8-15.武闘大会の精算(2)
今度は私の分の武闘大会の賭け札の払い戻しをするよ
私たちは武闘大会で勝利を収めると、とっとと賭け札の換金をして、フウマと分れて行動しようと思っていたのだけれど……。
「カザマチームの皆様、賞金の授与がございますので、こちらの方へ!」
そっか。勝者のセレモニーだもんね。
観客は興味が無くても、実際に賞金が授与されるの状態を皆の前で披露するのは、この大会の信用に繋がるし、次回からの参加者の射幸心をそそるよね。この辺りは時間が掛かっても無碍な対応をせずに、喜んでいる笑顔を作って対応するよ。
通訳有りのインタビューを長々と受けて、対戦の疲れとか勝利による脱力感とは別の疲れが生じ始めるね。こういうのは、ちょっと休憩して呼吸が整ってからとか思うけれど、なんていうか、インタビュー疲れってのがあるって実感した。
いや~、日本でも国際大会でのインタビューを受けているスポーツ選手の方達がいるけれど、あの人達はプロだね。体力とか技能だけでなく、スポンサーや観客を鼓舞することが出来るプロフェッショナルだと思う。
で、漸く、表彰式とかインタビューから解放されて、賞金の山分けと、賭け札の払い戻しを受けようかなってタイミングでフウマだけが呼ばれた。
フウマからの念話によると武術を見込んでのスカウトらしく、教会騎士団からのスカウトもあるから、隊商の護衛チームから離脱できるか調整して、移籍をしようと思うとのこと。
まぁ、良い意味で作戦通りだから、フウマが活動しやすくなる方向で自由に進めてくれれば良いと思う。
私たちは優勝賞金の半分を人族の金貨で500枚ゲットして会場を後にした。
次に、賭け札の払い戻しをしに受付所に向かう。ここでグレハンさんの人族の金貨2万枚が大ごとになるかと思いきや、多少の驚きはあったものの、「人族の金貨で持ち運びますか。それとも魔族の金貨で受け取りますか」なんて、丁寧な気遣いまでされて精算して貰えた。
今回はステラが作ってくれている容量無制限の鞄は秘匿しておきたいから、金貨2万枚は持ち運ばない。当然、重力遮断して金貨の袋を100も200も背負う訳にはいかない。よって、魔族の金貨への換金一択だったよ。
私の中型魔石100個がトラブルになった。「カザマ殿に200個の払い戻しをしてしまったため、本日お渡しできる魔石が枯渇しました」とのこと。通常の相場より少し高めの1個金貨50枚で買い取って頂けるとのことで、金貨5000枚の払い戻し。これも全部魔族の金貨に交換してもらって、魔族の金貨50枚。
武闘大会が終わってみると、人族の金貨が500枚と魔族の金貨が250枚。ただし、グレハンさんの分も含むよ。ゲーム大会に備えて結構良い資金になったかな?
やっと宿に帰って休める~~~。
って、タイミングでステラから念話が入った。
<<ヒカリさん、カジノに来れるかしら。色々と見て貰いたいものがあるのよ>>
<<え?>>
<<賭け札の払い戻しができないから、カジノの景品を代わりにもらうことにしたのよ。
なんだかよく分からない物が多くて、ヒカリさんにも見て貰ってから交換したいものを念話で私に伝えてくれないかしら。ヒカリさん達もカジノに入場できる程度には賞金が手に入ったのでしょう?>>
<<うん。まぁ、魔族の金貨で250枚は作れたかな。ステラは2000枚の20倍だから、魔族の金貨で400枚ぐらい?>>
<<いいえ。魔族の金貨で4万枚ね。エルフ族の金貨だと400万枚になるかしら>>
<<ステラ、それは目立ちすぎじゃないの?大丈夫なの?>>
<<教会と賭け事ギルドが裏で繋がっているらしくて、その辺りはなんとかなりそうよ>>
<<わかった。通訳の人と相談してから向かうよ。ちょっと遅くなったらごめんね>>
<<じっくりと時間を掛けて交換する賞品を選んでいる振りをするわ>>
ステラは何やってるのさ!
エルフ族の金貨で400万枚とか、魔族の国家予算が尽きて即日破綻するよ!
まぁ、魔族の国を破綻に追い込むことより、ドワーフ族の斧を取り返せれば良いし。ついでに教会とのコネクションが出来れば良いから、色々と教会に寄付して恩を売っておくのは良いよね。上手く行けばフウマとも連携が取れるかもしれないし。
ま、まぁ、きっと上手くいってるよ!
「グレハン、みんな、疲れているところ悪いけど、カジノの景品を見に行きたい。
余計な金貨を持っていると狙わるし、他の大儲けした人に目ぼしい景品を先に獲られるかもしれない。私の我儘をきいて欲しい」
実際に疲れているのはリサと私だけで、気苦労しているグレハンからしてみても、大金を持ち歩いているよりは、カジノで使いきれるならそれも有りだと思っていると思う。
悪くない提案のはずだよね。疲れて無ければ。
「ええと……。ヒカリ様とお呼びしますか、アサリ様のままでよいですか?」
「しばらくはアサリで通そうか。カジノに行くには何か準備が必要?」
「その……。そのですね。
我々のこの格好では貧相過ぎまして、少なくとも風呂などで体を清潔にして、服装もそれなりに整った格好で向かいませんと、入口のボディーガードに入場を断られる可能性があります。多少の出費になりますが、中古服を購入してからが宜しいかと」
「じゃ、先に服を買って、次に宿で体を拭くのと着替えを済ませてから再出発しよう。グレハン、案内できる?」
「承知しました!」
魔族の金貨1枚で普通の人族の金貨100枚相当な訳だから、魔族の金貨10枚もあれば、全員分の服は整えることが出来ると思うんだよね。オーダーメイドだと即日入手ができないから、中古品のアイデアを出してくれる辺りも、気が利いてて良いと思う。
とりあえず、グレハンに任せておけば良いかな?
多少の悶着はあったものの、小奇麗な服を全員分調達して、宿で着替えて、身嗜みを整えた。夕飯はカジノで食べることにしてキャンセルしておいたよ。
カジノは3階建ての建物だけど、入口は博物館級に広くて大きい。柱も立派な装飾が施されている。その階段を上がる手前に、何人かの護衛と思われる防具を身に着けて槍を構えた人が等間隔に立っている。これがグレハンさんが言っていた「身なりで入場制限をかけるフィルター」のことだね。私たちは、それなりの格好に着替えたので、咎められることなく通過できたよ。
扉も何か所か設置されていて、それぞれにドアボーイが付いてる。ほら、そこは自動ドアとか無いから重厚な扉を開閉する専門の人を配置するのは賓客にとってみれば有難いサービス。こういうところで小銭で良いからチップを弾んでおくと、後々良いことあるかもね。
「アサリ様、遊戯を楽しまれるのであれば、先に金貨をカジノのチップに交換することをお勧めします」
と、グレハン。カジノの遊び方も分かるんだね。結構物知りだよ。
「景品はチップとしか交換できないかな?」
「景品だけが目当てであれば、チップと魔族の金貨は等価交換であったはずです。このままで問題ありません。ただ、高額な景品ですと我々の手持ちでは心許無く……」
「うん。まぁ、先ずは景品のコーナーに行って、必要枚数を見に行こうか」
冷やかし半分で高額賞品が展示されているコーナーから見学する。
ここのカジノは王都で最高グレードのカジノらしく、掲げらている展示品というか景品も一級品が揃っているみたい。一番高い景品がチップ1000枚。
あ、これドワーフ族の斧なんじゃないかな?本物なら即交換だけど、展示物が偽物で本物が隠されていると不味いね。他には銘の入った鎧とかハーブティーセットとか、伝説の剣とか色々と……。
展示品に表示されている内容が正しいとは限らないし、何処にも「これは本物の鑑定書付きです」とも記載が無いのが微妙。折角買い取ったのに、明日同じものが展示されていたらショックは大きいよね。ニーニャがいてくれたら鑑定出来たんだけどさ……。
これは確かにステラから念話で聞いたとおり、真贋の見極めが出来ないし、色々と困る。偽物を掴まされるなら、交換せずにチップとしてカジノに預けておけばいいんだけど……。
次に中グレードの、といってもチップ100枚ぐらいの品々が並んでいるコーナーに向かった。
奇妙な卵を発見。
想像したくないけど、これ飛竜の卵だったりしない?これこそ偽物だよね?こんな風に持ってこられて展示されていたら孵化する訳ないよ! それか、「飛竜の卵をデザインした置き物」とかね。それなら許す!
<<クロ先生、モリス、リサ、シオン、この展示されている卵が本物の飛竜の卵か判定出来る人はいる?>>
<<ヒカリさん、接触した上で禁忌の実行許可を頂ければ断定できます。この状態からでは私にはできません>> と、クロ先生。
<<私はできません>> と、モリス。
<<僕も出来ません>> と、シオン。
<<お母様、あれは生きていませんよ。中身も生物としての卵ではなくて、粘土か何かですね>>と、リサ。
まさか、リサはX線診断が出来るの?
<<リサ、リサは何で分かるの?>>
<<皆様には飛竜を感じられないのですか?あの卵の殻の部分は本物の飛竜により生成されたものです>>
<<ひょっとして、飛竜の加護の印が発動している?>>
<<お母様、私だけということはありませんよね。お母様も知ってて皆を試しているのですよね?>>
<<リサ、凄いよ!飛竜探知機に任命するよ!リサの二つ名は『飛竜探知機』だね>>
<<お母様、普通の人に意味がわからない内容は二つ名と言いません。
あと、私の好みではありません。良いから先に進んでください>>
リサが冷たい。二つ名なんて、本人以外の人が勝手に名づける物なんだから、知れ渡れば勝手にそう呼ばれるのに……。そういえばフウマは勇者の称号を欲しがってたね。今回の武闘大会の優勝で勇者の称号貰えるのかな?
と、とりあえず、グレハンに振ろうかな。
「グレハン、この卵の置き物が何の動物なのか知りたい。もし、飛竜とか特殊な動物の卵だったら、その入手経路についても確認して欲しい。
あと、展示品で触って確認するにはどうしたら良いかも確認してくれる?」
「承知しました!」
<<ステラ!カジノに着いた。景品の展示も見てみた。真贋が判らないから交換してよいか判らない!偽物の斧をチップ1000枚で交換したら馬鹿を見ることいなるよ……>>
<<ヒカリさん、遅かったわね。私たちのチームはVIP待遇で宿を手配してもらって、部屋で食事をしているところよ。お食事は美味しく無いけれどここのサービスは中々気が利いていて良いわ>>
<<ステラ、私たちはステラほど金貨が無いからここで宿泊する予定も無いし、金貨1000枚とか持ってないよ。再訪問するまで、チップとして預けてしまうのは有りなんじゃない?>>
<<ヒカリさん、私がカジノの運営権を持っていたら、明日には全ての景品の必要交換チップ枚数を10倍に跳ね上げるわ。そして私達が国外へ出たら元の枚数に戻すと思うの>>
<<ステラ、それは幾ら何でも無茶苦茶では?>>
<<『本物としての信ぴょう性が増した!』とでも、何とでも言い様があるわ。だって、何処にも本物とも、一般での流通価格とも書かれていないもの>>
<<そ、それはそうだけど、ズルくない?>>
<<ヒカリさん達だって、武闘大会でズルをしたことになるでしょう?>>
<<いや、それはそうだけど、能力を低く見せているだけでさ……>>
<<相手も同じよ。『誤って、安く値決めしていただけだ』ってね>>
<<わかった。ステラがカジノに滞在中に真贋を判別する方法を探すのね……。
確か明後日からゲーム大会だから、それまでにってことだよね……>>
<<ヒカリさん、私はゲーム大会に参加できないのかしら?>>
<<え?>>
<<わたし、そんなに弱くないはずよ。ヒカリさん達みたいに一稼ぎ出来るんじゃないかしら?>>
<<そんな余裕があるなら参加しても良いけど……。確か、参加登録の締め切りは明日の夕方までじゃなかったかな?>>
<<とすると、明日の昼頃までに真贋を見極める必要があるわ>>
<<あ。エントリーはお金さえ払えば代理人でも出来るよ。ステラ本人が行かなくても大丈夫>>
<<アリアさんも登録しに行くって言ってるわ>>
<<そういうのはテイラーさんに代理でエントリーして貰えば良いよ>>
<<そうね。ヒカリさん、真贋の判定をよろしくお願いするわ>>
<<分からないけど、なんとか考えて見るよ……>>
普通に考えたら、ニーニャを空飛ぶ卵で来てもらうのがいいんだけどさ?
ここにガラクタが沢山あって、「ヒカリ、あれらの偽物を買い取れ」とか言われると、結構痛い出費になるんだよね。まして、私の金貨ではなくステラが稼いだ金貨な訳だし……。
さて、どうしたものか……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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