8-12.魔族の武闘大会(3)
武闘大会で優勝することよりも、その後の問題をどうやって片付けるかだよねぇ……。
一方で、ステラ達も今日の武闘大会に観客として来てるんだって!
私たちはヒカリさん達と分れてから2日後に魔族の国に到着したの。
メンバーは、テイラーさん、ミチナガさん、アリアさん、その娘さん、シルフと私で合計6人になるわね。
先ず、テイラーさんは魔族の国で発行された身分証明証を持っている。
次に、ミチナガさんとアリアさんとその娘さんはアジャニア国で発行された身分証明証と、エスティア王国での婚姻証明書と、娘さんが実子であることの証明書がある。
私はエルフ族の族長なのですけど、その証明書ってのは無いので、トレモロさんに発行してもらったストレイア帝国発行の冒険者としての身分証を持っている。そしてシルフは私の付き人扱いの人族として登録した冒険者の証明書を所持している。
それぞれの国が発行しているので、各国の言語を読み取ることが出来れば、城門は通過することは出来るはず。
実際には、各国の言語の読み書きが出来る門番が居ないので、テイラーさんが魔族語で門番に身分を担保することと、臨時の滞在証明書を発行してもらうことで魔族の王都内へ無事に入国することが出来たのよ。
ここまでは順調よね。
「皆様、入国の手続きお疲れさまでした。
突然の王都への帰還ですので、各所への挨拶は控えつつも、法皇への謁見願いの届け出は先に出した方が良いと思われます。
お疲れの所申し訳ございませんが、その手続きだけでも先に進めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
と、テイラーさんから申し出があったの。
我々のチームのミッションとしては、法皇が研究している飛竜の研究内容の実態把握と、研究所に囚われている飛竜が居るのであれば解放や救出の対応も考えたい。
その観点からすれば、疲れているとか観光したいという気持ちを抑えてでも、面会の順番待ちを優先すべきよね。
皆がテイラーさんの申し出に同意して、順番待ちのカードを貰ったわ。普通の面会では1ヶ月以上先になるのだけれど、テイラーさん級の貴族縁者だと、早ければ一週間ぐらいで面会の順番が周って来るのだとか。こちらのチームにテイラーさんが居てくれた意味は大きいわね。
「皆様、続きまして宿に向かおうと思うのですが、どうやらゲーム大会の前に武闘大会も開催されている様でして……。VIPの観戦客と、その付き人なども宿をとるため、非常に宿が取りにくい状況であることをご理解頂けますと……」
「テイラーさん、宿については我々は質素な物でも構わないわよ。アリアさんの娘さんのお世話が出来る様に、お湯の準備だけは出来る場所が良いわね。私達がお湯を出しても、周りに設備が無いと周囲がビショビショになってしまうもの。
それより……。
武闘大会って何かしら?不穏な雰囲気を感じるわ」
「ステラ様、宿とお湯の件は承知しました。色々な伝手を当たってみることにします。
ところで、武闘大会に不穏な空気とは、どういった意味でしょうか。
私の認識ではゲーム大会が頭脳を争う競技であるのに対して、武闘大会は肉体の優劣を競う競技という認識なのですが?」
「ヒカリさん達のチームが既に到着していて、何らかの手段で武闘大会の存在を知ったなら、ゲーム大会そっちのけで武闘大会に参加しているに違いないわ」
「いや、幾ら何でも……。
基本的に遠隔魔法が使えない競技ですので、女性であれば力負けしてしまいます。初老のモリスという方と、護衛のクロという方の二人では3人チームのエントリーで不利ではございませんか?」
「ヒカリさんがクロさんを入れないわよ。色々と理由があるの。モリスさんも肉弾戦には向かないわね。
そうね……。
ヒカリさんなら、ヒカリさんとリサちゃんと、あと一人人数合わせで誰かを適当に雇うのじゃないかしら?」
「ステラ様、ご意見を述べさて頂くこと、お許しください。
ヒカリ様が3人チームのうち、二人を子女で構成して武闘大会にエントリーしていると予想されるのですか?何のために?」
「アリアさん、ヒカリさんならエントリーするわよね」
「ステラ様、ヒカリ様が不幸にも武闘大会があるという情報を入手してしまったなら、絶対にエントリーしていると思います。偽名を使って、能力を偽って大会に出場するに違いありません」
「アリアさん、そうよね。
テイラーさん、きっと武闘大会も賭けが出来るのでは無いかしら?」
「は、はい……。普通はそうですが、何か気になりますか?」
「知らない振りをして、ヒカリさんのチームに賭けましょう」
「あ、あの、私は構わないのですが、何か意味があるのでしょうか?その後の作戦に繋がるとか、所持金を潤沢にするとか……」
「ヒカリさんの行動に意味を求めても仕方ないわよ。ねぇ、アリアさん」
「ヒカリ様が何を考えているか判りませんが、適当な行動を後から見るとクリティカルな起点を捉えている方ですね」
「お二人とも、承知しました。
良く分かりませんが、ヒカリさんのチームと思われる偽名と能力を偽って登録している得体の知れなチームに賭けましょう。
名の知られていないチームであれば、運営側も払い戻し倍率を大きくして、少しでもそこに賭け金を載せようと調整をします。もし、その不利をひっくり返して勝利を得ることが出来たなら、我々に多額の賭け金の払い戻しを齎します」
私たちは宿屋探しをそっちのけで、武闘大会の賭けの受付場所に来たわ。明日から本選が始まるとかで、そのエントリーチームと倍率が掲示されていたの。出場は20チームで、この中から一番怪しいヒカリさんのチームを選ぶのだけど……。
「ステラ様、宜しいでしょうか?」
「アリアさん、何か気付いたかしら?」
「この払い戻し倍率20倍のチームが怪しいです。このチームはやる気が感じられません。参加するだけ無駄なチームで、参加費を払うだけ損します」
「アリアさん、どういうことかしら?」
「ええと、私は魔族語が堪能ではございませんが、倍率とは別にチームが予選時に叩き出したスコアがこちらの別の表に掲示されているのです。
このチーム、1名を除いて、本気をだしていないか、本気をだしているとしたら、全然チーム戦の役に立たないスコアです。
テイラーさんの説明の通りだとするなら、3人チームのところを一人の力でエントリーしても勝ち抜ける訳がありません」
「なるほどね。アリアさんは数値を分析するのが早くて上手いわね。
テイラーさん、このチームの3人の名前は何て書いてあるのかしら?」
「ええと……。きっとこれは人族語で発音すると……。
カザマ、アサリ、チナとなっていますね。
アリアさんの分析された高スコアの人はカザマという方になります」
「それ、人族語の発音で考えると、
フウマ、ヒカリ、リサ
カザマ、アサリ、チナ
凄く母音の位置が似ていると思うわ。それに、ヒカリさんやリサちゃんが本気出さないのも分かるわ。このチームにしましょう。
テイラーさん、いくらまで賭けられるのかしら?」
「ステラ様、いくらと言いますと……」
「賭けられる金貨の枚数に上限はあるのかしら?」
「人族の金貨で50枚や100枚は十分に受けて貰えると思いますが、それ以上をお望みですよね。確認して参ります」
まぁ、私はエルフ族の金貨を出す振りをして、ヒカリさんから預かっている魔族の金貨を積み上げるつもりなのだけどね。袋に入れて印を施しておけば大丈夫かしら?
「ステラ様、金貨1000枚は賭けられるそうです。大丈夫ですか?」
「テイラーさん、私があなたにエルフ族の金貨100枚を預けるわ。貴方もそれを賭けなさいよ。私は私で金貨1000枚を賭けるから」
「しょ、承知しました。では、賭け金の受付までご一緒に参りましょう」
テイラーさんが受付でテイラーさんの分としてエルフ族の金貨100枚が入った袋を中身を見せて確認してから受付に預けるとともに、その確認がとれた預かり証としての賭け札を貰った。
続いて私も魔族の金貨100枚が入った袋を10袋を積み上げてから言ったわ。
「私も金貨を賭けたいの1000枚分。
ただし、後から私の賭けた金貨が偽物とすり替えられない様、革袋の口を封しして、保護の印を描いておきたいのだけど良いかしら?」
先にテイラーさんに預けたエルフ族の金貨100枚と魔族の国の金貨100枚はほぼ同じ重さであることを確認しているの。
ほら、ヒカリさんが贋金と等価交換の話をされたとき、エルフ族の金貨は純度が高いことで知られているし、一方で魔族の国の金貨も純度が高い金と同じ重さという事前情報があったから、袋の外から重さを確認しただけでは、差が判らないと思うの。
つまり、受付係は私が賭け金として預けた金貨をエルフ族の金貨1000枚と誤認すると思うし、彼らとすれば、テイラーさんの知り合いから金貨1000枚が手に入るだけだから、中身がどこの国の金貨なのか1枚ずつ確認したりしないと思うのよ。
「承知しました。エルフ族のステラ様より金貨1000枚を確かに預かりました。こちらが賭け札になります」
フフフ。後はヒカリさん達が優勝するのを待つだけね。
明後日の決勝戦が楽しみだわ。
ーーー
武闘大会最終日ね。
午前中に準決勝が行われて、休憩と昼食をを挟んだ2時頃から決勝戦が始まるとのことで、今日はテイラーさんのお勧めで準決勝の試合から観戦することにしたわ。
準決勝1試合目は教会騎士団がエントリーしたチームと肉体逞しく、日頃から体鍛えていると思わしきチームの対戦。
3:3のチーム戦で行われて、教会騎士団チームは後衛の1人が支援と回復を掛けつつ、前衛の2人が各個撃破の戦法をとって、危ういことなく勝利を収めたわ。掛け金の払い戻し倍率は1.3倍ということだから、相応の強さを見せたってことね。
準決勝2試合目は、優勝候補の一角で昨年度優勝実績のあるチームと、幸運に恵まれて勝ち残ったと噂をされるヒカリさんの偽名チーム。優勝候補は払い戻し倍率1.1倍。ヒカリさんのチームは倍率20倍。
運だけのチームは予選のスコアも本選での勝敗の様子からも、どうやっても勝てないと皆が思っていたの。
けれど、今回は3:3のチーム戦ではなくて、各チーム1人ずつ出しての勝ち抜き戦だったの。先鋒を引き受けた男性が3人抜きをして勝利を収めたわ。
この結果に、多少会場にざわめきがあったものの、決勝戦では対戦方式がくじ引きで決まるし、易々と勝てる訳がないと多くの人が感じていた様ね。
さて、決勝戦の前に昼食にしようというところで、隣人からテイラーさんに声が掛かったわ。
「おや?テイラー殿、本日は王都へ帰還でありますか?」
「ああ、これはこれは枢機卿殿、お久しぶりです。こちらが気づかず大変失礼しました」
テイラーさんが魔族語で知り合いらしき人と話をしはじめたわ。テイラーさんの態度からして、何か魔族の国の方の上層部かしら。
<<シルフ、思考漏れから彼らの会話を私たちの会話言語に変換して、念話で送ってくださるかしら?>>
<<ステラ、了解。ここのチームに念話を通すよ>>
と、シルフからの会話が念話で届くのだけれど、誰が話しているか判らなくなるので、普通の会話調で状況を説明した方が良さそうね。
「いえいえテイラーさん、私も例年観戦に来てはいるのですが、法皇のお供としてですので、周囲の方に気を配れず、休憩になってお見掛けした次第です」
「そうでしたか。教会の幹部方で観戦を楽しみに来られているのですか?
実は幹部の方に面会の申し入れをしていたのです。一週間ほど待つことになりそうですが」
「おや?それはどういった用件でしょうか?」
「ええ、こちらで一緒に観戦しているエルフ族のステラ様、そしてアジャニアの科学教の教祖の末裔でいらっしゃるミチナガ様です。
諸国漫遊の旅にでていらっしゃるとのこと。我々の銅の精錬所で出会いまして、今こちらの魔族の国を案内している最中でした。科学教のミチナガ様としても魔族の国の宗教にも興味あがるとのことで、面談する機会があればと思いまして申し込みをさせて頂いた次第です」
「テイラー殿、アジャニアの科学教ですか?」
「ええ、その様に伺っております」
「あ、ええと、法皇も観戦に来ておりますので、昼食だけでも一緒にできないか確認を取ってまいります」
と、テイラーさんとの話を打ち切ると元の席の方へ戻って行かれたわ。シルフの念話で話は分かっているけれど、分からない振りをして、このまま様子を見るわ。
「ステラ様、皆様、いま魔族の国の宗教部門の枢機卿にお会いしまして、法皇も観戦されていたとのことで、昼食を一緒にできないか確認してもらっています。
もし、同席することになっても構いませんか?」
「テイラーさん、私は構わないわミチナガさん達はどうかしら?」
「問題ありません」
と、ミチナガさんが即答。アリアさんも頷いたわ。ここが本命なのだから顔通しをしておくのは良いわよね。
枢機卿が戻ってきてテイラーさんに話しかけたわ。
「テイラー殿、法皇が昼食をご一緒したいとのことです。皆様のご都合は如何でしょうか?
それとですね……。
もし、観戦だけでなく賭け札の購入につきましても、支援可能とのことです。ご興味があればご連絡ください」
「承知しました。皆様に確認をとります」
「皆様、先ほどの通り昼食会を開くことになりそうです。あと、詳細が分かりませんが、賭け札の購入につきましてもご提案頂きました。ご興味はありますか?」
「テイラーさん、こちらが既に賭け札を購入している情報を出さずに、支援頂ける賭け札がどういった情報なのか教えて貰ってください」
「承知しました。返事をさせて頂きます」
「枢機卿、昼食の件は快諾頂きました。
ところで、先ほどの賭け札の購入とは、どういった案件になりますでしょうか?」
「ああ。ご興味がある様でしたら説明させて頂きます。
この手の武闘大会ににおいて、賭け札の購入には締め切りがありまして、普通は第一回戦が始まるまでなのです。ところが、教会は賭け事の運営ギルドにも伝手がありまして、後から追加で賭け札の購入ができるのです。
今ですと、決勝戦が払い戻し倍率1.3倍のチームと、20倍のチームが対戦することになっています。1.3倍のチームは教会の騎士団から選抜されたチームですので、一般的な体力や武力に自信のあるチームでは勝てないでしょう。
つまり、ここで1.3倍のチームに賭けておけば、1.3倍の見返りが得られるのです。昼食前までなら、我々の口利きで賭け札を購入できますが、如何しますか?」
テイラーさんが戻ってきてシルフの念話と同じ内容を説明してくれたので、早速話に乗ることにしたわ。「先日に賭け札を購入したのと同額をヒカリさんのチームに賭ける」と。
当然、枢機卿は自分らの誇る教会騎士団チームの賭け札を購入すると思い込んでいるでしょうけれど、私は追加の1000枚を賭ける機会が得られたのだから、そこは枢機卿の紹介付きで追加の賭け札を調達したわ。
もちろん、魔族の国の金貨1000枚を革袋に入れて封しをした上でだけれど。
これは、中々面白いことになるのじゃないかしら?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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