8-14.武闘大会の精算(1)
先ずはステラ達の賭け札の払い戻しの様子を聞いたよ
「テイラー殿、教会騎士団チームが負けてしまい申し訳ない。
賭け事は余剰金で遊んでいただけたのでしたら良いのですが……。
確か、金貨1000枚を賭けてましたか?」
「枢機卿、仰る通りでして、私が100枚、そしてステラ様が1000枚になりますね。ですが、お気になさらないで結構ですよ。賭け事は自己責任ですので」
「そ、そうですか……。今回の件のお詫びとしまして、法皇との面談の日程をなるべく早める様に調整させていただきます」
話はシルフが念話で伝えてくれているので理解するのに問題ないわ。それにしても我々の賭け札がヒカリさんのチームだったことに気が付いていないし、私が賭けた金貨が魔族の金貨であることも気が付いていない。
賭け事を仕切っているギルドと教会側が裏で繋がっているとしたら、次会う時が楽しみね。
さて、金貨の回収ね。
気まずそうな様子の教会の方達とは挨拶をして直ぐに別れたけれど、観客の熱も冷めやらぬ状態で賭け札の換金に向かっても、余計な揉め事に巻き込まれるだけよね。どこかでお茶でもして時間を潰して、少し熱が下がってきてから賭け札の換金所に向かいましょう。
ーーー
「あ~。受付嬢、こちらの賭け札の換金をおねがいします」
「はい。テイラー様ですね。少々お待ちください」
と、交換所の受付嬢が奥から預けた金貨100枚の袋を持ってきた。
「こちらがテイラー様の預けた金貨100枚の袋になります。中身を確認させて頂きますと、エルフ族の金貨100枚です。そして賭け札の払戻金は20倍になりますので、エルフ族の金貨で2000枚になります。
宜しいでしょうか?」
「はい」
「重量が大きいので、100枚当たり魔族の金貨1枚と交換可能ですが、如何いたしましょうか?」
「エルフ族の金貨2000枚でお願いしたい。手分けして運ぶこととします」
「承知しました。こちらエルフ族の金貨100枚の袋で20袋になります」
と、テイラーさんの賭け札の払い戻しは問題無く完了。
次は私の番ね。賭け札をテイラーさんに渡して手続きをお願いするわ。
「次に、此方の賭け札の払い戻しをお願いしたい」
「承知しました。エルフ族のステラ様の金貨1000枚ですね」
と、先ほどと同様に金貨の入った袋10袋を持ってきて、中身を確認しようとするが、封印がされているので開けられない。私は皆が居る前で封印を解除したわ。
「それでは金貨100枚が10袋であることを念のために確認させて頂きます」
と、紐を解いて口を広げた受付嬢がギョッとした顔をして、金貨の袋を持つ手が震えだす。そして、足もガクガクと震えだして、しゃがみこんでしまったわ。高々魔族の金貨100枚程度で何を驚いているのかしら?
「受付嬢、どうかされましたか?」
と、その様子を見たテイラーさんが声を掛けつつ、袋の口が半分開いている中身をチラッとみた。
「す、ステラ様、これ、ひょっとして魔族の金貨を賭けましたか?」
「ええ。金貨の上限が1000枚と説明があったので、そのとおりにしただけですわ。ついでにいうと、枢機卿の紹介で追加で賭けた賭け札も魔族の金貨よ」
「そ、そういえば、私も追加の賭け札が残っていましたね……。
ステラ様、皆様、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
しゃがみこんでしまった受付嬢の様子を見に来た別の担当者とテイラーさんで話を進めて、これからの払い戻しのことで打ち合わせを上司と相談することになった様ね。
私達全員でVIPルームと呼ばれるそれほど広くない個室だけど、装飾品や什器が高価な物で揃えられた歓待ルームに案内された。私達が席に着いて待っていると、割と良いレベルのハーブティーとお茶菓子がだされた。どちらもヒカリさんとの暮らしが長くなってしまったせいか驚くほどの物ではないわね。アリアさんのご家族やシルフも似た反応ってところかしら。
「大変お待たせしております。賭け事専門のギルドを運営しております、ギルド長のハッサンになります。
本日は払戻し金のお話を誠実に対応させて頂ければと思いますが、お話するお時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「はい。決断が必要なことは私が通訳するので、このまま話を進めてください」
と、テイラーさんがハッサンに説明を促した。
「テイラー様、先ずは現状を説明させて頂きます。
テイラー様の持つ賭け札残り1枚はエルフ族の金貨2000枚と交換可能です。既に交換済みの金貨と合わせて4000枚となりますが、持ち運びに不自由が無ければ、この後直ぐに用意させて頂くことが可能です。
ステラ様が所持する2枚の賭け札と払い戻し金につきましてですが、ステラ様からお預かりしている合計20袋の金貨が全て魔族の金貨でして、本物の魔族の金貨であることも確認とれました。すなわち、払い戻し金額は魔族の金貨で4万枚となります。
ここまでで相違はございませんか。また、他に払い戻しを控えている賭け札などは御座いませんか?」
「はい。問題ありません」と、テイラーさんが我々に確認してから答えた。
「続きましてですが、ステラ様の払い戻しは魔族の金貨をご所望ですか?それともエルフ族の金貨に換算してエルフ族の金貨400万枚に換金されるご予定はございますか?」
テイラーさんが改めて私に通訳をするので、「払い戻しはどちらでも良いけれど、この国を旅立つ際にはエルフ族の金貨400万枚を準備して欲しい」と、伝えて貰ったわ。
「そ、その様な意向になりますよね。
そ、そうしますと、我々のギルドだけでは本日中に魔族の金貨4万枚を交換できませんことと、それをお帰りの際にエルフ族の金貨400万枚を準備することは種族間の保証となりますので、魔族の国として準備を始めるために国営の管理部門と相談を進めさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」
何かつまらない話ね。
ヒカリさんも魔族の国を破綻させることは最終手段ぐらいに思っていたけれど、これではエルフ族が魔族の国を支配下に置くようなものね。きっとスチュワートも望んでいない結果になるわね……。
こういうのって、ヒカリさんが引き起こすことじゃないかしら?不吉な予感が当たったとうことかしらね……。
さて、どうしたものかしら……。
まずは、一つ目として、カジノの景品であるドワーフ族の斧の買い取りかしらね。その他にカジノの景品で目ぼしい物があれば、それを買い取るのは有よね。そこから片付けようにテイラーさんに調整して貰おうかしら。
「ハッサン殿、ステラ様としても国家破綻を望んでのことではなく、単純に賭け事を楽しみたかったとのことです。そこで、例えば賭け事ギルドで運営している賞品や景品で風変わりな物があれば、それを買い取る形で、今回の精算の一部を代替するのはどうかと、ご提案頂きましたが如何でしょうか?」
「な、なるほど……。
この建物には目ぼしい物がございませんが、国営のカジノの運営を委託されておりまして、そこでは種々景品を展示しております。その中でお眼鏡に適う物がございましたら、交換させて頂ければおもいますが、如何でしょうか?」
この場を逃すと、今日中にカジノの賞品の必要チップや金貨枚数を架け替えて、交換レートを有利にする作戦に出かねないわね。ここは直ぐに交渉に入った方が良いわ。「今からなら、その提案に応じる」と、テイラーさんに伝えて貰ったわ。
さて、何か目ぼしい物が見つかると良いのだけれど……。
例えば斧だけでなく、アリアさんが興味を示すような錬金術の道具とか、私の興味がありそうなものがあれば面白いわね。こんなことならヒカリさんも連れてくれば良かったわ。
あっ。彼女のことよ。きっと少しは金貨を儲けているはずだから、カジノに入場ぐらいは出来るはずよね。念話で声を掛けて、自然な形で後から合流して、欲しい景品を選んでもらえば良いわね。
ーーー
場所を移して、国営カジノでも一番大きな建物に案内に戴いたわ。規模が大きければ人も集まるし、賭け金も動く、それに応じて良い景品も自然にあつまってくるとのこと。当然と言えば当然よね。
「テイラー殿、こちらがカジノ景品になります。ここのカジノの交換レートは魔族の金貨1枚がチップ1枚になります。カジノチップと魔族の金貨での交換手数料は生じませんので、景品に表示枚数をそのまま魔族の金貨の枚数として計算頂ければと思います。
現在展示されているチップ100枚以上の景品ですと、こちらになりまして……。
神器とされる斧が1000枚で最大枚数になります。ただ、こちらは見栄えばかりで性能は大したこと無いと言われており、交換する際には予めご承知おきください。
次がオリハルコン製とされる鎧1式が800枚。こちらは銘がはいっておりまして、ドワーフ族の著名な家系の者が作成したとされる逸品です。確かにエルフ族の金貨で8万枚相当というのは高価かもしれませんが、武人であれば垂涎の一品と注目されている目玉商品です。
エルフ族の方達でご興味がありそうなものは……。
伝説のエルフ殿が製作されたとする伝説の鞄が500枚。こちらは収納容量無制限ですが、その分重量が増えてしまうものです。
こちらは近代の伝説エルフ、ステラ・アルシウス様が調合されたハーブと茶器のセットでして、100枚。
こちらは人族の皇帝が使ったとされる伝説の剣でして、300枚。
そういった、伝説の逸品がこちらのコーナーでは展示されています。
中々高額な物でして、交換される方も少なく、長期間展示されていて、それを眺めて楽しむ意味合いの方が強い品々ですね。
次は……。魔族の金貨で1~100枚のコーナーです。
たまたま期間限定でつい先日入荷したばかりですが、飛竜の卵が1個100枚で6個ほどありますね。
他には、指輪やネックレスなどの装飾品、宝石。そして希少な鉱石の類が100枚以下で単品だったり、セットで展示されていますのでご覧になってください。
ただ、手に取って確かめる場合には、結界から我々が取り出してお渡して、我々が立ち合いの下で確認いただき、交換または返却いただきます。
テイラー殿達にとってみれば、失礼な対応こととは思われますが、そういったルールで運用されておりますので、予めご了承ください」
色々と不味いわね。
ヒカリさんをここに連れてきてはいけない気がして来たわ。
まず、飛竜の卵6個。エルフ族の師匠の作品を騙った伝説の鞄。私の名前を騙ったハーブティーセット。あとはドワーフ族の斧。これら全部回収すると、約3000枚ね。私は判らないけれど、オリハルコン製の鎧も、万が一にもニーニャさんの銘が入っていたら、それも回収しないといけないわね……。
こう、なんていうのかしら……。
今回と逆の立場でその国の逸品を借金のかたに押さえて、それを回収している可能性もあるわね……。魔族の人達が騙されているのか、それとも偽物と承知の上で展示しているのか、その辺は今は気にすることでは無いわね。
「ステラ様、ご覧に頂いて手に取って確認されたいものはございましたか?」
「テイラーさん、飛竜の卵の入手元や用途を上手く探れないかしら。他の物は私では真贋が判らない物あるし、チップ100枚以下の小物と交換して、荷物であふれかえってしまうと今度は運ぶのが大変よね。皆で物を確認しながらゆっくり考えたいわ」
「飛竜の卵の件、承知しました。
それと、こちらの国営カジノですが、24時間営業しており、備え付けの宿泊施設もあります。本来は休憩や食事をしながら遊戯を楽しんでいただくための施設ですが、今回の賞品の選定でも利用できると思います。
賞品の選定に時間が掛かることから、宿泊施設の確保も併せて申し入れしておきます」
「ありがとう。助かるわ
皆さん、展示物に手を振れない様に欲しい物が無いか確認してリスト化しましょう」
こういうときにヒカリさんが居ると、色々と進むのよね……。アリアさんは展示されている怪しげな道具や鉱石類に夢中になってしまった様だし……。時間を稼いでヒカリさんが到着するのを待つしかないわね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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