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8-09.魔族の国訪問(2)

 さて、魔族の国を訪問した直後に金貨1100枚のボッタくりに遭う。

 タダでくれてやる気は無いから嵌めてあげたいね……。

「お兄さんたち、ここに金貨1100枚があるけれど、もっと増やす気はない?」


 私の顔と金貨の入った袋を確認すると、魔族語でガヤガヤ、ワイワイと11人が相談を始めた。早口だし、言葉足らずだし、発音もしっかりしていないせいか、ちょっと私では何を話をしているのか確認出来ない。

 まぁ、何であれ通訳ができる小綺麗な格好をしたお兄さんが話を纏めてくれると思うんだけどね。


「綺麗なお姉さま、その金貨は我々の物だ。使い道は我々が決める」

「分かった。良いよ。手を出してね」


 と、お兄さんが両掌を掬うような形に合わせて金貨の袋を受けとろうとする。

 そりゃそっか。

 私が片手で軽々と持ち上げているもんだから、その程度の重さと勘違いしている訳ね。まぁ、確かに革袋一杯の金貨何て見たことも持ち上げたことも無いだろうからね。これで20kg近くあるはずなんだけどさ?


 まぁ、私はダメを承知でその掌の上に革袋の束を載せる。

 そして、ものの見事に掌の間をすり抜けて、革袋が鈍い音をたて地面に激突する。


「お兄さん、その程度の物も受け止められないで、私達に喧嘩を売ろうとしてたよね?」

 慌てて落とした革袋を持ち上げようとするけれど、両手で引っ張っても持ち方が不味いせいか、ズルズルと全て何回も持ち上げることに失敗する。

 どうにかして、抱きかかえる様にして持ち上げてから私の方を改めてみる。


「ねぇ?私に勝てる?ちょっと、その革袋を片手で摘まんで持ち上げられるか仲間に確認して貰いなよ」


 私の指示に従って、おずおずと仲間内の方に戻って金貨の入った革袋を順番に回して行く。ところが誰一人として、私が持っていたみたいに袋の口付近を掴んで軽々と片手で持って見せびらかすようなことは出来なかった。

 まぁ、10kgの米袋2袋とか、セメント20kgを一袋とか、それを片手でぶら下げてみろって言われても、中々簡単に出来るものでは無いよね。


「で、どうする?

 私達に捕らえられて警備兵に突き出されて、当然その金貨の袋も失う。

 それとも、『金貨を増やす方法』の話を聞いてみるか。

 はい、10秒で意見を纏めて!」


「お、お姉さま、助けてください。金貨はお返しします!」

「舐めないで。そんな選択肢は無い。はい、3,2,1!」


「き、金貨を増やしてください!」

「うん。分かった。その方向で進めよう。

 このお兄さんと金貨の袋だけ残して残りは全員解散。

 あ、口止め料で金貨1枚は10人で分けて良いよ」


 と、私は自分の腰のポーチから人族の金貨1枚を取り出して、取り巻きの10人に向かって、金貨を人差し指と親指で弾いて回転させて放り投げた。


「はい、お兄さん、みんなへ指示を出す。

 それが終わったら私達が満足いくような宿屋を見繕う」


ーーー


「で、お兄さん、これから1週間あなたを雇うことになるから。名前は?」

「グレハンと言います」


「そう。グレハンね。私はヒカリ、こちらがクロとモリス。そして私の子供のリサとシオン。

 余計なことしたら警備兵に突き出すより恐ろし目に遭うからよろしくね。

 で、宿屋に案内して貰う前に武闘大会の参加要件の確認と、出来れば参加登録の手続きをしたいんだけど、出来るかな?」


「ひ、ヒカリ様は、やはり武闘大会の参加者だったのですか?」

「いや?さっき門番に聞いたから、参加できるならしようかなと思ったよ」


「そ、そうですか……。

 参加要件は3人組。

 予選会の登録料金が人族の金貨1枚。

 予選選考で勝ち抜けたら本選に進める。

 本選では追加の登録料で金貨10枚が必要。

 簡単にはそんなところですが……」


「武闘大会の賞金はいくら?それと、その勝敗に賭けることはできる?」

「優勝賞金は魔族の国の金貨10枚。人族の金貨換算で金貨1000枚相当。

 主催は国が行っており、参加費用や賞金は国が管理し、回収や支払いがされます。

 賭けは民間の専門ギルドが運営していて、大会ごとに色々細かなルールがあります」


「グレハン、詳しいね。

 先に武闘大会の登録と予選会を突破する。

 それが終わったら、賭け事を仕切るギルドに連れ行って」


 と、グレハンに対してかなり強引に仕切ったものの、3人組がねぇ……。

 モリスとシオンは戦闘に不向きだし、クロ先生にお願いするのもねぇ……。

 フウマに念話を通して、フウマと私とリサで良いかな?


<<フウマ、ちょっと時間が取れたら、武闘大会の参加登録するから付き合って>>

<<姉さん、なんの話をしているの?今どこよ?合流するのはゲーム大会に参加するタイミングじゃなかったの?>>


<<門番の案内で武闘大会の話があったから参加することにした。ついでに魔族の国のゴロツキに絡まれたから案内役として雇うことにしたよ>>

<<わ、わかった。とにかく武闘大会の登録場所に向かうよ。それで姉さんと僕の関係はどういった説明になってるの?>>


<<人族の他人。登録しようにも人数が足りないから募集かけたらフウマが助けてくれる人。ちなみに、雇ったゴロツキの人は人族語のサンマール語は理解しているから、その辺注意してね>>

<<了解!>>


「ヒカリ様、それで、その……。武闘大会の登録ですが……。

 登録費用と、メンバーはどうされますか?」


「登録費用は貴方が持っている金貨から出しておいて。

 我々が滞在中の一週間分の生活費も全部そこから出して。

 メンバーは私とリサ。残り一人は登録所で誰かを誘う」


「しょ、承知しました。

 そうしますと、とりあえず、金貨100枚の一袋を分けてヒカリ様達の滞在費に充てさせて頂きますが宜しいでしょうか?」


「それでいい。残りの金貨1000枚は全部賭けに回すからね」

「承知しました!」


 グレハンと会話を進めながら、人がごちゃごちゃといる場所まで来た。

 ここが武闘大会の登録所らしい。


「ヒカリ様、エントリーするのですが、残りの1名はどうされますか?」

「人族を探す。グレハン、強そうな人空いてる人を探してきて」


「ひ、ヒカリ様?」

「グレハンが代わりに出る?」


「あ、あ、あの……」

「30分待つ。駄目なら条件変えるから戻ってきて」


 グレハンがトボトボと歩き始めたのを見計らって、フウマに念話を通す。


<<フウマ、グレハンっていう小綺麗な格好をした魔族の案内係に人を探しに向かわせた。適当に接触して、脅しをかけてくれる?こっちに連れてこられたら初対面の振りをしてね>>

<<姉さん、グレハンだね。小綺麗な格好と。服装とか特徴は?>>


<<帽子なし、白髪、30歳前。身長は私より小柄。白いチュニックとズボン>>

<<あ、あれかな?キョロキョロ挙動不審な人が居る。ぶつけられて見るよ>>


「みんな、予定変更ごめん。

 ちょっとイラっとしたのもあるけど。

 フウマがグレハンに連れて来られるから初対面の振りをしてね。

 あと、グレハンは人族語が判るから、基本的には念話で会話を進めよう。

 いい?」


「「「「ハイ!」」」」


ーーー


「ヒカリ様、あの、その……」


 黒装束で半分覆面を巻いて目だけだした、身長170cmぐらいの人物を後ろに連れてきた。フウマだね。

 それより、その格好は暑く無いのかね?風の魔法か何かで体内の汗や温度を逃がしてるのかもね?


「グレハン、どうした?後ろの人は?」

「そ、その……わき見をしていたら、こちらの方にぶつかってしまい……。

 『その指示役に会わせろ』

 という次第でして……」


「ふ~ん。この人は何語が喋れるの?」

「人族語も喋れる様です」


「グレハン、分かった。私が対応する。

 そこのお兄さん、うちの案内役が失礼した。

 サンマール語は判りますか?」


 私は普段見せない様なキツイ目つきを作ってフウマを睨みつける。

 当然、フウマ側も私が指示役と認識した振りをして私を睨み返す。


「ああ。

 そいつが無茶な探し物をしていて挙動不審だったんだが。

 当然、その責任は指示役が取るのだろう?」


「何がいいたい?」

「武闘大会に掛かる費用、登録料はそちら持ち、獲得賞金は全額俺が貰う。

 その条件飲めるか?」


「グレハン。何をした?何をこの男に提示した?」

「ひ、ヒカリ様、雇われたこと、武闘大会に参加できる人を探している最中であることを説明しました」


「ぶつかったときにケガをさせたり、服を汚したりしたか?」

「い、いいえ。少しぶつかっただけでしたが……」


「お兄さん、登録料、大会に掛かる費用はこちらで面倒をみる。だが賞金は折半だ。

 その条件からは一歩も譲らないし、グレハンがぶつかったことにも謝罪しない」


「ほう……。俺の腕も確認せずに、そんな条件を飲んでいいのか?」

「少なくとも、グレハンをチームに入れて参加するよりは役立つだろうさ」


「はっはっは……。判断力だけは確かな様だ。参加してやるよ。

 俺の名前はカザマだ」


「私はアサリ。そして私の娘のチナが出場する。

 グレハン!カザマ、アサリ、チナで登録!」


「おいおい……。アサリさん、その抱えている子が出場するのか?

 おれが一人で戦うことになるなら賞金の3分の2は貰わないとな……」


「カザマ、あんただって一人じゃ参加もできない。きっと参加費も出せない程度の手持ちしかなかったんじゃないかい?参加できるだけでも感謝しな。条件は変わらないよ」


「チっ。仕方ねぇ。精々足引っ張るなよ」


 ここまでの話をオドオドしながら聞いていたグレハンが口を挟む。


「ひ……。あ、アサリ様、それでは登録して参ります。

 直ぐに予選会に出場になると思いますので準備をお願いします」


「グレハン、よろしく頼む。

 登録が終わったら予選の説明と宿の手配!」


「承知しました!」


 と、グレハンが武闘大会の登録をしにいくのを確認してから、皆に念話を通す。


<<フウマ、お疲れ様。元気にしてた?>>

<<姉さんもみんなも、遠いところまで支援に来てくれてありがとう。

 それにしても、この状況は何だい?>>


<<フウマお兄様、お母様が全て悪いのです。悪だくみなのです!>>

<<ま、まぁ、確かにリサ様の仰る部分はございます。

 もう少し穏便に済ませる方法があったかもしれず……>>


<<え?だって、武闘大会だよ?フウマが参加したがるに決まってるじゃん!

 そこで目立つなっていう方が無理だよ。

 だから、グレハン達に目立ってもらうための作戦だよ。

 元々のゲームの賭け金でも彼らに目だって貰えるしね>>


<<姉さん、何を言っているのか全然分からないよ。武闘大会の話だってさっき聞いたんだよ?>>

<<フウマ、私だって今日門番さんに聞いたばかりだよ。ルールとかも知らないし。

 ただ、3人組で予選と本選で金貨11枚必要とか聞いたら、フウマ一人じゃ、チームも組めないし、参加費も払えなかったでしょ?>>


<<それと、案内役のグレハンさんが絡んでるのが良く分からないよ>>

<<グレハンチームに絡まれたからお金で解決した。

 解決するついでに、彼らに目立ってもらうことにしたんだよ>>


<<姉さん、きっと僕だけじゃなくて、他の皆もその説明じゃ分からないと思うよ?>>

<<モリスなら判ると思うよ。あと、リサも多分わかるんじゃないかな?シオンはどうだろう?>>


<<シオンくん、この状況わかるかい?>>

<<フウマお兄ちゃん、私の予測なのですが……。

 まず、入国して大量の金貨を持ち歩くのは危険です。目を付けられます。

 そこをお母さんが逆手にとって、『グレハンさん達のお金』と、両替商で印象付けました。ついでに言えば、魔族の金貨が本物であることも認定されました。

 この先、お母様が金貨100枚単位でお金を動かしても全てグレハンさん達のお金が動くことになります。

 つまり、グレハンさん達が動かしたり、賭けたりする金額より少ない金額であれば、カジノの運営組織から目を付けられにくくなります>>


<<シオンくん、ありがとう。姉さん、案内人に幾ら渡したの?>>

<<金貨11枚>>


<<それだと、活動資金として足りなくない?>>

<<魔族の金貨11枚だから十分だよ>>


<<姉さん、それは不味い量だよ!出元を調べられるよ!>>

<<『旅人を案内した手数料』としか、彼らは説明できないから、色々揉めるだろうねぇ>>

<<姉さんも参考人として呼ばれることになる!>>

<<治安が悪いのは魔族の国のせい。物価も分からずに支払いました。それだけだよ>>


<<姉さんが魔族の国の金貨を持っていた理由についても尋ねられるよ?>>

<<カサマドさんかテイラーさんにお願いして説明して貰うよ。金貨10枚なんてどうでも良い金額だろうし>>


<<姉さん、みんな、色々と納得いかないけれど、上手く進めよう!>>

<<ハイ!>>


 まぁ、武闘大会がどんな内容か全然知らずに登録して貰ったから、そこからなんだけどね。

 参加費ぐらいは大した問題じゃないし。

 何とかなるよ。たぶん。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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