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8-13.魔族の武闘大会(4)

 さぁ、武闘大会の決勝戦だよ!

「アサリ殿、決勝戦は教会騎士団チームと対戦で3:3のチーム戦に決まった。

 作戦を考えた方が良い」


 教会相手なのか……。

 グレハンが賭けた金貨1000枚を失うのは勿体ない……。

 どうしよっか……。


「グレハンさん、人数分の食事を買ってきて。ここで食べれるやつ。

 その間にカザマ殿と打ち合わせする」


 グレハンにフウマと私が関係者とバレるのは良く無いし、教会に探りを入れたい別チームがいることも知られたくない。ちょっと席を外してもらうことにした。


「姉さん、賭け事運営ギルドの件は教会とはまるで関係ないんだろう?ステラ様やミチナガ様が動いてくれているんだから、この1戦で教会騎士団を負かしたからといって、大きな問題にはならないと思う。

 僕はそれより3:3で勝つ方法が問題だと思うんだけど?」


「フウマは知らないかもしれないけど、リサは私より強いからね。フウマといい勝負すると思うよ。対人戦の場合は狡賢ずるがしこさとか、経験値不足で負ける場合があるからそこは作戦を予め立てて置けば大丈夫。


 それよりも、優勝した挙句、賭け事ギルドに狙われて、更に教会騎士団を倒して教会関係者に狙われるのは色々不味いことが起きそう」


「そう考えると、金貨1000枚は安いね。

 万が一にもステラさん達と敵対することになると不味いし」


「あ~。ステラに念話を通しておくよ。

 『教会騎士団を倒しても良い?』って。

 ステラ達がまだ幹部と接触していなければ問題無いし。

 すでに接触してて、ステラ達が教会側についていたらお互いが苦労するね」


<<ステラ、ちょっと念話通していい?>>

<<ヒカリさん、大丈夫よ>>


<<今さ、教会騎士団と武闘大会で戦うことになった。競技会だから問題無いと思うんだけど、勝った後で逆恨みとかされないかな?>>

<<やっぱり、ヒカリさんのチームね。金貨2000枚賭けてあるから勝ってくださいね>>

<<え?>>

<<この昼食の後で試合よね。何でも良いから勝ってくださるかしら>>

<<わ、わかった>>


「フウマ、リサ、『金貨2000枚賭けてるから勝って』だって」

「姉さん、どういうこと?」

「いや、分からないけど、なんかそういうこと。

 グレハンと合わせて金貨3000枚ともなると、勝って、色々な勢力を直接的に撃退した方が作戦全体はスムーズに進む気がするね」


「姉さん、違うよ。

 もし勝ったら、賭け札が20倍で返って来るから金貨6万枚だよ。

 ひょっとしたら、ドワーフ族の斧を支払の代品として要求できるかもしれないよ」


「まぁ、ステラの分は共有できないけどね。

 確かに金貨2万枚と中型魔石300個となると一括で用意しにくいかもね。

 これでドワーフ族の斧の件が片付くならこのまま進めようか」


「ヒカリ様、ゲーム大会はどうされるので?」と、モリス。

「変なトラブルに巻き込まれなければ、このまま滞在してモリスに活躍して貰うつもりだよ?」

「承知しました」


「じゃ、グレハンが戻って来るから、カザマ、アリサ、チナで勝つための作戦に切り替えようか。微妙な内容が含まれるから念話に切り替えるね」

「「ハイ」」


 よしよし、3:3で勝つだけなら特に問題は無いかな~。

 念のため、『なるべく接戦で頑張った感』は出しておいた方が良いかな。


<<フウマ、私とリサは、一応木刀を持って構えておくよ。何でも有り有り、自己責任の勝負で木刀っていうのもなんだけど、私たちの準神器級の道具を使うと、本当に相手が死んじゃうか、身体欠損しちゃうからね。

 防具の類は、見た目は冒険者用の服だけど、リサも私もインナーには気を遣っていて、ニーニャの細いミスリル銀で編んだ布とステラのコーティングで大概のダメージは飛散できるし、刃物は通さない。

 そんな感じだけど、不安はあるかな?>>


<<姉さん、ちょっと安心した。相手が3:3で各個撃破を狙わずに、正面から1:1勝負を挑んで、こちらの手数を減らすことを狙ってきたら、僕も気が散ると思ったんだ。

 ちなみに、僕の方はいつもの装束である程度の防刃機能があるし、動きやすい服装になっている。剣は短剣で、場合によっては短剣の二刀流に切り替えるつもりだよ>>


<<だったら、フウマには3:1で対応してもらって、私とリサは場外スレスレの場所で敵を待ち構えておく。もし、二手に分けて、私達を追い落とす様に掴みかかってきたら躱して場外へ突き落す方向で進めるよ>>

<<了解。あとは相手チームの出方次第だね>>


ーーー


 決勝戦の始まり。

 観客が結構詰めかけてる。1000人以上?ここの観客席が満席になるていどにはギチギチだよ。3:3の対戦ということで、中央の20mx20mの一番大きな競技舞台で戦うことになった。

 ちゃんと、司会者も声を張り上げて場内へ声を届かせる。司会者とは別に審判も主審よ四隅に副審がはいちされているから、勝敗の厳密性も整えられているんだろうね。


「では、これより武闘大会の決勝戦を始めます。

 事前のくじ引きで、勝敗は3:3で同時にチームで戦い、最後まで残っている人が居たチームの勝となる方式にきまりました。

 武器防具の持ち込みはは有り。ただし、飛び道具の使用は無し。魔法についても、遠隔攻撃のできる術、魔法、スキルの使用は禁止。接触しての発動や自己の体内で発動する物のみとします。

 最後に、勝敗に関係なく、武器、防具、心身へのダメージは参加者自身の自己責任となりますので、この説明の時点で意義がある場合は負けを認めて敗退してください」


 毎回同じ説明をするのは、意思確認と運営者側として後からクレームを付けられないための自衛策なのかもしれないね。


 主審の説明を受けて、両チームが頷くと、副審は4隅に散らばる。双方のチームは約3m離れた互いの開始線の位置に着く。これの配置を確認してから主審から開始の掛け声が掛かった。


「始め!」


 観客席からワーワーと歓声や応援、激励、怒鳴り声、勝敗の期待など種々音が混ざり合って競技舞台へ飛びこんでくる。結構うるさい。今日は肩の上でなく、床の開始線に並んでるリサも、なんだか煩わしそう。


 私とリサは作戦通り、相手チームを見ながら後方の端っこまで素早く移動する。ところが、相手チームの一人が私達との間隔を保ったまま追いかけてくる。私たちは追いつかれることが無いことを確認して、そのまま競技舞台の端までたどり着く。


 相手の狙いはリサからだった。

 1:1で対戦するのであれば、敵の動きだけを観察すれば良い。けれど相手の注意がリサに向いているので、リサと相手の両方をよく見て動きを決める必要が有る。まぁ、リサが普通の小さな子であればそうなんだけどね。


 私は少しおびえて、手が出せない風を装って、木刀を相手の方に震えながら差し向けて構える。けれど、相手は私を気にすることなく、リサのみに集中している。この一人を倒しきるまではフウマの方には気を配れないけど、まぁ、大丈夫でしょう。


 リサは木刀を引きずるようにして持っている。そして、ぼ~~~っと、相手のことを大きなおじさんぐらいな感覚で見上げている。木刀が何かも分からないし、なんでここに居るかも良く分かっていない素振りを見せる。

 当然、この後掴まれて場外へ放り投げられるなんて予想していないかの様子。


 ところが……。

 木刀を引きずって追いかけっこをしてるリサの着ているパーカーの様な上着の奥襟を掴んで、猫掴みのようにして持ち上げるとこう、対戦相手がこう言った。


「この子のお母さんだよね。この子、首が折れちゃっても大丈夫?」と。


 で、私がキョトンとした態度をとっていると、


「ああ、人族語で言い直すね。この子の首をへし折っちゃう。嫌なら場外へ退場して」と。

 

 つまり、リサを人質にとって、不戦敗を狙うってことだね。中々良い作戦だと思う。単に勝つのでは無くて、こちらの行動を制限できるってことで。

 と、ここでリサから念話が。


<<お母様、倒して良いですか?>>

<<服を掴まれているだけだよね。服から上手く腕を通して逃げられる?場合によっては、木刀で服を切り裂いても良い>>


 リサが半泣きになりながら掴まれている上着の袖から手を上手く抜いて、脱出したの見計らってから私は木刀で相手の脛辺りを薙ぎ払う。それも結構本気で。


 リサに上着を残して逃げられて、少し動揺しているところに木刀の薙ぎ払いが脛に当たった。相手は痛さと薙ぎ払いの威力で前のめりに倒れた。多分、骨折か骨にヒビが入っていると思う。切断はしなくとも、それくらいの威力では叩きに行ったからね。


 うずくまる相手から敗北宣言を取ることなく、手に掴まれているリサの上着を回収すると、場外へズルズルと押し出して1人目の処理を終えた。リサに「大丈夫?」とか、声を掛けながら、上着を着せて、怪我無いかを確認して、半泣きの涙を優しく拭う。

 ここまで演出をすれば、観衆は私たちの味方になってくれると思うよ。


 さて、残り二人だね。

 1:2の状態から、まだ戦闘ははじまっていないみたい。フウマも相手の様子をみつつ、こっちの状況が気になっていたみたいだね。位置取りだけを上手く変えて、両方から連携して不意打ちを貰わないようにしていた。


<<フウマ、リサを人質にとる作戦できた。勝つための作戦を選ばないチーム。戦闘力ではなく、他の搦め手でくると思った方が良い>>

<<姉さん、了解。リサちゃんは無事?>>

<<お兄ちゃん、大丈夫です。本気だして良ければいつでも動けます>>

<<了解。背の高い僕の右側から片付ける。小太りの左側は様子見する>>


 リサを私の背後に置いて、私とフウマでフウマの右側にいる敵を挟み込む。相手方は独りで私達を人質にとる作戦で楽勝と思っていたのだろうね。当初の作戦は失敗したけれど、ここから本気を出してもまだ覆して勝てると思っていそう。


 私はさっきよりは覚悟を決めたお母さんの態度で、木刀をキッチリと正面に構えて、相手と向きあう。少なくともこの位置取りからでは、私を排除しないとリサには近づけない位置取りになっている。


 相手がフウマ側に集中している隙に、私は身体強化を掛けて相手の右側から木刀で叩きに行く。といっても、本気では無いから、武器で受けられる前提のスピードだけどね。観衆にも「お母さん、がんばって」なんって風に見えていると思う。

 相手は私の木刀を両手剣で受けた途端に、フウマが相手の左側から右わき腹に短剣で薙ぎ払いを入れる。すると、相手の服の下から胴巻きの鎧が現れて、フウマの短剣を金属音とともに弾いた。


 へぇ……。ちゃんと防具もそろえているんだ。

 とすると、私の木刀だと彼らの剣で断ち切られちゃうかもね。それに服の隙間を攻撃されたら私もケガを負っちゃうかな?


 相手がフウマの攻撃に気を取られて、視線が逸れたタイミングで私は相手の左膝の裏を木刀で攻撃を仕掛ける。鎧を着ていても、脛当てをしていても、膝関節の裏側には鎧は付けられないからね。


 「チャリン」と、鎖帷子くさりかたびらの様な音がして木刀を受け止めるも、ダメージは通ったはず。相手は左足の力が抜けてバランスを失って私側に倒れ込んでくる。私はそれを避けて、相手の武器を持った右手を木刀で叩いて、武器を手放させてから、相手の面前に木刀を突き付けた。

 ここから勝負をしようにも、武器無し、左足負傷、右手負傷では戦力にはなれない。人質を取ろうにも、リサは私から5m離れた後方で立っている。負けを認めてくれるかな?

 相手は胡坐あぐらを組んで座ったまま、身に着けていた鉄仮面を負傷した右手と左手で外すと、「ちくしょう!」と魔族語で喚いた。でも、これは「負けた」とか「降参」では無いよね。私が勝手に勝利したと勘違いして、攻撃姿勢を解くことを狙った発言であることを否めない。


 私は相手がちゃんと負けを認めるまで、相手の顔面に突きつけた木刀を外さなかった。


「なぁ、なぁ、兜を脱いでるんだ。分かるだろう?その木刀をどけてくれないか?」と、魔族語で続ける。私は魔族語が判らないし振りをして、審判がこの人の負けを判定するまでは体勢を変えずに、状況を維持し続けた。


 私がわざと隙を見せるために、チラッとフウマと最後の対戦相手の方へと視線を反らせた。その瞬間に、目の前の敵は無事な左手を軸にして、体操競技の鞍馬あんば競技でも見せるがごとく、体全体を振って、私の足の膝辺りへ両足払いを仕掛けてきた。


 うんうん。流石は決勝戦。心理戦といい、体術といい、こうでなくっちゃね。


 相手の両足払いをピョンと飛び跳ねてかわすと、回転してがら空きになった背面に対して、右わき腹へ木刀を振り下ろした。木刀はおれなかったけれど、相手の金属の胴巻きはフウマの攻撃に加えて、私の木刀の打ちおろしで凹んだ。

 

 一応、戦闘不能かな?でも審判は何も言わない。この人が意識を取り戻して回復魔法とか使い始めたらこのままチーム戦に復帰できる?

 なんか、面倒だね……。どうするかなぁ……。重力遮断して場外へ投げ飛ばせばいいんだけど、それが使えないとなると、この人を引きずって場外まで運ばなくちゃいけない。衣服に毒針とか暗器を仕込まれていると、それに触れてケガする可能性があるんだよね……。


 と、少し考えているとフウマとリサから念話が通った。


<<姉さん、大丈夫?>>

<<お母様、どうかされましたか?>>


 考えていたことを念話で説明すると、「じゃぁ、早く残りの1人を倒す」っていう話でまとまった。その間、私はこの倒れている人の見張り番ね。リサはまた人質にならないように、この倒れている人からも、フウマからも距離をとって待機することになった。


 フウマが1:1の対人戦で負けることは無いから、私は気を逸らさずにこの人を見張り続ける。

 と、時間にして5分ぐらいかな?観客からワーワー言う歓声が上がった。フウマ達の方を確認したいけれど、こういうときこそ倒れている人が反撃するチャンス。彼の背面に立っているとはいえ、彼が気配察知を駆使しているなら、私がいることが分かっているはず。気を緩めることは出来ない。


「これから10カウントを数えます。教会騎士団チームのどなたも立ち上げれない場合には、カザマチームの勝利とします!

 10,9,8,……,ゼロ!カザマチームの勝利です!」


 ふぅ……。対人戦における心理戦は結構しんどいね。

 倒れた人をその場に置いたまま、フウマとリサとで主審の所へ向かう。そして、主審によって、改めて3人の手を挙げてもらい、勝利を会場の人達と共有した。

 勝敗が完全に決まったら、救護班らしき人が担架の様なものを持ってきて、二人を運び出した。観客側は怒号と歓声が入り混じって、負けた側の賭け札が飛び交う。



 さて。

 私はステラの作戦通りに勝利を得たし、グレハンさんが元金と合わせて金貨20000枚。私とフウマで中型魔石を300個の獲得。優勝賞金の金貨1000枚とか、どうでも良い金額に思えて来ちゃうのが少し怖いね。

 私は判らないけど、ステラチームの方も金貨2000枚の20倍で4万枚とか稼げたはず。それだけあれば、教会とのコネクション作成もし易いだろうね。今晩にでも念話を通しておこうかな?




いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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