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8-17.武闘大会の精算(4)

 さて、長い一日だけど、久しぶりにステラと冒険だね。

 ステラから某建物への侵入に向けての念話が入ったので、宿で着替えからリサと街中をブラブラと歩いていると、ステラから念話が入った。


<<ヒカリさん、到着したわ。魔族の王都で他の種族の領地マーカーを置くのは危険だから、テイラーさんのマーカーを単独で置くわ。ヒカリさんが場所を認識したらすぐに消すから教えてくれるかしら>>


<<ステラ、早いね。こっちも宿で着替えて、リサと街中を歩いているよ。昼間の武闘大会の場所とカジノが在った場所を起点に、どっちの方角か教えてくれるかな?

 そうすれば領地マーカーを置く危険を冒さなくても良いかも>>


<<そうね……。ちょっと、空から見るから待っててくださるかしら……。

 武闘大会の会場から10時の方向。カジノからは7時の方向。

 その交わった辺りね>


<<分かった。リサと二人で上空から接近するよ>>


 周囲を警戒しながら、建物の陰になっている小道に入り、更に周囲や建物の中を気配察知で確認してから光学迷彩。光学迷彩を掛けても周囲から反応が無いことを確認してから飛空術。敵地の中心部だからこれくらい警戒しておかないとね。


 フワッと浮き上がって、ステラから指示があった方向へゆっくりと進む。ステラ自身は見えないけれど、エーテルの動きからステラが姿を消して浮いているのを発見。空中での待ち合わせと念話での会話は周囲に余計な情報を与え無くて良いね。


<<ステラ、お待たせ。リサも手伝ってくれるって>>

<<お母様、私はそんなこと言っていません!

 もし、ステラ様のご迷惑でなければ参加させて頂けないでしょうか>>


<<リサちゃん、ありがとう。是非参加して欲しいわ。

 私はヒカリさんみたいに綿密な作戦を立てて実行するタイプでは無いけれど、自衛出来る程度には皆さんのお役にたてると思うわ。

 よろしくね>>

<<はい!頑張ります!>>


 うん、ステラに絶対服従のリサ。これ以上は何も言わないでおこう。


 さて、作戦だけど……。

 要は本物の斧を見つけて回収できることが最大の目標。囚われの贋作製作を強いられている職人さんたちは、今回の救出には含めないでいいかな。

 あとは……。

 大きな騒ぎにしたくないから、基本的には敵を全員眠らせて、必要な場所にだけ侵入して、なるべく現状を保存したまま撤収してくる。

 あ、念のためにステラにはカジノのバックヤードで保管されていた斧を1本借りてきてもらっているよ。本物があればそれと交換出来るね。


<<ステラ、リサ、建物の外から建物の中の様子を探れる?人数とか結界の有無とか>>


<<ヒカリさん、事前に調査した範囲では、護衛らしき人が各所に2人x5組で10人。あとは工房で働いている人、その居住エリアと思われる場所に合計20人。20人の中に、護衛の交代要員が含まれているかは判らないわ>>


<<リサも探知できる?>>

<<ここからだと、ぼんやりと重なっていて精度がわるいです。幾つか検知できる程度です>>


<<二人ともありがとう。

 護衛と思われる人が身体強化を使ってエーテルの流れをコントロールできる様なスキル持ちかどうかの確認しよう。あと魔法の使用制限がかかる結界の設置有無の確認。


 そこまで終わったら、建物の屋根の上に下りて、建物に接触しながら人の侵入や感知したら発動する結界、罠の確認。物理的な罠の有無の確認。この辺が調べ終わってから侵入しようか>>


 二人から念話で返事が有ったので順番に調査を進める。

 魔族の王都で表側は怪しげな商店でカムフラージュされている施設のためか、裏手に繋がっている建物自体に正式な出入り口は無かった。その構造的な防衛に頼っている面が大きいのか、特殊な結界は見当たらなかったよ。


<<侵入経路が無い問題以外、防衛機能は普通の対人戦で良さそうだね。侵入経路の確保と、斧が保管されていそうな場所の探知が必要だね>>


 レンガ造りの建物の屋上部から私の妖精の子をだして、光量を最小に絞って内部の探査を進めると、窓が少ない。有っても木製のガッツリしたもので、換気や採光を目的としてない。こんなところに閉じ込められている職人さんたちの体調が少し気の毒に思えてくる……。

 建物の地下まで探索を進めると、地下に人は住めないけれど、物置みたいな空間があることを発見。入口に人は居ないけれど、地上1階とのつなぎ目が階段になっていない。これは床下収納の様な扉を開けて、そこから縄梯子とかで出入りしないとアクセスできないやつね。

 これだけ厳重だと、ここが保管庫としての本命なんだろうけれど、斧の複製品を作ることが目的だとしたら、見本となる斧が工房に保管されている可能性もあるんだよね……。

 壁を破ったり、穴をあけて侵入をした場合、形跡を残さない様になるべく最短で最小経路を作ってから入りたいよね……。


<<ヒカリさん、汚れたり、臭いが付くことを厭わなければ、下水路から侵入して、トイレの穴から地上1Fに侵入は出来そうね。ただ、各種コーティングをしても付着した臭いはそう簡単に取れる物では無いわ>>

<<お母様、1階の工房なのですが、魔力の通りがおかしい場所が2つあります。1つは箱の様な物で、その箱の様な構造が魔力の障害になり、中が見通せません。もう一つは、斧かどうかまでは分かりませんが、カジノの展示コーナーにあった斧と似た形のエーテルに反応する物体があります>>


<<二人ともありがとう。ステラ、1階の工房の中の2つの反応を探ってくれる?私も一緒に見てみる>>

<<リサは、工房への侵入経路とか、まだ寝てない人の存在をもう一度確認してくれる?>>


 う~ん。

 工房らしき場所に人は見当たらないけれど、その出入り口には見張り役の人が二人いるんだろうね。工房は一番奥で、その先はトイレ、調理場、あと調理場の下が例の地下倉庫になってるね。地下倉庫に階段があれば食糧庫の可能性があったけれど、そういうのが無いから重要な保管庫かもしれないね。


 次に、工房の中でエーテルのおかしな反応を見ると、確かに斧の形をした反応する物体がある。これはひょっとするかもね。リサが言う魔法を通さない結界に守れた箱だけど、これは金庫というか、書類棚というか、何か貴重な物が入っていることは確かだろうね。

 けれど、斧があの中にはいっているかというと、微妙な感じだね。斧1本のためだけに厳重過ぎる結界が張られているなら、もっと他の本物の品とかを纏めて保管しておくと思うんだよね。


 よし、じゃぁ、この工房へ入るための経路を考えようかな……。

 3階から侵入して階下へ下りていくと、結局は床に穴を開けないと見張り役と遭遇するね。どっちも目立つ可能性が高い。目立たないなら、調理場の下にある地下倉庫かな。まさか地下倉庫から侵入して、その上縄梯子も無い下から調理場へ抜けてくるとは思っていなんだろうし。

 じゃぁ、地下倉庫に何処からアプローチするかっていうと、ステラの地下下水道アイデアを借用しようかな?地下下水道から地下倉庫へ穴を開けて侵入すれば、トイレから直接出入りするよりはマシなんじゃなかな?

 っていうか、下水へ直送式のトイレを遡るのは、穴の大きさを考えても人が通り抜けるのは困難だろうし、その周辺の汚物と臭いを想像すると、早々に諦めたい。命からがら逃げるとかなら、その経路も考えるけどさ……。


<<ステラ、リサ、私の意見を聞いてくれる?>>

<<ハイ!>>


<<リサが発見した工房にある斧らしきものを本物かどうかを確かめるために侵入したい。その侵入経路はステラのアイデアを借りて、地下下水道経由を考えたよ。ただし、地下下水道から地下倉庫へ穴を開けて侵入して、その直上にある調理場経由で工房へ入る。この経路だと見張り役と遭遇することは無いし、地下倉庫なら穴を開けても気付かれ難いと思うんだよね。

 どうかな?>>


<<良いわ。地下下水道への入れる近い入り口を探すわ>>

<<お母様、地下下水道から地下室へ穴を開けると言いましたか?>>


<<うん。音を立てない様にコッソリやるから大丈夫だよ>>

<<少なくとも、この建物は2重のレンガで外壁が作られています。地下倉庫も2重化されているかは分かりませんが、相当の厚さであると想像できます。

 もちろん、下水道側も2重か3重のレンガで構築されていると思いますし、壁と壁の中間は土や石で固められているはずです。

 そこを開けるのですか?>>


<<あれ?リサは、私のナイフを知らないっけ?>>

<<お母様のナイフですか?>>


<<あ。説明するより見せてあげるね。ステラ、入口は見つかった?>>

<<ええ。案内を始めても良いかしら?>>


 近くを流れる川まで移動して、そこから地下下水道の入り口に入る。入った後は、流石に現役で稼働中の下水道だから臭いは凄い。ドブネズミやら虫やら得体の知れない生き物も沢山いる訳だけど、光の妖精の子に照らして貰いつつ、3人とも浮遊して進むことにした。何も無理してグチャグチャになりながら進む必要は無いよ。


 ステラが何らかの方法で、例の建物の地下付近まで案内をしてくれたところで、今度は地下倉庫と、この下水道の壁を穴を開けて繋げる作業だね。

 う~ん、大体50cmぐらい?レンガ4枚分と、その途中に土の層があるね。ひょっとしてこの地下倉庫が中途半端な大きさで階段を設置できなかったのも、この地下水道との接続の関係でこんな形になったのかも?だとしたら、壁に開ける穴の深さが50cmで済むことは私たちにとっては幸いだったね。


「ステラ、50cmぐらいだから、土砂崩れとか気にせずに、一気に開けちゃうね。もし土の層が崩れてきたら凍結して仕切り直しになると思う」

「ヒカリさん、良いわ。そのときは私が支援するわよ」

「す、ステラ様まで……」


「リサ、ちょっと見ててね。判るから」


 と、私はニーニャの業物わざもののナイフにラナちゃんのアクティブコーティングが施されたナイフにエーテルを流して念じる。<<約50cmの距離分を貫通して、ここにある壁をくり抜け!>>と。


 念じながら直径で80cmぐらいの大きさの円を描くと、その奥行き50cmぐらいの層のレンガがズルズルと引き出されてきた。ざっくり言うと、直径80cmで奥行き50cmの円柱が下水道側に引っこ抜けた形になるね。


 くり抜いた先を妖精の子で照らすと、ちゃんと物置倉庫みたいになっているし、今回くり抜いたレンガの破片とかもなく、鏡面状に綺麗にくり抜けてた。

 よしよし、良い感じだね。これなら仕事を済ませて脱出したときに、この円柱を隙間なく戻しやすいね。


「お、お母様、何をしましたか?」

「リサ、詳しくは仕事を終わらせてから話すよ。今は急ぎたいから、目で見える物を信じておいて」


 くり抜いた円柱を下水の脇に立てかけて、開けた穴を通り抜けて地下の物置スペースに入る。皆で探知したとおり階段がなく、天井の一か所に50cm角ぐらいの扉らしき場所が見つかった。


「このまま、あそこの扉を抜けるよ」


 って下水道に入ってから光学迷彩と飛空術の併用で、地下倉庫から調理場への扉を押し上げる。ここも真っ暗で無人のままなのは事前に探索した通り。妖精の子で照らしつつ、調理場から工房へ移動するのだけど、ここからは光量を落として、隣の部屋へ灯りが漏れないように細心の注意を払う。


<<ここから念話に戻すよ。あと、浮いてるとはいえ、色々な物にぶつからない様に注意。斧をステラの持ってきた物と交換して、一旦地下倉庫まで戻ろう>>

<<ハイ!>>


 かなり光量を絞っているので、灯りよりはエーテルの探知を利用して斧の位置までたどり着いて、ステラが交換するのを見守る。割とありがちな展開の、誰かが物をひっくり返して、護衛の人に気づかれるというオチは無かったよ。



<<みんな、お疲れ。調理場へ続く扉は閉めたから、ここでその斧に魔力を通してみようか>>


 ステラは頷くと、魔石を生成して斧の頭頂部に嵌める。そして持ち手の部分を握って魔力を流すと……。魔石が光った!音や波動は出なかったけれど、魔石が光り始めたのを見てステラが直ぐに魔力の注入を止めた。


「ヒカリさん、これは多分本物よ。魔石が光ったのはこれだけだわ」

「ステラ、そうみたいだね。そしたら撤収しようか」


「あ、あの……。ステラ様、お母様、魔力が通らなかった箱の中身は確認しなくても良いのですか?」

「リサ、それも後で説明するけど、多分ここで働いている職人さん達の契約書か何かだと思うよ。『逃げたらお前らの抱えている借金を種族の元で返金してもらう』みたいな内容の。

 だからあの箱全部を回収することを考えると、時間も体積も大変なことになるし、契約書が無くなっても、今度は本人達を脱出させる必要がある。だから、今はこのまま帰還することで良いかな?」


「お母様、分かりました」


 この後は、円柱を壁の模様に沿って元の位置に戻して、エーテルさんにお願いして、周囲の隙間を埋めて置いて貰った。もう、殆ど元通り。良く見れば80cmの円が描かれているけれど、その円があったところで、地下水道側へ通り抜けたとは思わないし、それを想像できたとしても実現する手段が無いよね。


 さ、帰ろうか。

 私とリサはグレハンが予約していた宿に帰還する。

 ステラは私達と別れて、入手した斧を魔族の金貨で購入するためにカジノに戻ることになった。『この借りていた斧が、一番本物っぽいので、これが欲しい』とか、言うらしい。確かに、貸し出した意味とか、バックヤードまで案内した人からすると、偽物とわかりつつも魔族の金貨1000枚で1本売れたのだから『よくやった』とか、褒められるだろうしね。


 よしよし!

 今回の訪問の目的とは全然違うけれど、斧が手に入ったのは良いんじゃない?



いつもお読みいただきありがとうございます。

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数日、連投します。こうご期待。

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