエリアが終わりになると、今度は道端にゴザみたいのを敷いて、その上にモノを並べて売ってる。このエリアはきっと露店を出す権利を持ってない人が、何らかの方法で物を売りに来てるのかな……。


 今日の目的からすると、露店エリアで小麦と砂糖の入手かな。バターは農家とか行かないと手に入らない気がするけど、どうなってるのかな……。


 と、ずっと後を付けらている。

 多分、露店を外れてゴザの上で物売りしているエリアを歩いた辺りから。やっぱり、治安が良く無いねぇ……。


「リサ、気が付いた?」

「何がですか?」


「付けられてる。私達から金品を奪おうとしてると思うよ」

「グレハンさん達のお仲間ですか?」


「グレハン達とは別のグループでお金に困ってるんじゃないかな?」

「お母様、余計なことをせずに、必要な物だけを買って、カジノへ向かいましょう」


 リサにも声を掛けておいたから、ある程度は自衛してくれるかな。小麦粉らしい粉ものが麻袋1袋単位で売っていたので1袋買う。砂糖は壺みたいな容器に入っていたのでそれを1つ買う。露店の外れで動物が居たので、そこに寄ってみると水牛の乳が売っていたので、それを2瓶買う。もう、左手はリサと牛乳の瓶。右手は麻袋。砂糖の壺は背中の鞄って感じで、割と大量の荷物になっちゃったよ。


 最低限の買い物を済ませたので、そこからカジノ方面へ向かおうとすると……。

 

 囲まれた。


 こっちの両手が塞がって、尚且つ街中から外れて人が少なくなるタイミングで囲まれた。うん、面倒だね……。


「リサ、光学迷彩掛けてデコイを置く。それが終わったら、私たちは光学迷彩で透明化して、そのまま浮遊して逃げるよ」

「はい」


 動きが無いタイプの囮の出し方、結構慣れてきた。武闘大会ではなくても、こういうシーンで使えるのは良いスキルだと思うよ。彼らからすれば、身動きしない親子に声を掛けて接近していくも反応が無い訳で。ちなみに、光学迷彩の囮に接触したら、囮は消える様に設定しておいたから、彼らからすれば何が起きたか判らないまま目標を失った形になるだろうね。


「お母様、良いですか?」

「なに?」


「なぜ、こういった穏便に済ます方法を普段から使わないのですか?」

「生活する場所で、こんなことを続けていたら噂になるし、この状態から姿を現す場所も気を付けないと別の形で噂になる。だから余り多用できない方法だと思うよ」


「そ、そうですね……。そう言われれば確かに……。

 でも、何故お母様が狙われるのですか?」


「グレハン達は観光客が目的だったろうし、今回はお金を持っていそうな綺麗な格好をした女子供なら誰でも良かったのだと思うよ。待ち伏せしているエリアも目的に合った場所で待機しているのだから、彼らも本気で獲物を探しているんだと思う」


「それなら仕方ありません……」


 カジノの近くまで飛んで、路地裏の人目に付かない場所へ着陸して、周囲を良く確認してから光学迷彩を解く。そして二人で慎重に表通りに戻ってから、昨日のカジノへと向かった。


ーーー


「モリス、お待たせ。心配かけたね」

「ヒカリ様、リサ様、ご無事で何よりです」


「みんなを暇にさせちゃったかな?」

「いえいえ。このカジノという施設は賭け事だけでなく、食事もお茶会の様な軽食や甘い物を楽しむことも出来ますし、お酒を楽しむことも出来ます。そして、食事類の他にも吟遊詩人のサーガや音楽を楽しむ場所もあります。更には、異性と楽しみの場も提供している様です。

 ここに滞在しているとお金が幾らあっても足りない様なもてなしを受ける印象です」


「その辺りはグレハンが案内してくれたの?」

「はい。お金や通訳はグレハンさんに頼ることが多いです。ですが、昨日の夜から今日の昼までのことですし、ヒカリ様やリサ様がお出かけ中でしたので、連絡待ちの要員として宿泊室にて待機しておりました」


「じゃぁ、ステラのチームとすれ違ってもお互いに他人の振りをして、暫くここのカジノで過ごそうか。ゲーム大会が明日から始まって3日間ぐらいだよね。宿をこちら移せば皆も楽なんじゃない?」


「ヒカリ様、お値段が張りますこと予めご承知おきください。グレハン、クロ先生、ヒカリ様、私の大人4名と、リサ様、シオン様のこども2名の合計6名の宿泊費、それと昨夜から今日の昼までの食事。これだけで魔族の金貨1枚です。人族の金貨で支払うなら金貨100枚ですね。

 その代わり、サービスとして無料で受けられる内容も多い様です。この辺りはグレハン殿に確認しながらが良いですね」


「一晩で金貨100枚は凄いね。グレハンも驚いていたんじゃない?」

「『全て昨日の賭け金の払い戻し金で精算しております』とのことで、そこは割り切って対応してくれている様ですね」


「ふ~ん。彼は結構有能だね」

「ヒカリ様に服従して、先回りして行動出来るのは良い姿勢かと」


「じゃあ、最後まで問題無く対応してくれたら雇用しても良い?」

「その時点までは判りませんが。彼も喜ぶことでしょう」


「分かった。その辺りはモリスにお願いしよう。

 それで、今日は休息日で良いんだっけ?モリスはゲーム大会の前夜祭とかあるの?」


「いいえ、とくにございませんが……」

「あ、れ?モリスが口を濁した?」


「そ、その……。調理場を借りることは出来ませんかね?」

「モリスにそこまで言わせるって、どういうこと?」


「決して、口に合わないとか体調が悪いとかと申している訳ではありません。ヒカリ様が関所の領主となるまでの生活を考えれば、温かい場所で食事を食べることの幸せをしみじみと感じています。

 ですが、食事が……」


「いや、私もリサも同じもの食べてるよね?」

「その、そのですね……。このカジノの食事はメンバーで食べると、一回で金貨20枚ほど掛かっているそうなのです。元の宿では宿泊費と食事2回分で金貨5枚程度でしたが……」


「ああ、分かるかも。さっき、小麦と砂糖とバターを買ってきたら金貨200枚だった。砂糖が100枚だったとはいえ、モノの値段がおかしいよね」


「金貨50枚あれば、関所の一ヶ月分の食糧費に相当します。ゴードンとその補助メンバーにより提供されていますので、食事代としての換算は簡単にはできませんが……」


「モリスとは別の意味で、リサからも『ご褒美に美味しい物食べたい』って言われてて、この後、調理場を借りてパンかクッキー辺りを作ろうかなと思っていたんだよ」


「ヒカリ様、このままこのカジノで滞在するとなると、ゲーム大会を頑張らないといけませんかね?」


「お金は気にしないで良いよ。フウマも無事に潜入できたみたいだから、ゲーム大会は出なくても大丈夫。食事はリサのご褒美以外で我慢できるならお金で解決しよう。

 やっぱり、これだけ人が密集している地域だと、すこし郊外に行っただけで治安は悪くなる。だから、ここでは安全を買ってるぐらいに考えておけば良いよ」


「承知しました。グレハンにもその様に伝えておきます」


「あ、ところでグレハンは?」

「カジノの施設の中やイベント、食事の種類や価格、そして無料で提供されるものと有料になるものの調査に行ってます。こちらの施設の中に必ず居るとのことでしたが。

 何か問題がありますか?」


「いや、見かけないから気を遣って、何処かで控えているのかと思って。考えている以上に有能だね」

「その様でございますね」


 じゃぁ、グレハンが戻って来るまで、ちょっと調理場を借りてリサの食事でも作ろうかな?

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